
メッシュアーキテクチャが切り開く新たなデータアナリティクス~第8回 競争優位を築くメッシュアーキテクチャの実践
メッシュアーキテクチャ実現に向けたポイントをシステムの観点から考察し、中央データ基盤に求められる機能群ごとに解説します。
2025-04-30
生成AIなど新しい技術の台頭や、IoTやSNSなどビジネスに活用するデータの幅が広がっていることにより、データ活用のニーズやデータリテラシー、また統制を利かせるためのガバナンスはドメインごとに多様化しています。このような変化に伴い、従来行われていた中央集権的なデータ基盤構築や全社員向け分析教育、共通的なデータガバナンス導入などといった画一的なアプローチによる全社的なデータ利活用浸透には限界が見えてきています。そこで鍵となってくるのが、メッシュアーキテクチャの導入です。メッシュアーキテクチャにおけるデータ基盤やデータガバナンスについては、「第4回 プラットフォームとして担保するガバナンス」「第5回 相互運用性と接続性向上に向けた取り組み」で解説しているため、今回は人材育成に焦点を当て、現代のビジネス環境で求められるデータ利活用人材の役割と教育方法について深掘りしていきます。
図表1:データ利活用浸透における従来のアプローチの問題点
現代のビジネス環境では、DX(デジタルトランスフォーメーション)が企業の経営戦略の柱として重要性を増しています。それに伴い、データ利活用能力を持つ人材の確保・育成が急務となっています。
メッシュアーキテクチャの導入においても、データ利活用人材の確保と育成が重要ですが、そのアプローチは従来とは異なります。従来は、高度なデータ利活用ができる人材を特定のドメイン(例えばデータサイエンス部門など)に集中させていました。しかし、メッシュアーキテクチャを前提とすると、個々のドメインにおいても高度なデータ利活用人材が必要になる場合があります。高度なデータ利活用人材を育成し、各ドメインに適切に配置することで、組織全体で自立したデータ利活用が促進され、特定の部門に留まらず全社的なデータ文化が醸成されます。
日本企業においても、2010年代にデータ基盤やセルフサービスBIツールの導入が進んだ結果、データ利活用は限られた専門家の領域から幅広い社員が扱える領域に変わってきています。しかしながら、各ドメインの人材に求められるデータリテラシーやデータ利活用スキルは多様化しており、従来の画一的な人材育成アプローチでは対応が難しくなっています。この状況では、多様なニーズに応じて、さまざまなレベルの人材をバランスよく育成することが重要です。異なるスキルセットを持つ人材が相互に補完し合うことで、業務効率の向上だけでなく、業務プロセス自体の革新や新たなビジネスチャンスの創出へも寄与します。
図表2:メッシュアーキテクチャにおける多様なデータ利活用人材の育成
組織全体で自立したデータ利活用を実現するためには、社員全員が専門レベルのデータ利活用能力を持つ必要はなく、むしろさまざまなスキルレベルの人材がバランスよく配置されることが求められます。本章では、データ利活用や生成AIの要素を交え、データ利活用人材のレベル定義を行うとともに、各レベルに応じた教育方法を検討します。
基礎レベルのデータ利活用人材は、主にデータを可視化し、レポートやダッシュボードを通じて必要な情報を取得する能力を持っています。取得した情報を基に生成AIを活用して壁打ちを行い、自身の意見を整理して次のアクションに活かすことができます。これにより、感覚的な意思決定からデータに基づいた意思決定へと変化を促します。
応用レベルのデータ利活用人材は、データを基にした考察や企画を主体的に進められる存在です。高度な分析技術を駆使して、仮説に基づいたデータ分析を行い、試行錯誤を通じてインサイトを導き出します。さらに、ビジネス課題解決や業務効率化などの目的に対し、生成AIを活用した施策の提案を行う能力があります。
専門レベルのデータ利活用人材は、AIや機械学習の技術を活用して複雑なビジネス課題の解決に取り組む能力を持っています。生成AIを組み込んだプロダクト開発や、機械学習モデルの設計・実装を通じて、戦略的なデータ利活用を実現します。これにより、組織に対して大きな価値を提供し、競争力を高める役割を果たします。
図表3:ユーザーのデータ利活用レベルごとの要求・教育
データ利活用人材の育成は、企業文化の一環として組織全体に浸透させることが大切です。長期的な目線でデータを利活用する文化を醸成することで、企業全体の意思決定の質が向上し、競争力強化やイノベーションの促進が期待されます。組織全体へのデータ利活用人材育成の浸透を実現するために、中央組織は全体の育成方針を策定し、また効果的な育成をさせるための環境を整える役割を担います。そして各ドメインは中央の全体方針をもとに、多様性に応じた具体的な育成計画に落とし込むことが求められます。
テクノロジーの急速な進歩や事業環境の変化が激しさを増す中で、スピード感を持って対応できる育成方針や教育コンテンツを用意し、次世代の多種多様な技術にしなやかに適応していくことがこれまで以上に求められています。
次回は、「競争優位を築くメッシュアーキテクチャの実践」と題し、中央データ基盤に求められる機能を説明します。
メッシュアーキテクチャ実現に向けたポイントをシステムの観点から考察し、中央データ基盤に求められる機能群ごとに解説します。
メッシュアーキテクチャの導入について、人材育成に焦点を当て、昨今のビジネス環境で求められるデータ利活用人材の役割と教育方法について深掘りします。
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