
【2025年】PwCの眼(5)企業のサステナビリティ対応は統合的アプローチに昇華する
カーボンニュートラルに向け、エコカーの生産・販売にシフトしてきた完成車メーカー各社ですが、一方で事業において気候・自然・人権の負荷を同時に高めてしまうリスクが現実味を帯びてきています。課題を可視化し、コスト低減と価値創出を両立させるために企業がとるべき統合的アプローチについて考察します。(日刊自動車新聞 2025年6月2日 寄稿)
2021-05-17
日本では2005年より自動車リサイクル法が施行され、日本自動車工業会によると、リサイクル率は現状95%以上にまで向上している。では、なぜモビリティ産業において改めて、「サーキュラーエコノミー」(資源の効率的循環とともに既存製品や有休資産の活用により資源からの価値創造の最大化を図る経済システム)の重要性が高まっているのか。
背景の一つに電動化の加速がある。電気自動車(EV)のコストの一大要素であるバッテリーは、2024年7月からの新欧州電池指令などLCA(ライフサイクルアセスメント)の観点から環境負荷軽減の重要性が高まっているだけでなく、ライフタイムバリューの向上、つまり、高価なバッテリーから生まれる価値を最大化してコストを相殺することが求められるからだ。
EVのライフタイム全体で資源の価値向上を図るために特に重要となるのが、「原材料革新」「生産地選定」「製品寿命の長期化」「稼働率向上・用途最適化」「回収&再生」といったテーマであり、人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)などの最新テクノロジーの普及がこれらの実現可能性を高めている。
まず、「原材料革新」。安全性やエネルギー密度などの性能が高く、低コストかつ長寿命でリサイクル性も高い素材の開発が継続的に求められる。AIを活用した材料インフォマティクスによる素材開発の高効率化・高速化など、素材レベルで規模の経済性を追求することも初期コスト低減の重要な要素となる。
EVに使用されるリチウムイオン電池の製造時の電力消費などの環境負荷の大きさを考えると、再エネ比率の高い地域など、LCAの観点で炭素サイクルを最適化させる「生産地の選定」が重要となる。
IoTを活用した遠隔監視・制御と、それらのノウハウの蓄積・進化に基づいた製品の使用方法の最適化により「製品寿命の長期化」を図る取り組みも必要だ。部分的な交換・修理が可能なモジュール設計なども寄与する。
EVの寿命を長期化するだけでなく、EVの稼働率を高めたり、より付加価値の高い用途に利用することでバッテリーのROAを最大化する「稼働率向上・用途最適化」も重要だ。たとえば、車両やバッテリーのシェアリング、バッテリーの電力を電力系統(V2G)や住宅(V2H)へ供給して有効活用する取り組みなどがある。
最後に「回収&再生」。IoTを活用した品質情報の取得や製品の確実な回収により、リバースサプライチェーンの効率化を図る。使用済みバッテリーの再活用も現実化してきており、その用途最適化による効果や、工場の排熱などを利用した低炭素型のリチウムイオン電池リサイクルシステムの開発も必要とされる。
こうした「サーキュラーエコノミー」の実装においては、車両やバッテリー、モビリティ・エネルギー市場のデータを統合したデータ基盤の活用が必須で、そうしたトレーサビリティを確保するコネクティビティによって、バッテリー・EVのビジネスオペレーションの高度化も進むだろう。さらに、そのようなデータ基盤が新たなサービスの開発や、データ取得・制御のためのデバイス開発にも活用されていくことで、産業全体の活性化が進むと考えられる。
※本稿は、日刊自動車新聞2021年5月17日付掲載のコラムを転載したものです。
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※法人名、役職などは掲載当時のものです。
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