原油価格下落と石油・天然ガス開発企業によるエネルギー・資源投資戦略

2016-05-31

2014年以降の原油価格急落後、資源関連企業は財務体質改善のために投資の見直しを進めていますが、G7の北九州イニシアティブは、エネルギーの安定供給の観点で投資の削減に懸念を示しています。変革期にある石油・天然ガス関連企業の中長期的な戦略に注目してみましょう。

原油価格の動向とその影響

原油価格は、2000年代に入り上昇し始め、リーマンショック後の一時的な急落もありましたが、100米ドル前後の価格をつけた2014年半ばまで、高水準の価格が続いていました。
しかし、2014年半ば過ぎから急落し始め、2014年末には約50米ドルと2014年半ばから半減し、さらに2016年初めには一時20米ドル台まで下落しました。2000年代に入ってからの原油価格の上昇は、新興国の需要拡大予測とあらたな資源供給の制約に関する予測に基づいたものと考えられます。一方、2014年半ばからの原油価格の下落は、新興国の需要拡大予測の下方修正と、米国でのシェール層からの原油生産の拡大など供給の拡大によるものと考えられます。このような原油価格の激しい上昇と下落の結果、石油・天然ガス開発を行う多くの企業は、最近の決算において、多額の減損損失を計上しています。また、国内の石油関連企業は、期末在庫評価1 に関連して損益が大幅に変動し、多額の営業損失を計上するケースも生じています。

石油・天然ガス開発を行う企業は、原油価格が低迷している経営環境に対応するため、財務体質の改善を進めており、探鉱・開発投資の抑制による現金支出削減や、ポートフォリオ改善のための保有権益の売却などを行っています。

原油価格の下落は、石油関連企業の業績に大きなマイナスの影響を与えていますが、日本経済のようにエネルギー源を海外に依存する経済全体にとって、短期的にはプラスの影響があるといえます。しかし、原油の供給量の維持には探鉱・開発投資が必要であること、探鉱・開発には数年~数十年という長い期間が必要であること、さらに、石油・天然ガス開発を行う多くの企業で探鉱・開発投資が抑制されている現状をふまえると、これらの影響は石油・天然ガス開発企業に留まらず、中長期的には広く一般に及ぶことを考えるべきでしょう。

この中長期的な影響に関連して、G7伊勢志摩首脳宣言およびG7エネルギー大臣会合共同声明が採択されています。また、資源エネルギー庁が公表したエネルギー白書においても、エネルギー安全保障に関する提言がなされています。

G7 北九州イニシアティブ

2016年5月26・27日の日程でG7伊勢志摩サミットが開催されました。また、閣僚会合の一つとして5月1・2日の日程でG7北九州エネルギー大臣会合が行われました。

G7伊勢志摩サミットの首脳宣言2 においては、エネルギー投資を円滑にする上での主導的な役割を果たすことがコミットされるとともに、「グローバル成長を支えるエネルギー安全保障のための北九州イニシアティブ」(北九州イニシアティブ)に対する支持が表明されました。

エネルギー大臣会合共同声明として採択された北九州イニシアティブ3 は、最近のエネルギー価格水準と不安定性がエネルギー対する投資を減退させていることに懸念を示すとともに、エネルギーの安定供給は世界経済の成長を下支えするために重要であり、官民による持続的な上流投資が重要であることを強調しています。また、エネルギー安全保障の一つとして天然ガスの安全保障についても触れ、天然ガスについて需給を反映する価格形成につながる市場の発展が必要であることや、将来の天然ガスの安定供給の確保およびエネルギーの多様化の加速のために、上流投資の円滑化やサプライチェーンの確保が有用であることを指摘しています。

資源エネルギー庁 平成27年度エネルギー白書

5月17日に、平成27年度エネルギー白書が閣議決定されました4 。原油価格の下落とエネルギー安全保障を白書の最初の章で取り扱っています。原油価格下落の要因の分析に加えて、国際エネルギー機関(IEA)などの各種機関による将来の原油価格見通しの比較分析を行い、将来的な価格の上昇見通しが一般的であることを紹介しています。また、将来の価格上昇時における安定的で持続可能な原油の確保に向けての対策が必要であり、そのために、資源確保に必要な探鉱・開発投資に対する政府によるリスクマネーの供給を含めた、さまざまな対策が提言されています。

石油・天然ガス探鉱・開発事業への投資

原油価格の低迷により、石油・天然ガス開発企業の多くは財務体質の改善に注力しており、その結果、探鉱・開発への投資が削減されています。しかし、北九州イニシアティブやエネルギー白書で懸念されているとおり、投資の削減は、将来におけるエネルギーの供給制約と急激な価格の上昇につながるリスクを伴います。エネルギーの安定供給のためには継続的な投資が必要であり、それには、実際に投資・開発を担う石油・天然ガス開発企業による活動が必要になります。

原油価格の下落は、石油・天然ガスの権益を取得する側にとって、大きなチャンスとしても捉えられるため、原油価格低迷期の探鉱・開発投資は、将来業績に大きなインパクトをもたらす可能性があります。その意味で、石油・天然ガス開発業界とそこに属する企業にとって、現在は大きな変革期にあるといえます。冒頭で示したとおり、最近は、石油・天然ガス業界企業が大規模な損失を計上するニュースが目に付きますが、業績に関するニュースに隠れがちな、中長期的な戦略や投資にも注目すべき時期と言えるでしょう。

「エネルギー・資源投資の会計実務」について

石油・天然ガス開発事業への投資はリスクが大きく、多くの点で難しい判断が必要となりますが、関連する会計処理も、他の業界とは異なる独特な論点や複雑な論点が多くあります。例えば、石油・天然ガス開発事業への投資においては、リスク分散などのため複数の当事者によるジョイントベンチャーを組成することが多くあります。複数の当事者によるジョイントベンチャーの場合、契約関係が複雑であることから、取引の経済的な実態を把握し、会計処理に反映することが困難となるケースがあります。

PwCあらた監査法人では、中央経済社から「エネルギー・資源投資の会計実務‐石油・天然ガス開発企業の権益取得から廃鉱まで‐」5 を3月に出版しました。本書は、石油・天然ガス事業の権益取得から探鉱・開発・生産といったビジネスの流れとこれを取り扱う会計処理および財務報告の体系について包括的に取り扱っています。業界に関わる方々にぜひ手にとっていただき、ご参考にしていただければ幸甚です。

 

  1. 石油関連企業の期末在庫評価による損益への影響については、コラム「石油下流業界における在庫評価影響を除いた利益」を参照
  2. G7伊勢志摩サミット公式ホームページ 成果文書
  3. 経済産業省 ニュースリリース(2016年5月2日)
  4. 経済産業省 ニュースリリース(2016年5月17日)
  5. 「エネルギー・資源投資の会計実務‐石油・天然ガス開発企業の権益取得から廃鉱まで‐」のご紹介

PwCあらた監査法人
シニアマネージャー
手塚 大輔

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