
航空サイバーセキュリティの強化 ―EASA Part-ISが求める情報セキュリティ要件―
航空業界は、航空機や関連システムの高度なデジタル化やグローバルなサプライチェーンによる複雑化が進む中、サイバーセキュリティの重要性がかつてないほど高まっています。こうした背景から欧州航空安全機関(EASA)が2023年10月に制定した、情報セキュリティに関する初の規則となるPart-IS(委員会実施規則(EU) 2023/203および委員会委任規則2022/1645)について解説します。
近年、コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻などの大きな混乱によって、多くの製造業がサプライチェーン戦略の見直しを迫られています。
2024年6月7日にPwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)が開催した「Technology Day 2024-生成AIやテクノロジーをビジネスにどう活かしていくか-」のBreakout Session 4では、株式会社LIXIL(以下、LIXIL)のLIXIL Housing Technology 生産本部でサプライチェーン業務プロセス改革リーダーを務める金子雅幸氏をお招きし、「データを生かしたサプライチェーン改革への挑戦―LIXILが取り組むAI需要予測と業務プロセス刷新―」と題し、同社が進めているサプライチェーン改革について講演していただきました。
登壇者
金子 雅幸 氏
株式会社LIXIL LIXIL Housing Technology 生産本部 生産デジタル推進部
サプライチェーン業務プロセス改革リーダー
2011年に国内の主要な建材・設備機器メーカー5社が統合して誕生したLIXIL。今回登壇した金子雅幸氏は、同社の事業部門の中でも、窓や玄関ドア、エクステリア、インテリア建材などの製品を提供するLIXIL Housing Technologyに所属しています。
「当部門の製品が使用される住宅などの新築着工件数は減少傾向にあり、リフォーム市場への注力でカバーする一方、製品の安定供給や、モノづくり力の強化、物流の最適化といった変革の実践によって、機会ロスの低減や利益の最大化を追求しています。私が担当するAIなどのテクノロジーを駆使したサプライチェーン改革も、そうした取り組みの1つです」と金子氏は語り始めました。
LIXIL Housing Technologyが改革に動き出したのは、ここ数年、サプライチェーンにまつわるさまざまな課題や脆弱性が露呈したからだといいます。
「まず、コロナ禍の影響で特定の資材や原材料の調達遅延が発生したり、サプライヤーの撤退によって調達ルートの変更を迫られたりするなど、資材調達リスクが増大しました。最近では、2024年1月に発生した能登半島地震の影響で当社の材料工場の設備が損傷し、一部の部材の供給が一時的に停止しています。このように、突発的な事態で資材供給網が断絶すると、即時復旧ができないといったレジリエンスの低さが課題として浮かび上がりました。これは当社だけでなく、多くの製造業が直面している課題ではないでしょうか」と金子氏は問い掛けました。
さらに、「需要の急激な増加への対応力が不足していることも、大きな課題でした」と金子氏は振り返ります。
例えば、国策として推進された「先進的窓リノベ事業」により、同社が販売する内窓リフォーム商品の受注が急増。想定以上の注文の多さに対応し切れず、製品納期を大幅に延長せざるを得なかったという苦い経験があったといいます。
これらの課題を解決するには、サプライチェーンの全体状況を最小在庫管理単位(SKU)で可視化し、状況に応じてリスク要因を特定してシミュレーションを行い、影響範囲を把握した上でアクションプランを策定する仕組み作りが不可欠だと金子氏は考えたそうです。
「具体的な仕組みとして、AIを活用した需要予測と、それに基づいて需給計画を策定するサプライチェーンプランニング(SCP)を連携させたデジタル基盤の構築を目指しました。私はデジタルやAIに関する知識は全くありませんでしたが、必要なスキルは必要に迫られたら何とかなるというのが信条。改革の推進役を拝命したことをきっかけに、ゼロから勉強を始めました」と経緯を明かしました。
LIXIL Housing Technologyは、サプライチェーン改革のためのデジタル基盤構築を、ステップを踏みながら進めています。まず2022年に始めたのは、AI需要予測ソリューションの構築です。
金子氏が目指したのは、全ての製品の需要を、230万件以上にものぼる製品SKU単位で予測できるソリューションの実現でした。「以前は、粒度の粗い品種別計画(約2万件)を過去のSKU構成比率を使って細分化し、製品SKU単位の販売計画を策定していました。しかし、このやり方だとSKUごとの実際の需要動向を見落とし、過剰生産や販売機会ロスにつながる恐れがありました。そこで、個々のSKUごとの需要動向を精緻に把握できるようにするため、AI需要予測ソリューションを構築することにしたのです」
AIに関する知識が全くなかった金子氏は、大学の研究者に協力を仰ぎ、知識を一から学ぶ一方、ソリューション導入にあたっての課題を一緒に検討しました。
「まとめると、『万能な予測モデルは存在しない』『予測精度とパフォーマンスはトレードオフの関係にある』という2つの大きな課題があることが分かりました。モデルの設定に手を加えるほど予測の精度は高まりますが、その分、処理速度が遅くなるのでバランスを考慮しなければならないということが分かったのです」(金子氏)
これらの課題を整理した上で、金子氏は概念実証(PoC)を実施するベンダーの選定に着手。9社に及ぶベンダーと100時間を超えるセッションを行った末に、最終的に選んだのはPwCコンサルティングでした。
金子氏は、PwCコンサルティングを選定した理由について、「実用性・拡張性・ハンドリングなど、12の要求項目に対する総合評価点がナンバーワンだったことに加え、セッションでこちらから問い掛けたことに、エンジニアの方が淀みなく答えてくれた点を高く評価しました」と明かしました。
2022年3月からのPoC期間を経て、同社は同年9月、通常品の需要を予測するAIソリューションの先行リリースに漕ぎ着けます。同社の製品は通常品とモデルチェンジ品の2つに大別されますが、モデルチェンジ品は、予測のための販売実績データが旧モデルと新モデルの間で途切れるため、新旧データを合算してAIに分析させるという手間が生じます。そのため、手間の少ない通常品の需要予測からスタートさせたといいます。
PwCコンサルティングは、先ほど金子氏が挙げた「予測精度とパフォーマンスはトレードオフの関係にある」という課題を踏まえ、学習期間が長く、データ充填率(密度)の高い商品については予測精度の高さを優先し、学習期間が短く、充填率が低い商品については処理速度を優先する予測モデルが自動的に割り当てられるように工夫を凝らしました。
「データ特性に応じてその都度、最適なモデルが選定されるので、つねに最新データを反映した予測が可能になります。すでに稼働して2年近くが経過していますが、導入前と導入後で需要予測の誤差率が明らかに低減するなど、一定の成果が表れています」と金子氏は評価しました。
さらに2023年1月には、モデルチェンジ品の需要を予測するAIソリューションもリリース。金子氏は、「リリース後も順次機能を追加し、少しずつ予測精度が上がってきています。今後ますます進化を遂げていくでしょう」と語りました。
LIXIL Housing Technologyは、AI需要予測ソリューションに続いて、SCPソリューションの開発にも着手しています。AIが導き出した需要予測を基に、生産計画を策定するためのソリューションです。
金子氏は、SCPソリューションについて「需要予測の粒度を製品SKUまで下げたので、計画立案の粒度もSKUにこだわりました。膨大なデータ処理が必要なため、選定の際にはパフォーマンス(処理速度)の高さを最も重視しました」と説明します。
最終的に選んだソリューションは、比較検討したERPと比べて50倍ものパフォーマンスを発揮したそうです。
同社は、工場ライン別の月次生産計画については、既存のシステムを利用していましたが、この既存システムとSCPソリューションを連携させることで、前者で策定した月次生産計画とAI需要予測を基に、後者で製品SKU別の日次生産計画を策定できるようにしました。そして、戦略的な意図をもって策定したライン別のマクロ計画とSKU別のミクロ計画を月次と日次の時間軸で綿密に整合性を持たせて繋げることにより、個々のSKU計画に戦略を反映することができたといいます。
「具体的な計画立案の順序としては、まず、海外工場における最低在庫補充のための生産計画を作成し、次に需要変動を平準化するための生産計画を策定しました。さらに、海外からの輸送中に発生する欠品量を計算し、国内工場がバックアップ生産する計画を作成するという流れです。この計画プロセスを製品SKUごとに日次、または週次サイクルで更新することで、総在庫量を適正に維持しながら製品を効率的に安定供給できる体制の構築を目指しました」と金子氏は説明しました。
また、海外工場が生産した製品のうち、在庫補充分についてはAI需要予測に基づいてSCPソリューションが送り先を自動的に振り分け、国内の各物流センターに直接輸送される仕組みを構築。これによって、物流センター間で不足する在庫をやり取りする「横持ち輸送費用」を削減できることを実地試験で確認しました。金子氏は「必要な量の製品を需要地に効率よく供給できるようになったことで、物流コストの削減とともに、納期短縮も実現しました」とその効果について語っています。
ちなみにLIXIL Housing Technologyは、このSCPソリューションを、ほとんどノンカスタマイズで導入しています。独自施策を展開する際には、実現したい業務プロセスとソリューションの標準機能の間にはギャップがあるものですが、既存システムとの連携や内製化によって解決し、原則カスタマイズは加えなかったといいます。
その理由について、金子氏は「開発時間の短縮や開発コストの削減、バージョンアップに即時対応できるといったメリットもありますが、内製化などの独自ノウハウを蓄え、他社との差別化を図ることが大きな狙いでした」と明かしました。
なお、同社は一連のサプライチェーン改革によって「新商品欠品数を30%削減」「旧商品廃棄ロスを35%削減」「外部倉庫費用を50%削減」などのKPIの達成を見込んでいます。
金子氏は、「今後、SCPソリューションをサプライヤーにも展開する一方、利益を最大化するプロダクトミックスの販売計画を策定するなど、さらなる活用を検討していきます。さらに、輸送効率の最適化によってCO2排出量の削減にも貢献し、サステナビリティへの取り組みにも結び付けていきたい」と抱負を語り、講演を締めくくりました。
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