
エンタテイメント&メディア業界の日本企業が生き残るための3つの戦略 第8回:PwC Japanグループによる議論の振り返りと考察
PwC運営メンバーが本セミナーを振り返り、エンタテイメント&メディア業界の現状と今後について議論した後日座談会の内容をお届けします。
2021-07-20
PwC Japanグループは、2021年4月23日、メディア関係者の方を対象にパネルディスカッション形式のセミナー「エンタテイメント&メディア業界の日本企業が生き残るための3つの戦略~産学官民の目線で捉えた変化の予兆と今後の展望~」を開催しました。当日は社外からも登壇者をお招きし、産学官民での活発な議論が繰り広げられました。
第5回は、第3回と第4回でご紹介した経済産業省コンテンツ産業課長の高木美香氏、特定非営利活動法人映像産業振興機構(VIPO)専務理事 事務局長 市井 三衛氏と、慶應義塾大学 大学院メディアデザイン研究科 研究科委員長 教授でメディア・スタジオ株式会社 代表取締役の稲蔭正彦氏に参加いただいたパネルディスカッションの様子を引き続きご紹介します。
原田:
それでは、日本のエンタテイメント&メディア企業がビジネスを展開していくなかで捉えておくべき変化の3点目として、「新たな世界を支えるインフラストラクチャ」についてお話を伺いたいと思います。
デジタル化が進展し、社会システムが大きく変わっています。消費者からすれば、今までに考えられなかったほど多量のコンテンツや情報を受け取れるようになりましたが、フェイクニュースがよく問題になるように、それらの全てが事実確認された正しい情報というわけではありません。これは、同じことが企業にも言えるのではないかと考えています。企業がビジネスを展開する中で、今までにないリスクを抱えながらも、それらにうまく対処していかなければならない状況になりつつあるのではないでしょうか。
ここまで、ビジネスを伸ばすという攻めの観点からコメントをいただいてきましたが、ここではこうした守りの観点からゲストの方からご意見を伺います。
市井:
社会に一気にコンテンツが出ていくと、今まで以上にコンテンツの中身が問われます。例えば、宗教の問題や慣習の問題などは、ある国では全く受け入れられない、もしくは非難の対象となってしまうというケースが出てくるのではないかと思います。米国・フロリダで開催されている子ども向けアニメーションの見本市では、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)についてのパネルディスカッションが設けられていましたね。
インフラについては、最初は配信側が力を持つことによって、コンテンツを持っている人たちが不利になるのではと考えられていましたが、配信側も競争がありますので、多少楽観的かもしれませんが、最近は、ある程度フェアな形でもってビジネスをしていけるのではないかと感じています。
原田:
ありがとうございます。アンコンシャスバイアスについては、この業界に関わらず、日本国内を中心にビジネスをしてきた企業にとっても重要であり、海外に出ていったときに何を気にしなければいけないのか、ある行動がどういった反応を起こすのかということについて、とても敏感になっていかなければいけないと考えています。デジタル化が進む中で、物事がよりダイレクトに伝わり、またダイレクトに反応が返ってくるようになっている中で、企業としてはビジネスを広げる一方で、ガバナンスをどうするのかを考えていかなければいけないと思います。
稲蔭:
今の議論をさらに進化させていくと、もはや地球という一つの枠組みの中でものを見るべきだと思うんですね。地球規模で今どういうことが常識となっているのか、価値観がどういう方向でコンセンサスができているのか、ということを深く理解する必要があると思います。
地域性を大切にした音楽作りという話は先ほどしましたが、企業あるいは個人として、グローバル社会において、何を常識として、何を常識としてはいけないのか、ということをきちんと見極めることが今後求められると思います。
英語だと、レスポンシブル(responsible)という言葉をよく使うのですが、まさしく責任ある企業、責任ある個人として、グローバル社会で活動する一員として役割を果たせるだろうかという観点で、私たちは新しい常識を理解し、それに合わせたコンテンツ作りを行わなければならないと思います。それは宗教やジェンダーバイアスなど色々ありますが、特に今議論されているのは、「地球に優しい」「持続可能」ということですね。
高木:
広告におけるアドフラウド(不正行為)という問題もあります。コンテンツがマスメディアからインターネットにシフトして、広告も同じようにシフトしているわけですが、コンテンツ料を支えている広告主側からすると、インターネット上の情報に無料でアクセスできる消費者に対して意図した通りに広告が出せているのかという信憑性の問題があり、今政府でも議論されています。
例えば製造業ですと、企業が部品を納品し、納入先の企業が監査するのが2社監査で、第3者が入ってくると3社監査になります。部品と違って情報は、それが確かなものなのかは受け手には分からないので、第3者を含めた仕組みが必ず必要になってきます。広告を水増ししてはいけません、という規制をかけてもおそらくうまくいかないので、業界ルールだとか、消費者側と視聴者側のリテラシーも必要になってきます。しかも情報が国を越えて流通していくので、そのための仕組みも必要なのかなと思います。
ただ、この業界ではレスポンシビリティと表現の自由の兼ね合いということも含め、難しい点はあると思います。
原田:
ありがとうございました。以上、日本のエンタテイメント&メディア業界において捉えておくべき3つの変化について、ゲストの皆様にコメントをいただきました。
次回は、企業戦略の3つの方向性に関するディスカッションの様子をご紹介します。
PwCあらた有限責任監査法人 テクノロジー・エンターテインメント部(TMT)に所属。公認会計士。
1997年に監査法人入所後、2004年から2006年までPwC米国のボストン事務所に駐在し、現地の米国上場会社(インターネット企業)やソフトウェア開発会社、ベンチャー企業の米国会計基準財務諸表の会計監査業務等に従事。
帰国後、その経験を生かし、インターネットセクター、通信セクターおよびゲーム・レジャーセクターにおける会計監査や会計・内部統制・決算早期化アドバイザリー・サービスにおいて豊富な実績を積む。
約20年にわたりエンタテイメント企業やメディア企業、ハイテク製造業など幅広い業種のクライアントに対し、全社規模の業務改革における構想策定からシステム導入、改革実現による効果創出までさまざまな支援業務に従事。また、アジアを中心に日本企業の海外プロジェクト実行支援も数多く手掛ける。
現在はエンタテイメント・メディア業界のリーダーとして、クライアントに対する全社的なデジタルトランスフォーメーションを支援。
クライアントの課題解決のため、従来のコンサルティングワークに加え、PwC Japanグループの他法人と連携したサービス提供にも注力している。
ITおよびコンサルティング業界の立場から、インターネット事業(BtoC/CtoC)、自動車部品メーカー、工作機械製造、人材サービス、建設資材メーカー、電設資材卸、ハウスメーカー、航空運輸、製薬、総合商社、レース製造などさまざまな事業領域のクライアントに対し、営業、生産、販売、人事、会計、ITなど幅広い業務領域におけるBPRやIT導入を推進した経験と、自社における組織マネジメントや事業運営の経験を活かし、「事業・組織・業務・ITの変革」の構想策定から実行実現までを一貫して支援することを得意とする。
新しいソリューションモデルを考案し、特許出願した上で新規事業の企画から立ち上げをリードした経験も有し、近年はポイント事業やEコマースなどのインターネット事業の統合や資本業務提携などにも注力している。
製造、金融、メディアなどの幅広い業界で、業務改革・組織改革を中心とした各種プロジェクトに従事。業界・ソリューションを問わないオールラウンドなコンサルタントとして活動している。
近年は、メディア/コンテンツ業界について、激動する環境下での事業戦略とその推進のためのマネジメントの在り方に焦点をあてて活動している。
クライアントワーク以外では、PwCグローバルエンタテイメント&メディア アウトルックの日本における中心メンバーとしても活動し、周辺領域を含めた情報発信を行っている。
※法人名、役職は掲載当時のものです。
PwC運営メンバーが本セミナーを振り返り、エンタテイメント&メディア業界の現状と今後について議論した後日座談会の内容をお届けします。
第6回に続いて、エンタテイメント&メディア企業における企業戦略の3つの方向性に関するディスカッションの様子をご紹介します。
日本のエンタテイメント&メディア企業がビジネスを展開していくなかで、捉えておくべき3つの変化についての議論を踏まえ、企業戦略の3つの方向性に関するディスカッションの様子をご紹介します。
第4回に続いて、日本のエンタテイメント&メディア企業がビジネスを展開していくなかで、捉えておくべき3つの変化の3つ目、「新たな世界を支えるインフラストラクチャ」について、ゲストの皆様と議論を深めます。
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