
シリーズ「価値創造に向けたサステナビリティデータガバナンスの取り組み」 第2回:統合管理を含めたデータガバナンス/マネジメントの要諦
多様なテーマを抱えるサステナビリティの領域におけるデータガバナンス/マネジメントを推進するにあたり、個別最適に陥りデータの全社的な利活用に至らないことが課題とされています。本コラムでは、組織横断的なデータガバナンスが必要な理由、そしてその推進の要諦を解説します。
2020-06-23
日本企業はビジネスのどの領域でSDGsに貢献しようとしているのでしょうか。それを深堀するために、より詳細な分析を実施しました。分析項目は下記2点です。
(1)企業はバリューチェーンのどの領域でSDGsとの関連を考えているのか
(2)企業はSDGsを機会やリスクの源と捉えているのか、または単に考慮すれば良いもの、もしくはビジネスとは直接関係のないものと考えているのか
1つ目については、多くの日本企業が自社のオペレーションにおいてSDGsのインパクトを考えていることが分かり、その中で最も言及していた目標は、目標8(働きがいも経済成長も)、目標13(気候変動に具体的な対策を)、目標12(つくる責任つかう責任)の3つでした。これは、上述の日本企業全体の結果とも一致します。つまり、SDGsへの貢献という観点からは、雇用の創出、オペレーションの効率改善、CO2排出削減が、多くの日本企業にとって最もインパクトを与えられる領域と考えているようです。雇用の創出とオペレーションの効率改善については、どのビジネスモデルにおいても伝統的に重要だと認識されているものです。一方で、CO2排出削減については、気候変動のリスクに対してグローバルなステークホルダーの関心の高まりに起因しているものと考えられます。
そして、自社オペレーションに次いで多く言及されていたのがバリューチェーンの下流(顧客による製品やサービスの使用、廃棄)で23%の企業がこれに該当します。これらの企業は主に目標3(すべての人に健康と福祉を)、目標9(産業と技術革新の基盤をつくろう)、目標12(つくる責任つかう責任)について言及していました。
特にバリューチェーンの下流とSDGsの関係性について言及していたのは自動車産業を含む製造業やIT産業の企業が多かったことから、目標9や目標12が特定されていることはそれほど想像に難くないと思われます。一方で、製薬産業は少数であったにも関わらず、バリューチェーンの下流において目標3が上位3位以内に入っていることは特筆すべき点かも知れません。目標3のターゲットは、ヘルスケアへの幅広いアクセスの確保や、子どもの死亡率の低下、疾病の低下に関連するものであるためです。
なお、バリューチェーンの上流や、研究開発/投資におけるSDGsのインパクトに言及している企業はあまり多くありませんでした。SDGsの目標の多くは発展途上国でのインパクトの創出を目指していることを鑑みると、今回の調査対象がグローバルに活躍する日本企業であるにも関わらず、自社のサプライチェーンにおけるSDGsのインパクトにあまり着目していないことが明らかになったのは、重要な点かもしれません。
2つ目について、企業がどのような文脈でSDGsに言及しているかを分析しました。我々の分析結果によると、残念ながら大多数の日本企業はSDGsを「あれば良いもの」もしくは「考慮すれば良いもの」と捉えていることが分かりました。これは、SDGsをビジネスの機会やリスクの源であると考えられていないことを意味します。SDGsを含むコーポレートサステナビリティは、従来のCSRの延長線上のもの、つまり大企業として社会問題や環境問題に対して責任を取るためのものであり、ビジネスそのものに直接影響を及ぼす重要なものと考えられていない、ということなのかもしれません。
しかしながら、14%の企業は、SDGsをビジネス機会の源として言及しており、特に目標7(エネルギーをみんなにそしてクリーンに)と目標13(気候変動に具体的な対策を)について新たなビジネスを生み出す潜在的に重要な課題と見ています。一方で、18%の企業はSDGsを企業のリスクと関連付けており、興味深いことに、同じく目標7と目標13が言及されていました。目標6(安全な水とトイレを世界中に)もこのような文脈で比較的多く言及されています。
ビジネスの機会、リスクの両側面において目標13が多く言及されている理由としては、日本企業がTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)の要請に基づいて、気候変動のインパクトを分析し始めていることが挙げられます。加えて、CDP(旧名称:Carbon Disclosure Project)などの主要なESG格付も、評価項目として気候変動や水の安全保障に関する機会とリスクを分析することを要求しています。つまり、多くの日本企業がこれらの格付機関の質問に対応をしていることが背景にあると考えられます。
またわずかではありますが、目標16(平和と公正をすべての人に)もコンプライアンス、具体的には贈収賄や汚職に関する文脈で多く言及されていました。
その他に分類される64%の企業については、SDGsの目標をビジネスの機会やリスクとして認識しているのか、もしくはCSRや社会貢献活動として言及しているかを明確に分析することはできませんでした。
PwCのSDG Reporting Challengeは今年で3年目になります。調査対象は世界30カ国以上、企業数は1,000社を超え、SDGsに関する企業調査としては最大級の規模です。この調査を通して、SDGsは確実に、大多数のグローバル企業のアジェンダとなっていることが明らかになりました。しかし、SDGsをターゲットレベルまで詳細に分析し、企業戦略と関連付けている企業はまだあまり多くないことも事実です。
多くの企業のレポートにおいて、ビジネスに関連するSDGsの目標が示されているものの、深い分析が見られるのはわずかで、企業がどのように特定のSDGsのターゲットに貢献できるのか、またその進捗をどのように測定するのかまでは分からないのが現状です。
日本企業に特化して見てみると、多くのCEOや会長がアニュアルレポートやサステナビリティレポートの経営者緒言においてSDGsに言及しており、SDGsが取締役会のアジェンダとなっていることが明らかになりました。しかし、多くの日本企業は自社オペレーションやバリューチェーンの下流におけるSDGsのインパクトは見ているものの、バリューチェーンの上流(例えばサプライチェーン)へのインパクトまでは見切れておらず、ビジネス全体へのインパクトまでは分析できていないようです。
SDGsをビジネスに組み込むためには、単にサステナビリティレポートにおいて「自社はSDGsを考慮しています」と示すだけではなく、より具体的なビジネスへのインパクトをバリューチェーン全体でしっかりと分析することが重要になります。PwCは、この分析が、SDGsから生み出される具体的なビジネスの機会やリスクを特定するための鍵となり、また投資家が企業に期待するSDGsへの取り組みにつながるものであると認識しています。SDGsが自社のビジネスモデルへ与える影響を理解し、さらには社会問題や環境問題の解決に大きく貢献することで、自社のビジネスモデルは適応力が高くレジリエントで投資価値があると示すことにもなるのではないでしょうか。
自社が「フォロワー」企業であり、SDGsレポーティングのレベルアップを検討したい場合は、以下の項目から対応してはいかがでしょうか。
PwCは、2030年に向けて、日本企業の2020年のSDGsレポーティングがさらに発展することを期待しています。
エリック リンドゥホルム
マネージャー, PwCあらた有限責任監査法人
※ 法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。
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