
エンタテイメント&メディア業界の日本企業が生き残るための3つの戦略 第8回:PwC Japanグループによる議論の振り返りと考察
PwC運営メンバーが本セミナーを振り返り、エンタテイメント&メディア業界の現状と今後について議論した後日座談会の内容をお届けします。
2021-06-29
PwC Japanグループは、2021年4月23日、メディア関係者の方を対象にパネルディスカッション形式のセミナー「エンタテイメント&メディア業界の日本企業が生き残るための3つの戦略~産学官民の目線で捉えた変化の予兆と今後の展望~」を開催しました。当日は社外からも登壇者をお招きし、産学官民での活発な議論が繰り広げられました。
第3回では、第2回でご紹介した経済産業省コンテンツ産業課長の高木美香氏に加え、特定非営利活動法人映像産業振興機構(VIPO)専務理事 事務局長 市井三衛氏、慶應義塾大学 大学院メディアデザイン研究科 研究科委員長 教授で、メディア・スタジオ株式会社 代表取締役の稲蔭 正彦氏にご参加いただき、パネルディスカッション形式で議論を深めた様子をご紹介いたします。
市井 三衛 氏
特定非営利活動法人映像産業振興機構(VIPO)専務理事 事務局長
慶應義塾大学経済学部及び米国ピッツバーグ大学経営大学院(MBA)卒業。
日本企業及び外資系企業の日本法人数社(ワーナーミュージック・ジャパンも含め)に勤務後、EMIミュージック・ジャパン(現、ユニバーサルミュージック・ジャパン)代表取締役社長兼CEOに就任し、その間、数社の社外取締役と日本レコード協会副会長を兼任。
2013年に映像産業振興機構ジャパン・コンテンツ海外展開事務局(J-LOP事務局)事務局長に就任し、2017年6月から現職。
現在、デール・カーネギー認定トレーナーでもあり、趣味はテニスと剣道(5段)。
稲蔭 正彦 氏
慶應義塾大学 大学院メディアデザイン研究科 研究科委員長 教授
メディア・スタジオ株式会社 代表取締役
コンテンツ、サービス、地域開発の分野で、プロデューサー、クリエイティブ・ディレクター、戦略コンサルタントとして活動。
近未来社会を描くメソッド「ドリームドリブンデザイン」を提唱し、アート、デザイン、エンタテイメントに溢れるワクワクする近未来社会に向けたイノベーション創出を目指している。
国内外の企業や研究所の経営や運営にも参画。
原田:
日本のエンタテイメント&メディア企業がビジネスを展開していくなかで、捉えておくべき3つの変化をご紹介しますので、それらについてゲストの方にご意見を伺いたいと思います。
まず1つ目の変化は「メディア/コンテンツにおけるバリューチェーンの変容」です。(経済産業省コンテンツ産業課長の)高木様から、メディアの時代からコンテンツの時代に移っているというご意見をいただきましたが、消費者とメディア/コンテンツの関係も変わってきていると考えています。
例えば、消費者はコンテンツを消費するだけではなく、自ら作り出して発信する役割も担う時代になってきたのではないでしょうか。
そのような中で企業がビジネスを進めていくにあたり、消費者とメディア/コンテンツの関係をどう位置づけていくのか、また何に気をつけなければいけないのかといった点について、どのようにお考えでしょうか。
市井:
まずメディアと知的財産(IP)の関係の変化ですが、メディアの特徴に合わせてコンテンツの作り方と出し方に加え、プロモーションのやり方が大きく変わると思います。どれとどれをどのように組み合わせるかということが、これからコンテンツを出す際のとても重要なポイントになってくると考えます。
例えば音楽。10年ほど前であれば、曲を作ってテレビなどの電波媒体に露出し、雑誌など紙媒体でも露出し、そしてライブコンサートを催して、CD商品をどのタイミングで売るかを考えるというような、比較的分かりやすいパターンでやっていました。ところが、今はプロモーションのやり方も掛け算にすると無数にパターンがあって、どのような形にしたらいいのかを深く考えなければいけません。これは大変ではありますが、とても面白いと思うんですね。
もう1つがファンコミュニティとの関係性です。当たり前ながらファンコミュニティとの関係性はものすごく重要です、というのは変わりません。
前職の音楽会社でK-POPのアーティストと契約をしていたのですが、彼らは韓国以外、例えば、日本や米国で活動しており、それぞれの国のファンがプロモーションを競っているんですね。どちらの国の方が売れるかというような競い方です。ファンが応援していくというのは今も昔も変わらないと思います。
変わってきているのは、アーティストが昔よりはるかに世界中のファンに一気にアクセスできるようになったことです。1つの例として、ある日本のアーティストで、世界でとても売れていて人気をキープしている方は、常に世界中のファンとコミュニケーションしていると聞いています。例えば、地震があった地域のファンに「地震があったけど大丈夫?」という発信をしているということです。
もう1つ重要なのは、ソーシャルメディアをはじめ、アーティストが直接ファンと双方向のコミュニケーションを取れるようになったことです。従来のマスメディアでは、消費者と直接コミュニケーションを取ることができませんでしたが、動画配信サービス事業者は消費者と直接コミュニケーションをとることができます。一方、コンテンツを提供しているIPホルダーは今までと同様に消費者に直接アクセスできません。IPホルダーはこれを今後どうするのか。この点がすごく重要になってくるのではないかと考えます。
稲蔭:
私は今、大学院で学生たちと新しいコンテンツはどうあるべきか、新しく人々をワクワクドキドキさせるような場をどのように作るのか、といった研究をしています。ファン/消費者側とコンテンツを作るクリエーター側の関係性がオーバーラップしてきていて、ファン、すなわち消費する人たちも作り手になり、作り手と一緒になって作っていくというコ・クリエーション(Co-Creation:共創)がこれからもっと盛んになっていくと思います。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延下でも、米国の有名なミュージシャンがファンと一緒に作詞をしたということも聞きます。そういった活動が音楽、映像だけでなくさまざまな形で、この二者がコ・クリエーションするような世界が生まれ始めています。その意味においても、ファンコミュニティがコンテンツ、メディアにおいては大切なのだと思います。
原田:
お二方からコメントをいただいた通り、ファンコミュニティの重要性がとても増しているということですね。それはコンテンツを消費する側のファンコミュニティとしてだけではなくて、一方で、一緒に作っていく側にもなるかもしれません。そのような役割の変化があることも捉えながらビジネスを考えていく必要があると理解しました。ありがとうございました。
パネルディスカッションの様子は引き続き、第4回でご紹介します。
PwCあらた有限責任監査法人 テクノロジー・エンターテインメント部(TMT)に所属。公認会計士。
1997年に監査法人入所後、2004年から2006年までPwC米国のボストン事務所に駐在し、現地の米国上場会社(インターネット企業)やソフトウェア開発会社、ベンチャー企業の米国会計基準財務諸表の会計監査業務等に従事。
帰国後、その経験を生かし、インターネットセクター、通信セクターおよびゲーム・レジャーセクターにおける会計監査や会計・内部統制・決算早期化アドバイザリー・サービスにおいて豊富な実績を積む。
約20年にわたりエンタテイメント企業やメディア企業、ハイテク製造業など幅広い業種のクライアントに対し、全社規模の業務改革における構想策定からシステム導入、改革実現による効果創出までさまざまな支援業務に従事。また、アジアを中心に日本企業の海外プロジェクト実行支援も数多く手掛ける。
現在はエンタテイメント・メディア業界のリーダーとして、クライアントに対する全社的なデジタルトランスフォーメーションを支援。
クライアントの課題解決のため、従来のコンサルティングワークに加え、PwC Japanグループの他法人と連携したサービス提供にも注力している。
ITおよびコンサルティング業界の立場から、インターネット事業(BtoC/CtoC)、自動車部品メーカー、工作機械製造、人材サービス、建設資材メーカー、電設資材卸、ハウスメーカー、航空運輸、製薬、総合商社、レース製造などさまざまな事業領域のクライアントに対し、営業、生産、販売、人事、会計、ITなど幅広い業務領域におけるBPRやIT導入を推進した経験と、自社における組織マネジメントや事業運営の経験を活かし、「事業・組織・業務・ITの変革」の構想策定から実行実現までを一貫して支援することを得意とする。
新しいソリューションモデルを考案し、特許出願した上で新規事業の企画から立ち上げをリードした経験も有し、近年はポイント事業やEコマースなどのインターネット事業の統合や資本業務提携などにも注力している。
製造、金融、メディアなどの幅広い業界で、業務改革・組織改革を中心とした各種プロジェクトに従事。業界・ソリューションを問わないオールラウンドなコンサルタントとして活動している。
近年は、メディア/コンテンツ業界について、激動する環境下での事業戦略とその推進のためのマネジメントの在り方に焦点をあてて活動している。
クライアントワーク以外では、PwCグローバルエンタテイメント&メディア アウトルックの日本における中心メンバーとしても活動し、周辺領域を含めた情報発信を行っている。
※法人名、役職は掲載当時のものです。
PwC運営メンバーが本セミナーを振り返り、エンタテイメント&メディア業界の現状と今後について議論した後日座談会の内容をお届けします。
第6回に続いて、エンタテイメント&メディア企業における企業戦略の3つの方向性に関するディスカッションの様子をご紹介します。
日本のエンタテイメント&メディア企業がビジネスを展開していくなかで、捉えておくべき3つの変化についての議論を踏まえ、企業戦略の3つの方向性に関するディスカッションの様子をご紹介します。
第4回に続いて、日本のエンタテイメント&メディア企業がビジネスを展開していくなかで、捉えておくべき3つの変化の3つ目、「新たな世界を支えるインフラストラクチャ」について、ゲストの皆様と議論を深めます。
消費デバイスや消費形態の多様化が進むコンテンツ業界でビジネスモデルの変革が求められる中、権利処理業務の煩雑さが課題となっています。テクノロジーを活用して業務量を合理化し、コンテンツ流通のボトルネックを解消する鍵を解説します。
持続的な成長を遂げる上では、新たな価値創造が求められています。異なるユーザーグループをつなぎ、新たな価値を生み出してきたプラットフォームビジネスは、有効なビジネスモデルとして今後も時代に合わせた展開ができると考えられます。
近年のエンタテイメント&メディア(E&M)業界は不可逆的な環境変化により、さまざまな課題に直面しています。PwCコンサルティングでは、5つの重要テーマに焦点を当てたE&Mインダストリー・トランスフォーメーション・アジェンダを提唱しています。
PwCコンサルティングは、テレコム業界内のクライアントを業界横断で支援する専門チームを組織し、事業内容や事業モデルの変革を支援しています。「ヘルスケア・ライフスタイル」領域のプロフェッショナルと共に、テレコムとの掛け合わせが生み出す未来について語りました。