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日本企業がデータドリブン経営を実現するための“処方箋”とは
──PwC グローバル メガトレンド フォーラム 2020より

経営にデータを有効活用する重要性は、もはや議論の余地がないほど明確だ。しかし、多くの企業において、その実践と実現の前に課題が山積している。2020年2月26日に開催された「PwC グローバル メガトレンド フォーラム 2020」でのセッションの1つ「データドリブン経営の実現」では、PwC Japanグループのデータアナリティクス部門およびAI Labのリーダー、ヤン・ボンデュエルがファシリテーターを務め、データドリブン経営に関わる6つのテーマに沿って議論が交わされた。1つはデータドリブンそのものの「定義」、2つ目は「アクセル」、すなわちデータ活用を浸透させるための「推進力」について。その後、「チャレンジ」「カルチャーチェンジ」「ビジネスリーダーの役割」「AI」と議題が展開された。

セッションに登壇したパネリストは、日本コカ・コーラ株式会社(以下、コカ・コーラ)のCDO(最高デジタル責任者)石井恵三氏、コネクテッドカー開発に携わる本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)IT本部コネクテッド開発部の箕輪聡氏、オリックス株式会社(以下、オリックス)でデータ&デジタルイノベーションを担当するデミヨン・ハウレット氏、そしてPwCあらた有限責任監査法人(以下、PwCあらた)でAIやデータを活用した監査業務改革に取り組む久保田正崇、同法人でクライアント企業のデジタル化のガバナンスなどを担当する宮村和谷の5名だ(肩書は掲載時点のもの)。当セッションではライブ配信を視聴している参加者へのオンラインアンケートを3回実施し、その結果をリアルタイムで紹介しながら、日本のデータドリブン経営の現状を探った。

データドリブン経営を推進する組織文化とリーダーの変革

続いて、議論はデータドリブン経営から価値を生み出すための「カルチャーチェンジ」に進んだ。ハウレット氏は「とにかく始めることが、一番大切」だと切り出す。

組織文化を変えるためにはまず、スモールスタートで小さな成功事例を積み重ね、それを組織に周知させ、ビジネスサイドからの信用を得ることです。そうすればデータドリブンに向けた組織文化というのは劇的に変わっていくと思います。当社ではデータに対するガバナンスとプロジェクトの遂行に関する議論を重ねました。その過程で、リソースが限られる中、早期にデータガバナンスの問題にフォーカスしすぎると、何も達成できないということに気づきました。そこで初期段階においてはあえてデータガバナンスには重きを置かず、短期的な価値を生み出すためのプロジェクトの遂行に集中し、データガバナンスには後から取り組むという方針を取ったのです。“プロジェクト遂行優先メソッド”を採用することにより、データドリブンに対する障壁を下げることが重要だと思います」(ハウレット氏)

一方で箕輪氏は、「データサイエンティストだけでデータ活用に取りかかることにはやや危機感を覚える。何のために、誰のためにデータを活用していくのかという目的を置き去りにしてデータと向き合うのは望ましくない。必ずしもデータサイエンティストだけでは作ることのできない経営ビジョンとセットで進めていくことが必要」だと補足する。

では、そうした組織をまとめる「ビジネスリーダーの役割」とは何か。石井氏は「データは流動性のあるもの。迅速にテスト・アンド・ランを繰り返すフレームワークを社内に作ることが求められる」と助言する。

「データを用いてこのアクションを取ってみてダメだった、このアクションはうまくいったというのを繰り返していかなければなりません。私も過去に経験がありますが、このテスト・アンド・ランをせずに失敗すると、“1円を稼ぐ前にモンスターを作ってしまう”ことになります。その後、減価償却コストに何年も苦しむというのはよくある話です。そうなる前に小さくテストをして、成功したら追加投資をするというフレームワークを作ることが大切だと思います」(石井氏)

これに対しボンデュエルは、「スモールスタートは有効である一方、弊害もある。互いに関係性のない小規模なプロジェクトを推進するだけで終わってしまいがちだ」と指摘。小規模な個別のプロジェクトにとどまっている限り、全社的な変革は実現できない。また、戦術的な結果は得られるかもしれないが、大きなインパクトの創出にはつながらない。宮村も「個々の取り組みから生まれるビジネス上の価値をプロファイルし、その活用先を定義しておくことが重要だ」と述べた。

一方「リーダーがやってはいけないこと」として、箕輪氏は「データに無理やり意味づけをしてしまうこと」を挙げる。例えばホンダではデータありきではなく、「車を購入されるお客様とホンダをどういう関係にしたいのか」を起点にしているという。顧客との間にどんな関係性を築きたいかによってユースケースが決まり、そのために必要なデータ、ITインフラが変わるというのが箕輪氏の見解だ。

小さな取り組みと大きなビジョン、短期的なソリューションと長期的な戦略のバランスが求められるという議論を踏まえ、ボンデュエルはデータドリブン経営の実現に向けたフレームワークを紹介(下図参照)。データドリブン経営実現までの全過程をアウトソースすることで得られる長期的な利点については懐疑的だと述べ、ハウレット氏も「アジャイルに分析を進めるためにも社内にケイパビリティを持つことが望ましい」と同意した。

PwCが提案する データドリブンな組織づくりのためのフレームワーク

PwCが提案するデータドリブンな組織づくりのためのフレームワーク

石井 恵三 氏

石井 恵三 氏

日本コカ・コーラ株式会社
CDO(最高デジタル責任者)

25年以上にわたり、アジア太平洋地域において、AIG、アマゾン、AOL等の企業でデジタルやEコマース事業に従事。前職はエクスペディア・ジャパンの代表取締役社長を務め、在職中にビジネス規模を3倍以上へと急成長させた。2019年より日本コカ・コーラ株式会社CDOとして、日本におけるコカ・コーラのデジタル戦略全体を統括する。

箕輪 聡 氏

箕輪 聡 氏

本田技研工業株式会社
IT本部 コネクテッド開発部 サービス開発課 課長

エレクトロニクスメーカーでファームウェア実装を経験し、2000年に本田技研工業に入社。車載オーディオのシステム統合や車載アプリ開発に従事し、初代S660では電装領域のプロジェクトリーダーを務めた。現在、コネクテッドカーの対車両サーバーや車両情報活用スマートフォンアプリの開発を行っている。

デミヨン・ハウレット 氏

デミヨン・ハウレット 氏

オリックス株式会社
グループ戦略部門管掌付
データ改革部・デジタルイノベーション促進部

オリックスグループにおける事業課題解決や新事業創出に向けたデジタルトランスフォーメーション推進を担う。データの有効活用のための高度データ分析やデジタル技術活用の企画と実装支援に取り組んでいる。

久保田 正崇

久保田 正崇

PwCあらた有限責任監査法人
執行役専務 パートナー

1997年青山監査法人入所。2002~2004年までPwC米国シカゴ事務所に駐在し、現地に進出している日系企業に対する監査、ならびに会計・内部統制・コンプライアンスに関わるアドバイザリー業務を経験。帰国後、2006年にあらた監査法人(現PwCあらた有限責任監査法人)に入所。国内外の企業に対し、特に海外子会社との連携に関わる会計、内部統制、組織再編、開示体制の整備、コンプライアンスなどに関する監査および多岐にわたるアドバイザリーサービスを得意とする。2019年9月に執行役専務(アシュアランスリーダー/監査変革担当)に就任。監査業務変革部長、会計監査にAIを取り入れ監査品質の向上や業務効率化を目指すAI監査研究所副所長を兼任。

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専門領域

宮村 和谷

宮村 和谷

PwCあらた有限責任監査法人 パートナー

金融事業の立ち上げ支援、デジタルバンク化・システム更改戦略の検討支援、管理会計・データアナリティクスの高度化支援、IT・データガバナンス強化支援、デジタルトランスフォーメーションガバナンス支援、ブロックチェーン等エマージングテクノロジーを用いたビジネスモデル設計・構築支援、組織・カルチャー変革支援等を手がける。経済産業省のDX推進指標等を検討した「『見える化』指標、診断スキーム構築に向けた全体会議」委員。

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専門領域

ヤン・ ボンデュエル

ヤン・ボンデュエル

PwCコンサルティング合同会社 パートナー
PwC Japanグループ データ&アナリティクス リーダー
AI Labリーダー

25年以上にわたり、クライアントの戦略決定や業務改善をデータ分析のアプローチから支援し、特にデータ&アナリティクスチーム設立と変革支援を専門とする。2013年よりPwC英国のコンサルティング部門にてデータ&アナリティクスチームを統括。2017年に来日し、現在はPwC Japanグループのデータ&アナリティクス部門をリードしている。

※ 法人名、役職、本文の内容などは掲載当時のものです。

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