【第6回】 有価証券報告書への記載は?

※本稿は、2023年6月1日号(No.1678)に寄稿した記事を転載したものです。
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※法人名、役職などは掲載当時のものです。

この記事のエッセンス

  • 脱炭素化の動向は、企業の情報開示にも影響を与えている。企業情報の開示、特に記述情報の開示の充実が進み、その有用性は着実に高まっている。企業経営や投資家の投資判断におけるサステナビリティの重要性の急速な高まり、および企業のコーポレート・ガバナンスに関する議論の進展など、大きな変化が生じている。改正開示府令の公表の結果、気候変動関連の情報は、新設されたサステナビリティに関する考え方および取組みについての記載が要求される。
  • 好事例集2022は、気候変動関連等の記載に関する、投資家およびアナリストが期待する主な開示のポイントについて「TCFD提言に沿った開示を行うにあたり、財務情報とのコネクティビティを意識し、財務的な要素を含めた開示を行うことは有用」としている。重要な点は、気候関連情報と財務諸表により提供される財務情報との連携と整合性である。英国において実施された、監督当局によるレビューにおいてもこの点の指摘がされている。

はじめに

有価証券報告書においてサステナビリティ情報の開示が義務化されるなど、カーボンニュートラルを目指した脱炭素の取組みが待ったなしの状況となっている。経理部門は、気候関連の情報開示やグリーンボンドによる資金調達など、脱炭素の取組みに関与する機会が増えると予想され、ある程度の知識が必要となる。しかし、伝統的な財務会計に基づく情報の開示とは異なる分野であるため、理解が進みにくい状況にあると推察される。

そこで、脱炭素の基礎的な事項および経理部門に関連する事項を、わかりやすいQ&A形式で解説していく。第6回は、有価証券報告書における記載について解説する。なお、文中の意見に係る記載については、筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。

Q1 有価証券報告書で何を開示しなければならないのか

開示府令が改正され、有価証券報告書で、サステナビリティ情報に関する取組みを開示しなければならなくなったと聞いた。脱炭素に関しては、何を開示しなければならないのか。

脱炭素化の動向は、企業の情報開示にも影響を与えている。たとえば、有価証券報告書へ、気候関連財務情報開示タスクフォース(以下、「TCFD」という)による最終報告書であるTCFD提言の考え方に沿った記載が求められるといった状況が挙げられる。東京証券取引所が定めたコーポレートガバナンス・コードのなかでは、TCFDまたは同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実の推進や、取締役会による自社のサステナビリティをめぐる取組みについての基本的な方針の策定が求められる。

以下、有価証券報告書における開示について、どのような内容が求められているかの概要や最近の動向について説明する。

(1)開示府令の改正の背景

企業情報の開示を取り巻く経済および社会情勢をみると、企業経営や投資家の投資判断におけるサステナビリティの重要性の急速な高まり、および企業のコーポレート・ガバナンスに関する議論の進展など、大きな変化が生じている。加えて、「新しい資本主義」の実現に向けた議論において、現在の資本主義経済が抱える、持続可能性の欠如、中長期的投資の不足、気候変動問題の深刻化といった課題が識別されている。このため、資本市場の機能発揮を促すとの観点から、企業情報の開示のあり方の検討が求められている。

金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(以下、「DWG」という)では、中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向け、サステナビリティに関する企業の取組みの開示、充実の施策や四半期開示の見直しに係る施策等を取りまとめ、2022年6月に報告を公表した。

(2)開示府令の改正の概要

金融庁は、記述情報の充実を図るため、2023年1月31日に改正「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、「改正開示府令」という)を公表し、サステナビリティに関する企業の取組みの開示、コーポレート・ガバナンスに関する開示およびその他の事項に関する開示府令の改正を行った。また、記述情報の開示に関する原則における追加についても公表した。

記述情報とは一般に、法定開示書類において提供される情報のうち、金融商品取引法193条の2が規定する「財務計算に関する書類」において提供される財務情報「以外」の情報を指す。金融庁は、「記述情報の開示に関する原則」を公表しており、記述情報のうち、特に経営方針・経営戦略等、経営成績等の分析、リスク情報について開示の考え方を整理している。これら以外の記述情報の記載にあたっても、この原則を踏まえた、より実効的な開示が期待されている。

記述情報の開示に関する原則は、企業情報の開示に関する前記提言を踏まえ、財務情報以外の開示情報である記述情報について、開示の考え方、望ましい開示の内容や取り組み方を示し、新たな開示事項を加えるものではない。経営者、作成事務担当者、IR担当者等、開示書類の作成および公表に関与する者は、この原則に沿った開示が実現しているか、自主的な点検の継続が期待されている。また、この原則は、投資家が企業との対話を行う際において利用することも有用と考えられている。

今回の改正は、細かな事項を規定せず、各企業の現在の取組状況に応じて柔軟な記載が可能な枠組みとされている。2021年のコーポレートガバナンス・コード改訂により要請された開示を、有価証券報告書に記載する対応も考えられている。各企業の取組状況に応じて、2023年3月期の有価証券報告書の開示を開始し、その後、投資家との対話を踏まえ、自社のサステナビリティに関する取組みの進展とともに、有価証券報告書の記述情報の開示を充実する対応が考えられる。

① 改正開示府令の概要

改正開示府令により、記載が追加される項目の概要は、次頁図表1のとおりである。

改正開示府令の公表の結果、気候変動関連の情報は、新設された「サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載が要求される。これまで、気候変動関連の情報は、記述情報として、「経営方針、経営環境及び対応すべき課題等」や「事業等のリスク」に記載されていた。今回の改正における記載欄の新設により、利用者の利便性の向上が図られたといえる。

図表1 改正開示府令の概要図

② サステナビリティ情報の開示における考え方

DWGの報告で提言されたサステナビリティ情報の開示についての期待等を踏まえて、サステナビリティ情報の開示における考え方および望ましい開示に向けた取組みを取りまとめ、記述情報の開示に関する原則の別添が公表された。

気候変動関連の情報に関する項目についての考え方の要約は、次頁図表2のとおりである。
なお、これらの情報の記載については、次の点に留意する必要がある。

  • 当年度の有価証券報告書について、開示府令が求める開示事項を開示している場合には、翌年度以降、その開示内容を拡充しても、当年度の有価証券報告書について虚偽記載等の責任を負うものではないと考えられている。
  • サステナビリティ情報は、見積りによる将来情報を含んでいる。記載した将来情報と実際の結果とが異なる場合でも、一般的に合理的と考えられる範囲で具体的な説明が記載されている場合には、ただちに虚偽記載等の責任を負わないと考えられている。

図表2:気候変動関連の情報に関する項目の考え方

  • 「サステナビリティに関する考え方及び取組」は、企業の中長期的な持続可能性に関する事項について、経営方針
  • 経営戦略等における記載内容との整合性を意識して説明する。
  • 「ガバナンス」、「リスク管理」、「戦略」、「指標及び目標」の4つの構成要素に基づく開示が必要とされるが、具体的な記載方法は詳細に規定されていない。構成要素それぞれの項目立てをせずに、一体として記載する取扱いも可能であるが、4つの構成要素のどれについての記載なのかが理解できるような記載を行う対応は、利用者にとって有用である。
  • 「ガバナンス」と「リスク管理」は、すべての企業に開示が求められる。これは、企業において、自社の業態や経営環境、企業価値への影響等を踏まえ、サステナビリティ情報を認識し、その重要性を判断する枠組みが必要となる観点からの要求である。
  • 「戦略」と「指標及び目標」は、開示が望ましいものの、各企業が「ガバナンス」と「リスク管理」の枠組みを通じて重要性を判断して開示する対応が求められる。
  • 気候変動関連の情報についても、前記の枠組みで、その開示の要否を判断する必要がある。

③ 参照

(a)他の公表書類の参照

有価証券報告書の記載内容を補完する詳細情報について、統合報告書、データブック等の他の公表書類の参照も可能とされている。有価証券報告書の記載内容を補完する詳細情報として、前年度の情報が記載された書類や将来公表予定の任意開示書類を参照する取扱いも考えられる。将来公表予定の書類を参照する際は、公表予定時期や公表方法、記載予定の内容等もあわせて記載する対応が望まれる。

これに対し、各企業において、投資者の投資判断上、重要であると判断した事項については、有価証券報告書に記載する必要がある。このため、有価証券報告書の「サステナビリティに関する考え方及び取組」では、直近の連結会計年度に係る情報を記載する必要があるとされている。その記載にあたって、情報の集約および開示が間に合わない箇所がある場合等においては、概算値や前年度の情報を記載する対応も考えられる。この場合には、概算値である旨や前年度のデータである旨を記載し、投資者に誤解を生じさせないようにする必要がある。また、概算値を記載した場合であって、後日、実際の集計結果が概算値から大きく異なる等、投資家の投資判断に重要な影響を及ぼす場合には、有価証券報告書の訂正を行う対応が考えられる。

なお、参照先の書類に明らかに重要な虚偽記載がある事実を知りながら参照するなど、当該参照する旨の記載自体が有価証券報告書の重要な虚偽記載になり得る場合を除けば、単に任意開示書類の虚偽記載のみをもって、金融商品取引法の罰則や課徴金が課される結果にはならないと考えられている。

(b)ウェブサイトの参照

ウェブサイトを参照する対応も考えられるが、その際は、次のように、投資家に誤解を生じさせないような措置が考えられる。

  • 更新の可能性がある場合は、その旨および予定時期を有価証券報告書等に記載したうえで、更新した場合には、更新箇所および更新日をウェブサイトにおいて明記する
  • 有価証券報告書等の公衆縦覧期間中は、継続して閲覧可能とする

④ 任意の保証

企業が、サステナビリティに関連する情報について、任意で保証を受けている場合が想定される。この場合の記載としては、投資家の投資判断を誤らせないように情報を開示する対応が必要である。たとえば、保証業務の提供者の名称、準拠した基準や枠組み、保証対象、保証水準、保証業務の結果、保証業務の提供者の独立性等についての明記が重要と考えられる。

(3)サステナビリティ情報の望ましい開示に向けた取組み

① 望ましい開示に向けた取組み

今回の改正開示府令の公表に際し、サステナビリティ情報の望ましい開示に向けた取組みについても取りまとめている。図表3は、その要約である。

図表3:サステナビリティ情報の望ましい開示

  • 企業が、業態や経営環境等を踏まえ、重要であると判断した具体的なサステナビリティ情報について、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標及び目標」の4つの構成要素に基づく開示が求められている。
  • 「戦略」と「指標及び目標」について、各企業が重要性を判断したうえで記載しない取扱いとした場合でも、当該判断やその根拠の開示が期待される。
  • 国内における具体的開示内容の設定が行われていないサステナビリティ情報の記載にあたって、たとえば、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたは、それと同等の枠組みに基づく開示をした場合、適用した開示の枠組みの名称の記載が考えられる。
  • 企業にとって、気候変動への対応が重要である場合、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標及び目標」の枠で開示するべきである。
  • 温室効果ガス(GHG)排出量に関しては、投資家と企業の建設的な対話に資する有効な指標となっている状況に鑑み、各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提する。特に、スコープ1とスコープ2のGHG排出量について、企業による積極的な開示が期待される。
② 重要性

重要性については、各社において、「ガバナンス」と「リスク管理」の枠組みを通じて判断する必要がある。2019年3月公表の「記述情報の開示に関する原則」では、「重要性は、投資家の投資判断にとって重要か否かにより判断すべき」とされ、その重要性は「その事柄が企業価値や業績等に与える影響度を考慮して判断することが望ましい」とされている同原則2-2が参考になると考える。

サステナビリティ情報については、現在、国内外において、開示の基準策定やその活用の動きが急速に進んでいる。サステナビリティ情報の開示における「重要性(マテリアリティ)」の考え方を含めて、今後、国内外の動向も踏まえつつ、本原則の改訂対応が予定されている。

(4)開示例(好事例集2022における気候変動関連等の記載)

金融庁は、改正開示府令の公表と同時に「記述情報の開示の好事例集2022」(以下、「好事例集2022」という)を公表した。好事例集2022は、投資家、アナリスト、および企業による開示の好事例に関する勉強会で議論された開示例を取りまとめている。そして、改正開示府令において新たに求められている有価証券報告書の記載項目(気候変動を含むサステナビリティ情報に関する開示等)に関し、今後の開示の参考となる事例も掲載している。

① 全般に関するコメント

好事例集2022は、個別開示例における評価ポイント以外の投資家およびアナリストからの主なコメントを記載しており、それらの内容は、次頁図表4のとおりである。

図表4:投資家およびアナリストからの主なコメント

好事例集2022
  • 企業価値の向上にどのような影響を与えるのかという観点からの開示は有用
  • サステナビリティ情報の開示について、よりわかりやすく、魅力的に伝えることを意識することが差別化に繋がり有用
  • ISSBにより今後開発されるサステナビリティ情報の開示基準に留意し、投資家の意思決定に影響を与えるような情報は何かという視点を持ち、開示を行うことは有用
  • 気候変動を企業活動に密接なエネルギー問題としてとらえることは、企業の気候変動に関する課題に対し、重大性を持つことに繋がるため有用
  • 中期経営計画との整合性を意識した開示を行うとともに、そのレビューを行うことは有用
  • 企業において、企業価値向上のためのストーリーを組み立て、ストーリーに該当する項目を中心に開示を充実させていくことはマテリアリティの考え方として有用
  • TCFD提言の4つの枠組み(「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標及び目標」)があるなかで、「ガバナンス」は重要であるところ、「ガバナンス」の項目で記載されている内容が実効的に機能しているということは、「戦略」、「リスク管理」、「指標及び目標」が統合性を持って説明できることであり、開示もそうした観点で行われることが有用

(出所)金融庁「好事例集2022」

② 気候変動関連等の記載に関する投資家およびアナリストの期待

好事例集2022は、気候変動関連等の記載について、投資家およびアナリストが期待する主な開示のポイントを記載しており、それらの内容は、次頁図表5のとおりである。

好事例集2022における期待の方向性については、前年度に公表された好事例集と同じようである。しかし、定量情報について、「前提や仮定を含めた開示」の有用性や「財務情報とのコネクティビティ」など、より詳細かつ具体的なポイントが挙げられている。

図表5:気候変動関連等の記載に関する投資家およびアナリストの期待

好事例集2022
  • TCFD提言の4つの枠組み(「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標及び目標」)に沿った開示は、引き続き有用
  • TCFD提言に沿った開示を行うにあたり、財務情報とのコネクティビティを意識し、財務的な要素を含めた開示を行うことは有用
  • リスク・機会に関する開示について、一覧表で、定量的な情報を含めた開示を行うことは有用
  • トランジションやロードマップといった時間軸を持った開示を行うことは、海外の気候変動に関する開示でも重視されており有用
  • サステナビリティ情報に関する定量情報について、前提や仮定を含め開示することは有用
  • 実績値を開示することは、引き続き有用

(出所)金融庁「好事例集2022」

③ 気候変動関連等の好事例

好事例集2022は、気候変動関連等についての好事例を記載し、好事例として着目したポイントについて記載している。改正開示府令で新たに求められている記載項目の参考となる部分等であると説明されており、どのような点が参考となるかについても説明がされている。着目したポイントとしてコメントされている項目を要約したのが、図表6である。

サステナビリティ情報の望ましい開示に向けた取組みとして、特に、スコープ1とスコープ2のGHG排出量について、企業による積極的な開示が期待されるとしているためか、「指標及び目標」における記載例として、比較的多くの定量的な記載が好事例として挙げられている。

図表6:着目したポイント

観点 記載内容
リスクと機会

<リスクと機会の項目ごとの記載>

  • 期間、影響度、発生可能性、影響額試算にあたっての前提、財務上の影響、対応策等について定量的な情報を含めて具体的に記載
  • 利益影響額を定量的に記載
  • 事業へのインパクトや財務影響の程度を具体的に記載
  • 財務影響の前提要件について、対象期間、対象範囲、算定要件を具体的に記載
  • 事業への影響や時間軸、影響度を端的に記載
  • 事業へのインパクトや顕在化する時期を端的に記載
  • 事業活動への影響、時間軸および評価を端的に記載
  • 影響度、時間軸、事業への影響、対応策を端的に記載

<リスク>

  • リスクを影響度と発生可能性の観点で整理し、「気候変動リスクマップ」として平易に記載

<機会>

  • 気候変動による機会に伴う売上への影響額の実績を記載
シナリオ分析

<具体的に記載>

  • リスク・機会の項目ごとに各シナリオにおける発現時期、影響期間、影響度を具体的に記載
  • シナリオ分析における期間および影響度の定義を具体的に記載
  • リスクと機会の項目ごとに各シナリオにおける財務影響の金額、程度および算出根拠を具体的に記載
  • 2℃未満シナリオにおける炭素税導入や再生可能エネルギー由来の電力調達コストの財務影響を算出方法も含めて具体的に記載
  • シナリオ分析を「1.5℃」、「2℃」、「3℃」の3つのシナリオについて実施し、測定手法や保有資産に与える影響を具体的に記載
  • シナリオ分析を「1.5℃」、「3℃」、「4℃」の3つのシナリオについて実施し、その内容を端的に記載するとともに、詳細情報の参照先としてWebサイトの掲載箇所を記載

<期間別に記載>

  • リスク・機会の項目ごとに各シナリオにおける財務影響額を短期、中期および長期に分けて定量的に記載

<端的に記載>

  • シナリオ分析の結果について、概要を端的に記載
  • シナリオ分析の結果について、与信コストに与える影響額を含めて端的に記載
  • 各シナリオにおける事業インパクトおよび利益影響額を端的に記載

<外部への参照>

  • シナリオ分析の概要を記載するとともに、詳細情報の参照先としてサステナビリティレポートの掲載箇所を記載
ガバナンス ガバナンス体制について、次の項目について記載
  • 各機関および組織の関係やサステナビリティ委員会の役割等を具体的に記載
  • 経営者や各機関および組織の役割を具体的に記載
  • 各機関および組織の関係や「気候変動アクション推進委員会」の役割等を端的に記載
  • 各機関および組織の関係や取組みを端的に記載
戦略
  • 戦略やリスク管理の概要を記載するとともに、各詳細情報の参照先としてWebサイトの掲載箇所を記載
  • 各リスク項目の影響および緊急度を5段階に細分化し、それぞれの評価の基準とあわせて記載
リスク管理

<具体的に記載>

  • リスク管理のプロセスについて、各機関・組織の役割を具体的に記載

<端的に記載>

  • リスクの特定、評価および管理の⽅法を端的に記載

<外部への参照>

  • 戦略やリスク管理の概要を記載するとともに、各詳細情報の参照先としてWebサイトの掲載箇所を記載
指標及び目標 <定量的な記載>
  • GHG排出量(スコープ1〜3)の目標と実績を定量的に記載
  • GHG排出量(スコープ1〜3)の推移状況を定量的に記載
  • 中長期のGHG排出量削減目標を定量的に記載
  • 融資額およびGHG排出量を指標として設定し、実績と目標を定量的に記載
  • 定量目標としてGHG排出量に加え、エネルギー使用量、廃棄物総廃棄量、リサイクル率を設定し、それぞれの推移状況を定量的に記載
  • CO2排出量(スコープ1〜2)の推移状況を定量的に記載

<スコープ3のカテゴリー別記載>

  • GHG排出量(スコープ1〜3)の実績を記載するとともに、スコープ3はカテゴリーごとの内訳も記載

<図示>

  • カーボンニュートラルに向けた各年度のGHG排出量の計画値を図示しながら平易に記載

(出所)金融庁「好事例集2022」をもとに筆者作成

(5)コーポレートガバナンス・コード

有価証券報告書の提出において、証券取引所のルールについても考慮すべきと思われる。東京証券取引所では、コーポレートガバナンス・コードが定められている。2021年6月に改訂された、補充原則3-1③において、TCFDまたは同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実の推進をプライム市場上場会社に求めることが明記されている(図表7)。

図表7:変更・新設された原則(サステナビリティをめぐる課題への取組みのみ抜粋)

改訂

補充

原則

2-3①

  • 取締役会は、サステナビリティ課題への対応はリスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべき
新設

補充

原則

3-1③

  • 経営戦略の開示にあたって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示、人的資本や知的財産への投資等について、分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべき
  • プライム市場上場会社は、TCFDまたは同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべき*
新設

補充

原則

4-2②

  • 取締役会は自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定すべき
  • 人的資本・知的財産への投資等をはじめとする経営資源の配分、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督すべき

* プライム市場上場会社向けの内容

(出所)コーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2022年7月14日)」東京証券取引所

Q2 財務諸表との関係で何に注意すべきか

非財務情報である脱炭素の情報は、有価証券報告書の財務情報とどのような関係があり、何に注意すべきか。

改正開示府令の公表により、企業は、気候関連情報の提供が要求される。この場合、財務諸表との関係で、どのような点について注意する必要があるか説明する。

(1)情報の連繋および整合性

好事例集2022は、気候変動関連等の記載に関する、投資家およびアナリストが期待する主な開示のポイントにおいて「TCFD提言に沿った開示を行うにあたり、財務情報とのコネクティビティを意識し、財務的な要素を含めた開示を行うことは有用」とされている。つまり、気候関連情報と財務諸表により提供される財務情報との連繋と整合性が重要とされる。

(2)気候関連の記述情報と財務諸表

気候関連情報は、記述情報としてだけではなく、財務諸表本体においても適切に反映されなくてはならない。気候関連情報が財務諸表項目の認識や測定として表れ、重要な影響を及ぼす可能性があるためである。

財務諸表の作成は、会計基準への準拠を基礎としている。経済的事象から会計事象を識別した場合でも、それが会計事象として財務諸表において取り扱われるためには、一定の要件の充足が必要とされている。

これに対して、気候関連の記述情報は、投資家の投資判断にとって重要か否かにより開示の要否等を判断すべきと考えられる。開示にあたっては、各企業において、個々の課題、事象等が自らの企業価値や業績等に与える重要性に応じて、各課題、事象等についての説明の順序、濃淡等を判断する対応が求められる。経済的事象が識別されれば、会計事象として財務諸表に識別されるかにかかわらず、開示につながる可能性がある。

また、気候関連のリスクが財務諸表に重要性がある影響を及ぼしたとしても、財務諸表上の表示は、一見すると必ずしも明らかではないかもしれない。たとえば、異常気象が工場に損害を与えたり、在庫を失ったりする状況で考えてみると、その結果生じる費用は、損益計算書では「減損損失」または「在庫の評価減」と表現される可能性が高く、財務諸表上では「気候変動による損失」とは説明されないであろう。気候変動の影響を、他のリスクから切り離す対応は簡単ではない。さらに、財務諸表上これを分離する対応は、不可能かもしれない。

これらの関係より、記述情報に記載される情報の範囲は、財務諸表よりも広くなる。このため、より広範な記述情報を利用すれば、より適切な企業価値の評価が可能になるかもしれない。

(3)監督当局のレビュー

第4回において、英国財務報告評議会(以下、「FRC」という)が、金融行為規制機構の協力のもとで実施した、TCFD開示および財務諸表における気候に関するテーマ別レビューの報告書について説明した。

この報告書は、気候変動に関連する財務諸表の開示についての主な検出事項も含んでいる。その要約は、図表8のとおりである。

図表8:検出条項の要約─気候変動に関連する財務諸表の開示

項目 内容
TCFD開示と財務諸表開示の連繋
  • 気候変動が財務諸表に与える影響に関する説明は、一般的な内容にとどまり、気候関連のリスクと財務諸表上の金額との関係を理解するうえで、あまり役に立たなかった(これは、戦略報告書において気候変動と移行計画について広く説明した数社を含んでいた)。
  • 投資家は、会計上の仮定と見積りが「パリ協定に沿った」程度の理解を含む、記述的報告と財務諸表における気候関連の仮定と見積りとの間の連繋の向上を求めている。
  • 企業がTCFD開示と財務諸表との連繋を検討し、必要に応じて説明を行い、次の点への対応を期待する。
    • TCFD開示を含む、記述的報告における気候変動リスクと不確実性の強調の程度は、それらの不確実性が財務諸表において適用される判断と見積りにどのように反映されたかについての開示の程度と整合する。
    • パリ協定に沿ったシナリオを含む、TCFDシナリオで考慮される仮定および感応度と、財務諸表で適用されるこれらとの関係について、さらに詳細な説明を求める。
    • 記述的報告に記載される排出量削減のコミットメントと戦略については、財務諸表において適切に反映されている。
    • 記述的報告で言及されている事業の成長の規模と気候関連の機会に対する進捗の程度は、セグメント報告において適切に反映されている。
    • 資産価値または耐用年数に悪影響を与える可能性のある事項の記述的報告における説明と財務諸表における取扱いにおける説明は一貫する。
判断および見積り
  • 翌会計年度に重大な調整が行われる重大なリスクを伴う見積りの不確実性および重大な判断に関して適合する要因として、気候変動を開示した企業もあった。
  • 気候は、現時点では重大な判断や見積りに関連する要因ではない理由を説明した企業もあった。
  • 一部の企業は、TCFD開示のシナリオ分析に含まれる仮定の影響を示すために、追加の感応度分析を開示した。
減損レビュー
  • いくつかの企業は、減損レビューにおいて気候変動について明確に対応し、コモディティ価格設定や炭素価格設定などの重要な仮定を定量化し、そして追加の気候関連の感応度分析を提供した。
  • 他の企業は、気候がどのように減損レビューの計算と感応度に織り込まれたかについて、非常に一般的な開示を提供した。
  • IAS36号「資産の減損」の総ての開示要求事項が提供されていないため、減損レビューで気候変動をどのように考慮したかの評価が困難な場合があった。
  • 気候リスクがキャッシュ・フローの予測や割引率に織り込まれていたかどうかは、必ずしも明らかではなかった。
資産の経済的耐用年数
  • いくつかの企業は、特定の資産の耐用年数が気候変動や低炭素経済への移行の影響を受けない理由を明確に説明していた。
  • 特定のネットゼロ目標を設定した企業を含む、他の企業は、関連する資産の経済的耐用年数を決定する際に気候変動がどのように考慮されたかを説明していなかった。
セグメント報告等
  • いくつかの企業は、気候変動と移行に対応して経営情報が提供される方法の変化を反映するために、セグメント報告を改訂した。
  • 新しい低炭素事業に関するその他の企業の説明における重要性は、セグメント報告の開示や収益開示の分解情報に反映されていないようであった。
新しい領
  • 少数の企業は、排出権資産の認識、またはグリーンファイナンスもしくはサステナビリティ・リンク・ファイナンスを開示した。
  • これらの項目に対する会計方針の説明の程度は、記述的報告におけるそれらの重要性と常に一致するとは限らなかった。

(出所)FRC 2022年7月「CRR Thematic review of TCFD disclosures and climate in the financial statements」をもとに筆者作成

インサイト/ニュース

20 results
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真の"SX"に挑む企業たち ~Striving for a sustainable future~ 「地域共創業」をビジョンに地域の課題を解決したい ーサステナビリティ戦略の要は「非財務指標」の活用ー

国内外でショッピングモール事業を展開するイオンモールで代表取締役社長を務める大野惠司氏と、サステナビリティ・トランスフォーメーション (SX)を通じた社会的インパクトの創出に取り組むPwCコンサルティングのパートナー屋敷信彦が、サステナビリティ経営をどのように実現するかについて語り合いました。

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執筆者

川端 稔

監査事業本部 パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

石川 剛士

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

〈今さら聞けない〉経理部門のための「脱炭素」Q&A

旬刊 経理情報 寄稿連載(全8回)

脱炭素の取り組みが待ったなしの状況の中、経理部門にも関連する知識を備えることが求められています。本連載では全8回にわたり、脱炭素の基礎的な事項および経理部門に関連する事項をQ&A形式で解説します。(旬刊 経理情報 2023年4月~7月号)

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