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幸福度マーケティングのすすめ 第1回 「グレート・リセット」時代の企業に幸福度マーケティングのすすめ

2021-04-26

「幸福」に対して世の中が真剣に向き合いつつある。

例えば、2021年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)のテーマは「グレート・リセット(The Great Reset)」だ。世界経済フォーラム創設者であり現在も会長を務めるクラウス・シュワブ氏は、「人々の幸福を中心とした経済に考え直すべきだ」とコメントしている。要はグレート・リセットとは、幸福中心社会への転換であることを示唆している。

国内でも幸福という観点をビジネスに適用する動きが出始めている。2018年に積水ハウスは「住めば住むほど幸せ住まい」を標ぼうした「住生活研究所」を設立した。2019年にはパナソニックが幸福追求の新組織である「Aug Lab」を設立し、2020年7月には日立製作所が新会社「ハピネスプラネット」を設立した。

「幸福」が世界的アジェンダになりつつある中、私がリードするPwCコンサルティングのデータドリブンマーケティングチームは2020年12月24日、日本における幸福学研究の第一人者である前野隆司氏(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授)と共同実施した「全国消費者実態・幸福度調査2020」を公開した。同時に、「幸福度」を起点とした「幸福度マーケティング」サービスを開始したことを発表している。

本論考ではこの幸福度マーケティングについて、2回に分けて紹介する。また、本論考を受けて前野氏と私の対談記事の掲載も予定している。

長期的な「ウェルビーイング」としての幸福

そもそも何が「幸福」なのか。

日本語で「幸福」「幸せ」という場合に、大まかに2つの捉え方がある。1つ目は、より一般的な用法としてハッピーな状態。名詞でいうところの「ハピネス(happiness)」である。これは、短期的な感情としての幸せを示すものである。2つ目は、「ウェルビーイング(well-being)」という捉え方で、これは、身体的、精神的、社会的な面で長期的に良好な状態を表す。PwCコンサルティングが幸福度マーケティングで目指す「顧客と企業の幸福な関係性」においては、幸福を2つ目の意味で捉え、その定義に従った幸福度および「幸せの4因子」を採用している。

幸福度を測定する際に採用しているのは、幸福学の父ともいわれる心理学者のエド・ディーナー氏が開発した「人生満足尺度(SWLS:Satisfaction With Life Scale)」である。これは、

  1. ほとんどの面で私の人生は理想に近い
  2. 私の人生はとても素晴らしい状態だ
  3. 自分の人生に満足している
  4. これまで自分の人生に求める大切なものを得てきた
  5. もう一度人生をやり直せるとしても、ほとんど何も変えないだろう

の5つの項目に対して、「全く当てはまらない」(1点)、「ほとんど当てはまらない」(2点)、「あまり当てはまらない」(3点)、「どちらともいえない」(4点)、「少し当てはまる」(5点)、「かなり当てはまる」(6点)、「非常に当てはまる」(7点)までの7段階で評価し、35点満点でその合計を測るものだ。主観的幸福度を示す非常にシンプルな指標であり、広く用いられている。

幸せの4因子は、前述のエド・ディーナー氏の「人生満足尺度」をベースに前野氏らがアンケート調査を行い、その結果を統計解析ソフトで因子分析をして特定したもの。各因子の内訳は以下の通りだ。

  1. やってみよう!因子(自己実現と成長)
  2. ありがとう!因子(つながりと感謝)
  3. なんとかなる!因子(前向きと楽観)
  4. ありのままに!因子(独立とマイペース)

詳細は割愛するが、因子ごとに4つずつの質問をして人生満足尺度と同様に7段階で回答してもらい、その点数を合計することで弾き出すことができる(各因子は28点満点)。

ちなみに、「全国消費者実態・幸福度調査2020」では上記指標に基づき、5000以上のN数と全42問の設問で、幸福度と消費行動に関する各種調査・分析を実施した。主な知見としては、心の持ちよう(自信、信じるよりどころ、考え方・価値観)が幸福度に大きく影響するという内容だ。

図1 幸福度要因分析

出典:PwC「全国消費者実態・幸福度調査2020」(以下同)

当該レポートには掲載していないが、他にも例えば「幸福度の高い人はSDGs活動に対して積極的である」ということなども見えている。このような調査の知見は、幸福度マーケティングを実践する上での重要なインプットとなる。

図2 幸福度が高い人ほどSDGs活動に積極的

「幸福」は新時代のマーケティングコンセプト

ではなぜ今、マーケティングに「幸福度」なのか。

マーケティングの大家であるフィリップ・コトラー氏によると、マーケティングはこれまで、製品中心(マーケティング1.0)、顧客中心(マーケティング2.0)、価値・人間中心(マーケティング3.0)、そして、自己実現中心(マーケティング4.0)へと進化してきた。これらはちょうどマズローの欲求5段階説ともリンクしている。低次の欲求である生理的欲求から徐々に安全、所属、承認、自己実現欲求へと、世の中の消費に対する成熟度が高まるのと呼応して、より高次の欲求に応えるようにマーケティングが進化してきたのだ。

それと同時に、マーケティングや経営に関するコンセプトとして、カスタマーサクセス、データドリブン、パーパスドリブン、D2Cなどが生み出されてきたが、かみ砕いて言うと、これらのコンセプトは大きく2つのことを意味している。1つは、カスタマーサクセスやLTVなど「顧客との長期的な関係性」の話であり、他方は、パーパスドリブンやD2Cなどの「世界観・価値観」の話なのだ。

その意味で幸福度は、幸福を媒介にして顧客との長期的な関係性を築くことである。同時に消費者からすると、幸福度を掲げる企業は明確に、幸福という世界観・価値観を提示する存在ということになる。いずれの側から見ても、幸福を基軸としたマーケティングは新時代を体現するコンセプトといえよう。

「BXT」で実現する幸福度マーケティング

幸福度マーケティングを端的に表現すると、「顧客の幸福度最大化(社会的価値の実現)にコミットすることで、顧客と企業の結び付きを極大化し、結果としてLTVを最大化させる(経済的価値の実現)」という経営へのトランスフォーメーションである。

アプローチとしてはまず、企業の世界観を「幸福×X」と掛け算で定義した上で、サーベイなどを通して共分散構造解析(※注)などのAIアナリティクスや脳科学的分析、音声/画像解析などの切り口で、顧客の幸福度や財務指標との関係性のメカニズムを特定する。その分析結果を踏まえて、マーケティング活動にビルドインするためのKPIマネジメントの仕組みを作り、世界観・施策を設計して実行に至るという流れだ。

※注:直接観測できない潜在変数を導入し,潜在変数と観測変数との間の因果関係を同定することにより社会現象や自然現象を理解するための分析方法

つまり、伝統的な「MBAマーケティング」にとどまらず、デザインシンキング、アートシンキング的な切り口でのコンセプチュアルワークや、各種のテクノロジーを駆使した学術的・ファクトベースでの分析・示唆出しを統合的に活用して初めて実現するのだ。

ちなみに、われわれPwCは独自の哲学、かつ、コンサルティングアプローチでもある「BXT」を用いることで、社内の(場合によっては社外も含めた)各領域のエキスパートの知見を効果的に組み合わせ、幸福度マーケティング実現を支援する。

BXTのB(Business)は「経営にインパクトのある変化をクライアントと協創すること」、X(eXperience)は「人間中心のデザインアプローチで、理想的な顧客体験・従業員体験を創出すること」、T(Technology)は「新しいアイデアを、テクノロジーを駆使して検討し、必要に応じてそのプロトタイプを作成すること」を意味している。

図3 幸福度マーケティングのアプローチ

今回は幸福度マーケティングが意味するところを概観した。幸福度マーケティングは領域横断的な知見を必要とする。次回は、その具体的な進め方や適用可能性について言及する。

本稿は、ITmediaマーケティングにて2021年3月11日付で掲載された記事を転載したものです。

執筆者

髙木 健一

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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「幸福」や「ウェルビーイング(Well-being)」が世界的アジェンダになりつつある現在、企業は顧客をはじめとするステークホルダーと、「幸せ」を起点とした長期的かつサステナブルな関係性構築を求められています。

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