現場を変えるチェンジマネジメントの方法とは 第1回 業務・システムが標準化・定着化しないワケ

2021-04-20

「せっかくシステムを導入したのに活用されず、業務もバラバラなままで効果が出ない」。多くの企業が、こういった悩みを抱えています。いくら現場に対して声高に叫び丁寧に説明しても、その意図や目的を納得感のある形で適切な対象者に理解してもらえなければ、解決できません。何が問題で、どうしたら解決できるのか。本稿では、真に効果のあるチェンジマネジメントプログラムの考え方と具体的な方法を解説します。

現場業務がバラバラ、システムも使われない

「せっかく投資してSFA(Sales Force Automation)やCRM(Customer Relationship Management)を導入したのに、現場で使ってもらえず効果が上がらない」「業務の進め方やシステムの使い方がばらばらで、現場が何をしているのかを把握できない」。このような悩みを抱えている方はいらっしゃいませんか?現にPwCでは、このような悩みをお持ちのお客様からご相談をいただくケースが後を絶ちません。そして、このような企業においては、いわゆる「チェンジマネジメント」施策が実施される場合がありますが、期待したような効果を上げられないという声も多く聞かれます。なぜ、このようなことが起こってしまうのでしょうか?

なぜ業務・システムは、標準化・定着化しないのか

SFA/CRMを導入し期待通りの効果を得られた企業は多くありません。それは主に、現場における以下の3点が原因となっていることが多いです。

①「自分流」への固執、②システムに対する抵抗感、③マネジメント不全(Just Looking)

①「自分流」への固執は、「長年の経験と勘で売れるから大丈夫」「マニュアルなんて必要ない」といった、自身が正しいと思うやり方を変えようとしないことが原因です。一定の成果をあげているベテラン社員に多く見られます。②システムに対する抵抗感は、「システムの使い方が分からない」「手帳のほうが便利」という拒否反応に加えて、「システムを使うとコミュニケーションが減る」という思い込みから生じます。こちらも、ベテラン社員に多く見られます(デジタルネイティブの若手社員のほうが、抵抗感なくスムーズに受容します)。③マネジメント不全(Just Looking)は、「必死で営業しろと言えば現場はなんとかする」「マネジメントは数字を見ていれば良い」というマネジメントの実質的な機能不全に陥っている管理職によく見られます。このような現場の意識や行動が、業務・システムの標準化・定着化の阻害要因となっているのが実情です。

また、業務フロー・ルールは「そのやり方では売れない無用の長物」、システムは「仕事を増やす厄介なもの」としてとらえられる傾向にあります。なぜなら、それらが存在しなくても業務が成立するからです。例えば、売上を適切に計上するための業務・システムは営業活動に不可欠なものであり、自身の業績や評価に直結するため、現場にとっては必要なものとして受けとめられます。しかし、商談プロセスを定義する業務フローや、顧客情報を事細かに入力するためのシステムは、自分たちの業績や評価に直結せず、むしろ余計な業務を増やすものであるという認識を持たれがちです。このような状況に対し、チェンジマネジメントを掲げ業務フローやシステムの詳細な説明を実施しても効果はありません。また、評価と結び付けた「強制力」のみを発動しても、現場が本質的な意義・目的を理解していないために、本来想定していた業務プロセスやシステム活用がなされず、効果に直結しにくいのです。

本来想定していない 業務プロセスやシステム

現場のマネジメント層にどのように理解してもらうか

現場が正しいシステムの使い方による正しい業務プロセスを実施するためには、それらが売上や利益の向上に大いに貢献するものである、という認識を形成する必要があります。そしてここで押さえるべきは、その対象が、現場の末端の営業担当者ではなく、むしろ現場のマネジメント層という点です。どのような顧客攻略計画を立てているのか、顧客と何を話しているのか、商談の確度や見込はどの程度か、予算に対してあとどのくらい必要なのか。このような観点でマネジメント層がモニタリングを実施し、必要な指示や助言を配下の営業担当者に実施するために、SFAやCRMのシステムと付随する業務プロセスが存在するのです。

しかしこのような認識を、納得感を持って現場のマネジメント層に認識してもらうことは容易ではありません。現場のマネジメント層の多くは、自身も若いころから営業担当者として実績を積み重ねてきており、(SFAやCRMを活用しない)自分なりのやり方を有している場合が多いからです。では、どうしたら良いのでしょうか?その答えは、営業戦略の提示です。

業界の変化とあるべき営業・販売活動の姿を語る

近年、テクノロジーが急速に発展し、それに伴って新たなビジネスモデルが次々と開発されています。例えば、MaaSの進展により車を「シェア」するモデルが広まり、自動車関連企業は商品・サービスや販売チャネル戦略の転換を余儀なくされています。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響で、消費者・企業の価値観や行動様式は急速に変化しています。これにより、今まで直接購買されていた商品が、eコマースを活用した購買へとますます変化していくことでしょう。このような状況において、これまでの営業戦略で売上を維持・拡大することは困難です。新たな商品・サービスの営業・販売戦略が必要となるのはもちろんですが、そのためには市場・顧客の変化を敏感にとらえ、顧客とのより強固なリレーションを構築することが不可欠となります。

営業現場は、このような顧客の変化に誰よりも敏感です。顧客のニーズが急速に変化し、これまでのやり方では売れなくなってきているのを“肌感覚”で理解しています。しかし、営業現場がこれからどのような変化が起こり、どのように営業活動を変えていくべきかを考え、会社全体の戦略を立案することは困難です。だからこそ営業現場には、これから業界がどのように変わっていくのか、売上を維持・拡大するためには何をすべきかを提示することが必要であり、効果があるのです。

業界の変化によってもたらされるのは、顧客チャネル構成の変化、市場の縮小、競争環境の激化等です。特にこれまで比較的変化が少なかった業界ほど、この傾向は強くかつ急速に起こります。例えば、フィルムカメラがデジタルカメラに取って代わり、さらにスマートフォンの普及によりデジタルカメラでさえ需要が落ち込みました(デジタルカメラの市場規模は2007年の2,700億円をピークに2015年には1,200億円と半減)。この変化はわずか10年程度で起こっているのです。そして、その変化のスピードは指数関数的に上がっていきます。

まず必要なのは、このような変化が自分たちの業界にも起こるのだということを、営業現場のマネジメント層に理解してもらうことです。どのようなプレイヤーがどのようなビジネスモデルを持ち込んでいるのか、どの程度市場規模が変化するのか、どの程度競争が激化するのかを定量的なデータで示すことで、危機感を形成します。また、生産年齢人口の減少と人材流動化により、これまでのようなリソースを維持できなくなることを伝えることも必要です。さらに、働き方改革やCOVID-19の影響により、今後はリモートでの営業・販売活動を余儀なくされることもポイントです。

続いて、このような変化にともなう市場の縮小や競争の激化、リソースマネジメントの必要性が生じることによる営業活動の高度化の必要性を認識してもらうことも重要です。営業活動の高度化とは、精緻な営業計画に基づいた営業活動を実施し、個々の顧客のニーズや商談状況をより細かく把握・マネジメントすることで、顧客当たりの売上を向上させていくことです。このために必要なのは、マクロなPDCAとミクロなPDCAを高速かつ高度化させた形で循環させていくことです(下図参照)。

マクロなPDCAと ミクロなPDCA

営業活動のマネジメントにおいて最も重要なことは、実態に即した正確な目標を立てたうえで、対予算との正確な実績・見込のGAPを定常的に把握し、必要に応じて追加の戦略・施策を迅速に実行することです。そしてそのためには、日々の営業活動における定量・定性的な顧客情報が不可欠なのです。このことを営業現場のマネジメント層が理解することで、配下のセールスマンに対し、業務の標準化とシステムの活用を促す動機づけを行うことができます。この理解なしに業務・システムの操作方法や「強制力」を伴うチェンジマネジメントを実施しても、本来期待しているような業務・システム活用は実現されません。

PwCのチェンジマネジメントプログラム

PwCでは、本稿でご紹介したような内容をチェンジマネジメントプログラムとしてサービス化しました。個々の企業の業務標準化・システム定着化を阻む原因を診断ツールによって分析し、企業が置かれた状況や業界、業務プロセスに即した標準化・定着化の施策をカスタマイズして提供します。さらに、平易かつ楽しみながら理解できるコンテンツの作成やワークショップの準備・実施、アフターフォロー施策の立案・実行までを一貫して支援するプログラムです。第2回では当該プログラムにおける営業業務診断の方法や具体的なコンテンツ作成・ワークショップ等の考え方、第3回ではこのプログラムによって飛躍的なシステム活用率の向上を遂げた消費財メーカーの事例についてご紹介します。

本稿は、SalesZineにて2020年12月3日付で掲載された記事を転載したものです。

執筆者

奥山 友貴

マネージャー
PwCコンサルティング合同会社

2010年に国内シンクタンク系コンサルティング会社に入社。主に食品メーカーや消費者向けサービスの業種において、新規事業企画、CRM関連の業務・システム改革構想策定のプロジェクトに多数従事。

2016年にPwCコンサルティングに転職後は、金融・インフラ・通信・モビリティ等の多様な業界において新規事業企画、マーケティング戦略立案、営業改革等のプロジェクトに従事。昨今は消費財メーカー・販社に対する営業戦略立案・営業業務改革のほか、営業関連の業務高度化やシステム定着化を目的としたチェンジマネジメントのプロジェクトに従事し、PwC独自のチェンジマネジメントサービスの企画を主導している。

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

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