PwC SDG Reporting Challenge 2019(前編)

2020-06-22

はじめに

2015年9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて、国連加盟国の満場一致で持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)を含む「持続可能な開発に向けた2030アジェンダ」が採択されました。SDGsの17の目標と169のターゲットは、貧困の撲滅やジェンダーの平等の達成から、気候変動への対策、陸地や海洋生態系の保護まで、2030年までに持続可能で循環型のビジネスモデルとコミュニティへの移行を達成するという野心的なロードマップを設定しています。

SDGsの前身であるミレニアム開発目標(MDGs:Millennium Development Goals)とは異なり、SDGsの進展と達成には、各国政府だけでなく企業を含む社会を構成する全ての組織の努力が必要であると言われています。そして、グローバル規模の協働が期待されています。

ビジネスにとって重要なことは、これらの目標の実現が、過去に経験したことがないような大規模な社会の転換を引き起こし、その結果として企業を取り巻くビジネス環境が大きく変化するという点です。例えば、極度の貧困状態にある10億人以上の人々の生活水準が向上することによる消費財の販売へのインパクト、世界中がSDGsに関連するインフラ投資を行うことによるグローバルなサプライチェーンの変化を考えると、SDGsが企業にもたらすインパクトは非常に大きいものであることが分かります。

SDGsは企業に対して2030年に向けたビジネスのロードマップを提供していると言えます。そして企業はSDGsの目標と平仄を合わせ、より確実な将来を見据えたビジネスモデルに変革することが求められます。SDGsがもたらすビジネスインパクトを正しく理解している企業は、この変革によってより成長することが可能になるでしょう。一方で、この先の変化を見通すことができず、2030年の世界にビジネスモデルを適応できない企業は大きなリスクに直面するでしょう。

過去3年間にわたり、PwCでは企業がSDGsについてどのように情報開示しているかを調査しています。2019年は調査対象を拡大し、日本を含む世界31カ国の企業1,141社のグローバル企業を分析し、「PwC SDG Challenge - Creating a strategy for a better world[PDF 8,778KB]」として公表しました。本レポートを通して、SDGsの意義やビジネスインパクトについての企業の認識向上、SDGsを達成するための目標設定、そしてSDGs対応によって享受可能な利益などについてのさらなる理解に貢献できればと考えています。

SDG Challenge 2019 グローバル調査結果サマリー

2019年の調査結果から、SDGsは大多数の企業において重要なテーマとなっており、各社の年次報告において開示されていることが明らかになりました。具体的には調査対象企業1,141社のうち、72%の企業が報告書においてSDGsに言及しており、この数値は前年度の結果と比べてわずかに上昇しています。さらに、報告書においてSDGsに言及している企業のみに着目すると、SDGsの17の目標全てに言及した企業が35%であるのに対して、65%の企業は特に重要と特定した目標にのみ言及しています。

SDGsの17の目標は、それぞれが単独に存在するものではなく、相互に関係しあっています。特定の目標が他の目標より重要であることはありません。そしてほぼ全てのビジネスはSDGsの全ての目標と何らかの関係があると思われます。

PwCは、企業はそれぞれの目標と自社のビジネスの関係性をより詳細に分析し、リスクと機会を特定することで、戦略をSDGsと整合させる必要があると考えています。

SDGsは多くの企業のビジネス戦略に完全に組み込まれているわけではありません。ビジネス戦略にSDGsを組み込んでいる企業は25%、CEOや会長の声明でSDGsに言及している企業は21%のみでした。

SDGsの17の目標には、貧困、クリーンエネルギーから気候変動までの幅広い目標が含まれていますが、目標の達成をより確実なものにすることを目的に、169のターゲットが設定されています。これらのターゲットはKPI(Key Performance Indicators)やメトリック(測定基準)と紐づけられており、ターゲットの進捗を捉えることでSDGsの目標に対する現在までの進捗が分かるようになっています。図表1に示す通り、SDGsのターゲットにまで言及している企業は極めて少数に留まっており、自社と関連するターゲットまで特定している企業は、わずか14%に過ぎませんでした。

このような結果は、企業がSDGsの根底にある意味を理解できているのか、SDGsを曖昧に解釈しているのではないか、という疑問をもたらすとともに、多くの企業が今後克服しなければいけない課題を抱えていることを示唆しています。

例えば、企業がサステナビリティに対するアプローチや、優先的に取り組むべき重要課題を報告書に開示する際、より具体的に示す必要があると考えます。サステナビリティの取り組みとESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)データやビジネスの目的の関連性について、ステークホルダーに明確に伝えることができているでしょうか。SDGsに関しても同様に、現時点では、多くの企業がこの関連性について明確に伝えることができていないようです。その結果、SDGsはビジネス戦略に組み込まれた形ではなく、表面的に付け加えられた形でレポートに言及されていると推察します。

さらに私たちは2019年の調査結果をもとに、企業を4つのグループに分類しました。

1つ目のグループは「ビギナー」、つまりSDGsに取り組み始めたばかりの企業です。このグループは、調査対象企業の10%を占めており、概念や重要性としてSDGsを認識し、報告書でSDGsに言及していますが、自社のビジネスがどの目標と関連しているかまでは分析できていない企業です。

2つ目のグループは「フォロワー」で、71%の企業がこのグループに該当します。これらの企業は、自社のビジネスに関連するSDGsの目標を特定はしているものの、169のターゲットまでは分析しておらず、広い解釈でSDGsを捉えています。これらの企業の多くは、特定のSDGのターゲットの達成に貢献しているはずですが、その取り組みは報告書の中では示されていません。

3つ目のグループは「リーダー」で、SDGsの目標に対して洗練された分析を行い、特に貢献できる領域やビジネスの機会を特定しています。このような高いレベルでの分析は、SDGsがサステナビリティ部門の壁を越えて、組織全体に根差していることを示していると考えられます。このグループに属する企業は17%であり、すでに「ビギナー」よりも多い割合となっています。

最後のグループは、調査対象企業の2%のみが該当する「パイオニア」です。名前の通り、このグループは、SDGs報告書の先駆者であり、SDGsのターゲットを特定するだけではなく、それらに対する企業の取り組みの進捗を測定し、報告しています。このような詳細な報告は、SDGsに起因するビジネスへのインパクトや機会・リスクが企業内でしっかりと管理できていることを示しています。

PwC SDG Reporting Challenge 2019

執筆者

エリック リンドゥホルム
マネージャー, PwCあらた有限責任監査法人

※ 法人名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。

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