
エンタテイメント&メディア業界の日本企業が生き残るための3つの戦略 第8回:PwC Japanグループによる議論の振り返りと考察
PwC運営メンバーが本セミナーを振り返り、エンタテイメント&メディア業界の現状と今後について議論した後日座談会の内容をお届けします。
2021-07-30
PwC Japanグループは、2021年4月23日、メディア関係者の方を対象にパネルディスカッション形式のセミナー「エンタテイメント&メディア業界の日本企業が生き残るための3つの戦略~産学官民の目線で捉えた変化の予兆と今後の展望~」を開催しました。当日は社外からも登壇者をお招きし、産学官民での活発な議論が繰り広げられました。
第6回は、経済産業省コンテンツ産業課長の高木美香氏、特定非営利活動法人映像産業振興機構(VIPO)専務理事 事務局長 市井三衛氏と、慶應義塾大学 大学院メディアデザイン研究科 研究科委員長 教授でメディア・スタジオ株式会社 代表取締役の稲蔭正彦氏が企業戦略の3つの方向性についてディスカッションを行った様子をご紹介します。
原田:
これまで皆さまからお話しいただいた通り、グローバルという観点や、コンテンツとメディアとの関係性、また消費者がどういった役割を果たしていくのかといった観点からみても、ビジネス環境は大きく変化していると考えられます。その中で、日本企業が今後取るべき戦略の3つの大きな方向性を次のように示しました。
1つ目が「規模拡大型」です。すなわち、自社が持っている知的財産(IP)や強みを生かし、自ら生き残る主体となるべく規模を拡大していく方向性です。マーケットとして海外を狙っていくことや、企業買収により規模を拡大していくことも考えられます。
2つ目は「連合型/エコシステム型」です。今日では、デジタル領域において大きなプラットフォーマーがいくつも存在しています。このプラットフォーマーをうまく活用することで、グローバルにコンテンツをうまく流していくことができるかと思います。プラットフォーマーのエコシステムの中で、完全に飲み込まれてしまわないように注意する必要はありますが、自らの強みを生かした立ち位置を確保し、プラットフォーマーをうまく使いながら成長するという方向性です。
3つ目は「コレクティブ・インパクト・アプローチ型」です。「連合型/エコシステム型」との違いは、大きなプラットフォーマーのエコシステムの中に生きるのではなく、自分の強みを展開するにあたって協業し得る相手を見つけ、お互いに協力しあいながら、それぞれの企業が持つ強みを連携させて、ビジネスを展開していく方向性です。
これら以外の方向性もあるかもしれませんが、今回はこの3つの方向性について、ゲストの皆さまからご意見を伺いたいと思います。
市井:
コンテンツ業界で見た場合、例外もありますが、1つ目の「規模拡大型」は基本的にはゲーム業界が多いと思います。その他は、ほとんどこの2つ目の「連合型/エコシステム型」に入ると思います。アニメ業界は企業の規模が小さいので、自分たちが好きなものを作って、こういったビジネスエコシステムを利用して世界に出していくという形になるのかなと思います。
3つ目の「コレクティブ・インパクト・アプローチ型」は、事業全部ではなくてコンテンツベースとなりますが、製作委員会方式に近い形なのかなと思います。製作委員会方式は、各方面の了承を得られないと物事を決められないなど、機動性に劣るという難点がありますが、さまざまなプロフェッショナルが集まるのが特長なので、世界を意識したコレクティブ・インパクト・アプローチができれば世界進出しやすくなるのではないかと思います。海外の企業が入ると日本の企業もグローバルスタンダードに合わせざるを得なくなるので、そこで私たちが一歩踏み出すきっかけになったらいいなという希望も感じますね。また、グローバルスタンダードという観点では、海外の事業者が日本に進出して来ていますので、内から変わるというよりは外から変わるというような形もあるなと感じます。
この3つの方向性は、それぞれ良い点と悪い点があると思いますが、自分たちのステージに合わせて実施することを考えると、日本では「連合型/エコシステム型」が多いのだろうと思います。「コレクティブ・インパクト・アプローチ型」を実施できるようになったら、より海外に進出できるようになっていくのではと感じました。
千代田:
ありがとうございます。「規模拡大型」はそれなりの規模感の決算数値がないとできないというところもありますね。「連合型/エコシステム型」は、日本のアニメのようにコンテンツに独自性があって、作り手自身がやりたいことをやるような局面では大きなプラットフォーマーのベースに乗っていくということもあるとの示唆をいただいたのかなと思いました。「コレクティブ・インパクト・アプローチ型」に関しては、おっしゃる通り製作委員会というのは、法制度の面もあるとは思うので一概に言えないかもしれないですが、国境を打ち破ってどう流通させていくか、どう広めていくか、どう制作していくかというようなところを日本企業がクリアできたら、コンテンツを売るというところがより広がっていくのかなと感じました。
次回も引き続き、企業戦略の3つの方向性についてのディスカッションの様子をご紹介します。
PwCあらた有限責任監査法人 テクノロジー・エンターテインメント部(TMT)に所属。公認会計士。
1997年に監査法人入所後、2004年から2006年までPwC米国のボストン事務所に駐在し、現地の米国上場会社(インターネット企業)やソフトウェア開発会社、ベンチャー企業の米国会計基準財務諸表の会計監査業務等に従事。
帰国後、その経験を生かし、インターネットセクター、通信セクターおよびゲーム・レジャーセクターにおける会計監査や会計・内部統制・決算早期化アドバイザリー・サービスにおいて豊富な実績を積む。
約20年にわたりエンタテイメント企業やメディア企業、ハイテク製造業など幅広い業種のクライアントに対し、全社規模の業務改革における構想策定からシステム導入、改革実現による効果創出までさまざまな支援業務に従事。また、アジアを中心に日本企業の海外プロジェクト実行支援も数多く手掛ける。
現在はエンタテイメント・メディア業界のリーダーとして、クライアントに対する全社的なデジタルトランスフォーメーションを支援。
クライアントの課題解決のため、従来のコンサルティングワークに加え、PwC Japanグループの他法人と連携したサービス提供にも注力している。
ITおよびコンサルティング業界の立場から、インターネット事業(BtoC/CtoC)、自動車部品メーカー、工作機械製造、人材サービス、建設資材メーカー、電設資材卸、ハウスメーカー、航空運輸、製薬、総合商社、レース製造などさまざまな事業領域のクライアントに対し、営業、生産、販売、人事、会計、ITなど幅広い業務領域におけるBPRやIT導入を推進した経験と、自社における組織マネジメントや事業運営の経験を活かし、「事業・組織・業務・ITの変革」の構想策定から実行実現までを一貫して支援することを得意とする。
新しいソリューションモデルを考案し、特許出願した上で新規事業の企画から立ち上げをリードした経験も有し、近年はポイント事業やEコマースなどのインターネット事業の統合や資本業務提携などにも注力している。
製造、金融、メディアなどの幅広い業界で、業務改革・組織改革を中心とした各種プロジェクトに従事。業界・ソリューションを問わないオールラウンドなコンサルタントとして活動している。
近年は、メディア/コンテンツ業界について、激動する環境下での事業戦略とその推進のためのマネジメントの在り方に焦点をあてて活動している。
クライアントワーク以外では、PwCグローバルエンタテイメント&メディア アウトルックの日本における中心メンバーとしても活動し、周辺領域を含めた情報発信を行っている。
※法人名、役職は掲載当時のものです。
PwC運営メンバーが本セミナーを振り返り、エンタテイメント&メディア業界の現状と今後について議論した後日座談会の内容をお届けします。
第6回に続いて、エンタテイメント&メディア企業における企業戦略の3つの方向性に関するディスカッションの様子をご紹介します。
日本のエンタテイメント&メディア企業がビジネスを展開していくなかで、捉えておくべき3つの変化についての議論を踏まえ、企業戦略の3つの方向性に関するディスカッションの様子をご紹介します。
第4回に続いて、日本のエンタテイメント&メディア企業がビジネスを展開していくなかで、捉えておくべき3つの変化の3つ目、「新たな世界を支えるインフラストラクチャ」について、ゲストの皆様と議論を深めます。
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PwCコンサルティングは、テレコム業界内のクライアントを業界横断で支援する専門チームを組織し、事業内容や事業モデルの変革を支援しています。「ヘルスケア・ライフスタイル」領域のプロフェッショナルと共に、テレコムとの掛け合わせが生み出す未来について語りました。