
エンタテイメント&メディア業界の日本企業が生き残るための3つの戦略 第8回:PwC Japanグループによる議論の振り返りと考察
PwC運営メンバーが本セミナーを振り返り、エンタテイメント&メディア業界の現状と今後について議論した後日座談会の内容をお届けします。
2021-08-23
PwC Japanグループは、2021年4月23日、メディア関係者の方を対象にパネルディスカッション形式のセミナー「エンタテイメント&メディア業界の日本企業が生き残るための3つの戦略~産学官民の目線で捉えた変化の予兆と今後の展望~」を開催しました。当日は社外からも登壇者をお招きし、産学官民での活発な議論が繰り広げられました。
セミナーの様子を紹介するシリーズの最終回は、PwC運営メンバーが本セミナーを振り返り、エンタテイメント&メディア業界の現状と今後について議論した後日座談会の内容をお届けします。
PwCコンサルティング合同会社 エンタテイメント&メディアセクター リードパートナー
原田 雄輔
PwCコンサルティング合同会社 エンタテイメント&メディアセクター ディレクター
土岐 正二
PwCコンサルティング合同会社 エンタテイメント&メディアセクター マネージャー
谷口 大輔
PwCコンサルティング合同会社 エンタテイメント&メディアセクター シニアアソシエイト
葛貫 拓哉
(左から)原田、土岐、谷口、葛貫
葛貫:
先日のパネルディスカッションでは、PwC Japanグループが示した企業戦略の3つの方向性(下図)について、ゲストの皆様からさまざまなご意見を頂戴しました。まずは原田さんにPwC Japanグループとしての見解、考察をお聞きしたいと思います。
原田:
登壇いただいた方々のお話を伺って、企業戦略の3つの方向性には、その中に正解が単独で存在するわけではなく、それぞれの企業が置かれた環境や自社の強みなどに応じて、方向性を選び、組み合わせることで正解を導き出すものだと改めて感じました。
そのような中でも、③で挙げたコレクティブインパクトアプローチは、非常に流動的かつ変化が激しい現在において、より大きな可能性を秘めているのではないかと強く感じさせられました。
今、多くの企業がどのようにして強力なIP(知的財産)を獲得し、生かすべきか、試行錯誤しています。しかし、その取り組みはなかなか思うように進んでいません。
それらIPの有効活用に苦戦している企業には共通して、組織構造上の問題があると思っています。これまでエンタテインメント&メディア企業における典型的な組織構造はテレビ、円盤(DVDなど)、映画などのメディアの種別によって分けられていました。
しかし、IPを起点にビジネスを進めようとすると、この組織構造ではうまく進めることができません。個別メディア単体の売上拡大の視点ではなく、IP全体の価値をいかに高めるか、そのうえで長期的にビジネスを拡大していく戦略をあらゆるメディアを横断して行う必要があるからです。今後はIPに関するビジネスを統括する責任者を明確にし、一貫した戦略を実行できる組織に変えていくことが必要になるでしょう。
このことは自社内の組織構造に限らず、IPの活用に向けた方向性を考えることにもつながるはずです。私たちが示した企業戦略の3つの方向性は、会社ごとのものではなく、IPに応じて使い分けることになると考えています。つまり、IPの特徴や強み、今後の成長性を考慮したうえで、自社ですべてを賄い規模拡大を目指すのか、もしくは他社と協業のアプローチをとるのかなどを戦略に沿って判断していくことになるはずです。
私たちが示した企業戦略の3つ方向性とは、企業がIPをより有効に活用するための方向性でもあると考えています。
葛貫:
さて、セミナーの中では最近の潮流についてもさまざまな意見がありました。
エンタテインメント&メディア業界に対する最近のコンサルティング事例として、特徴的なものなどありましたら、土岐さんよりご紹介いただきたいと思います。
土岐:
2つの大きなトレンドをご紹介したいと思います。1つ目としては、市場や競合が激変する中で、事業領域を広げながら、さらなる成長を目指す戦略をご支援する機会が増えています。2つ目として、デジタル化や最新のテクノロジーを活用した新規事業の創出をご支援する機会が増えてきていることが挙げられます。
葛貫:
1つ目のトレンドとして、どのような事例がありますか。
土岐:
以下のような事例があります。
事例A.デジタル広告事業を主軸とした海外市場戦略の策定
事例B.複数のSaaSソリューションを連携させたサブスクリプション事業戦略の策定
事例C.事業競争力強化に向けたEコマース事業やID/ポイント事業の提携および統合
従来の戦略系案件と比較すると、地域や業界をまたいでターゲット市場を再定義し、新たなエコシステムの構築を志向しているところが特徴的です。
葛貫:
2つ目のトレンドとしては、どのような事例がありますか。
土岐:
以下のような事例があります。
事例D.事業シナジー最大化に向けた事業横断データ利活用戦略の策定
事例E.NFTの市場・技術・法規制・競合動向の調査や、コンソーシアム戦略の検討
守りよりも攻めをテーマとする案件が増えており、経営環境の変化が加速する中で、企業は何とかして生き残るため、積極的な投資に出ているという印象を受けます。
葛貫:
これら事例の中で「PwCだからこそ」といえるような案件、ソリューションがあればご紹介いただけますか。
土岐:
PwCは、ブロックチェーンやAI(人工知能)などの最先端の技術に特化したラボを有しており、新規事業の実現に向けた実証実験や、中央省庁と連携した市場動向調査などもご支援しています。
新たなマーケットの創出に向けた各種ご支援が可能です。各企業の取り組みでお困りの方は、遠慮なくお問い合わせください。
葛貫:
最後になりますが、今回のセミナーは、PwCが発行するレポート「グローバル エンタテイメント&メディア アウトルック」のデータと考察をベースに構成しました。谷口さん、「グローバル エンタテイメント&メディア アウトルック」について教えてください。
谷口:
「グローバル エンタテイメント&メディア アウトルック」では、20年以上にわたって毎年、エンタテイメント&メディア業界についての包括的なデータをまとめ、企業や市場に提供し続けてきました。
今回のセミナーのベースとなった2020年版は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響によりデータを全面的に見直したため、例年より半年遅れの公開となりました。また、7月にグローバルで公開した2021年版は、日本向けにも8月11日より公開を開始しています。
データの公開に合わせて毎年提供しているパースペクティブレポートについても、現在、翻訳作業を進めており、近日中に公開予定です。2020年版では「前倒しで訪れる新たな世界」をテーマに、COVID-19が今後起こると考えられていた変化を前倒しでもたらしている様子を描き出しました。2021年版では「パワーシフト:エンタテイメント&メディア業界の力学が変わる」をテーマに、前倒しで訪れた変化によって、エンタテイメント&メディア業界における勢力図や力関係など、業界全体の潮目がどのように変わったのかに切り込んでいます。
今年もデータの提供のみならず、セミナーやレポートなどを通してさまざまな情報を発信する予定ですのでご期待ください。
葛貫:
ありがとうございます。4月23日に開催したセミナー「エンタテイメント&メディア業界の日本企業が生き残るための3つの戦略~産学官民の目線で捉えた変化の予兆と今後の展望~」の振り返りは以上となりますが、私たちセミナー事務局も次回のイベントを心待ちにしております。
本ページをご覧の皆さまもご期待ください。ありがとうございました。
PwCあらた有限責任監査法人 テクノロジー・エンターテインメント部(TMT)に所属。公認会計士。
1997年に監査法人入所後、2004年から2006年までPwC米国のボストン事務所に駐在し、現地の米国上場会社(インターネット企業)やソフトウェア開発会社、ベンチャー企業の米国会計基準財務諸表の会計監査業務等に従事。
帰国後、その経験を生かし、インターネットセクター、通信セクターおよびゲーム・レジャーセクターにおける会計監査や会計・内部統制・決算早期化アドバイザリー・サービスにおいて豊富な実績を積む。
約20年にわたりエンタテイメント企業やメディア企業、ハイテク製造業など幅広い業種のクライアントに対し、全社規模の業務改革における構想策定からシステム導入、改革実現による効果創出までさまざまな支援業務に従事。また、アジアを中心に日本企業の海外プロジェクト実行支援も数多く手掛ける。
現在はエンタテイメント・メディア業界のリーダーとして、クライアントに対する全社的なデジタルトランスフォーメーションを支援。
クライアントの課題解決のため、従来のコンサルティングワークに加え、PwC Japanグループの他法人と連携したサービス提供にも注力している。
ITおよびコンサルティング業界の立場から、インターネット事業(BtoC/CtoC)、自動車部品メーカー、工作機械製造、人材サービス、建設資材メーカー、電設資材卸、ハウスメーカー、航空運輸、製薬、総合商社、レース製造などさまざまな事業領域のクライアントに対し、営業、生産、販売、人事、会計、ITなど幅広い業務領域におけるBPRやIT導入を推進した経験と、自社における組織マネジメントや事業運営の経験を活かし、「事業・組織・業務・ITの変革」の構想策定から実行実現までを一貫して支援することを得意とする。
新しいソリューションモデルを考案し、特許出願した上で新規事業の企画から立ち上げをリードした経験も有し、近年はポイント事業やEコマースなどのインターネット事業の統合や資本業務提携などにも注力している。
製造、金融、メディアなどの幅広い業界で、業務改革・組織改革を中心とした各種プロジェクトに従事。業界・ソリューションを問わないオールラウンドなコンサルタントとして活動している。
近年は、メディア/コンテンツ業界について、激動する環境下での事業戦略とその推進のためのマネジメントの在り方に焦点をあてて活動している。
クライアントワーク以外では、PwCグローバルエンタテイメント&メディア アウトルックの日本における中心メンバーとしても活動し、周辺領域を含めた情報発信を行っている。
※法人名、役職は掲載当時のものです。
PwC運営メンバーが本セミナーを振り返り、エンタテイメント&メディア業界の現状と今後について議論した後日座談会の内容をお届けします。
第6回に続いて、エンタテイメント&メディア企業における企業戦略の3つの方向性に関するディスカッションの様子をご紹介します。
日本のエンタテイメント&メディア企業がビジネスを展開していくなかで、捉えておくべき3つの変化についての議論を踏まえ、企業戦略の3つの方向性に関するディスカッションの様子をご紹介します。
第4回に続いて、日本のエンタテイメント&メディア企業がビジネスを展開していくなかで、捉えておくべき3つの変化の3つ目、「新たな世界を支えるインフラストラクチャ」について、ゲストの皆様と議論を深めます。
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近年のエンタテイメント&メディア(E&M)業界は不可逆的な環境変化により、さまざまな課題に直面しています。PwCコンサルティングでは、5つの重要テーマに焦点を当てたE&Mインダストリー・トランスフォーメーション・アジェンダを提唱しています。
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