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令和7年公益通報者保護法の改正

  • 2025-07-29

2025年6月4日、公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)(以下「改正法」といい、改正法による公益通報者保護法の改正を「本改正」といいます。)が成立し、同月11日に公布されました。改正法は、公布の日から1年6か月以内の政令で定める日に施行されます。

本改正は、令和2年の公益通報者保護法の改正(以下「令和2年改正」といいます。)後における事業者の公益通報への対応状況及び公益通報者の保護を巡る国内外の動向を踏まえて、①事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上、②公益通報者の範囲拡大、③公益通報を阻害する要因への対処、④公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済を強化するための措置を講じようとするものです。

本ニュースレターでは、改正法及び今後事業者において対応が求められる事項について概説します。

1. 本改正の経緯

令和2年改正後の公益通報者保護法1附則第5条の検討規定に基づき、近年の国内外の動向を踏まえた公益通報者保護制度の課題と対応について検討を行うため、2024年5月、消費者庁に公益通報者保護制度検討会が設置され、有識者による議論が進められてきました。その結果が、2024年12月、「公益通報者保護制度検討会報告書-制度の実効的向上による国民生活の安心と安全の確保に向けて-」2(以下「検討会報告書」といいます。)として公表されました。検討会報告書では、公益通報者保護法に関する制度を見直す必要性として、概要、以下のような事項が指摘されています。

(1)事業者の体制整備の不徹底や実効性に関する課題:事業者の体制の状況や内部通報制度の実効性に関して、以下のような課題が挙げられていました。

  • 大規模な事業者においても内部通報制度が十分に機能せず、重大な不祥事が外部通報で発覚するケースがあること。また、中には、従業者指定の義務や体制整備義務を一切履行しない事案があったこと
  • 非上場企業の一部では、従業者指定の義務を知りながら担当者を指名していない事業者が存在するなど、義務を履行する意識が低い事業者が一定程度存在すること
  • 内部通報窓口を設置している事業者においても、通報窓口の認知度や利用率の低いことがうかがわれ、不祥事に関する第三者委員会等の調査報告書においても、これが制度の実効性を阻害する課題と指摘されていること

(2)制度を巡る国際的な動向:以下のような点に触れながら、国際的な基準と比べると、日本の通報者保護は依然として弱い状況であると指摘されています。

  • 令和元年8月に公表されたOECD贈賄作業部会による勧告:
    外国公務員贈賄の疑わしい行為を通報した公益通報者を差別的な扱い又は懲戒処分から保護するため、以下の内容につき勧告
    1. 法の条項に違反した企業に対して刑事又は行政上の制裁を行うこと
    2. 公益通報者のみが報復や差別を受けたことを証明する負担を負うことがないようにすること
  • 国連ビジネスと人権の作業部会が2024年5月に公表した訪日調査報告書による報告:
    通報者に報復する事業者に対する制裁措置を設けること等、通報者保護を更に強化することを勧告
  • 令和元年12月に施行されたEU通報者保護指令及び同年6月のG20大阪サミットで採択された「効果的な公益通報者保護のためのハイレベル原則」
    各国に対し、以下の内容につき要請
    1. 契約関係の性質に関わらず、できる限り広範な人々を保護すること
    2. 公益通報を理由として不利益な取扱いを行った者に対する制裁を国内法で規定すること
    3. 不利益な取扱いが通報を理由としていることについて、通報者の立証責任を事業者に転換すること

本改正は、このような経緯を経て、取りまとめられ、今般成立したものです。

2. 本改正及びこれにより求められる事項の概要

本改正では、大きく分けて、以下の4つの視点からの改正が行われています。なお、以下では、改正法による改正後の公益通報者保護法を「法」といいます。

(1)事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上に関する規律の導入
(2)「公益通報」を行った場合に保護される主体(以下「公益通報者」という。)の範囲拡大
(3)公益通報を阻害する要因への対処に関する規律の導入
(4)公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済の強化

それぞれの改正内容の概要は、以下のとおりです。

(1)事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上に関する規律の導入

  • 命令権及び罰則の追加:公益通報対応業務に従事する者を指定する義務(法11条1項)に違反する事業者(常時使用する労働者の数が300人を超える事業者に限ります。)に対する、現行法の内閣総理大臣による指導、助言及び勧告権限に加え、勧告に従わない場合の命令権が新設されました(法15条の2)。また、上記の命令への違反時の刑事罰(30万円以下の罰金、両罰3)が新設されました(法21条2項1号、法23条1項2号)。
  • 立入検査権限等及び罰則の追加:公益通報対応業務に従事する者を指定する義務を負う事業者に対する報告徴収権限に加えて、立入検査権限が新設されました(法16条1項)。また、報告懈怠・虚偽報告、検査拒否に対する刑事罰(30万円以下の罰金、両罰)が新設されました(法21条2項2号、法23条1項2号)。
  • 事業者の体制に係る周知義務:事業者は、法に定める公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとらなければならないところ、体制整備義務の例示として、労働者等に対する事業者の公益通報対応体制の周知義務が明示されました(法11条2項)。

(2)公益通報者の範囲拡大

  • 公益通報者へのフリーランスの追加:令和2年改正では、公益通報者の範囲に、労働者に加えて、「労働者であった者」及び「役員」が追加されていました。本改正では、公益通報者の範囲に、事業者と業務委託関係にある、いわゆるフリーランス(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律2条に規定する「特定受託業務従事者」)及び業務委託関係が終了して1年以内のフリーランスが追加されました(法2条1項3号及び4号)。また、かかるフリーランスに関して、公益通報を理由とする業務委託契約の解除その他不利益な取扱いが禁止されました(法5条)。

(3)公益通報を阻害する要因への対処に関する規律の導入

  • 公益通報を妨げる合意の禁止及び無効:事業者が、労働者等に対し、正当な理由がなく、公益通報をしない旨の合意をすることを求めること等によって公益通報を妨げる行為をすることを禁止する(法11条の2第1項)とともに、これに違反した場合の効果として、これに違反してされた合意等の法律行為が無効とされました(法11条の2第2項)。
  • 公益通報者の特定の禁止:事業者が、正当な理由がなく、公益通報者を特定することを目的とする行為をすることが禁止されました(法11条の3)。

(4)公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済の強化

  • 民事訴訟における立証責任の転換:事業者は、公益通報者に対し、公益通報を行ったことを理由として解雇その他不利益な取扱いを行うことが禁止されています。改正法では、その実効性の確保の観点から、一定の範囲で民事訴訟における立証責任が転換され、公益通報後1年以内の解雇又は懲戒は公益通報を理由としてされたものと推定するものとされました(法3条3項)。
  • 不利益な取扱いに関する刑事罰(民間):また、同様に、公益通報を理由とする不利益な取扱いを抑止する観点から、公益通報を理由として解雇又は懲戒をした者に対する刑事罰(6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金)が新設されました(法21条1項)。また、法人については、両罰規定(3,000万円以下の罰金)が科されることとなりました(法23条1項1号)。
  • 不利益な取扱いに関する刑事罰(公共):公務員についても、公益通報を理由とする一般職の国家公務員等に対する不利益な取扱いが禁止(法9条)され、公益通報を理由として分限免職又は懲戒処分をした者に対する刑事罰(6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金)が新設されました(法21条1項)。なお、国及び地方公共団体は、両罰規定の対象外です(法23条2項)。

3. おわりに

公益通報者保護法の適用対象となる「事業者」は、「法人その他の団体及び事業を行う個人」とされていることから(法2条1項)、一部の規制を除き、その業種及び規模にかかわらず、あらゆる事業者が改正法の影響を受けるものと考えられます。

令和2年改正以降、多くの事業者が公益通報制度の構築・運用を進めてきているにもかかわらず、本改正が行われた背景には、事業者の体制整備が十分でないことやその運用の実効性が確保されていないのではないかという問題意識があります。

事業者は、法に定められた内容を社内規程に反映する等の形式的な法令遵守にとどまらず、その実質が公益通報者の保護及び公益通報の促進に資するものであるか、改めて考え直すことが必要不可欠となります。

労働者等が利用しやすく、真に実効性の高い内部通報制度を構築・運用できるよう、専門家の助言も得ながら、継続して見直しを行うことが必要です。

令和2年の公益通報者保護法の改正及びその後の状況については、当法人の以下のニュースレター及び記事をご参照ください。

公益通報者保護制度検討会報告書-制度の実効性向上による国民生活の安心と安全の確保に向けて-」(令和6年12月27日)

3 法人の代表者又は法人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人の業務に関し違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又に対しても罰金刑が科されます。

令和7年公益通報者保護法の改正

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執筆者

北村 導人

北村 導人

パートナー, PwC弁護士法人

山田 裕貴

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