世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)が発行した「第19回グローバルリスク報告書 2024年版」において、今後10年間のリスクの上位4つに異常気象や生物多様性の損失といった環境関連の課題が挙げられるなど、サステナビリティ関連課題への懸念と要求は年々強まっています。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)による新しい基準導入はその一環であり、企業活動における気候変動や自然資本関連の情報開示はますます必要性を増しています。また、気候変動と自然資本の相互作用を加味する要請も社会的に高まってきています。PwC Japan有限責任監査法人では、企業が気候変動と自然資本に対して統合的な対応を行うことを可能にするための支援を提供しています。
IFRS財団により設立された国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、2023年6月にIFRS S1号「サステナビリティ開示に関する全般的要求事項」とIFRS S2号「気候開示基準」(以下、「ISSB基準」)を公表しました。現在、各国においてISSB基準に相当する基準の法定化が進んでいます。
日本では2025年3月に、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)がISSB基準に基づき、気候関連に特化した開示基準を含むサステナビリティ開示基準を公表しました。
この中で、IFRS S2号「気候開示基準」は、2017年6月に公表されたTCFD提言(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:TCFD/気候関連財務情報開示タスクフォース)を踏まえて作成されており、これまでのTCFD提言を踏まえた企業の対応が活かせる内容となっています。また、このIFRS S2号「気候開示基準」は開示項目に力点が置かれて書かれており、どのように検討し、どこまで開示すべきかといった観点からは、TCFD提言や関連のガイドラインを引き続き参照していく必要があります。
2023年9月に公表されたTNFD提言(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:TNFD/自然関連財務情報開示タスクフォース)についても、TCFDと同じ道をたどることが予想されます。実際に2025年4月、IFRS財団とTNFDは、両者が連携して自然資本関連財務情報開示の活用を促進する覚書を締結したことを発表しました。IFRS財団のISSBでは、生物多様性に関する基準設定の実現可能性と必要性の検討が進められています。こうしたことから、TNFD提言に沿った自然資本関連開示の重要性が増しています。
TCFD提言の公表以降、多くの企業において気候変動関連の開示が浸透してきました。一方で、自然資本関連開示の要求の高まりに伴い、気候変動関連開示の対応時には、以下のように自然資本関連とのシナジーやトレードオフについて考慮する必要があります。
など
TNFD提言に賛同する企業は、世界の中で日本が最も多く、自然資本関連開示が急速に進んできています。一方で、大きな開示の要素はTCFD提言と共通する部分が多いものの、以下のような特性に的確に対応していく必要があります。
注:自然依存度は、事業活動で生み出される経済的価値が生態系の混乱のリスクにさらされる度合いを測定。依存度が高い場合、特定の生態系に混乱が生じると、経済的価値を生み出している事業活動が経営破綻に陥りかねないことを意味します。依存度が中程度の場合、特定の生態系に混乱が生じると、経済的価値を生み出している事業活動が、経済的リターンの著しい減少に見舞われる可能性が高くなります。依存度が低い場合、生態系に混乱が生じると、経済的価値を生み出している事業活動が、限定的ながら重要な財務的影響を受ける可能性があることを意味します。
出所:ENCORE データベース、EXIOBASE、S&P Capital iQ、PwCによる分析
気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change:IPCC)による第6次評価報告書や、生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学・政策プラットフォーム(Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services:IPBES)による「生物多様性、水、食料及び健康の間の相互関係に関するテーマ別評価報告書(ネクサス評価報告書)」においては、気候や自然を含む複数のサステナビリティ課題のシナジーやトレードオフが言及されています。
日本でも、政府が「生物多様性国家戦略2023-2030」を閣議決定し、5つの基本戦略の一つである「自然を活用した社会課題の解決」の中で、「気候変動を始めとする諸課題への対策と生物多様性との間でのシナジー(相乗効果)を最大化し、トレードオフを最小化することで、生物多様性を維持しつつNbS(PwC追記:自然を活用した解決策)の効果を最大限発揮させる」との戦略を掲げ、「気候変動対策による生態系影響が抑えられるとともに、気候変動対策と生物多様性・生態系サービスのシナジー構築・トレードオフ緩和が行われている」状態を2030年までに達成するとしています。環境省は2025年に「環境課題の統合的取組と情報開示に係る手引き」を公表するなど、具体的な対策を進めています。
こうした背景から、以下に例示される気候変動と自然資本の間のシナジーやトレードオフを意識した統合的な対応の必要性が高まっています。
また、TNFDによる自然移行計画ガイダンス草案においては、以下のステップを経て統合的な移行計画を策定することが推奨されており、今後、こうした取り組みの進展が予想されます。
ステップ1:気候単独の移行計画
ステップ2:自然を考慮に入れた気候関連移行計画
ステップ3:気候・自然・社会配慮それぞれのシナジー、トレードオフを考慮に入れた個別の計画
ステップ4:気候・自然・社会配慮の3つを統合した計画
これらの課題に対し、企業が気候変動と自然資本に対して統合的な対応を行うことを可能にするため、PwC Japan有限責任監査法人は以下に関する支援メニューを、各社の状況に合わせてカスタマイズして提供します。
経営戦略策定支援、リスク評価、格付け対応、ISSB/SSBJ/CSRDの法定開示対応、TCFD/TNFD開示対応など、豊富な支援実績を有しており、各社のニーズに沿った支援体制構築が可能です。
生態学、環境学、経営学のバックグラウンドや、現場での国際開発、生物多様性保全の豊富な業務経験を持つメンバーが所属しており、専門的かつ実践的な視点を踏まえた支援が可能です。
国際的な生物多様性評価手法の開発や、自然資本会計研究に従事するメンバーファームとの連携など、PwCのグローバルネットワークを活用した支援が可能です。また、TNFDにもタスクフォースメンバーとして参画しています。