顧客体験が全てである:それを正しく理解するうえで重要なこと

良好な顧客体験は、しっかり耳を傾けてもらえている、高く評価されているという感覚を人々に残します。それにより食い違いが最小限に抑えられ、効率が最大化され、つながりが維持されます。

素晴らしい体験の構成要素

顧客に素晴らしい体験を提供すると、顧客の購入が増加し、ロイヤルティが向上し、顧客はその体験を友人と共有します。全ての企業がそれを目指して努力しています。それでは、なぜ非常に多くの消費者が失望しているのでしょうか?これを「顧客体験の断絶」と呼ぶことにします:企業は最新の技術やしゃれたデザインを売り込みますが、最も有意義である顧客体験を重視したり、投資先として重視してきませんでした。

何が真に良い体験を生み出すのでしょうか?それは、迅速さ、便利さ、一貫性、友好的であること、そしてもう一つ、人間味-すなわち、テクノロジーをより人間らしいものにし、より良い顧客体験を生み出すために必要な権限を従業員に与えることにより、実際のつながりを作り出すことです。

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顧客体験に関してギャップが起こっているポイント:6つの理解すべき点

1 価格プレミアムは非常に重要であり、大きな影響力を持つ

顧客がその体験に高い価値を感じるとき、顧客がより多くの対価を支払う機会を含め、企業は非常に重要な事業上の利益を得ます。評価の高い素晴らしい体験の決定的要素は明確です:商品とサービスに対する最大16%の価格プレミアムとロイヤルティの向上です。どの業界でも良い顧客体験を提供するために価格をあげることがありますが、非日常的でぜいたくな商品やサービスは一流の顧客体験を提供することで利益が最大化されます。

また、顧客は並外れた顧客体験を提供するブランドについて、追加のサービスや商品を試してみる可能性が高いと回答しています。さらに、米国の消費者の43%が、よりパーソナライズされ、カスタマイズされた体験を可能にするために企業に自身の個人データ(所在地、年齢、ライフスタイル、好み、購入履歴等)の収集を許可する意思はないと回答しています。一方、63%の消費者は、真に高く評価する商品やサービスに対して自身のデータを共有することは受け入れやすいと回答しています。

図表1 良好な顧客体験の価格プレミアム
図表2 顧客はお気に入りのブランドへの接触をいつやめるのか?

2 悪い顧客体験は、予想よりも急速に顧客を遠ざける

自身のブランドが愛されており、正しく顧客を理解する時間を十分にとっていると考えているのなら、その理解が正しいかを再考するべきです。あなたはたった1日で4分の1もの顧客を失うことを想像できるでしょうか?それも永久に。商品やブランドにおけるたった1回の不快な顧客体験でそれが発生する可能性があります。たとえ顧客があなたの会社や商品をとても気に入っていても、米国では顧客の59%が数回の不快な体験で、17%がたった1回の体験で背を向けると回答しています。全顧客の32%が1回の不快な体験でそのブランドの買い物をやめるだろうと回答しています。ラテンアメリカでは、49%が1回の不快な体験でそのブランドに背を向けるだろうと回答しています。

3 オプション機能は省く。まず必須事項を正しく理解する(今すぐに)

およそ80%の米国の消費者は迅速さ、便利さ、親切な従業員、友好的なサービスが好意的な顧客体験において最も重要な要素であると答えています(顧客体験向上の方程式と言えます)。これらの要素に貢献するテクノロジーを提供することは、最先端のテクノロジーを導入することよりも優先されるべきです。

多くの企業が、顧客をあっと言わせるポップなデザインや最先端のテクノロジーに多大な時間と資金を集中させていますが、そのような顧客を驚かせるためのデザインやテクノロジーは多くの企業が考えているほど顧客体験向上の方程式にとって重要な要素ではありません。顧客はテクノロジーが常に正しく機能することを期待しており、正常に機能しなかった場合を除いて、多くの場合はテクノロジーそのものは気にも留めません。顧客は、ウェブサイトやモバイルアプリのデザインがエレガントでユーザーフレンドリーになることを求めており、また、自動化により体験が楽しくなることを望んでいます。しかし、迅速さ、便利さ、そして適時かつ正確な情報が欠けている場合、テクノロジーの向上は意味をなしません。顧客の期待に応えたか、期待以上であるとき、顧客がより多くの対価を支払う機会を含めて、企業は非常に重要な事業上の利益を得ます。

図表3 顧客体験において最も高く評価されること
図表4 人間対自動化されたやりとり

4 素晴らしい顧客体験は並外れた従業員体験から始まる

米国の消費者の82%と米国以外の消費者の74%が今後さらなる人的交流を求めると回答しており、目下のところ人的交流が重視されています。人的交流を支援するテクノロジーはどのプラットフォームにおいても目立たずに、シームレスに機能することが非常に重要となります。現在、全消費者の59%が、顧客体験において人と関わらなくなったと感じています。そして、顧客の期待と従業員の提供方法には不一致があります。やりとりをしている従業員が自分のニーズを理解していると回答している米国の消費者は38%にとどまっており、米国以外の消費者については46%が同様の回答をしています。

顧客体験が向上するように、自動化されたソリューションは人とのやりとりから「学ぶ」必要があります。これにより、あなたの会社の従業員はシームレスな顧客体験の一部として必要に応じて関わりを強め、より良いサービスを提供し、テクノロジーから必要な支援を受けることができます。同時に、企業による顧客サービスの成果の評価方法を変更する必要が生じます。

イノベーションを重視し、最善の接客を行うために必要なテクノロジーと知識を従業員に備えさせることは、顧客体験への期待値ギャップを埋める助けとなる可能性があります。それにより、良好な体験を提供する動機を従業員に与え、関連する従業員教育を強化し、権限を与えるという企業全体の文化を生み出すこともあり得ます。

5 Z世代は特別なわけではないが、迅速さと知識に求めるレベルが他の世代と異なる可能性がある

調査対象の全ての年代で最も重要なことはZ世代でも同様です。しかし、Z世代にとって迅速さと知識に求めるレベルが他の世代と異なる可能性があります。

期待されているのは即時性です。タブレットからスマートフォン、デスクトップ、人へとシームレスに移行でき、便利であることが大前提です。

Z世代は影響を受けやすく、ブランドへのロイヤルティを形成中です。(調査対象全体では24%なのに対して)Z世代の40%が昨年に比べて、ブランドに対しよりロイヤルティを感じています。したがって、プレティーン、ティーン、そして1990年代の中頃から終わりの時期に生まれたヤングアダルト世代にアピールしたい場合、理解すべき微妙な差異があります。

そして他の年齢層と同様に、Z世代の顧客は顧客体験に高い価値があると感じる場合にソーシャルメディアでブランドを勧めたり、宣伝したり、ブランドのニュースレターを購読したり、販売促進に参加したり、リピート購入したりする可能性が高いです。

図表5 Z世代にとって重要なことを理解する
図表6 体験と期待のギャップ

6 顧客体験が戦略に含まれていない場合、それは誤っている

全回答者の73%が、購買決定における重要な要素として価格や製品品質ではなく、顧客体験を挙げました。消費者は自身にとって重要である顧客体験の質に対してより多くの金額を消費することを望んでいます。全消費者の43%がより素晴らしい便利さに対して、そして42%が友好的で快適な体験に対して、より多く支払う意思があると回答しています。さらに、米国の顧客の65%が、あるブランドに関する肯定的な体験は素晴らしい広告よりも影響が大きいと回答しています。

それにもかかわらず、PwCの「デジタルIQ調査」によると、より良い顧客体験を生み出すことがデジタルに関する優先事項であると回答した企業の数は2016年の25%から減少して2017年には10%のみとなりました。米国の消費者の54%が、ほとんどの企業は顧客体験の改善が必要であると回答している中でこれは大きな問題です。消費者が期待している内容は業界によって異なるが、消費者は自分たちの期待が満たされていないと感じていることは明確です。

顧客体験の向上に向け、言外の意味を理解することから私たちは取り組むべき

  1. 顧客には要求したいものがある。顧客は想像通りの存在ではない。
    迅速さ、便利さ、友好的であること、そして知識。これらの改善とテクノロジーによる向上が顧客のニーズの中核であり、顧客が自分たちのブランドと関わり合い、喜んで受け入れ、購入する方法を企業が改善する端緒となるものです。
  2. 顧客は収益を生み出す。従業員は体験を推進する。
    顧客にとっての摩擦を減らし、さらに大きな顧客満足をもたらすために権限を従業員に与えること、そして、もしうまくいかなかった場合は従業員により多くの寛大さを示すことが必要です。これには新しい働き方や、従業員体験をさらに重視すること、そして顧客体験における人と機械の関係についてより進んだ見方をすることが必要となる可能性があります。
  3. テクノロジーは体験に関する問題を解決できない。
    単なるイネーブラーでしかなく、優先事項を設定しなおすべきです。素晴らしい従業員体験はより強く、スマートで、革新的なアイデアをもたらし、これにより事業の将来と最高の顧客体験が推進されます。

上記はPwC米国が発行しているレポートを翻訳した内容ですが、PwC Japanグループとしては「テクノロジーは体験に関する問題の解決に十分条件ではない」という点に着目しました。

本記事は2017年の調査に基づいて書かれており、その当時においては「米国の消費者の82%と米国以外の消費者の74%が今後さらなる人的交流を求めると回答しており、目下のところ人的交流が重視されている」と記事にもある通り、テクノロジーによる自動化された体験よりも、人を介した体験こそが望ましいと考察されていました。

その後、2023年6月に行われた調査をもとにした「世界の消費者意識調査 2023年6月意思決定のポイント:購入前の消費者の体験を向上」の記事においては、消費者はデジタルアシスタントとしてのチャットボット等のテクノロジーの利用に前向きであるという結果となっており、変化が見られています。この2つのメッセージから私たちは「顧客を正しく理解した上で、顧客体験を向上させるテクノロジー」を実装していくことが重要なのではないかと考えています。

しかしながら、企業側では顧客理解に向けてデータを十分に獲得・活用できていないケースがいまだに多い状況となっています。顧客側がすでにテクノロジーによるサービス提供を受け入れつつある以上、今後は顧客データを活用し、顧客を理解し、顧客体験へと反映をしていく企業とそうでない企業において、顧客からのサービスに対する満足度やサービスの継続率などに差が開いていくのではないでしょうか?

以下に、私たちが顧客データを活用し顧客理解、顧客理解に基づいた戦略立案、施策実行支援を行っている多数の事例のうちの1つをご紹介します。

自動車メーカーのCX戦略立案・CX施策実行(顧客理解のためのシステム構築が起点)

背景

顧客ニーズをカスタマージャーニーに沿ってEnd to Endで理解し、それを営業・マーケ戦略の立案、施策の実行・改善に活用するサイクルを確立することを目指した。

  • 部門により、対応するジャーニーのフェーズが異なるため、顧客軸でデータが統合されていなかった
  • カスタマージャーニー(顧客のオンライン/オフライン行動や顧客の困りごと・ニーズ)を理解しきれていなかった
  • その結果、ニーズに刺さりきらない提案やアンタイムリーな提案、機会損失が多く存在していた 

概要

独自のCDP(Customer Data Platform)を構築し、オンライン・オフラインの複数接点および車両情報等から生の顧客データをE2E(End to End)で顧客一意に統合。統合した顧客データを分析し、セグメンテーション・ロイヤルカスタマー定義を実施し、以下1~4に活用。

  1. 顧客ユニークIDを起点として個客カルテ構築と理解深化
  2. 顧客行動に準じた接客シナリオと施策ユースケース立案(セグメンテーション、ターゲティング、Marketing Automationでのメッセージ配信自動化等)
  3. ユースケースのPoCを通じた改善サイクルの確立(コンテンツ、配信タイミングやチャネルの改善)
  4. 新規サービス開発

成果

顧客データを集約・分析することで、顧客像の解像度を高めることができ、カスタマードリブンなマーケティング施策および、個客ごとに一貫した接客業務を実現した。

顧客が新しいテクノロジーを受け入れつつある状況において、企業としては「顧客が求める顧客体験とは何か」を正しく理解した上でテクノロジーを活用することが重要となってくると私たちは考えています。上記事例のように顧客データを活用し、顧客理解を進め、その理解を顧客へ提供するサービスへと反映する仕組みを構築することができれば、顧客が本当に求めている顧客体験の提供に近づいていくことができるのではないでしょうか?

顧客体験が全てである:それを正しく理解するうえで重要なこと

※本コンテンツは、PwC米国『Experience is everything. Get it right.』を翻訳したものにPwC日本独自の内容を追加したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。


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顧客が真に求めるパーソナライズされたロイヤルティ体験を提供するには 金銭的報酬だけではない顧客一人一人に合わせた価値ある体験を提供することの重要性

顧客とのロイヤルティを育むことは、組織に価値をもたらし、収益性を高めます。本稿では、PwCが実施した顧客ロイヤルティに関する調査からの洞察を紹介するとともに、日本企業が取るべき対応策を解説します。

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主要メンバー

丸山 貴久

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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伊藤 賢

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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土井 俊悟

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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小笠原 光優

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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清水 遼一

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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