日本企業のグローバル戦略動向調査 2022-2023

海外事業の現状分析と見通し

海外事業の経営課題

今後の海外事業における課題解決のカギ:調査結果からの仮説考察

日本企業の多くが今後の成長の源泉として考える海外事業において、経営課題や事業運営を取り巻く不確実性を認識していることが、今回の調査で改めて浮き彫りになりました。今後の海外事業の課題解決へのカギを何に求めるべきでしょうか。今回の調査結果に加え、PwCグローバルネットワークが実施した他の調査結果も参照し、北米(米国市場)、APAC(中国・ASEAN)、欧州(西欧)の3地域ごとに考察します。

1.他の地域とは異なる安全保障環境

米国は世界最大の経済大国です。また、安定した安全保障環境も特徴の1つに挙げられます。欧州はロシアと地理的に近く、ウクライナ侵攻の影響を経済、社会の両面でより強く受けています。APACは台湾海峡を巡る緊張に伴い、域内における地政学リスクの高まりが指摘されています。太平洋と大西洋に隔てられた北米の地政学リスクは欧州やAPACより相対的に低いと言えます。

その一方、米国政府は中国を「国際秩序をつくり替える能力と意思を持つ唯一の競争相手」1と定義したうえで、半導体やスーパーコンピューターに関連する複数の規制や米国内への拠点誘致を促進する法律を導入するとともに、新疆ウイグル自治区で強制労働により生産された産品の輸入を原則禁止するなど、対中国の規制を導入しています2。これらのルールは米国企業だけでなく、日本企業の米国事業はもちろんのこと、米中両方に製造拠点のある企業であれば本社と米国事業が一体として遵守すべき規制(コンプライアンス)上の課題です。

2.サイバーやデジタル領域のリスクへの対処

2021年10〜11月にPwCグローバルネットワークが全世界で行った 「第25回世界CEO意識調査」3では、日本を含む他地域と比べ、米国に本社を置く企業のCEOがサイバーリスクにより高い懸念を抱いていることを示しました(図表16)。これは、米国事業が他地域よりもサイバー攻撃を受ける可能性があることを示唆していると分析できます。

サイバーリスクへの懸念は、成長を見込めるデジタル領域でのオペレーション実践やコンプライアンスなど、複雑に入り組むリスク因子に対して適切に対処する体制構築の必要性を示唆するものと言えるでしょう。

これらを踏まえると、米国における今後の事業課題解決のカギの一例には、下記が挙がるものと考えます。

<米国事業における課題解決のヒント>

リアルタイムで統一されたデータを基にした日米間での経営管理体制の確立・強化(グループガバナンス、データ・デジタルガバナンス、ESGなど)

1 バイデン政権公表の「国家安全保障戦略」 ( ”NATIONAL SECURITY STRATEGY” )より。
2 2021年12月に成立したウイグル強制労働防止法 (UFLPA)や2022年7月可決のCHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)はそのような側面を代表する事例として挙げられます 。
3 PwC「第25回世界CEO意識調査」。

おわりに

本レポートにおいて地域ごとに仮説として検証した課題解決のカギですが、一例として提示したヒントは地域をまたいで当てはまる可能性の高いものがあります。例えば、グループガバナンスやESGは、北米と欧州において優先度を上げて取り組むべき課題の一例であると考えられます。地域特有課題と地域通貫(グローバル)の課題を峻別し、対処策を講じていくことが、今後の海外事業においてより重要となっていくものと考えます。

補足

昨年の本レポートの中で取り上げた米中デカップリングも含めた地政学リスクに対する各社の対応状況については、本年度は独立した調査として実施しました。調査結果の詳細については本レポートでも参照した「企業の地政学リスク対応実態調査2022」にてご確認ください。

本レポートの続編として、「トランスフォーメーション」「地政学リスク」をテーマとした「未来を拓く日本企業のグローバル戦略」を公開しています。併せてご一読ください。

調査概要

調査名 日本企業のグローバル戦略動向調査 2022-2023

調査日程

2022年7月

調査方法

インターネットパネルを用いた調査

調査対象

  • 経営企画、事業企画、リスク管理、海外事業に関する業務に従事する課長職以上の会社員
  • 調査対象とする企業は、海外事業を展開している売上規模年商5,000億円以上、かつ従業員数500人以上とし、製造業からサービス業まで産業全般を網羅

サンプル数

全体サンプル数合計:600人

上記基準に該当する企業に勤務する回答者数:253人

回答者属性

下記参照

回答者属性

セクター 別
年商 規模別

注1) 全ての数字の合計値が100%にならない場合があります。

注2) 本調査は個人を特定せずに実施しているため、所属企業については重複している可能性があります。

注3) 小数点第1位を四捨五入しています。

主要メンバー

足立 晋

PwC Japanグループ グローバルJBNリーダー、金融インダストリーリーダー、PwC Global Boardメンバー、公益財団法人PwC財団 評議員

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顧 威(ウェイ クウ)

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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岩嶋 泰三

PwCインド, パートナー

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小堺 亜木奈

パートナー, PwCアドバイザリー合同会社

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