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2021-04-13
前回のコラム「これからのサプライチェーンに求められる5つの要件」では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が日本企業のサプライチェーンにもたらした影響を述べました。今回は、生産・調達の供給側と販売業務のバランス、すなわち需給業務にもたらした影響に焦点を当てます。
COVID-19によるパンデミックが発生する以前から、生産や調達、物流や販売の現場では需給のバランスに変化が起こっていました。そうした傾向は次第に大きくなり、企業においては、結果的に需給調整能力を高める必要性が増していました。図表1は、PwCが提唱するADAPTフレームワークで需給への圧力を説明したものです。サプライチェーン上で発生する「生産・調達」「物流」「販売」という各フェーズにおける変化や課題を、世界が今日直面する5つの喫緊な課題(「Asymmetry(非対称性)」「Disruption(破壊的な変化)」「Age(人口動態)」「Polarization(分断)」「Trust(信頼)」)ごとに整理しています。
これらにいち早く気付き、対応を始めていた企業は、COVID-19による変化に対する備えができていたと言え、実際に柔軟な対応により、難局を乗り切ろうとしています。一方、需給調整能力向上の必要性に直近で迫られていなかった企業においては、今後対策を迫られる可能性があると言えます。
COVID-19によるパンデミックは、ビジネス上の変化が比較的穏やかであった業界にも需給の見直しを迫りました。その1つが医療関連産業です。マスクや消毒液、医薬や診断機器、治療機器などを扱う産業にもたらした影響を、PwCが支援した事例をもとに紹介します。
A社は、医療関連事業への経営資源の投入と拡大、M&Aや競合の参入といった業界動向の変化により、医療関係で必達の納品・順守率の向上と、在庫過多・欠品回避のバランスをとるのが難しくなっていました。そこでA社は、長期的な事業の発展と投資資金確保のために、シミュレーションによるシナリオプランニングの実施や、数量を金額換算した上での事業計画の進捗度合いの確認、そして最適な需給を実現するためのオペレーションの均質性向上やグループの情報の一元化に着手しました。現在はこうした改革により、グローバル連結視点での意思決定の最適化と迅速化が進みつつあります。
予防、診断、治療といった分野によって改革の傾向や伸び率は異なると想定されますが、今後も医療関連産業ではSCM(Supply Chain Management)ならびに需給の改革は進むと思われます。ただし、最新機器が全世界で使われるわけではなく、地域特性(欧州医療機器規則<MDR>や米国食品医薬品局<FDA>などによる各国規制がもたらす仕向けパターンの増加、先進国・発展途上国でのデジタル・アナログ観点での医療インフラの違い)に左右されることが改革の難しさの背景にあり、一工夫を要する業界であるとも言えます。
日本企業を海外企業と比較した時に、グローバル化の遅れとガバナンスの弱さが傾向として存在します。これはSCMにおいても言うことができ、グローバル規模でのサプライチェーン網の構築と、それらを適切に統制する能力の向上は、日本企業がビジネスを拡大する上で必須と言えます。
今後の需給エリア強化の方向性としては、販売代理店をも含めたサプライチェーン全体での最適化が挙げられます。需給業務の幅はますます広がり、これに携わる部門は、大量かつ複雑な情報を扱うことになります。デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が必要であり、COVID-19をきっかけにしたリモートワークの浸透は、企業にとっては試練であると同時に、そうした変革への追い風とも言えるでしょう。コロナ時代に求められるサプライチェーンの5つの要件を需給業務に携わる部門が把握し、業務を遂行することが、変革へのヒントになることを期待します。
さて、COVID-19は企業にさまざまな変化をもたらしましたが、こうした事象が今後も起こらないとは言い切れません。企業が変わりゆく社会情勢に対応する手立ての一つとして、デジタル化によって優位性を向上していくことが挙げられます。レポート「統合的かつ自律的なサプライチェーンエコシステムの有効性と考察2025」では「デジタルチャンピオン」という考え方を用い、需給のみならず各業務でDXの推進が企業の競争優位性を上げることを、データで示しています。
またPwCは、2020年秋にConnected Supply Chainというソリューションを発表しました。デジタルを活用してあらゆるオペレーションを視覚化・データ化することで「統合されたエコシステム」を構築するという考え方が、以前より存在するSCMや需給に関する課題や、COVID-19によって加速また新たに加わる課題を解決する一助になると確信しています。自社の事業にとって何が必要で、何が重要であるのか――。今一度広い視野で見直し、経営の最適化に向けて何ができるのかを整理して、改革に着手することが重要です。
次回以降のコラムでは、SCMの各業務領域における課題と、解決に向けた方向性を述べていきます。