2025年保険業法一部改正について

  • 2025-08-08

改正の概要

2025年3月7日に保険業法の一部を改正する法律案として提出された改正保険業法案は、同年5月30日に参議院本会議で可決、成立し、同年6月6日に公布されました。公布日から1年以内に施行されます。

また、この法律の施行後5年をめどとして、施行後の状況などを勘案し、必要がある時にはさらなる検討を加えて必要な処置を講ずるとされています。

金融庁は、保険金不正請求事案や保険料調整行為事案などの再発防止を図るため、2024年3月から「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」(以下、「有識者会議」とする)において議論を開始しました。また、有識者会議の議論を踏まえて同年8月からは「損害保険業等に関する制度等ワーキンググループ」(以下、「WG」とする)を開催し、顧客本位の業務運営の徹底と健全な競争環境の実現のために、丁寧な議論を行ってきました。2024年12月には、WGにより「『損害保険業等に関する制度等ワーキンググループ』報告書」(以下、「報告書」とする)が取りまとめられ、大規模乗合代理店に関する規制のあり方といった、法改正が必要となる論点や有識者会議で十分に議論がしきれなかった論点などの検討結果が公表されました。

改正保険業法では、顧客本位の業務運営の徹底のために、特定大規模乗合損害保険代理店※1の業務運営に関し、法令等遵守責任者とその統括責任者の設置を求めるなど、体制整備義務を創設しています。

また、保険会社等に対しても、顧客利益の保護のため、体制整備義務の範囲を兼業特定保険募集人※2が行う取引に拡大した他、保険契約の締結等に関する禁止行為に、物品の購入、役務の提供その他の取引であって取引上の社会通念照らし相当であると認められないものの提供等を追加する等の措置を講じています。

金融庁は合わせて、保険会社向けの総合的な監督指針の一部改正案を公表しており、本改正保険業法とともに、保険業に対する信頼性の確保及びその健全な発展を図るための対応が進めれていくことになりました。

保険代理店・保険会社などに与える主な影響

本改正が保険代理店・保険会社などに与える影響は以下のとおりです。

(1)特定大規模乗合損害保険代理店の業務運営に関する体制整備義務

  • 法令等遵守責任者、統括責任者の設置義務
    保険募集の業務を行う営業所又は事務所ごとに、法令等遵守責任者(保険募集業務が法令等を遵守して実施されるように必要な助言又は指導を行う者)を設置しなければならないとされています。
    また、本店又は主たる事務所に、統括責任者(法令等遵守責任者を指揮するとともに、法令等を遵守して保険募集業務が実施されるように必要な助言又は指導を行う者)を設置しなければならないとされています。
  • 外部からの苦情の適切な処理義務
    保険募集業務に係る苦情を受け付けるための体制整備、苦情処理に関する記録の作成・保存など、保険募集業務に係る苦情の適切かつ迅速な処理を確保するために必要な措置が求められています。
  • 兼業特定保険募集人に対する追加措置
  1. 保険金の支払に不当な影響を及ぼさないように、兼業業務を適切に監視する体制整備を行わなければならないとされています。
  2. 兼業業務に係る苦情を受け付けるための体制整備、苦情処理に関する記録の作成・保存など、兼業業務に係る苦情の適切かつ迅速な処理を確保するために必要な措置が求められています。

(2)保険会社等から保険契約者等に対する過度な便宜供与の禁止

現行法においても、保険会社や保険募集人等が保険契約者または被保険者に対して、特別の利益提供を行うことは禁止されていました。

改正法においては、1. 禁止行為の対象拡大と2. 禁止の対象者の拡大が図られています。1. 禁止行為の対象に関しては、取引上の社会通念に照らし相当であると認められない物品の購入や役務の提供などに広げられました。また、2. 禁止の対象者に関しては、保険契約者または被保険者のみならず、これらと密接な関係を有する者(グループ企業等が想定されている)にまで広げられています。

附帯決議

今回の改正案に関する附帯決議※3のうち、上記に関連する主な事項は以下のとおりです。

(1)今般の保険金不正請求事案及び保険料調整行為事案の再発防止策が、本法による措置及び下位法令への委任のほか、顧客本位ではない比較推奨販売の禁止、代理店への過度な便宜供与の禁止及び企業内代理店規制の見直しなどの監督指針等による対応を含む多面的な構造となっていることに鑑み、当局のモニタリングを総合的に行う態勢を確立するほか、業界における顧客本位の業務運営の徹底を更に促すことなどにより、当該再発防止策の実効性を担保すること。

(2)保険業界の不祥事への対応に当たって、必要十分な検査及び処分等が円滑に実施されるよう、金融庁及び財務局において必要な機構・定員を確保し、保険契約者等の保護を図るとともに、保険業の社会的意義も踏まえつつ、保険業に対する信頼性の確保及びその健全な発展に万全を期すこと。

(3)保険代理店における個人情報漏洩事案に対しても、再発防止に向けた、より一層の厳格な対応を行うこと。

まとめ

今回の保険業法の一部改正は、保険業界における保険金不正請求事案や保険料調整行為事案などを受けた結果であり、保険契約者からの保険市場・業界への信頼を揺るがす大きな事象であったがゆえの法改正であると理解できます。保険会社のみならず、保険代理店においても、問題の重大性を再認識し、保険市場・業界に対する信頼の回復に積極的に努めることが求められています。

保険代理店も含め、保険業界の透明性と公平性を高めるため、現状の課題点の洗い出し、リスクの評価・分析を行い、その対応のための社内体制の強化をすること、さらに、その状況を適切にステークホルダーに開示することが必要になると考えられます。PwC Japan有限責任監査法人は、保険関連業界に特化した専任チームが、保険業界に対する様々な取り組みから、保険業界の信頼回復に向けた取り組みに対して総合的にサポートする体制を整えています。

※1 損害保険代理店のうち、2以上の所属保険会社等を有する法人であり、かつ、所属保険会社等から保険募集業務に関して受領した手数料等の対価の額が内閣府令で定める額以上であることなどを満たす損害保険代理店を指します。報告書では、現行の保険業法等において規定されている「規模の大きい特定保険募集人」(所属保険会社等が15社以上、または、2以上の所属保険会社等からの手数料等の対価の額が10億円以上)の中でさらに一定規模以上の特定保険募集人を指すとされています。

※2 特定保険募集人(生命保険募集人、損害保険代理店又は少額短期保険募集人)のうち、保険募集の業務以外の業務(保険金から対価の支払いを受ける業務 – 例えば修理業等)を行う募集人を言います。

※3 保険業法の一部を改正する法律案に対する附帯決議 参議院財政金融委員会 2025年5月29日

執筆者

草地 克紀

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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日比 慎

パートナー, PwC弁護士法人

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鄭 善斗

マネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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