
【2025年】PwCの眼(5)企業のサステナビリティ対応は統合的アプローチに昇華する
カーボンニュートラルに向け、エコカーの生産・販売にシフトしてきた完成車メーカー各社ですが、一方で事業において気候・自然・人権の負荷を同時に高めてしまうリスクが現実味を帯びてきています。課題を可視化し、コスト低減と価値創出を両立させるために企業がとるべき統合的アプローチについて考察します。(日刊自動車新聞 2025年6月2日 寄稿)
2022-11-04
脱炭素達成に向けて自動車メーカーはLife Cycle Assessment(ライフサイクルアセスメント=LCA)の流れの中で動き出しており、サプライチェーンの自動車部品メーカー(部品サプライヤー)にもLCAへの対応が求められ始めている。一方、多くの部品サプライヤーは従来から排出ガス規制に取り組んできたが、製造段階からCO2を抑えなければいけないLCA対応の実践段階で苦労している。本稿では、部品サプライヤー業界に焦点を当てて、企業が抱える悩みや目指すべき方向を考察する。
脱炭素化に取り組む上で、各社が抱える典型的な悩みとしてまず挙げられるのはアジェンダの設定である。重要性は認識しつつも、誰に向けて何を目指し、何から手をつけていいかわからないという企業は少なくない。また、足元で好調な内燃機関車向け部品の製造を止められず事業転換の道筋が描けないことや投資対効果の観点で事業転換に後ろ向きになってしまうケースもある。
しかし、自動車業界全体としてはメーカーから部品サプライヤーへの脱炭素化の要求は欧州勢を筆頭に厳しくなりつつある。また、国連の責任投資原則提唱によって、ESG経営をしない企業には投資しないというルールに変わりつつあり、メーカーとの取引存続のみならず投資資金確保の観点でも、今後カーボンニュートラルへの対応は必須になると考えられる。
こうした状況の中、部品サプライヤーが目指すべき方向を3つ挙げさせていただきたい。
一つ目は、先行脱炭素製品開発・製造をおろそかにしないこと。そもそも可能な限り電力や熱を必要としない設計・製造がものづくりの王道であり、コストも下がることから、低排出量で性能の良い部品が今後一層競争力を持つようになる。設計段階からの削減工夫や製造段階での材料置換、廃熱利用など先を行く取り組みで、受注を勝ち取る企業も台頭し始めている。競合に先んじて排出量の低い製品開発をしておけば、まず取り残されることはない。そのためにもLCAで先端を行くメーカーとの取引での情報収集や厳しい要求に対応することも欠かせない。
二つ目は、将来のコスト回避のためにあえて今投資すること。たとえば、製造過程でのグリーン電力採用はコスト高となるためオフセットでの解決を選択しがちだが、将来的にはオフセット需要が増えるため価格が上昇し結局高くつく可能性が高い。とはいえ既存の意思決定の仕組みでは、短期的にコスト増に繋がる脱炭素化の推進は設計・製造・営業部門などからの反対が多く、実行は困難を極めるであろう。全社的な意思決定機関に判断を委ねる方法や、ICP(インターカーボンプライシング)のような、CO2換算量を金額に換算して仮想上のコストとみなして投資判断に組み入れるような仕組みから対応検討が重要である。
三つ目は、カーボンニュートラル対応の効率化である。理想を語っても排出量の算出は大変だ。現在メーカー各社が行っているScope3の計算の基準は統一されていない。部品サプライヤーは、メーカーごとに異なる排出量計算を効率的に計算できるツールの保有や、そのツールを2次仕入れ先と共有し連携を図ることが重要となり、こういった方向を持ってしかるべき対応を行うことが今後求められるのである。
※本稿は、日刊自動車新聞2022年10月31日付掲載のコラムを転載したものです。
※本記事は、日刊自動車新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
Strategy&は、他にはないポジションから、クライアントにとって最適な将来を実現するための支援を行う、グローバルな戦略コンサルティングチームです。そのポジションは他社にはない差別化の上に成り立っており、支援内容はクライアントのニーズに応じたテイラーメイドなものです。PwCの一員として、私たちは日々、成長の中核である、勝つための仕組みを提供しています。圧倒的な先見力と、具体性の高いノウハウ、テクノロジー、そしてグローバルな規模を融合させ、クライアントが、これまで以上に変革力に富み、即座に実行に移せる戦略を策定できるよう支援しています。
カーボンニュートラルに向け、エコカーの生産・販売にシフトしてきた完成車メーカー各社ですが、一方で事業において気候・自然・人権の負荷を同時に高めてしまうリスクが現実味を帯びてきています。課題を可視化し、コスト低減と価値創出を両立させるために企業がとるべき統合的アプローチについて考察します。(日刊自動車新聞 2025年6月2日 寄稿)
PER(株価収益率)の改善を企業側で能動的に行うには、投資家が企業のどのような活動や成果に注目して事業リスクや成長に係る期待形成を行っているかの「投資家視点」を理解することが対応への第一歩となります。 投資家視点を理解するための情報収集・分析のススメについて考察します。(日刊自動車新聞 2025年4月14日 寄稿)
車の価値がハードウェアからSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)へ移行したことによって、高度なサービスが提供されると同時にソフトウェアの複雑さとサイバー攻撃への脆弱性が増すことになります。これからは、情報を守るための仕組みや組織体制づくりを行い、法制度の高度化や高速化に備えていくことが重要となってきます。(日刊自動車新聞 2025年3月24日 寄稿)
日本の半導体産業は現在、半導体製造装置や部素材が競争力を保っており、自動運転用途では海外製の先端半導体が多く採用されています。運転支援システムや自動運転システムで重要な役割を果たす先端半導体の今後について解説します。(日刊自動車新聞 2025年2月17日 寄稿)
日立製作所のリーダ主任研究員 長野岳彦氏と主任技師 大石晴樹氏、PwCコンサルティングのシニアマネージャー佐藤 涼太が、設計開発領域の変革に取り組む理由、変革ポイント、活動推進における課題について議論しました。
近年、自動車業界においてもAI技術の革新が進んでいます。 新たな安全規格となるISO/PAS 8800の文書構成や既存の安全規格(ISO 26262, ISO 21448)との関連性について概要を整理するとともに、AI安全管理およびAIシステムの保証論証について紹介し、AIシステム開発における課題について考察します。
京都大学の塩路昌宏名誉教授と、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、水素小型モビリティ・エンジン研究組合(HySE)の担当者をお招きし、水素社会実現に向けた内燃機関やマルチパスウェイの重要性について議論しました。
京都大学の塩路昌宏名誉教授と、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、水素小型モビリティ・エンジン研究組合(HySE)の担当者をお招きし、産官学連携での水素エンジンの研究開発の重要性と、具体的な課題について議論しました。