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2022-06-07
ヘルスケア業界のフロントランナーと、PwCアドバイザリーのプロフェッショナルが業界の最前線について語る本企画。第1回目は、個人向け遺伝子解析サービスを手がけるジーンクエスト代表取締役の高橋祥子氏に、PwCアドバイザリーパートナーの河成鎭とディレクターの西田雄太が、ゲノム解析とビジネスをテーマにお話を伺いました。
株式会社ジーンクエスト 代表取締役
高橋 祥子 氏
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー
河 成鎭
PwCアドバイザリー合同会社 ディレクター
西田 雄太
(左から)西田、高橋氏、河
※所属法人名や肩書き、各自の在籍状況については掲載当時の情報です。
河:本日はお忙しい中お時間をいただきありがとうございます。
高橋さんは大学院在籍中に起業されたと伺っていますが、最初に起業された経緯や取り組みについて教えていただけますか。
高橋:私は、元々大学院で生体分子情報を用いた病気の予防メカニズムを研究しており、その研究室のメンバーでジーンクエストを立ち上げ、今に至ります。
弊社が提供しているのはインターネットを介した個人向けのゲノム解析サービスです。インターネットを通じてお申込みいただいた方にキットをお届けし、唾液を入れて返送していただくと、マイページ上でゲノムデータに基づいた病気のリスクや体質などのヘルス関連情報や祖先に関する情報などがわかります。
ジーンクエストでは唾液の中のDNAを抽出し、ヒトゲノムの中で配列の異なる70万カ所を解析して、データベースと突合した上で分析結果を提供します。それによって、例えば病気になる前に予防に役立てていただく、といったことを目指しています。
またゲノムデータだけでなく、解析時にユーザーの方にアンケートを実施して得た生活習慣や既往歴などのデータも匿名化してデータベース化し、企業や大学などの研究機関と共同研究も行っています。
ゲノム配列はある個人の一生を通して変わるものではないですが、それに対する知見は日々蓄積されているので、ゲノムデータから出せる示唆は日々アップデートされています。
昨年は大学病院の感染症部門と、新型コロナウイルスワクチンへの副反応とDNAの関係を分析して、個人向けに情報提供を行いました。サービスが広まるほどデータが蓄積され、研究が進み、その研究をまたサービスに還元していく。そういったサイクルを意識しています。
株式会社ジーンクエスト代表取締役 高橋 祥子 氏
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー 河 成鎭
河:いわゆるゲノムワイド関連解析(genome-wide association study:GWAS)研究と言われる分野かと思いますが、この領域においては海外の競合プレイヤーもITジャイアントやトップレベルの製薬企業・研究機関との連携の下、“本気の医科学”として急速に研究を進めています。米国でも個人向けの遺伝子解析については現状では“レクリエーション”に近い捉えられ方がされている段階に過ぎませんが、今後は科学的信頼性を担保した形で医科学の領域へも急速に発展していくことが予想されます。このような海外プレイヤーの動き、特に日本市場への参入についてはどのように考えていらっしゃいますか。
高橋:その論点はかなり意識していまして、海外の主要プレイヤーが日本への進出を検討している状況も承知しています。ユーザーとなる個人としてはそういった海外勢の遺伝子解析を受けることにデメリットは何もありませんが、国としては、日本人の遺伝子解析から出てくる知的財産は日本国内で保持しておきたいはずなので、問題となる可能性があります。
また、ゲノム情報は欧米系集団と日本人を含むアジア系集団では遺伝的背景が異なります。ゲノムデータベースでは欧米が多くの情報を集めていますが、だからといって日本でやる意味がないかと言えばそうではありません。異なる人種である日本や、人口が増える他のアジア諸国においてゲノム解析を行っていく意義は大きいと思っています。
GWAS研究の8割程度は欧米系の集団で行われていますが、世界に占める人口でいうと欧米系の集団は16%程度しかカバーしていません。今後欧米系以外のデータをどうやって集めていくかが課題です。
西田:遺伝子解析サービスに関連し、ゲノムデータベースの整備は、これまでの経緯からも政府主導で進められていく側面が大きいと思いますが、日本におけるゲノムバンクの立ち上がり状況や、貴社の関わりについて教えていただけますか。
高橋:日本では海外と比較するとまだあまり進んでいないと思います。ゲノムのデータバンクとしては英国のUKバイオバンクが有名ですが、これは英国だけでなく、英国外のさまざまな研究機関でも使用されています。
日本も同様の取り組みを行っていますが、あまり外向きにオープンにしていかない傾向があると研究者の間で言われています。弊社とある大学とで共同研究を行った際に聞いた話ですが、大学側は当初は公共のバイオバンクとの連携を検討していたものの、その取り組みを推進するには最低でも2年程度かかることから断念したとのことでした。特に審査などのプロセスに時間がかかるようです。弊社では、インターネットを活用してユーザーとオンラインで繋がっている利点を生かして、例えば新型コロナウイルスワクチンの副反応の研究では、副反応の起こりやすさとの関連が示唆されるヒト遺伝子多型を同定することに2カ月で成功しました。
このような経験もあり、日本では非常にクローズドな環境でゲノムバンクなどの取り組みを行っている印象があります。
河:外部のパートナーと連携するにあたっては、どのような仕組みで行っていくのでしょうか。例えば、目的に応じた範囲のデータそのものをサニタイズした形で直接提供するのか、それとも貴社独自の解析インターフェースのようなものがあり、データの提供はせずパートナーはそのようなインターフェースを通じてのみ貴社データにアクセス可能なのでしょうか。
高橋:弊社内でバイオインフォマティクス解析を完結する形がほとんどです。遺伝子情報は個人情報になるので、提供のハードルが高いためです。弊社で解析し、その統計結果を共有するというケースが多いです。
河:公共バイオバンクと比べてアクセスがしやすさということについてはお話いただきましたが、データ自体についてはいかがでしょうか。サンプルサイズやゲノム情報に付帯するヘルスデータの多様さといった点で比較するといかがでしょうか。
高橋:インターネットを活用することが利点となると思います。まず地理的な制約がないので、弊社の場合、47都道府県のデータがあります。また、インターネットを通じて追加のアンケートを比較的簡単に実施できるので、ゲノム情報に紐づけて該当する個人の情報を研究目的に応じて事後でも新しく取得が可能で、研究に柔軟性を持たせられます。例えば、今どのようなことが身体に起きているのか、またどのようなことが「起きていないのか」などの情報を付加できる点が、大きな利点ですね。
西田:遺伝子情報に関するプライバシーが話題になりましたが、欧州を中心として個人情報の保護や、遺伝子情報の取扱いに関する規制が強まるような動きがあります。このような状況下において、日本における規制の動向など、今後の展開をどのように捉えていますか。
高橋:欧州は厳しく、米国は比較的自由。中国は国主導で行っているという印象です。
日本は良くも悪くも、まずは他国がどうするかを伺ってから中間地点を取るといった状況です。欧州ほど厳しくもないし、米国ほど好き放題やってください、というわけでもありません。
DTC(Direct To Consumer)という文脈では、医師法、薬機法といった法律がある一方で、日本ではこの分野に特化した法律が現状あるわけではありません。ただ、経産省・厚労省が既に大体の論点は整理していて、ガイドラインを作って対応している方針です。
大きな論点は、解析の質の担保、遺伝子差別の回避、情報の取り扱いといった部分になります。その中で遺伝子差別だけ法律にした方が良いと議論されていますが、それ以外はガイドラインで対応していく方向で現状は検討が進められています。この2022年4月1日から経産省のガイドラインも改正されることが予定されています。
日本では足元で何かがすぐに法律で規制されるとは考えづらく、規制が邪魔になるということはないのではと考えています。特に、DTC遺伝子解析ビジネスは規制すべきものというよりは、これから立ち上がっていく産業です。立ち上がりの時点で規制してしまうと産業が育ちません。
西田:予防医療をはじめとした社会課題への貢献に期待が膨らみます。貴社の遺伝子解析サービスを利用されている日本のユーザー層にはどういった特徴がありますか。
高橋:日本の遺伝子解析の分野では、病気のリスクを知りたい方と、ダイエット・美容目的の方が大きなユーザー層となります。一方で米国では祖先解析も人気のようです。
弊社を利用されるユーザーの方は、4-50代の方が多いです。利用する目的としては病気のリスクを知りたい方が多い印象です。病気のリスクが比較的少ない20代の利用は少なく、またインターネットになじみのない80代も比較的少なくなっています。
西田:ゲノムデータのサンプル分布という観点で、研究用途などに二次利用する際にミッシングピースとなっている世代や特徴などはありますか。
高橋:特定の疾患を研究したいときに、70代以上でしか発生しない疾患であるという場合は、その世代へのアプローチも個別に考えなくてはならないこともあります。
河:先ほど、日本人の特性の違いもあるので日本で遺伝子解析をやる意義は大きいとおっしゃっていました。そこについてもう少し聞かせください。例えば米国の業者のデータベース中にもアジア人のサンプルはもちろん含まれていると思いますが、アジア人サンプルのサイズ自体で貴社に優位性があるからでしょうか。それともゲノム情報が同じでも生活習慣の違いによって、導き出されるインサイトが相当に異なってくるからでしょうか。
高橋:両面ありますが、後者の要因が大きいです。例えば糖尿病のリスクに関する遺伝子は、日本人と米国人で異なる遺伝子が関係していますが、2型糖尿病については生活習慣も大きく影響しますので、日本人の生活習慣を踏まえて分析をしないと意味がないものになってしまいます。
河:なるほど。また別の質問になりますが、貴社の行っておられるようなゲノム解析研究の応用は、理論的には医療だけでなく美容や食品など、あらゆる領域への広がりがあると思っています。しかし、日本では製薬企業がようやくGWAS研究の活用の方向性を見定めはじめている、といった段階である印象があります。高橋さんはどのようなご認識ですか。
高橋:GWAS研究自体にお金がかかるので、世界では研究費が潤沢な特定の疾患の領域では進んでいるものの、食・運動・美容などの疾患以外の領域ではそもそも研究自体が進んでいませんでした。しかし、近年では疾患の領域以外も増えてきているように感じます。
疾患のGWAS研究を創薬で生かすというのはグローバルでは行われていますが、日本ではこれからという印象です。日本の製薬企業も既存の創薬のプロセスに組み込んでいくことに興味を持っているものの、まだ具体的な事例は少ないといった状況にあると推察されます。
一方、海外では製薬企業が遺伝子解析企業に出資するなど、創薬とゲノム解析の連携は進んでいる印象です。
PwCアドバイザリー合同会社 ディレクター 西田 雄太