
COOやオペレーションリーダーが取り組むべきこと PwCパルスサーベイに基づく最新の知見
本レポートでは、世界の大企業の経営幹部673人を対象に、経営の戦略や優先順位を調査しました。COOはAIの活用拡大に強いプレッシャーを感じており、関連する人材の採用・育成に注力する一方で、業務に追われ将来のビジョン策定に注力できていない状況が明らかになりました。
世界のデジタル化が加速し、業務の混乱が続くなか、サプライチェーンにテクノロジーを有効活用する重要性が増しています。コスト削減や、効率性の改善、レジリエンスの構築に加え、デジタルに投資をすることでリスクを低減し、環境、社会、ガバナンス(ESG)の課題に取り組むことができます。しかし、「PwC サプライチェーンのデジタルトレンド調査 2023」が明らかにしているように、多くの課題が残っており、企業はデジタル時代のサプライチェーンレベルを向上させるためにさらに多くの取り組みを実施することができます。
今回調査をした300名以上の経営幹部やリーダーは、自社のサプライチェーンをデジタル化することで得られる恩恵を認識し、懸命に取り組んでいます。2022年の調査に比べれば、企業はある程度の成果を得ていますが、常に顧客の期待に応えなければならないというプレッシャーにより、さまざまな業界でサプライチェーンを見直す動きがますます増えています。今回の調査結果から、より競争の激しい環境で、どこでより多くの進歩を遂げることができるかについての洞察を提供します。
経営幹部は、今後12~18カ月間の最優先事項として、効率性の向上とコストの管理および削減を挙げています。この2点はその他の選択肢よりもはるかに多く挙げられており、2022年の調査結果と似ています。とはいえ、他の最優先事項――例えば、プロセスと分析の自動化や、サステナビリティと企業の社会的責任の向上――に対する回答数はわずかに上昇しており、長期的に影響を与える活動へと推移している兆しがあります。
サプライチェーンのデジタル化に対する最重要課題においても同様で、約半数が予算の制約を挙げています。われわれの経験上、ビジネスケースが不明瞭もしくはうまく説明されていないことの方が予算の制約よりも大きな問題となっています。たとえそうであっても、経営幹部たちは、従業員やチームの働き方を変えることの難しさ(31%がトップ3課題に位置付けている)や、サプライチェーン改革に必要な「デジタルネイティブ」人材の獲得や育成、維持の難しさ(25%)といった、他のすべての課題の方をはるかに低く位置付けています。
これらの選択肢は、他の回答が労働力がひっ迫していることや、企業が今いる従業員でより多くの仕事をすることを計画していることを示唆しているため、注目に値します。2022年と比べて、全体として今よりも従業員を増やす必要があると回答した経営幹部は少なく、現在の役割が不要になるため別の業務に就けるように従業員を再教育すると回答する経営幹部が増えています。加えて、2022年よりも多くの回答者がアウトソーシングへの依存を減らす予定であると述べています。
採用計画は低下している一方、再教育は1年前より増加している。
日々の雑音に注意を奪われないようにしましょう。列車を時間通りに走らせることは重要ですが、戦略に資源を投入しなければ、長期的には列車のための線路を確保することはできないかもしれません。戦略を既存のチームの「おまけ」にする誘惑に抗いましょう。その代わりに、自社組織の全体的な優先事項の見直しや、調達購買の改革余地の評価、サプライヤーの多様性改善、そして長期的な安定性を高めうる他の活動に能力を使うようにしましょう。
意味のある変化に対応できる労働力を確保しましょう。しかし、サプライチェーンのレジリエンスを維持するためには、特にテクノロジーを通じて異なる働き方に適応できる労働力を構築することが重要です。組織全体の優先事項のさまざまな部分でデジタルへの取り組みを指導できる人を検討し――指導者を複数人置くのか、すべて対応できる指導者を置くのか――、そして領域を問わず再教育を拡大する道筋を提供しましょう。
サプライチェーン業務でのテクノロジーの採用と適用は技術によって大きく異なります。クラウドは、部分的に、もしくは完全に採用されているテクノロジーのトップ(84%)です。その後にはInternet of Things(IoT)が続きます(79%)。スキャン、インテリジェントデータキャプチャやサードパーティーの支出分析ツールなどのテクノロジーはそれほど遅れていませんが、ドローンやAR、あるいはロボティクスやロボットによる業務自動化を、完全に、もしくは部分的に採用していると答えた回答者は半数未満でした。
テクノロジーの投資計画に対する回答も同様で、クラウド、IoT、サードパーティーの支出分析ツール、そしてスキャン、インテリジェントデータキャプチャは最も高い数値でした。しかし、今後の2年間の投資度合いに関する質問では、AI、機械学習は最も高い支出であり、22%の経営幹部がそのようなテクノロジーに少なくとも500万ドルの投資を計画していると答えました。サプライチェーン技術への投資に対する主要目的についていえば、成長の加速(53%)とコスト最適化(51%)が他のいくつかの目的を上回っていました。
課題はこうした投資の成果を確実に出すことです。サプライチェーンのテクノロジーへの投資が期待した成果を十分にもたらしていると答えた経営幹部はたった17%です。前回調査から20%も下落しており、結果が振るわなかった理由に関する意見は分かれています。もっと実行に時間が必要だ(まだ途中である)という理由(21%)から、オーナーシップとビジョンが漠然としている(4%)という理由まであります。
企業はテクノロジーに投資をしていますが、特定のテクノロジーやソリューションおよび異なるサプライチェーン分野に関しては、各業務分野の実行を自動化・強化するためにテクノロジーを利用していると回答した人は少数派です。
最終形を念頭において始めましょう。デジタル投資に取り組んでいる場合は、最初に、期待する具体的な結果と、それらをどのように測定するかを決定する必要があります。財務的なROIのようなものではなく、チームの働き方が本当に異なるかどうか、そしてその結果はどうなるかといった点も考えるべきでしょう。もし期待する成果が目に見えるなら――コスト低減や利用可能キャパシティの創出など――事後ではなく事前に、サプライチェーンのどこに再投資するか計画を立てておく必要があります。
より幅広い成功を可能にする基礎を構築しましょう。成長を促進し、コストを削減することは間違いなく実現可能であり、追い求めるべき素晴らしい目標です。しかし、レジリエンスの向上や新たなイノベーションの探索のような他の目標を先延ばしにすると、これらの目標の達成がより困難になる可能性があります。テクノロジーへの投資が重要な領域を強化し、長期にわたりサプライチェーンを再構築し戦略的資産に変えていくことができる領域に目を向けてみましょう。
成長の加速やコスト最適化に対する回答が高いのに比べ、サプライチェーンのテクノロジーへの投資において、レジリエンスの向上が一番の目的だと回答した経営幹部は34%にすぎません。カスタマーサービスの向上(40%)と競争優位の獲得(38%)よりも低い結果でした。おそらくその理由は、経営幹部が全般的に自社組織はすでにサプライチェーンにおけるレジリエンスを改善しつつあると考えているからでしょう。サプライチェーンのレジリエンスの向上に向けたテクノロジーへの投資が効果的であり、混乱に対処するための意思決定が迅速に行われ、起こりうる混乱を低減するためにサプライチェーンを迅速に変更することができると、大多数が同意または強く同意しています。
既存のプロセスとシステムはサプライチェーン上のリスクを適切に管理できていると経営幹部は全般的に考えており、83%が同意する、もしくは強く同意するとしています。ただ、同時に86%が、自社がサプライチェーンのリスクを特定、追跡、測定するためにテクノロジーにもっと投資をすべきという点に、その通り、または全くその通りと回答しています。このことは、どうすればサプライチェーン上のリスクに立ち向かえるかをビジネスリーダーが考えるには、「適切(adequate)」では十分ではないことを示しています。
リスクを扱ううえでの課題はまだ多く残っています。いくつか選択肢を提示されても、おおよそ1/3もしくはそれ以上の回答者が、すべてが重大な課題、もしくは軽微な課題だと回答しました。将来リスクの予測は最も多く、80%が重大な、もしくは軽微な課題と回答しています。
ほとんどの経営幹部が従業員のデジタルスキルに自信を見せていますが、サプライチェーン上の業務に関する意思決定に単独で責任を持つ経営幹部は、他者と影響力を共有している経営幹部よりも強くそのように感じています。
従来のリスクマネジメントで解決しないようにしましょう。リスクに関しては、予測、特定、追跡、測定、回復などニーズが多すぎるため、デジタルへの投資が役に立つ領域を再検討する必要があります。現在のケイパビリティを徹底的にレビューすることで、リスク管理のどの部分が新たなテクノロジーから最も利益を得られるのか明らかにできます。
レジリエンスを刷新する必要がある領域を再評価しましょう。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは重大ではあるものの、近年、新たな方法でサプライチェーンの安定性を試してきた混乱のひとつにすぎませんでした。混乱がもたらす直近の影響に対処し、乗り越えられるものに目を向けましょう。そして、その混乱がサプライチェーンネットワーク全体にどのような影響を与えるかをもっと理解しましょう。
多くの調査回答では、2つのグループの間で回答者の意見が大きく分かれていることがわかります。調査対象の経営幹部のうち、55%がサプライチェーンや調達業務に関するビジネス上の意思決定に単独で責任を持ち、45%がそれらの意思決定に関して他者と影響力を共有しています。複数の領域で断絶が見られるのは、サプライチェーンのデジタル化に関する認識の違いを示しているのかもしれません。
サプライチェーンの業務に関する意思決定に単独で責任を持つ人と、その意思決定に対する影響力を他者と共有する人との間では、主要な領域のいくつかで「強く同意する」「同意しない」の回答に違いが見られます
企業は規制当局や投資家、顧客からESG情報開示をするよう圧力を受けつつあります。環境問題や社会問題がどのようにバリューチェーンに影響を与えるかという点もその中に含まれます。過去1年間で進展はあるものの、ESG関連の問題は今もサプライチェーン部門に課題を投げかけています。
経営幹部はいくつかの領域で改善があると報告していますが、法令・規制枠組みを常に認識すること、ESGに関するサプライヤーリスクを特定すること、マイノリティなどの多様なサプライヤーを優先することが、重大な、もしくは軽微な課題として認識していると答えた回答者は昨年度の調査よりも減りました。しかし、経営幹部の大多数は、ほとんどのESG関連問題を課題だと考えています。また、前回調査に比べると、ESGフレームワークと主要な指標について決定を下すこと、有効な監督・監査体制を確立することが、自社にとって課題であると答えた回答者が増えました。
ESGをサプライチェーンに統合するための最大の課題は、従業員のデジタルスキル不足――80%の経営幹部が重大な、もしくは軽微な課題として認識していると答えた――とデータとデジタルツールの可用性が不十分であること(72%)です。他にも、企業がESG関連の規制要件をまだ評価中であること(72%)や、デジタルに関するESGもしくはサプライチェーンの戦略が不足していることを挙げた回答者もいました。
ESG問題をサプライチェーンの課題だとする経営幹部が減少したことは重要な領域における進展を示唆していると考えられます。
必要最低限を超えるために、シンプルなものから始めましょう。規制要件を満たすことは当然重要ですが、ESGに関する目標の管理と測定は、事業戦略上考慮し、整合させるべきです。これは気が遠くなるような取り組みであり、多くの場合、企業はあまりにも多くのことを早期に実行しようとします。その代わりに、重要な課題から着手し、その進捗状況を確認し、その強固な基盤の上に拡張していくことを検討していきましょう。
ESGの“S”をゼロにしましょう。顧客やベンダー、従業員、その他のステークホルダーは、経済的不平等や社会的不公正のような課題を、企業がその解決に役立つ義務を負っているグローバルな問題だと考えるようなっています。自社がサプライチェーンを通じて実際に影響を及ぼすことができる領域を評価しましょう。
PwC サプライチェーンのデジタルトレンド調査 2023は、2022年11月に305人の経営幹部を対象に行われました。オンライン調査での回答者には、サプライチェーンに関する意思決定について独占的な責任を持つ、もしくは意思決定に対する影響力を他者と共有しているCレベルの経営幹部、その他経営幹部、取締役、管理職、役員が含まれます。調査対象の業種は、消費者市場、エネルギー、公益事業、鉱業、医療、工業製品、テクノロジー、メディア、通信が含まれます。
※本コンテンツは、PwC’s 2023 Digital Trends in Supply Chain Surveyを翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
本レポートでは、世界の大企業の経営幹部673人を対象に、経営の戦略や優先順位を調査しました。COOはAIの活用拡大に強いプレッシャーを感じており、関連する人材の採用・育成に注力する一方で、業務に追われ将来のビジョン策定に注力できていない状況が明らかになりました。
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