
エンタテイメント&メディア業界の日本企業が生き残るための3つの戦略 第8回:PwC Japanグループによる議論の振り返りと考察
PwC運営メンバーが本セミナーを振り返り、エンタテイメント&メディア業界の現状と今後について議論した後日座談会の内容をお届けします。
2021-06-08
PwC Japanグループは2021年4月23日、メディア関係者の方を対象に、パネルディスカッション形式のセミナー「エンタテイメント&メディア業界の日本企業が生き残るための3つの戦略~産学官民の目線で捉えた変化の予兆と今後の展望~」を開催しました。当日は社外からも登壇者をお招きし、産学官民での活発な議論が繰り広げられました。これから数回の連載で当日の様子をご紹介します。
PwC Japanグループからは以下のメンバーが登壇しました。
PwC Japanグループ エンタテイメント&メディアインダストリー リードパートナー
PwCあらた有限責任監査法人 パートナー
千代田 義央
PwCコンサルティング合同会社 エンタテイメント&メディアセクター リードパートナー
原田 雄輔
PwCコンサルティング合同会社 エンタテイメント&メディアセクター マネージャー
谷口 大輔
(左から)千代田、原田、谷口
本イベントの内容は、PwCが発行するレポート「グローバル エンタテイメント&メディア アウトルック」をもとに構成しました。
「グローバル エンタテイメント&メディア アウトルック」は、消費者および広告主がどのように時間とお金を消費しているかに関するオンラインデータソースで、53の国と地域におけるエンタテイメント&メディア業界の14のセグメントについて、それぞれ過去5年間の実績と今後5年間の予測データ、およびその動向についての定性的な情報を提供しています。
毎年、データがリリースされると、これをもとにグローバルでPwCの専門家が協力してレポートを作成しています。レポートではその年の特徴的なトレンドをハイライトしており、2018年は「業界を超えた融合の加速」、2019年は「パーソナライゼーション」、そして今回は「COVID-19により前倒しで訪れつつある新たな世界」をメインテーマとして取り上げました。
※グローバル エンタテイメント&メディア アウトルック2020‐2024はこちら
PwC Japanグループ エンタテイメント&メディア リードパートナーの千代田義央による、グローバルと日本のエンタテイメント&メディア業界動向の解説は以下です。
PwCでは、2020年度のエンタテイメント&メディア(E&M)の収益は前年比で5.6%減少と見ていますが、2021年度においては2019年度の水準以上に回復すると考えています(図表1)。ライブなどの興行が9割中止となったと言われている中で意外と思われるかもしれませんが、E&M業界にはコロナ禍においても期待以上の収益を上げているセグメントがあり、そちらについては後ほど触れていきます。
図表1:世界のエンタテイメント&メディア業界の総収益と年平均成長率(2015年~2024年)
このような環境において、PwCでは2020年のメインテーマを「前倒しで訪れる新たな世界」としているとおり、以前より対応しなければいけなかった変革をコロナ禍が想定以上の速さで促進した、と考えています。緊急事態宣言など人流を減少させる要請が、今後数年間かけて起こるであろうと予想されていたデジタルディスラプションを前倒しでもたらしたということです。
また注目すべき点として、消費者支出が広告を上回ることが挙げられます。コロナ前までは常に広告支出が消費者支出を上回っていましたが、2020年度においては広告支出が大きく減少しましたので、これが逆転しました。これはE&M企業にとって、人を広告主やそのプロダクトに注目させるということのみならず、体験やコンテンツを消費者に直接提供するような事業展開がより求められてくることを意味すると言えます。
図表2は、E&M業界の収益をデジタルと非デジタルの分類で示したものですが、デジタルの割合が急増していることが分かります。
図表2:世界のエンタテイメント&メディア業界の総収益、デジタル vs. 非デジタル(2015年~2024年)
E&M業界の成長は日本においてはセグメントにより凸凹がありますが、2024年までの年平均成長率は1.1%と見込まれます(図表3)。全体としてはグローバルの2.8%に比べて低い予想になっていますが、VRやOTT(オーバー・ザ・トップ)動画においてはグローバルより高くなると考えられます。映画については日本のマイナス率はグローバルに比べ小さくなっていますが、これには一部ヒット作に恵まれたことが影響しています。
またサイズは大きくないですが、VRが今後著しい成長を遂げ、次いでOTTビデオ、ビデオゲームとeスポーツも高い成長率を示すと予測しています。
図表3:日本とグローバルのセグメント毎の年平均成長率(2019年~2024年)
E&M企業はこの時期に成長を確保すべく消費者の嗜好に合わせた新たなアプローチを導入していくことになるでしょう。
新たなアプローチは大きくは3つあります。1つ目は「広告から定額制のサービスへのシフト」、2つ目は「デジタルイベントの新たな機会」、そして3つ目は「データの急増」です。
また、技術とインフラが成長への道を広げると言えます。5Gの促進、スマートスピーカーをはじめとする家庭におけるAIの導入、さらにはVR、ARといった仮想化世界の発展などがさらなる成長のドライバーになると考えられます。
次回は、日本のエンタテイメント&メディア業界について、経済産業省コンテンツ産業課長の高木美香氏との対談の様子をご紹介いたします。
PwCあらた有限責任監査法人 テクノロジー・エンターテインメント部(TMT)に所属。公認会計士。
1997年に監査法人入所後、2004年から2006年までPwC米国のボストン事務所に駐在し、現地の米国上場会社(インターネット企業)やソフトウェア開発会社、ベンチャー企業の米国会計基準財務諸表の会計監査業務等に従事。
帰国後、その経験を生かし、インターネットセクター、通信セクターおよびゲーム・レジャーセクターにおける会計監査や会計・内部統制・決算早期化アドバイザリー・サービスにおいて豊富な実績を積む。
約20年にわたりエンタテイメント企業やメディア企業、ハイテク製造業など幅広い業種のクライアントに対し、全社規模の業務改革における構想策定からシステム導入、改革実現による効果創出までさまざまな支援業務に従事。また、アジアを中心に日本企業の海外プロジェクト実行支援も数多く手掛ける。
現在はエンタテイメント・メディア業界のリーダーとして、クライアントに対する全社的なデジタルトランスフォーメーションを支援。
クライアントの課題解決のため、従来のコンサルティングワークに加え、PwC Japanグループの他法人と連携したサービス提供にも注力している。
ITおよびコンサルティング業界の立場から、インターネット事業(BtoC/CtoC)、自動車部品メーカー、工作機械製造、人材サービス、建設資材メーカー、電設資材卸、ハウスメーカー、航空運輸、製薬、総合商社、レース製造などさまざまな事業領域のクライアントに対し、営業、生産、販売、人事、会計、ITなど幅広い業務領域におけるBPRやIT導入を推進した経験と、自社における組織マネジメントや事業運営の経験を活かし、「事業・組織・業務・ITの変革」の構想策定から実行実現までを一貫して支援することを得意とする。
新しいソリューションモデルを考案し、特許出願した上で新規事業の企画から立ち上げをリードした経験も有し、近年はポイント事業やEコマースなどのインターネット事業の統合や資本業務提携などにも注力している。
製造、金融、メディアなどの幅広い業界で、業務改革・組織改革を中心とした各種プロジェクトに従事。業界・ソリューションを問わないオールラウンドなコンサルタントとして活動している。
近年は、メディア/コンテンツ業界について、激動する環境下での事業戦略とその推進のためのマネジメントの在り方に焦点をあてて活動している。
クライアントワーク以外では、PwCグローバルエンタテイメント&メディア アウトルックの日本における中心メンバーとしても活動し、周辺領域を含めた情報発信を行っている。
※法人名、役職は掲載当時のものです。
PwC運営メンバーが本セミナーを振り返り、エンタテイメント&メディア業界の現状と今後について議論した後日座談会の内容をお届けします。
第6回に続いて、エンタテイメント&メディア企業における企業戦略の3つの方向性に関するディスカッションの様子をご紹介します。
日本のエンタテイメント&メディア企業がビジネスを展開していくなかで、捉えておくべき3つの変化についての議論を踏まえ、企業戦略の3つの方向性に関するディスカッションの様子をご紹介します。
第4回に続いて、日本のエンタテイメント&メディア企業がビジネスを展開していくなかで、捉えておくべき3つの変化の3つ目、「新たな世界を支えるインフラストラクチャ」について、ゲストの皆様と議論を深めます。
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PwCコンサルティングは、テレコム業界内のクライアントを業界横断で支援する専門チームを組織し、事業内容や事業モデルの変革を支援しています。「ヘルスケア・ライフスタイル」領域のプロフェッショナルと共に、テレコムとの掛け合わせが生み出す未来について語りました。