
エンタテイメント&メディア業界の日本企業が生き残るための3つの戦略 第8回:PwC Japanグループによる議論の振り返りと考察
PwC運営メンバーが本セミナーを振り返り、エンタテイメント&メディア業界の現状と今後について議論した後日座談会の内容をお届けします。
2021-08-10
PwC Japanグループは、2021年4月23日、メディア関係者の方を対象にパネルディスカッション形式のセミナー「エンタテイメント&メディア業界の日本企業が生き残るための3つの戦略~産学官民の目線で捉えた変化の予兆と今後の展望~」を開催しました。当日は社外からも登壇者をお招きし、産学官民での活発な議論が繰り広げられました。
第7回は、第6回に引き続き、PwC Japanグループが示した企業戦略の3つの方向性について、経済産業省コンテンツ産業課長の高木美香氏、特定非営利活動法人映像産業振興機構(VIPO)専務理事 事務局長 市井三衛氏と、慶應義塾大学 大学院メディアデザイン研究科 研究科委員長 教授でメディア・スタジオ株式会社 代表取締役の稲蔭正彦氏がディスカッションした様子をご紹介します。
稲蔭:
「企業戦略の3つの方向性」のうち、1つ目の「規模拡大型」と2つ目の「連合型/エコシステム型」は従来型といいますか、よくあるビジネス戦略なので、今後も続くだろうとは思います。しかし、私が最も期待しているのは3つ目の「コレクティブ・インパクト・アプローチ型」です。このコレクティブ・インパクト・アプローチ型の例として製作委員会方式が取り上げられていましたが、製作委員会方式には責任の所在が分散してしまうという欠点があり、私はそれが日本のコンテンツビジネスの弱さにつながっていると考えています。
ここでいうコレクティブ・インパクト・アプローチとは、もっとアメーバのようにさまざまな人たちがくっついたり離れたりしながら、プロジェクトベースで活動をともにしていくようなやり方だと理解しました。
もう少し細かい粒度で見ていくと、一つの組織の中の経営陣と従業員との雇用関係にも影響すると思います。今は100%専業として雇っているような関係で組織が成り立っているものが、副業を認める企業も少しずつ増えてきました。さらにそれがアメーバのように、柔らかい働き方のさまざまなモデルができて、例えば、その人は全く違うプロジェクトや違う企業とも仕事をするというように、その人の取り柄・特長・強さをそれぞれのプロジェクトに生かすというような形です。それを広げていくと企業も同じように、同じ関係先とずっとやり続けていくということではなくて、くっついたり離れたりというのをグローバルレベルでも行っていくというようなこともあり得ます。つまり、柔らかいコンソーシアムというか、パートナーシップというものがコレクティブ・インパクト・アプローチだと私は理解しました。もしそうだとすると、それは次の時代の在り方だということを強く感じますし、大いに期待したいと思います。
千代田:
ありがとうございます。そうですね、いろんな考え方がある中で、よりソフトな形での結びつき方の方が、より差別化もしくは拡大が図れるのではないか、というご意見と理解しました。
市井さん、「コレクティブ・インパクト・アプローチ型」のところについて、もし何か補足があればお話しいただけますでしょうか。
市井:
ソフトな形での結びつきというのは、おっしゃるとおり簡単ではないとは思いますが、海外では既に実施されているケースもあると思います。先ほど音楽の話をしましたけれど(第2回:「メディアの時代からコンテンツの時代へ」経済産業省担当者から見た日本のエンタテイメント&メディア業界)、クリエイターが直接海外に音楽を出せるようになったり、消費者に対してアクセスできるようになってきたりすると、そこをどうプロモートするかというところについて、従来はレコード会社が全部やるところを、それぞれの分野でエッジの立っている人たちがいるので、その人たちとくっつきながら実施するというような方法が米国などでは取られています。そういう結びつきは少しずつ生まれてくるので、やりやすいジャンル、そうではないジャンルがあるとは思いますが、そういう動きは確かにあると思います。
高木:
市井さんが音楽に触れたところで思い出したのですが、音楽では世界3大メジャーレーベルというのがあって、それに対して、第4のメジャーとしてインディーズレーベルを集めた団体があるそうです。音楽が配信の時代になり、配信プラットフォームに音楽を売らなければいけないわけですが、インディーズレーベルは単体では交渉力がないので、それを補うために集まり、団体ができたということです。これはコレクティブ・インパクト・アプローチ型の一つの形かな、と思いながらお聞きしておりました。
また、日本で最近聞いた話ですが、各企業がゆるくつながってさまざまなコンテンツ制作活動をしていて、コンテンツにNFT(ノン・ファンジブル・トークン)をつけて流通可能にし、例えば、ある会社のプラットフォームで作られた音楽を違う会社が同じNFTを使って違うものにして公開するといった形があるそうです。ここにいろいろなメディアやコンテンツジャンルの会社が参画していくと、UGC(ユーザー生成コンテンツ)も含めてさまざまなものが作られて流通していくことになり、面白いのでは、と思いながら見ております。
今私どもはブロックチェーンに注目しており、さまざまな実証実験を行っています。動画を作ってアップしたり、他の人の作ったものに手を加えて2次創作をしたりするような方は、趣味でやっているケースが多いと思います。そこで、そういった方々に対して、「権利処理がもし簡単にできるようになったとしたら、きちんと相手に許諾を取って、改変して対価を払ってもらう形で公開しますか」というアンケートを行ったところ、潜在市場規模は1.4兆円程もあることが分かりました。実はPwCさんにお願いした調査です。非常に大きく、魅力的な市場だと考えています。
技術と契約でできることもあると思いますし、特に3つ目のコレクティブ・インパクト・アプローチを実現するためにそういったものを使う可能性は大きいと考えています。
「規模拡大型」は独自のキャラクターなど知的財産(IP)を中核にして収益化するモデルになるかと思います。小説は小説、アニメはアニメということで区別すれば、それぞれの段階で利益につながる会社は異なります。しかし一気通貫のIPビジネスにすれば、原作があり、それがまず小説になって、マンガになって、アニメになって、実写映画になって、最後ゲームになって全体として収益化できるので、大きな投資をすることができるのではないかと思います。IPビジネスだと作品単位ではないので、ロングランでできます。そういうビジネスの手法は、日本ではまだまだできていないと思いますし、さっき話題になった製作委員会方式がそれを阻害している面もあるのかもしれません。権利を一元化し、IPと紐づいた権利でどこまで収益化できるかということまで考え、一つのIPに集中投資をして長く稼ぐという形にしないと、この競争環境の中で生き残っていくのは難しいと思います。
次回は、ここまでのディスカッションを踏まえて、エンタテイメント&メディア業界の日本企業が生き残るための3つの戦略についてPwCの考察をご紹介します。
PwCあらた有限責任監査法人 テクノロジー・エンターテインメント部(TMT)に所属。公認会計士。
1997年に監査法人入所後、2004年から2006年までPwC米国のボストン事務所に駐在し、現地の米国上場会社(インターネット企業)やソフトウェア開発会社、ベンチャー企業の米国会計基準財務諸表の会計監査業務等に従事。
帰国後、その経験を生かし、インターネットセクター、通信セクターおよびゲーム・レジャーセクターにおける会計監査や会計・内部統制・決算早期化アドバイザリー・サービスにおいて豊富な実績を積む。
約20年にわたりエンタテイメント企業やメディア企業、ハイテク製造業など幅広い業種のクライアントに対し、全社規模の業務改革における構想策定からシステム導入、改革実現による効果創出までさまざまな支援業務に従事。また、アジアを中心に日本企業の海外プロジェクト実行支援も数多く手掛ける。
現在はエンタテイメント・メディア業界のリーダーとして、クライアントに対する全社的なデジタルトランスフォーメーションを支援。
クライアントの課題解決のため、従来のコンサルティングワークに加え、PwC Japanグループの他法人と連携したサービス提供にも注力している。
ITおよびコンサルティング業界の立場から、インターネット事業(BtoC/CtoC)、自動車部品メーカー、工作機械製造、人材サービス、建設資材メーカー、電設資材卸、ハウスメーカー、航空運輸、製薬、総合商社、レース製造などさまざまな事業領域のクライアントに対し、営業、生産、販売、人事、会計、ITなど幅広い業務領域におけるBPRやIT導入を推進した経験と、自社における組織マネジメントや事業運営の経験を活かし、「事業・組織・業務・ITの変革」の構想策定から実行実現までを一貫して支援することを得意とする。
新しいソリューションモデルを考案し、特許出願した上で新規事業の企画から立ち上げをリードした経験も有し、近年はポイント事業やEコマースなどのインターネット事業の統合や資本業務提携などにも注力している。
製造、金融、メディアなどの幅広い業界で、業務改革・組織改革を中心とした各種プロジェクトに従事。業界・ソリューションを問わないオールラウンドなコンサルタントとして活動している。
近年は、メディア/コンテンツ業界について、激動する環境下での事業戦略とその推進のためのマネジメントの在り方に焦点をあてて活動している。
クライアントワーク以外では、PwCグローバルエンタテイメント&メディア アウトルックの日本における中心メンバーとしても活動し、周辺領域を含めた情報発信を行っている。
※法人名、役職は掲載当時のものです。
PwC運営メンバーが本セミナーを振り返り、エンタテイメント&メディア業界の現状と今後について議論した後日座談会の内容をお届けします。
第6回に続いて、エンタテイメント&メディア企業における企業戦略の3つの方向性に関するディスカッションの様子をご紹介します。
日本のエンタテイメント&メディア企業がビジネスを展開していくなかで、捉えておくべき3つの変化についての議論を踏まえ、企業戦略の3つの方向性に関するディスカッションの様子をご紹介します。
第4回に続いて、日本のエンタテイメント&メディア企業がビジネスを展開していくなかで、捉えておくべき3つの変化の3つ目、「新たな世界を支えるインフラストラクチャ」について、ゲストの皆様と議論を深めます。
PwCコンサルティングは、テレコム業界内のクライアントを業界横断で支援する専門チームを組織し、事業内容や事業モデルの変革を支援しています。「ヘルスケア・ライフスタイル」領域のプロフェッショナルと共に、テレコムとの掛け合わせが生み出す未来について語りました。
AIブーム、テクノロジーとビジネスモデルの継続的なディスラプションに伴い、テクノロジー・メディア・情報通信(TMT)分野のM&Aは2025年も活発に行われる見込みです。
PwCは2024年10月から11月にかけて第28回世界CEO意識調査を実施しました。世界109カ国・地域の4,701名のCEO(うち日本は148名)から、世界経済の動向や、経営上のリスクとその対策などについての認識を聞いています。
株式会社TVer DATA MARKETINGの代表取締役社長の瓜生 健氏をお迎えし、データガバナンスの構築などの支援を行っているPwCコンサルティングの宮澤 則文が、視聴データの利活用の可能性についてお話を伺いました。