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昨今、少子高齢化に伴う労働人口の減少や、多様化する患者ニーズ、物価高による費用増加など、病院経営を取り巻く環境は一層厳しくなっています。持続可能な医療提供の実現に向けては、そもそもの病院数の問題、医療機関の役割分担促進、診療報酬制度のあり方など政治的意思決定を伴う抜本策も必要ですが、今回は、個々の病院の努力で実施可能な点にフォーカスし「選ばれる病院とは」をテーマに変革の必要性を考察してみたいと思います。
座して待つだけでは何も解決しないことから、何らかの打ち手を検討・実行することが求められます。選ばれる病院とそうでない病院との違いは何か、選ばれる病院となるためには、どのような行動が求められるのか。長らく医療・医薬品業界に携わり、ジャーナリストとしての経験も豊富な業界の有識者である木村情報技術の川越満氏にお話を伺いました。
(左から)小田原 正和、川越 満氏、和﨑 寛人
登壇者
木村情報技術株式会社
コンサナリスト® 事業部 事業部長
川越 満氏
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
小田原 正和
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
和﨑 寛人
※所属法人名や肩書き、各自の在籍状況については掲載当時の情報です。
木村情報技術株式会社 コンサナリスト® 事業部 事業部長 川越 満氏
小田原:
川越さんとお話できるせっかくの機会ですので、本日のテーマに入る前に、昨今の医療業界を簡単に俯瞰しておきたいと思います。全国的に病院経営が厳しい状況となっていますが、特に新型コロナウイルス感染症(COVID-19:以下、「新型コロナ」)の拡大を機に患者さんが減少しており、今も戻っていないという病院が多数を占めているように思います。新型コロナは病院にどのような影響を与えたとお考えでしょうか。
川越氏:
新型コロナの拡大を契機に、二つの点で5年~10年程度タイムスリップと言いますか、動きが早まったなと感じます。一つが患者さんの減少です。これは新型コロナが生み出した「対立関係」に起因するように思います。これまで広く患者さんを受け入れていた病院が「感染のリスクがあるので病院に来ないでください」という真逆の状況になり、それが大々的に周知されるようになりました。一度生じた患者さんの流れを変えるには相当なパワーを要します。
もう一つがデジタル化の進展です。これまで遅々として進まなかったオンライン診療の拡大は隔世の感があります。病院と製薬企業とのコミュニケーションも一変しましたね。
小田原:
新型コロナの影響ではありませんが、病床利用率の低迷という観点においては、患者数の減少に加え、平均在院日数の短縮*1も影響しています。医療技術の進歩により診断や治療もより迅速かつ効果的になっており、腹腔鏡手術やロボット支援手術など、低侵襲な外科手法により、術後の回復も早くなっています。
和﨑:
川越さんには働き方改革をテーマとした当社セミナーにもご登壇いただきました(参考:医彩 Leaders-insight【特別編】医師の働き方改革がもたらした影響と製薬企業に望まれる対応)。働き方改革の観点からはいかがでしょう。
川越氏:
マンパワーを一定とすると、一人一人の労働時間が減るならば、生産性を上げない限り収支は悪化します。マンパワーを増やすとなると、選ばれる病院でないといけません。新型コロナ後の景気回復の波もあり、他業界では賃上げが進んでいます。医療業界は、診療報酬で収益の上限が定められているため、簡単に賃上げするわけにもいかない。お金以外の部分も含めて選ばれる病院にならなければ、これからは難しい状況になると言えるでしょう。
和﨑:
全国的に病院経営は困難な状況にありますが、医師・看護師をはじめとした病院で働く人々や、患者さん・地域の開業医といったステークホルダーに選ばれている病院が多く存在しているのもまた事実です。選ばれる病院に共通して見られる特徴についてお聞かせください。
川越氏:
今から15年ほど前になりますが、私が執筆した書籍の中で「どのような病院から職員が逃げ出すのか」という観点で考察したことがあります。具体的には、①ビジョン・目標がない(学び・存在意義がない)、②事務業務負担対策に取り組んでいない、③ワークライフバランスに配慮していない、④チーム医療が機能していない(問題・課題を放置している)、⑤医療連携に取り組んでいない(地域の開業医との協力体制がない)、⑥これまで以上に疲弊しない状況を作ることができていない、という6点です。要するに、ビジョンがなく、チーム医療が機能していない病院の職員は疲弊するだけで、立ち去るしかなくなります。
小田原:
この15年間で、地域医療構想、働き方改革に伴う医師の時間外労働の上限規制、新型コロナへの対応、医療DXなどのトピックがありましたが、本質的な部分は時間がたっても変わっていませんね。
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 小田原 正和
川越氏:
自分が書いたことではありますが、今回改めて振り返ってみて、全く変わっていないということに驚きました。逆に、これらの要素を押さえられている病院こそが、職員から選ばれる病院と言えるでしょう。
小田原:
上述した要素は、病院経営にも通じるものがあるように思います。医師事務作業補助者や看護補助者などの協力を得て、本来自分たちが注力すべき業務に注力できる環境を整備することは、モチベーションだけでなく医療職の生産性向上にも寄与します。また、何もしなければ年々業務が増えていくところで業務を見直し、勇気を持って業務を止める決断ができている病院は、そういった風土も相まって職員も生き生きと働いているように感じることが多いです。院内連携が円滑な病院は院外連携も円滑ですよね。逆のパターンは聞いたことがありません。
和﨑:
根幹を成すビジョン・目標(学び・存在意義)の明確化に関しては、病院のビジョンをベースに各科のビジョン・目標も言語化できているとなお良いですね。自分が所属するであろうチーム単位で何を経験できるのか、何を学べるのかを理解しやすい。
川越氏:
私自身、雑誌の編集者だったので、気を付けていましたが、広告を出す際に「読みたいな」という記事が1つだけだと購買まで至らない。3つあると購買につながりやすいということで、見出しも含めて3本柱を打ち出すことには留意していました。
小田原:
そういった打ち出し方は業界問わず参考になりそうですね。
和﨑:
小田原さんに聞きます。患者さんや地域の開業医目線で「選ばれる病院」となるためには、何が求められるでしょうか。
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト 和﨑 寛人
小田原:
疾患の容体に応じた適切な対応というのは言わずもがなですが、人に寄り添った親切丁寧で温かみのある医療というのは大切にしたいですよね。特に患者さんやご家族は不安を抱いて来院している。言葉遣いや細かい配慮も含めて病院全体でそういった空気感は必要なのではないでしょうか。
病院の顧客とも言える地域の開業医目線で考えると「開業医のニーズに応えられているか」が最も重要と考えます。私たちは病院だけでなく一般企業の支援も行っていますが、そこでは当たり前とされる顧客ニーズの確認などができていない場合もまだまだ多いように感じます。例えば、開業医が病院に患者さんを紹介する際に「確定診断がない」などの理由で受け入れを断られるケースや、紹介された患者さんの診断・治療の情報が開業医に共有されないケースは、地域を問わず耳にします。一方で、変化する顧客ニーズをつかむ努力をし、それに応え続けようとする病院は患者さんや地域の開業医からの信頼も厚く、選ばれる病院であり続けているように思います。
和﨑:
「病院だから特別」という固定観念を捨てると、改善可能な余地はたくさん見えてきそうですね。川越さんに伺います。製薬企業の視点から見た「選ばれる病院」とは、どのような病院でしょうか。
川越氏:
製薬企業の観点では、処方に影響力のある医師・病院は重要な存在ですよね。医師の働き方改革でさらに顕著になったと思いますが、製薬企業には、これから患者さんが集まる病院となるか否かについての「目利き」がより求められるようになっています。この病院は伸びると思えば、製薬企業も病院の成長を支援していきます。一方で、限られた資源の中では、配属する人材や訪問頻度などを踏まえて「見切り」が必要にならざるを得ない。選ばれる病院とそうでない病院とでは、製薬企業から得られるサービスの質・量ともに大きく変わってくると言えるでしょう。
和﨑:
「目利き」と「見切り」は製薬企業にかかわらず、病院を取り巻くステークホルダー全体に当てはまることかもしれませんね。
小田原:
これまで選ばれる病院についてお話ししてきましたが、病院の取り組みを知ってもらうための活動も重要です。急性期の医療需要が右肩上がりという時代はとうに過ぎ、医療の担い手となる生産年齢人口そのものも急速に減少しています。他業種との間でも人材の奪い合いが熾烈を極めており、良質な医療を提供していれば、おのずと患者さんや医療者が集まる時代ではなくなっています。
川越氏:
環境変化に伴い、情報発信のあり方も変化させていく必要はあるでしょう。医療法における広告規制もあり、他業界に比べると病院の広報活動への敷居は高かったかもしれません。「待ちの姿勢」では生き残れない時代になっていますよね。積極的に広報活動を実施している病院とそうでない病院とでも「格差」が拡大しています。
木村情報技術株式会社 コンサナリスト® 事業部 事業部長 川越 満氏
和﨑:
病院によってWebサイトのコンテンツや情報量、更新頻度も大きく異なりますし、最近では病院からのソーシャルメディアでの情報発信もよく目にするようになりました。情報発信すべき内容の観点で特に重要と思われる点はありますか。
川越氏:
病院は地域の人々の生命と健康を守り、生活の基盤を支えるという重要な役割を担っています。自分たちのことも大事ですが、自分たちの病院が位置する地域をどうしたいのか、どう関わっていくのかという想いを特に大切にして発信すべきと考えます。その世界観こそが「この指とまれ」になるのではないでしょうか。ちなみに、私の場合は「誰も独りぼっちにしない社会を作る」ということを理想としています。
小田原:
地域をどうしたいのか、どう関わっていくのか。自分たちはどのような考えで医療に向き合っているのか。「この指とまれ」の根幹となる考え方の発信はとても重要ですね。素晴らしい取り組みを実施している病院もたくさんあります。一方で、他業界と比べると、まだまだ情報発信が少ないように思います。もちろん、これまで討議したような「中身」を伴った情報発信が大前提となることは言うまでもありません。
本日は「選ばれる病院とは」をテーマとして、多くの示唆をいただきました。貴重なお話をありがとうございました。
参考資料:
*1:厚生労働省「令和5年(2023)患者調査の概況」https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/23/dl/kanjya.pdf
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