
エンタテイメント&メディア業界の日本企業が生き残るための3つの戦略 第8回:PwC Japanグループによる議論の振り返りと考察
PwC運営メンバーが本セミナーを振り返り、エンタテイメント&メディア業界の現状と今後について議論した後日座談会の内容をお届けします。
2021-07-09
PwC Japanグループは、2021年4月23日、メディア関係者の方を対象にパネルディスカッション形式のセミナー「エンタテイメント&メディア業界の日本企業が生き残るための3つの戦略~産学官民の目線で捉えた変化の予兆と今後の展望~」を開催しました。当日は社外からも登壇者をお招きし、産学官民での活発な議論が繰り広げられました。
第4回では、第2回、第3回でご紹介した経済産業省コンテンツ産業課長の高木美香氏、特定非営利活動法人映像産業振興機構(VIPO) 専務理事 事務局長 市井三衛氏、慶應義塾大学 大学院メディアデザイン研究科 研究科委員長 教授で、メディア・スタジオ株式会社 代表取締役の稲蔭正彦氏にご参加いただいただいたパネルディスカッションの続きをご紹介いたします。
原田:
日本のエンタテイメント&メディア企業がビジネスを展開していくなかで、捉えておくべ2つ目の変化はグローバル化です。グローバル化にあたっての大きなテーマとして「日本のエンタテイメント&メディア業界の活路」を掲げたいと思います。デジタル化の進展により、作り上げたコンテンツを日本国内だけではなく、海外にも発信していくことが、以前よりも容易かつスピーディーにできるようになりました。
これはチャンスである一方で、海外からも競合するコンテンツが入ってくると考えられますし、日本のコンテンツが海外でコピーされるリスクもあると思います。このような中で日本の企業はグローバル展開をどのように進めていくべきでしょうか。また、国内と比べて何かバランスをとっていく必要があるのかという点についても教えていただければと思います。
稲蔭:
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大するなかで、世界中でオンライン環境が整ってきたと思います。すなわち、エンタテイメント&メディア業界も、オンラインという巨大なプラットフォームを確実に地球規模で手に入れられたということです。今後は必ずグローバルビジネスというものが標準になってくると思います。
そのため、国内だけをマーケットと見るのではなく、常に世界を相手にどのようなビジネスを練り、展開できるかという手腕が問われると考えます。グローバルという言葉は、「世界中どこでも同じものが手に入る均一性をもたらす」という解釈もできますが、私たちは現実にはそれぞれの地域で活動していて、その地域特有の美的センスやさまざまな感覚を大切にしています。その違いがとても楽しいし、魅力的に感じるわけですね。グローバル展開のビジネスを考えると同時に、日本特有の美的感覚やコンテンツのセンス、ストーリーの作り方をもってして、差別化を図っていくということが、同じく重要な鍵になると考えます。
原田:
ありがとうございます。今後ビジネスを展開していくにあたっては、最初からグローバルマーケットを意識しておく必要があると思いますが、コンテンツを作っていく際に考えておくべきことについても教えてください。
稲蔭:
どちらが正しいとは言えませんが、考え方は大きく2つに分かれています。例えば米国のハリウッドの映画はどこの文化圏でもストーリーがきちんと伝わるような、あまり1つの地域性に特化した内容にしないということを心掛けていると思います。しかし、このようなコンテンツは先ほど申し上げた、グローバルの均一性につながってしまいます。そこでもう一方の考え方ですが、日本のアニメやマンガ、あるいはそれを原作とするようなハリウッド映画などは、日本のストーリーの特有性や特異性を光らせているため、世界中の人たちが魅力を感じているわけです。そのバランスをどうやって取るかということだと思います。
あまりにもその地域性が前面に出過ぎてしまうと、グローバルマーケットではストーリーを理解できない、あるいは理解しづらいということが起こってしまいます。ただ、今はさまざまなマンガやアニメが世界中で紹介されているため、少なくとも若い人たちは「文化の差を理解できないから興味を持たない」、ということは少ない気がします。したがって、そこはあまり意識せず、いかに光った、しっかりした作品を作っていくかが大事になってくると思います。
原田:
ありがとうございました。ローカルの強みを活かしながら、それが一方で受け入れられる程度にはグローバルの視点を持った上でのビジネス展開が必要なのかなと理解いたしました。
市井:
稲蔭さんのおっしゃるとおり、「海外はこんな音楽がウケているから同じようにやろう」ということではなく、自分の音楽があって、それがどうウケるかを世界を相手に考えていくことになると思います。例えば、K-POPなどは世界中に音楽を出して、そのリアクションを見て、どこでプロモーションを強化するかを考えています。
ゲームでは、ベータ版を作って世界中のファンからフィードバックをもらって完成版を作るケースがあります。意外だったのは、ファンの人たちからのフィードバックの内容に、国・地域による違いは特にないという点です。コアなファンはもしかしたら世界中で変わらないのかもしれないですね。
高木:
グローバルマーケットは均一ではないというお話は、そうだなと思ってお聞きしていました。グローバルマーケットは均一ではなくて、いろいろな地域性や特殊性の集まりかもしれません。そうなると、日本の全国津々浦々の人たちが観る映像番組を作る必要はなくなり、国内視聴率ではなく世界の人の何%が見てくれるか、という発想もあると思います。そう考えると日本と世界というような線引きでもなく、世界中に散らばっているその小さなターゲットの人たちにどうやってアプローチするかを、データやプラットフォーマーを使って追求していくことになるのかなと思いました。
日本のエンタテイメント&メディア企業がビジネスを展開していくなかで、捉えておくべ3つ目の変化については、第5回でご紹介します。
PwCあらた有限責任監査法人 テクノロジー・エンターテインメント部(TMT)に所属。公認会計士。
1997年に監査法人入所後、2004年から2006年までPwC米国のボストン事務所に駐在し、現地の米国上場会社(インターネット企業)やソフトウェア開発会社、ベンチャー企業の米国会計基準財務諸表の会計監査業務等に従事。
帰国後、その経験を生かし、インターネットセクター、通信セクターおよびゲーム・レジャーセクターにおける会計監査や会計・内部統制・決算早期化アドバイザリー・サービスにおいて豊富な実績を積む。
約20年にわたりエンタテイメント企業やメディア企業、ハイテク製造業など幅広い業種のクライアントに対し、全社規模の業務改革における構想策定からシステム導入、改革実現による効果創出までさまざまな支援業務に従事。また、アジアを中心に日本企業の海外プロジェクト実行支援も数多く手掛ける。
現在はエンタテイメント・メディア業界のリーダーとして、クライアントに対する全社的なデジタルトランスフォーメーションを支援。
クライアントの課題解決のため、従来のコンサルティングワークに加え、PwC Japanグループの他法人と連携したサービス提供にも注力している。
ITおよびコンサルティング業界の立場から、インターネット事業(BtoC/CtoC)、自動車部品メーカー、工作機械製造、人材サービス、建設資材メーカー、電設資材卸、ハウスメーカー、航空運輸、製薬、総合商社、レース製造などさまざまな事業領域のクライアントに対し、営業、生産、販売、人事、会計、ITなど幅広い業務領域におけるBPRやIT導入を推進した経験と、自社における組織マネジメントや事業運営の経験を活かし、「事業・組織・業務・ITの変革」の構想策定から実行実現までを一貫して支援することを得意とする。
新しいソリューションモデルを考案し、特許出願した上で新規事業の企画から立ち上げをリードした経験も有し、近年はポイント事業やEコマースなどのインターネット事業の統合や資本業務提携などにも注力している。
製造、金融、メディアなどの幅広い業界で、業務改革・組織改革を中心とした各種プロジェクトに従事。業界・ソリューションを問わないオールラウンドなコンサルタントとして活動している。
近年は、メディア/コンテンツ業界について、激動する環境下での事業戦略とその推進のためのマネジメントの在り方に焦点をあてて活動している。
クライアントワーク以外では、PwCグローバルエンタテイメント&メディア アウトルックの日本における中心メンバーとしても活動し、周辺領域を含めた情報発信を行っている。
※法人名、役職は掲載当時のものです。
PwC運営メンバーが本セミナーを振り返り、エンタテイメント&メディア業界の現状と今後について議論した後日座談会の内容をお届けします。
第6回に続いて、エンタテイメント&メディア企業における企業戦略の3つの方向性に関するディスカッションの様子をご紹介します。
日本のエンタテイメント&メディア企業がビジネスを展開していくなかで、捉えておくべき3つの変化についての議論を踏まえ、企業戦略の3つの方向性に関するディスカッションの様子をご紹介します。
第4回に続いて、日本のエンタテイメント&メディア企業がビジネスを展開していくなかで、捉えておくべき3つの変化の3つ目、「新たな世界を支えるインフラストラクチャ」について、ゲストの皆様と議論を深めます。
消費デバイスや消費形態の多様化が進むコンテンツ業界でビジネスモデルの変革が求められる中、権利処理業務の煩雑さが課題となっています。テクノロジーを活用して業務量を合理化し、コンテンツ流通のボトルネックを解消する鍵を解説します。
持続的な成長を遂げる上では、新たな価値創造が求められています。異なるユーザーグループをつなぎ、新たな価値を生み出してきたプラットフォームビジネスは、有効なビジネスモデルとして今後も時代に合わせた展開ができると考えられます。
近年のエンタテイメント&メディア(E&M)業界は不可逆的な環境変化により、さまざまな課題に直面しています。PwCコンサルティングでは、5つの重要テーマに焦点を当てたE&Mインダストリー・トランスフォーメーション・アジェンダを提唱しています。
PwCコンサルティングは、テレコム業界内のクライアントを業界横断で支援する専門チームを組織し、事業内容や事業モデルの変革を支援しています。「ヘルスケア・ライフスタイル」領域のプロフェッショナルと共に、テレコムとの掛け合わせが生み出す未来について語りました。