
レジリエントな明日を目指したサーキュラーエコノミーの採用 アジア太平洋地域の変革
本レポートでは、サーキュラーエコノミーがアジア太平洋地域の経済、産業、排出量に及ぼし得る影響について調査しました。また、企業の競争力を高める5つのサーキュラービジネスモデルや、移行に向けた課題および実現要素を考察します。
※本稿は、2023年6月1日号(No.1678)に寄稿した記事を転載したものです。
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有価証券報告書においてサステナビリティ情報の開示が義務化されるなど、カーボンニュートラルを目指した脱炭素の取組みが待ったなしの状況となっている。経理部門は、気候関連の情報開示やグリーンボンドによる資金調達など、脱炭素の取組みに関与する機会が増えると予想され、ある程度の知識が必要となる。しかし、伝統的な財務会計に基づく情報の開示とは異なる分野であるため、理解が進みにくい状況にあると推察される。
そこで、脱炭素の基礎的な事項および経理部門に関連する事項を、わかりやすいQ&A形式で解説していく。第6回は、有価証券報告書における記載について解説する。なお、文中の意見に係る記載については、筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。
開示府令が改正され、有価証券報告書で、サステナビリティ情報に関する取組みを開示しなければならなくなったと聞いた。脱炭素に関しては、何を開示しなければならないのか。
脱炭素化の動向は、企業の情報開示にも影響を与えている。たとえば、有価証券報告書へ、気候関連財務情報開示タスクフォース(以下、「TCFD」という)による最終報告書であるTCFD提言の考え方に沿った記載が求められるといった状況が挙げられる。東京証券取引所が定めたコーポレートガバナンス・コードのなかでは、TCFDまたは同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実の推進や、取締役会による自社のサステナビリティをめぐる取組みについての基本的な方針の策定が求められる。
以下、有価証券報告書における開示について、どのような内容が求められているかの概要や最近の動向について説明する。
企業情報の開示を取り巻く経済および社会情勢をみると、企業経営や投資家の投資判断におけるサステナビリティの重要性の急速な高まり、および企業のコーポレート・ガバナンスに関する議論の進展など、大きな変化が生じている。加えて、「新しい資本主義」の実現に向けた議論において、現在の資本主義経済が抱える、持続可能性の欠如、中長期的投資の不足、気候変動問題の深刻化といった課題が識別されている。このため、資本市場の機能発揮を促すとの観点から、企業情報の開示のあり方の検討が求められている。
金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(以下、「DWG」という)では、中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向け、サステナビリティに関する企業の取組みの開示、充実の施策や四半期開示の見直しに係る施策等を取りまとめ、2022年6月に報告を公表した。
金融庁は、記述情報の充実を図るため、2023年1月31日に改正「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、「改正開示府令」という)を公表し、サステナビリティに関する企業の取組みの開示、コーポレート・ガバナンスに関する開示およびその他の事項に関する開示府令の改正を行った。また、記述情報の開示に関する原則における追加についても公表した。
記述情報とは一般に、法定開示書類において提供される情報のうち、金融商品取引法193条の2が規定する「財務計算に関する書類」において提供される財務情報「以外」の情報を指す。金融庁は、「記述情報の開示に関する原則」を公表しており、記述情報のうち、特に経営方針・経営戦略等、経営成績等の分析、リスク情報について開示の考え方を整理している。これら以外の記述情報の記載にあたっても、この原則を踏まえた、より実効的な開示が期待されている。
記述情報の開示に関する原則は、企業情報の開示に関する前記提言を踏まえ、財務情報以外の開示情報である記述情報について、開示の考え方、望ましい開示の内容や取り組み方を示し、新たな開示事項を加えるものではない。経営者、作成事務担当者、IR担当者等、開示書類の作成および公表に関与する者は、この原則に沿った開示が実現しているか、自主的な点検の継続が期待されている。また、この原則は、投資家が企業との対話を行う際において利用することも有用と考えられている。
今回の改正は、細かな事項を規定せず、各企業の現在の取組状況に応じて柔軟な記載が可能な枠組みとされている。2021年のコーポレートガバナンス・コード改訂により要請された開示を、有価証券報告書に記載する対応も考えられている。各企業の取組状況に応じて、2023年3月期の有価証券報告書の開示を開始し、その後、投資家との対話を踏まえ、自社のサステナビリティに関する取組みの進展とともに、有価証券報告書の記述情報の開示を充実する対応が考えられる。
改正開示府令により、記載が追加される項目の概要は、次頁図表1のとおりである。
改正開示府令の公表の結果、気候変動関連の情報は、新設された「サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載が要求される。これまで、気候変動関連の情報は、記述情報として、「経営方針、経営環境及び対応すべき課題等」や「事業等のリスク」に記載されていた。今回の改正における記載欄の新設により、利用者の利便性の向上が図られたといえる。
DWGの報告で提言されたサステナビリティ情報の開示についての期待等を踏まえて、サステナビリティ情報の開示における考え方および望ましい開示に向けた取組みを取りまとめ、記述情報の開示に関する原則の別添が公表された。
気候変動関連の情報に関する項目についての考え方の要約は、次頁図表2のとおりである。
なお、これらの情報の記載については、次の点に留意する必要がある。
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図表2:気候変動関連の情報に関する項目の考え方
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有価証券報告書の記載内容を補完する詳細情報について、統合報告書、データブック等の他の公表書類の参照も可能とされている。有価証券報告書の記載内容を補完する詳細情報として、前年度の情報が記載された書類や将来公表予定の任意開示書類を参照する取扱いも考えられる。将来公表予定の書類を参照する際は、公表予定時期や公表方法、記載予定の内容等もあわせて記載する対応が望まれる。
これに対し、各企業において、投資者の投資判断上、重要であると判断した事項については、有価証券報告書に記載する必要がある。このため、有価証券報告書の「サステナビリティに関する考え方及び取組」では、直近の連結会計年度に係る情報を記載する必要があるとされている。その記載にあたって、情報の集約および開示が間に合わない箇所がある場合等においては、概算値や前年度の情報を記載する対応も考えられる。この場合には、概算値である旨や前年度のデータである旨を記載し、投資者に誤解を生じさせないようにする必要がある。また、概算値を記載した場合であって、後日、実際の集計結果が概算値から大きく異なる等、投資家の投資判断に重要な影響を及ぼす場合には、有価証券報告書の訂正を行う対応が考えられる。
なお、参照先の書類に明らかに重要な虚偽記載がある事実を知りながら参照するなど、当該参照する旨の記載自体が有価証券報告書の重要な虚偽記載になり得る場合を除けば、単に任意開示書類の虚偽記載のみをもって、金融商品取引法の罰則や課徴金が課される結果にはならないと考えられている。
ウェブサイトを参照する対応も考えられるが、その際は、次のように、投資家に誤解を生じさせないような措置が考えられる。
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企業が、サステナビリティに関連する情報について、任意で保証を受けている場合が想定される。この場合の記載としては、投資家の投資判断を誤らせないように情報を開示する対応が必要である。たとえば、保証業務の提供者の名称、準拠した基準や枠組み、保証対象、保証水準、保証業務の結果、保証業務の提供者の独立性等についての明記が重要と考えられる。
今回の改正開示府令の公表に際し、サステナビリティ情報の望ましい開示に向けた取組みについても取りまとめている。図表3は、その要約である。
図表3:サステナビリティ情報の望ましい開示
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重要性については、各社において、「ガバナンス」と「リスク管理」の枠組みを通じて判断する必要がある。2019年3月公表の「記述情報の開示に関する原則」では、「重要性は、投資家の投資判断にとって重要か否かにより判断すべき」とされ、その重要性は「その事柄が企業価値や業績等に与える影響度を考慮して判断することが望ましい」とされている同原則2-2が参考になると考える。
サステナビリティ情報については、現在、国内外において、開示の基準策定やその活用の動きが急速に進んでいる。サステナビリティ情報の開示における「重要性(マテリアリティ)」の考え方を含めて、今後、国内外の動向も踏まえつつ、本原則の改訂対応が予定されている。
金融庁は、改正開示府令の公表と同時に「記述情報の開示の好事例集2022」(以下、「好事例集2022」という)を公表した。好事例集2022は、投資家、アナリスト、および企業による開示の好事例に関する勉強会で議論された開示例を取りまとめている。そして、改正開示府令において新たに求められている有価証券報告書の記載項目(気候変動を含むサステナビリティ情報に関する開示等)に関し、今後の開示の参考となる事例も掲載している。
好事例集2022は、個別開示例における評価ポイント以外の投資家およびアナリストからの主なコメントを記載しており、それらの内容は、次頁図表4のとおりである。
図表4:投資家およびアナリストからの主なコメント
好事例集2022 |
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(出所)金融庁「好事例集2022」
好事例集2022は、気候変動関連等の記載について、投資家およびアナリストが期待する主な開示のポイントを記載しており、それらの内容は、次頁図表5のとおりである。
好事例集2022における期待の方向性については、前年度に公表された好事例集と同じようである。しかし、定量情報について、「前提や仮定を含めた開示」の有用性や「財務情報とのコネクティビティ」など、より詳細かつ具体的なポイントが挙げられている。
図表5:気候変動関連等の記載に関する投資家およびアナリストの期待
好事例集2022 |
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(出所)金融庁「好事例集2022」
好事例集2022は、気候変動関連等についての好事例を記載し、好事例として着目したポイントについて記載している。改正開示府令で新たに求められている記載項目の参考となる部分等であると説明されており、どのような点が参考となるかについても説明がされている。着目したポイントとしてコメントされている項目を要約したのが、図表6である。
サステナビリティ情報の望ましい開示に向けた取組みとして、特に、スコープ1とスコープ2のGHG排出量について、企業による積極的な開示が期待されるとしているためか、「指標及び目標」における記載例として、比較的多くの定量的な記載が好事例として挙げられている。
図表6:着目したポイント
観点 | 記載内容 |
リスクと機会 | <リスクと機会の項目ごとの記載>
<リスク>
<機会>
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シナリオ分析 | <具体的に記載>
<期間別に記載>
<端的に記載>
<外部への参照>
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ガバナンス | ガバナンス体制について、次の項目について記載
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戦略 |
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リスク管理 | <具体的に記載>
<端的に記載>
<外部への参照>
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指標及び目標 | <定量的な記載>
<スコープ3のカテゴリー別記載>
<図示>
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(出所)金融庁「好事例集2022」をもとに筆者作成
有価証券報告書の提出において、証券取引所のルールについても考慮すべきと思われる。東京証券取引所では、コーポレートガバナンス・コードが定められている。2021年6月に改訂された、補充原則3-1③において、TCFDまたは同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実の推進をプライム市場上場会社に求めることが明記されている(図表7)。
図表7:変更・新設された原則(サステナビリティをめぐる課題への取組みのみ抜粋)
改訂 | 補充 原則 2-3① |
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新設 | 補充 原則 3-1③ |
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新設 | 補充 原則 4-2② |
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* プライム市場上場会社向けの内容
(出所)コーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2022年7月14日)」東京証券取引所
非財務情報である脱炭素の情報は、有価証券報告書の財務情報とどのような関係があり、何に注意すべきか。
改正開示府令の公表により、企業は、気候関連情報の提供が要求される。この場合、財務諸表との関係で、どのような点について注意する必要があるか説明する。
好事例集2022は、気候変動関連等の記載に関する、投資家およびアナリストが期待する主な開示のポイントにおいて「TCFD提言に沿った開示を行うにあたり、財務情報とのコネクティビティを意識し、財務的な要素を含めた開示を行うことは有用」とされている。つまり、気候関連情報と財務諸表により提供される財務情報との連繋と整合性が重要とされる。
気候関連情報は、記述情報としてだけではなく、財務諸表本体においても適切に反映されなくてはならない。気候関連情報が財務諸表項目の認識や測定として表れ、重要な影響を及ぼす可能性があるためである。
財務諸表の作成は、会計基準への準拠を基礎としている。経済的事象から会計事象を識別した場合でも、それが会計事象として財務諸表において取り扱われるためには、一定の要件の充足が必要とされている。
これに対して、気候関連の記述情報は、投資家の投資判断にとって重要か否かにより開示の要否等を判断すべきと考えられる。開示にあたっては、各企業において、個々の課題、事象等が自らの企業価値や業績等に与える重要性に応じて、各課題、事象等についての説明の順序、濃淡等を判断する対応が求められる。経済的事象が識別されれば、会計事象として財務諸表に識別されるかにかかわらず、開示につながる可能性がある。
また、気候関連のリスクが財務諸表に重要性がある影響を及ぼしたとしても、財務諸表上の表示は、一見すると必ずしも明らかではないかもしれない。たとえば、異常気象が工場に損害を与えたり、在庫を失ったりする状況で考えてみると、その結果生じる費用は、損益計算書では「減損損失」または「在庫の評価減」と表現される可能性が高く、財務諸表上では「気候変動による損失」とは説明されないであろう。気候変動の影響を、他のリスクから切り離す対応は簡単ではない。さらに、財務諸表上これを分離する対応は、不可能かもしれない。
これらの関係より、記述情報に記載される情報の範囲は、財務諸表よりも広くなる。このため、より広範な記述情報を利用すれば、より適切な企業価値の評価が可能になるかもしれない。
第4回において、英国財務報告評議会(以下、「FRC」という)が、金融行為規制機構の協力のもとで実施した、TCFD開示および財務諸表における気候に関するテーマ別レビューの報告書について説明した。
この報告書は、気候変動に関連する財務諸表の開示についての主な検出事項も含んでいる。その要約は、図表8のとおりである。
図表8:検出条項の要約─気候変動に関連する財務諸表の開示
項目 | 内容 |
TCFD開示と財務諸表開示の連繋 |
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判断および見積り |
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減損レビュー |
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資産の経済的耐用年数 |
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セグメント報告等 |
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新しい領域 |
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(出所)FRC 2022年7月「CRR Thematic review of TCFD disclosures and climate in the financial statements」をもとに筆者作成
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