
メッシュアーキテクチャが切り開く新たなデータアナリティクス~第7回 柔軟な対応力を育む人材教育の重要性
メッシュアーキテクチャの導入について、人材育成に焦点を当て、昨今のビジネス環境で求められるデータ利活用人材の役割と教育方法について深掘りします。
2022-09-20
「サイロ化したデータを統合して新たな価値を創出する」という考えのもと、多くの企業がデータ活用に必要な資源を集約させ、ビジネスにおけるアジリティを向上させるための取り組みを行っています。具体的には、企業内外のデータを集約するためにデータプラットフォームを構築し、データ活用を推進する全社横断型組織を立ち上げるといったものです。
このデータ統合に取り組む中、以下のようなデータの品質とそれに対する責任に関わる課題が発生しています。
事業部門が持つデータを集約したものの、その品質にばらつきがあり、他事業部門のデータをうまく組み合わせることが難しい。
集約したデータを全社で活用できるよう最適な形に変換するためには、各事業部門にヒアリングしながら確認する必要があるなど、全社レベルで一定水準のデータ品質を担保することに対する負担が大きい。
結果、アナリティクスによる価値を提供する全社横断組織が、データ品質の担保にその労力の大半を取られ、事業が求めるスピード感を失ってしまう。
加えて、データ整備を自動化するデータプラットフォームも、処理数が非常に大きく、複雑化してしまい、コスト面での負担増だけでなく事業に対するデータのリアルタイム性を失ってしまうといった課題も発生しています。
この課題を解消するアプローチとして注目されているのがメッシュアーキテクチャです。具体的に見ていきましょう。
メッシュアーキテクチャは、データ品質に対する責任を全社横断組織のような「中央組織」と各事業部門といった「ドメイン」に分散させることで、データ利活用におけるドメインとしてのアジリティを確保しつつ、ドメインが作成したデータやアナリティクスを他ドメインがメッシュのように相互に利用できるようにするものです。前節で述べたような一元的なプラットフォームに集約する形でのデータ統合のアプローチを「中央集権型」とした場合、メッシュアーキテクチャは中央組織とドメインの「連邦型」のデータアーキテクチャと捉えることができます。これにより各ドメインが相互運用性の確保という観点からデータ品質の重要性を意識することで、企業全体でデータ利活用主体の裾野をより大きくすることが可能となります(図表1参照)。
メッシュアーキテクチャは、品質に対する責任の分散と相互運用性という特性から、そのシステム構成(プラットフォーム)も中央集権型とは異なります。例えば、メッシュアーキテクチャはデータを集約して一元管理することを前提とはしていません。また、データに基づくアナリティクスを実行するアプリケーションも、特定のシステム環境に依存した実行方式やアクセス方法は極力採用せず、仮想化技術やコンテナ技術、APIアクセス方式の採用が推奨されます。
さらにドメインが開発や維持運用を行うために必要なストレージやコンピュートエンジンに加え、暗号化や監査ログの取得といったセキュリティ機能、さらに継続的な開発を行うためのCI/CD(Continuous Integration:継続的インテグレーション/Continuous Delivery:継続的デリバリー)など、ドメインにとって自由で安全かつ効率的な開発環境を提供することもメッシュアーキテクチャの要件となります。
改めて、中央集権型とのシステム構成の違いを図表2に整理します。
このように、企業全体でのデータ利活用に向けた品質責任をドメインと中央組織で分担するには、双方が以下の視点を理解し、合意、共有する必要があります。
中でも「データやアナリティクスをプロダクトとして他ドメインに共有し、利用できる」という点は、従来ドメインが持つデータ(いわゆる「ソースデータ」)を提供することだけでなく、そのデータから得られたアナリティクスの結果やアナリティクスそのものを提供することも必要となります(図表3参照)。例えばソースデータである注文情報や商品マスターをもとに在庫や需要予測を行うといった場合、それを管理するドメイン(例えば受発注部門)はその予測モデルを組み合わせて他ドメイン(例えば営業部門や経営管理部門など)に提供することになり、データだけでなく、その予測モデルやそれにアクセスして結果を得るためのAPIなどを合わせて提供することが求められます。
また中央組織は、ドメインへ権限を移譲するにあたってサイロ化する懸念を防ぎ品質を担保するために、さまざまなサポート機能やルールを整備することが求められます。具体的には、メタデータ管理やデータアクセス管理、データ品質管理などがあり、その一部は、データプラットフォームの一機能として提供されます。例えばデータカタログツールや、データリネージツールなどが代表的なものになります。
メッシュアーキテクチャにおける中央組織の提供機能イメージを図表4に示します。
従来の中央集権型では、データの取得から利用までのデータパイプライン開発とデータ提供そのもののリードタイム、リアルタイム性が失われるケースが多く見られました。一方メッシュアーキテクチャは、これらを解消し事業のアジリティを向上させることが期待されています。
この考え方を推進することで、以前からニーズがあった「業務に対するAIの組み込み」を可能とし、企業全体の生産性を向上させることが期待できます。トランザクションを扱う業務システムと、アナリティクスを担うデータプラットフォームとの距離や境目がドメインの中でなくなり、意思決定に必要な示唆をデータから得られやすくなるとともに、ドメイン間の境界をコントロールすることで他ドメインもその恩恵に与る機会を創出できるようになります。
次回は「業務に対するAIの組み込み」をご紹介し、具体的な有用性、効果を説明します。
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メッシュアーキテクチャは、データ品質に対する責任を分散させることで、データ利活用のアジリティを確保しつつ、他ドメインがメッシュのように相互に利用できるようにするものです。ドメインと中央組織の役割を踏まえ、企業全体でデータ利活用に対する責任を分担する文化を醸成する必要があります。
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