
エンタテイメント&メディア業界の日本企業が生き残るための3つの戦略 第8回:PwC Japanグループによる議論の振り返りと考察
PwC運営メンバーが本セミナーを振り返り、エンタテイメント&メディア業界の現状と今後について議論した後日座談会の内容をお届けします。
2021-06-18
PwC Japanグループでは、2021年4月23日に、メディア関係者の方を対象にパネルディスカッション形式のセミナー「エンタテイメント&メディア業界の日本企業が生き残るための3つの戦略~産学官民の目線で捉えた変化の予兆と今後の展望~」を開催しました。当日は外部からも登壇者をお招きし、産学官民での活発な議論が繰り広げられました(PwC Japanグループからの登壇者情報などは第1回をご確認ください)。
当日の様子を振り返る連載の第2回は、第1回でご紹介したPwC Japanグループ エンタテイメント&メディア リードパートナーの千代田義央と、経済産業省コンテンツ産業課長の高木美香氏の対談をご紹介します。
高木 美香 氏
経済産業省 コンテンツ産業課長
2002年に経済産業省入省。2008年から2012年にかけて、「クール・ジャパン」の海外発信や、コンテンツ・デザイン・ファッションに代表される「クリエイティブ産業」育成施策の立ち上げおよび推進に携わる。
その後は、新興国向けの通商政策や国際標準化政策等の「国際ルール形成」施策を担当し、2018年から現職。創造性を活かした新しい未来づくりがライフワーク。
東京大学経済学部、スタンフォード大学MBA/MA in Education卒。
千代田:
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により消費者の行動パターンに変化が生じ、エンタテイメント&メディア企業においてもデジタルシフトが強く促されたと感じます。国内においてこのトレンドは今後どのように進展するのか、また、国内企業はこの領域でどういった対応が求められていくのか、見解を伺えますでしょうか。
高木:
2020年の日本のメディア×コンテンツ市場のレポートがちょうど手元に届きまして、先ほど見ておりました。映像や音楽の市場規模が2桁のマイナスで、これは映画や音楽コンサートといったライブエンターテイメントの不振が大きく影響していると思います。一方でゲームは8%のプラスです。ジャンルに関わらずオンラインによるコンテンツ配信が13%伸びているということで、自分の実感を伴う納得のいく数字でした。やはりこの数字が示しているようにオンラインシフトはかなり進んでいると考えられます。
経済産業省コンテンツ産業課ではこれらのジャンルを、全てコンテンツ産業の振興としてカバーしております。足元1年はライブエンターテイメント、いわゆるチケットを買って、実際に参加するようなイベントは市場規模が8割減となっています。一方でオンラインのライブ配信市場は日本でも急速な成長を見せており、元々市場がほぼなかったものが数百億円規模の市場になっているような状況です。
皆さんがオンラインでライブやセミナーを開催するようになると、今度は時間の奪い合うような状況が生じます。例えば音楽。人気のあるアーティストが全て奪っていってしまうというようなことが発生し、そうではないアーティストとの格差がかえって開くというような話も耳にします。
ただ一方で、メジャーもインディーズも関係なく、世界中のアーティストが興行をできず、実際のライブができなくなっているため、世界の競争状況はフラットになっていると言えます。日本にとってはチャンスでもあります。音楽ライブのみならず、活動を止めないできちんと続けていくことがとても重要だと思っています。特に視聴者がお金を払う割合が増えたということは、大きな鍵だと考えております。そこにクリエーター側、アーティスト側にとって多くのチャンスがあるのかなと思っています。
千代田:
ありがとうございます。続いて、エンタテイメント&メディア企業の動向についての質問です。世界の革新的なエンタテイメント&メディア企業は消費者の嗜好に合わせて新たなアプローチを見極め、導入しています(図表1)。これに対し、国内エンタテイメント&メディア企業の昨今の動きについてお気付きの点がありましたら、教えていただけますでしょうか。
図表1:消費者の嗜好に合わせた新たなアプローチ
高木:
「企業は広告から定額制サービスにシフト」しているとのことですが、これはコンテンツに限らず、さまざまな業種で取り入れられていると思います。動画のサブスクリプションは世界で3つか4つの大きなプラットフォーマーが出てきていますが、全部に加入する人は少なく、競争が始まっていると聞きます。ただ、それが1つに収まっていくかというと、そうでもないようです。スイッチングコストが低いため、観たいコンテンツがあるサービスに加入し、他のサービスからは脱退するというケースが散見されるように、企業はコンテンツを囲い込めるかという勝負になってくるかと思います。日本のエンタテイメント&メディア業界としてはいいコンテンツをどこに提供していくか、その交渉力をどう持っておくかということが重要なのではないかと考えています。
千代田:
ありがとうございます。どれだけ強力なコンテンツ、知的財産(IP)を持っているかが重要であるということかなと思います。続いて3つ目の質問です。技術とインフラが新たなデジタルシフトを促進するドライバーになると考えています(図表2)が、国内における今後の課題について、見解を教えてください。
図表2:技術とインフラが開く成長への道
高木:
5G(第5世代移動通信システム)やAI(人工知能)は日本も海外も技術導入がどんどん進んでいくと考えています。私どもコンテンツ産業課の職員は、エンタテイメント&メディア業界の方々とお話しする際、「メディアの時代からコンテンツの時代になったよね」ということをいつも言っております。視聴者はコンテンツドリブンでスマートフォンが1台あれば、あらゆるジャンルのコンテンツをいつでもどこでも視聴できるようになりましたし、企業側も特定のメディアあるいはデバイスに依存しなくて良くなりました。
例えば、AIスピーカーもそうですけど、あらゆるものがメディアになり、あらゆるものがコンテンツになっています。スマートフォンというデバイスもそういう意味では制約があり、このスマホを手に持って、スマホを見ている時間しか使えません。しかし、その間に耳は使えるので、人々のスペースあるいは時間にさまざまなコンテンツが入り込むようになっていると思っています。
また、このコロナ禍を契機に仮想空間の利用が進んだと思います。そこは今後さまざまな可能性が考えられると同時に、例えば、仮想空間で作ったものに著作権は発生するのか、結婚式や政治デモをやった場合にそれは現実空間でどういう意味を持つのかなど、制度的なことも含めて、さまざまな課題が今後出てくるかなと考えられます。
次回は、高木氏に加え、特定非営利活動法人映像産業振興機構(VIPO) 専務理事 事務局長 市井三衛氏、慶應義塾大学 大学院メディアデザイン研究科 研究科委員長 教授で、メディア・スタジオ株式会社 代表取締役の稲蔭 正彦氏にご参加いただき、パネルディスカッション形式で議論を深めた様子をご紹介いたします。
PwCあらた有限責任監査法人 テクノロジー・エンターテインメント部(TMT)に所属。公認会計士。
1997年に監査法人入所後、2004年から2006年までPwC米国のボストン事務所に駐在し、現地の米国上場会社(インターネット企業)やソフトウェア開発会社、ベンチャー企業の米国会計基準財務諸表の会計監査業務等に従事。
帰国後、その経験を生かし、インターネットセクター、通信セクターおよびゲーム・レジャーセクターにおける会計監査や会計・内部統制・決算早期化アドバイザリー・サービスにおいて豊富な実績を積む。
約20年にわたりエンタテイメント企業やメディア企業、ハイテク製造業など幅広い業種のクライアントに対し、全社規模の業務改革における構想策定からシステム導入、改革実現による効果創出までさまざまな支援業務に従事。また、アジアを中心に日本企業の海外プロジェクト実行支援も数多く手掛ける。
現在はエンタテイメント・メディア業界のリーダーとして、クライアントに対する全社的なデジタルトランスフォーメーションを支援。
クライアントの課題解決のため、従来のコンサルティングワークに加え、PwC Japanグループの他法人と連携したサービス提供にも注力している。
ITおよびコンサルティング業界の立場から、インターネット事業(BtoC/CtoC)、自動車部品メーカー、工作機械製造、人材サービス、建設資材メーカー、電設資材卸、ハウスメーカー、航空運輸、製薬、総合商社、レース製造などさまざまな事業領域のクライアントに対し、営業、生産、販売、人事、会計、ITなど幅広い業務領域におけるBPRやIT導入を推進した経験と、自社における組織マネジメントや事業運営の経験を活かし、「事業・組織・業務・ITの変革」の構想策定から実行実現までを一貫して支援することを得意とする。
新しいソリューションモデルを考案し、特許出願した上で新規事業の企画から立ち上げをリードした経験も有し、近年はポイント事業やEコマースなどのインターネット事業の統合や資本業務提携などにも注力している。
製造、金融、メディアなどの幅広い業界で、業務改革・組織改革を中心とした各種プロジェクトに従事。業界・ソリューションを問わないオールラウンドなコンサルタントとして活動している。
近年は、メディア/コンテンツ業界について、激動する環境下での事業戦略とその推進のためのマネジメントの在り方に焦点をあてて活動している。
クライアントワーク以外では、PwCグローバルエンタテイメント&メディア アウトルックの日本における中心メンバーとしても活動し、周辺領域を含めた情報発信を行っている。
※法人名、役職は掲載当時のものです。
PwC運営メンバーが本セミナーを振り返り、エンタテイメント&メディア業界の現状と今後について議論した後日座談会の内容をお届けします。
第6回に続いて、エンタテイメント&メディア企業における企業戦略の3つの方向性に関するディスカッションの様子をご紹介します。
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