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気候変動

ESGは次のトランスフォーメーションの波をいかに牽引するか

そして、企業の現場では何が起こっているのか

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ビジネスと社会が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大きな影響を受ける以前から、環境、社会、ガバナンス(ESG)への関心の高まりは勢いを増していました。気候変動や経済的包摂など広範囲にわたる課題により、投資家や経営層の関心は長期的な優先事項と非財務情報開示の重要性に向いています。2019年のビジネスラウンドテーブル(英語)では「経営者の注意や関心は株主に限らず、全てのステークホルダーの利益に向けられるべきである」との声明が出されましたが、これには約200名のCEOが署名しました。そして、COVID-19の世界的大流行は、私たちはどれだけ相互に関連しているか、外的ショックが世界経済全体にどれだけ迅速に影響を与えるか、そして信頼と透明性が経済活動にとってどれだけ重要か、という気づきを強くもたらしました。

42%

米国におけるESG戦略を用いた運用資産の増加率(2018年~2020年)

こうしたいくつかの潮流が一体となり、企業変革の次の波であるESGトランスフォーメーションを後押ししていると私たちは考えています。デジタルトランスフォーメーション(DX)と同様に、ESGトランスフォーメーションは、組織が事業を計画し、導入し、運用する方法を抜本的に刷新し、成功に導く可能性があります。一方でやはりDXと同様に、ESGのトピックも広範であり、どこから着手すべきかを判断するのが困難です。DXの場合、その不確実性の高さから、多くの組織はまず小規模に着手しました。実験的な取り組みを一つずつ立ち上げ、その過程で経験を積んできました。しかしそのやり方では、デジタル技術を活用し、自社のビジネスを刷新する好機をより素早くつかんだ野心的な競合他社に追い抜かれるというリスクを抱えることになりました。

今日、経営層のほとんどは、DXの真の可能性を捉えるには、オール・イン・アプローチ、つまりDXが会社のすべての側面、すべてのビジネスユニット、すべての機能を変革する包括的なプログラムが必要であることを認識しています。DXは、同じことをより速く行うことを可能にするだけでなく、行うべきことそのものも変えてしまうのです。

ESGについても同じことが言えます。つまり、ESGによってなぜ事業を営むのか、企業としてのアイデンティティは何か、世界にどのようなインパクトを与えるか、いかにしてビジネスモデルを社会のニーズに合わせるか、どのような情報を開示するか、そして、どのように従業員を巻き込み、より広いステークホルダーと関係性を築くのかといったことが変わります。

多くの企業ではDXが進行中であるため、さらに別の大きな変革に取り組むという考えは気が遠くなるような話なのかもしれません。しかし、ESGトランスフォーメーションを先延ばしにすると、古い価値創造モデルにがんじがらめになり、ステークホルダーの懸念や事業の長期的なニーズを満たせないリスクが生じるでしょう。また、現実的かつ重大なリスクに対処できず、株主と歩調を合わせられなくなるというリスクが高くなります。

このような変革に着手することの意義を理解するために、ある事業会社の取り組みを紹介しましょう。この企業は最近、気候変動、そしてステークホルダーという観点から、より持続可能な道を歩むために幅広い対策を講じ始めたのです。

ESGは、異なる業界のさまざまな重点分野のトピックを幅広くカバーしています。この企業の例では、気候関連の要素が最も顕著であり、同社のビジネスモデルに大きな影響を与えています。この取り組みはまだ始まったばかりですが、一連の取り組みは「戦略」「財務とインセンティブ」「テクノロジー」「ガバナンスと情報開示」それぞれのアプローチに影響を与えており、他の企業にも対して今後の可能性を垣間見せてくれます。

戦略

同社は、野心的で明確な目標を設定することから始めました。当初はオペレーションに伴う温室効果ガスの排出削減を短期目標として達成を目指すとともに、2050年までの目標として、総量および原単位削減目標を組み合わせてネットゼロ企業になることを目指すことにしました。これらの目標を達成するために、サステナビリティを戦略的優先事項に格上げし、経営陣による明確な取り組みを特定。手始めに、サステナビリティを中核とした計画プロセスの刷新に着手しました。同社は戦略的優先事項に関する情報を収集するために、風力、太陽光、電池、水素などの分野における新エネルギー技術や、炭素回収をはじめとする排出削減技術を研究しました。そして、これらの調査結果から導き出されたインサイトに基づいて、2050年までのポートフォリオ戦略を策定。従来型の事業と電力源を売却し、より環境に配慮したオプションに素早く置き換えるための道筋を示しました。また、アーリーオプションを創出するために、有望なテクノロジーを特定して投資できるベンチャーファンドを、直接投資または合弁事業を通じて組成しました。

財務とインセンティブ

同社は、将来の設備投資を検討するにあたって、持続可能性の観点を取り入れました。例えば、新しい施設を建設する際、以前は、NPV(正味現在価値)をはじめとする従来の財務分析を行い、施設の建設が資本の最大活用につながるかを検討していました。この分析において温室効果ガス排出の観点は後付けであり、内部の炭素価格設定メカニズムに追いやられていました。しかし、同社はこのアプローチではもはや十分ではないことに気づいたのです。より明確な方法で炭素を判断材料に入れることにより、実際に新しい施設の設計と建築方法を変更し、温室効果ガスの排出量を削減し、持続可能性目標の達成を目指しました。経営層がこれらの目標を常に念頭に置けるように、同社は持続可能性のパフォーマンスに関連した経営陣向けインセンティブとして、数百万米ドルを確保しました。現在、同社は全従業員に対して同様のインセンティブ構造を構築することに取り組んでいます。

テクノロジー

DXは、単にESGの今後の道程を示すアナロジーではなく、持続可能なビジネス慣行を実現するイネーブラーでもあります。同社のビジネスユニットの1つは、最近、サプライチェーン全体をクラウドベースのERPシステムで管理するようになりました。これは、サプライヤーが炭素排出に与えるインパクトを追跡、報告、削減するのを支援する重要な最初のステップです。同社は、ネットワーク全体でネットゼロのアジェンダを推し進めることができるように、すべてのサプライヤーとより緊密に連携する方法を模索しています。多くの大規模な組織と同様、この事業会社にとってこのステップは非常に重要です。というのも、二酸化炭素排出量の大部分は、自社の範疇を越えたサプライチェーン全体に由来するからです。

ガバナンスと情報公開

取締役会での議論の在り方を刷新するために、この事業会社のCEOはサステナビリティアドバイザーらに、2050年のサステナビリティ環境に関するロールプレイ演習を取り仕切るよう指示しました。また、テクニカルエキスパートらが個別セッションを設け、各取締役の質問に回答するとともに、提案された投資案件に関連する技術的な課題を明らかにしました。そして同社は、取締役会における将来のモデリングアプローチを変更し、財務実績だけに注目するのではなく、炭素排出に関する要素への注目もそのアプローチに付け加えました。そのアプローチは同社の情報開示の在り方にも影響を与えました。持続可能性目標の明確な定義と、それらの達成に向けた進捗状況を定期的に更新することで、同社の情報開示における透明性は飛躍的に高まりました。なお、非財務情報の開示に関して、DXとESGには重大な相違があります。投資家、規制当局、非政府組織、顧客、従業員などのステークホルダーは企業に対し、ESGトランスフォーメーションについて、DXよりはるかに高い透明性を求めています。

すでに、同社にはすばらしいニュースがあります。オペレーションに伴う温室効果ガス排出量の削減について、短期目標に関しては予定より1年早いペースで達成に向けて進んでいます。これらの成功は、経営層、従業員、その他のステークホルダーを勇気づけ、企業のさらなる発展と、野心的な目標の達成に向けてエネルギーを注ぐことを促しています。

この事例は気候変動の持続可能性に焦点を当てていますが、ESGはまた、同様にさまざまな社会課題に対応しています。そして、すでに多くの企業が、事例として紹介した企業と同じようなアプローチをとり、これらの社会課題にうまく対応しています。ESGトランスフォーメーションは、気候変動を表す「E」だけでなく、社会課題の「S」、ガバナンスの「G」の分野を含めた企業課題へのアプローチとなり得るのです。

DXと同様に、ESGの取り組みは、実験的なプロジェクトの成功や、規模は小さくても短期間で成功を収めるクイックウィンが、より大きな全体の取り組みと結びつくことで勢いを増していきます。

DXとの類似点はまだあります。結果まで考え尽くさずにDXの実装を試みて挫折した、もしくは混乱の極みにあるプロジェクトがビジネスの世界には散乱しており、企業価値の喪失、顧客の不満、経営幹部の退社といった事態を招いています。ESGトランスフォーメーションに関しても、積極的かつ包括的なアプローチを採らければ、同じ憂き目にあうことになるでしょう。

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Collage image of authors from the Take on Tomorrow series

著者紹介

本シリーズでは、PwCグローバルネットワークのさまざまな分野のプロフェッショナルが最新の考察を展開しています。著者のインサイトはESGトランスフォーメーションから、仕事の未来、AIアプリケーションやデジタル通貨に至るまで多岐にわたります。そして、それらはさまざまな業界の企業が将来を見据えて大きな課題に取り組むのを何十年にもわたって支援してきた経験によって導き出されたものです。

著者略歴はこちらをご覧ください
Hello Tomorrow illustration - person looking through a keyhole

Hello, tomorrow. 明日を見通す。未来をつくる。

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※本コンテンツは、PwCが2021年1月26日に発表した「How ESG will drive the next wave of transformation」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

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