
行動経済学 人間のためのデザイン
人間の行動は、さまざまな影響を受け、時には最適解から外れることもあります。本稿では、顧客や従業員などとの関係に焦点を当て、企業が取るべき対応策を提示するとともに、日本市場での可能性について解説します。
2025-05-16
デジタルコマースが1990年代に始まって以来、企業はシンプルなeコマースサイトの構築から、顧客エンゲージメントを向上させ、収益源やコンバージョン、広告費のリターンを増加させる複雑なオムニチャネルソリューションとマーケットプレイスエコシステムの構築へと取り組みを進化させてきました。最新の進化形はソーシャルコマースまたはディスカバリーコマースとも呼ばれており、ユーザーがFacebook、Instagram、WhatsApp、TikTok、YouTube、Snapchat、Pinterest、Twitterなどのソーシャルメディア・プラットフォームを通じて商品を探し、購入することを可能にする新しいデジタル販売チャネルとなっています。
ソーシャルメディア・プラットフォーム上では、企業は単なるコンテンツの投稿に加え、エンドツーエンド(E2E)の凝縮されたセールスファネルの構築を求められるようになりました。そうすることによって、消費者が商品を発見してから購入するまでの時間を短縮し、さらにブラウザーのCookie規制に関する今後の変動や、増え続ける世界的なプライバシー規制にも対処しやすくなります。一方で、多くの企業は成功するソーシャルコマースを構築する方法を十分に理解していません。構築したセールスファネルを活用するためには、組織、ビジネス、テクノロジーに関する選択に変化を加える必要があるでしょう。
現在、ブランドがソーシャルメディア・プラットフォームに商品を投稿すると、消費者はそのプラットフォーム上で取引を完了させることができます。それができない場合、ブランドはユーザーを自社ウェブサイトに誘導して商品の購入を促します。ソーシャルコマースによるこの簡略化は、消費者を「今、買おう」という気持ちにさせ、売り手の収益を増加させます。
ソーシャルコマースの市場は世界で急成長を遂げており、積極的な企業にとっては、成功すれば大きな投資収益率につながる機会となります。
ソーシャルコマースを導入する利点は2つあります。1つは、消費者が好む魅力的で便利な体験を提供することです。もう1つは、商品の発見から精算まで、販売チャネルにおける全体像をはっきりと見通すことができることです。また、ソーシャルコマース・プラットフォームでより多くのデータを収集し、セールスファネル全体においてデータに基づく決定を下すことが可能になります。さらにこれらインサイトを活用することで、ユーザーの行動を理解し、商品とサービスに関するアイデアを生み出すことができます。
ソーシャルメディア・プラットフォーム上で確立されたブランドの存在感を成功するソーシャルコマース・チャネルへと変えるために、企業は何をすればよいでしょうか。全面的な改革は必要ないかもしれませんが、組織のいくつかの部分に対する変更が必要になります。ソーシャルコマースでは、次の2つのことがドライバーとなり、組織の再評価と、異なる機能の連携を促します。
これらを実現するためには、部門間の緊密な連携、研修への取り組み、そして新しい働き方の確立が必要です。
以下のビジネス機能を統合することで、成功するソーシャルコマースの取り組みを達成することができます。
消費者は、ソーシャルコマースにおいてさまざまな形でブランドと関わりを持ちます。 |
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ソーシャルメディア・プラットフォームは数十年も前に、雑誌広告に類似した高度にスタイリッシュで視覚に訴える投稿で関心を高めることを目的に登場しました。ソーシャルコマースは、ブランド認知とブランドトラフィックを促進するだけでなく、消費者が商品を発見しブランドと関わりを持ち、さらに取引ができることにフォーカスした投稿を作成できるようになっています。
トレンドに敏感なデニムデザインを提供するあるアメリカのファッションブランドでは、ソーシャルメディアを活用してセールスコンバージョンを推進しています。インフルエンサーを起用し、彼らの投稿に商品のタグ付けを行っています。ブランドが運営するInstagramのページでは、特定の商品を際立たせるために視覚に訴える画像が投稿されているだけでなく、これらの画像に「ショッパブル」なタグを埋め込むことで、消費者が画像内の商品タグをクリックすると、商品の詳細ページ(PDP:Product Detail Page)に直接誘導されるようになっています。
このブランドのPDPは非常に分かりやすく、サイズ表、商品レビュー、商品の詳細な説明、配送費、返品・キャンセルポリシーが表示されています。さらに、Instagramのショップは完成されており、顧客はブランドのウェブサイトに誘導されることなく、InstagramのCheckout機能を使って、商品を「カートに追加」して購入することができます。
積極的なソーシャルコマース・プログラムにとって、テクノロジーは極めて重要である、という表現は不十分です。データ統合、ビジュアルマーチャンダイジング、そしてE2Eのレポート作成は、ソーシャルコマースへの取り組みを支援する機能の一部でしかありません。ただし、ソーシャルネットワークと支払い機能に関連するプライバシーとセキュリティには課題が伴います。
迅速、容易、かつ安全なソーシャルコマースでの取引を実現するために、消費者の生涯価値の評価に役立つ予測分析ツールの活用方法を検討してみてください。それによって潜在的価値が最も高い個人に焦点を当てることが可能になります。
将来的に、VRやARなどのテクノロジーは、特に特定業界のソーシャルコマースでより大きな役割を果たすことになるでしょう。例えば、PwCのサーベイにおいて、3分の1の個人が、小売環境の向上を体験するためにVRを使用したことがあると回答しており、さらにVRで商品を試したりストアを見て回ったりした後に購入した経験があると回答した個人も3分の1に上りました。旅行代理店が旅行前に顧客を旅行先に没入させるためにVRを使用したり、不動産会社が潜在的な購入者にVRで家を見せたりするなど、ソーシャルコマースのVR体験の価値は明らかです。
ソーシャルコマース・プログラムを構築する際には、ブランドおよび消費者のセグメントに関する幅広いインサイトを収集する戦略から、各個人に関する差別化を行うインサイトを蓄積する戦略へと、事業戦略を変更する必要があるかもしれません。その取り組みをサポートするために、以下のアクションの採用を検討してみてください。
ソーシャルコマースは消費者と販売者の両方に明確な利益をもたらしますが、最大限に活用するにあたり、企業はそのソーシャルコマース・プラットフォームを、安全でプライバシーが保護され、かつ使いやすいものにする必要があります。多くのサイトが段階的にCookieを廃止しており、ソーシャルコマースは、快適なショッピング体験を提供でき、買い手と売り手の双方に安全な環境で利益をもたすことができます。
上記はPwC米国発行のレポートを翻訳した内容ですが、PwC Japanグループでは、ソーシャルコマースが新しく発展途中にあるがゆえに取り組むべき課題が多岐にわたるため、早期からトライアルを繰り返し、学びを得ていくことが望ましいのではないかと考えています。
まず1点目は、重要な取り組みの1つであるインフルエンサーマーケティングについてです。これは、インフルエンサー自身が持つ価値観や影響力、フォロワーとの信頼関係に基づき、ブランドの価値観に共感してくれる潜在的な消費者へリーチでき、そして商品やサービスをより身近に信頼できるものとして伝えられることが魅力です。PwCが2024年に世界31カ国20,662人を対象に実施した調査「PwC’s 2024 Voice of the Consumer Survey」によると、近年、インフルエンサーの役割はより大きく拡大し、消費者の41%(アジアパシフィック地域では50%)が、有名人やインフルエンサーによる影響で商品やサービスを購入していると述べています。これほどまでにチャネルとして確立しているにもかかわらず、インフルエンサーによるメッセージの伝達はブランドからの一定のコントロールを失うため、メッセージが意図したとおりに伝わらない、またインフルエンサー自身の行動や言動による炎上にブランドが巻き込まれるといったリスクも伴います。ブランドはこれらのリスクに対応するため、インフルエンサーとのコミュニケーションや契約形態(例えば、企画単位の契約とするなど)についての最適な方法を模索していく必要があります。
もう1つがデータ管理についてです。個人情報を中心としたデータ管理の透明性は、以前からソーシャルメディア・マーケティングの課題ですが、今後ソーシャルコマースの浸透においても継続して取り組むテーマであると言えます。前述した「PwC’s 2024 Voice of the Consumer Survey」のアジア太平洋地域版*では、回答者の74%がソーシャルメディアの利用について自身のプライバシーとデータ共有に懸念を抱いており、50%はソーシャルメディアを通じての購入に対して不安を感じています。消費者の懸念はどこで発生しているのか、どのようなコミュニケーションが懸念の払拭に有効なのかを試行錯誤しながら学んでいくことが、ブランドの信頼へつながっていくと考えます。
ソーシャルコマースは、消費者がブランドや商品・サービスに興味を持ったその瞬間を逃さずに購買までつなげられる点で大きなポテンシャルを持ちますが、一方でまだ発展の途上にあるため、早期から経験を積み重ね学びを得ていくことが競争優位性の獲得につながると私たちは考えています。
※本コンテンツは、PwC米国『Is your brand ready for the $3 trillion social commerce marketplace?』を翻訳したものにPwC日本独自の内容を追加したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
人間の行動は、さまざまな影響を受け、時には最適解から外れることもあります。本稿では、顧客や従業員などとの関係に焦点を当て、企業が取るべき対応策を提示するとともに、日本市場での可能性について解説します。
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