ジョブ型人材マネジメントサーベイ2022 ~事業戦略をドライブする「ジョブ型3.0」への進化~

2023-09-15

※この「ジョブ型人材マネジメントサーベイ2022」は、『月刊人事マネジメント』2023年7月号(2023年7月5日)に掲載したものです。

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※法人名・役職などは掲載当時のものです。

はじめに

今、多くの日本企業においてジョブ型人材マネジメントが急速に広がってきています。PwCコンサルティングが2022年11月に実施した調査では、約8割の企業が、ジョブ型人材マネジメントを導入済または導入検討中と回答する結果となっています。

また、同調査では、ジョブ型のなかでも企業によって重点を置く領域や、適用する範囲の違いが出始めており、報酬制度改革を目的としたジョブ型や、人材マネジメントを狙いとしたジョブ型など、様々な形が見られることが分かりました。PwCコンサルティングでは、様々な類型を分析し、それらの目指すゴールを「事業戦略を加速させるための進化版ジョブ型」と定義づけ、「ジョブ型3.0」と呼ぶことにしました。

本稿では、ジョブ型の進化のプロセスを定義した上で、上記調査結果により日本企業の実態を明らかにするとともに、先進的な「ジョブ型3.0」のKSF(成功要因)について紹介します。

ジョブ型の進化

PwCコンサルティングではジョブ型の進化を以下の通り3段階で定義しています(図表1)。

「ジョブ型1.0」:処遇の公平性を目指し、職務基軸で報酬マネジメントのみを行うことを指します。日本企業において、2000年頃の成果主義ブームを背景に人件費適正化を狙って導入されたものの多くは、この「ジョブ型1.0」であったといえます。年功的な人事運用をしていた日本企業にとっては大きな一歩でしたが、ジョブ型の適用範囲は限定的です。

「ジョブ型2.0」:報酬の枠を超え、採用・代謝、配置・育成も含めて職務基軸で人材マネジメントを行うことを指します。適所適材により会社としてのパフォーマンスを高めることを狙いとし、近年多くの企業が取り入れ始めています。現存の事業・職務と人材を前提として、適切な配置を行うことを主目的とした仕組みであり、事業運営が安定している状況においては一定の効果があります。

「ジョブ型3.0」:経営環境変化に伴う事業戦略の転換に対応し、最適な人材を迅速に調達(採用・配置・育成等)するための進化版のジョブ型人材マネジメントを指します。

「ジョブ型2.0」と「ジョブ型3.0」との最大の違いは事業戦略との連動性です。「ジョブ型3.0」では、ジョブ型人材マネジメントの核となる職務情報・人材情報が、事業戦略からリアルタイムに落とし込まれ、紐づいていることがポイントとなります。図表1の通り、事業戦略に紐づく職務情報・人材情報の組み合わせを示すものが「人材ポートフォリオ」であり、事業戦略と人材マネジメントをつなぐ重要な役割を果たしています。

図表1 ジョブ型の進化

加えて、「ジョブ型3.0」における職務情報・人材情報は、高度なシステム(職務・人材情報のデータベース等)の活用と、事業部門・人事部門の連携により、リアルタイムに近い状態で管理されている点で「ジョブ型2.0」よりも進化しています。また、システムにより、職務情報・人材情報の適合度を「定量的」に把握することで、各職務に最適な人材の調達を迅速に実現できる点も「ジョブ型3.0」の特徴です。

事業運営が安定している時代には「ジョブ型2.0」でも十分効果がありましたが、経営環境変化がめまぐるしい昨今の状況において、「ジョブ型3.0」の必要性が高まっていくと考えられます。

日本企業のジョブ型進化の状況

前述の通り、PwCコンサルティングの調査では、ジョブ型を人材マネジメント全体に適用していきたいと考える企業(実施中または導入検討中)が、回答企業の約8割を占める結果となっており、既に「ジョブ型2.0」の考え方が広がってきていることが分かっています。

また、ジョブ型の導入目的を確認したところ、「最適配置の実現」「専門知識・スキル向上」「外部人材の獲得」「次世代リーダーの育成」といった項目が上位に挙げられており、ジョブ型の活用が、報酬・処遇のみならず、人材調達手段(採用・配置・育成)へ広がっていることが明らかになっています。このことからも「ジョブ型2.0」へのシフトしている実態が分かります。

一方、先進的な「ジョブ型3.0」の取り組みを実施している企業はまだ1割程度に留まっています。ジョブ型人材マネジメントの取り組みは各社とも試行錯誤の状況であり、事業戦略をドライブする「ジョブ型3.0」への進化は、まさに今後の日本企業の課題と言えます。

ジョブ型3.0のKSF(成功要因)

「ジョブ型3.0」に進化するためには、図表2で示しているInput、Output、Driverの3つが機能しなければなりません。PwCコンサルティングでは、この3領域における9つのポイントを「ジョブ型3.0」のKSFとして定義しています。(図表2・右側)

Input:ジョブ型人材マネジメントの核となる職務情報・人材情報を指します。(KSF①・②)

Output:Inputに基づく要員計画と、それをもとにした採用・配置・育成・評価・報酬・代謝といった人材マネジメントを指します。(KSF③~⑧)

Driver:Inputの適切な管理、Outputの効果的・効率的な取り組みを実現するための「人事システム」「推進体制」「社員の意識」などの推進基盤を指します。(KSF⑨)

以下、各領域のKSFの具体的な内容と、日本企業の現状について解説します。

図表2 ジョブ型3.0のKSF(成功要因)

Input領域のKSF(職務情報・人材情報)

「ジョブ型3.0」では、前述の通り、事業戦略をリアルタイムに職務情報に落とし込んだ上で、職務情報と人材情報との適合度・ギャップを定量的に把握し、採用・配置・育成などの人材マネジメントを行います。

そのため、Input領域のKSFとして、職務と人材のマッチングを前提とした職務情報・人材情報の収集・集約を行うことがポイントとなります。具体的には(a)~(c)の3点が挙げられます。

(a)JDへの人材要件の記載:「ジョブ型3.0」では、職務に最適な人材をマッチングしていくために、職務記述書(以下JD)に各職務の遂行に必要なマインド・スキル・職務経験等の人材要件を記載することがポイントとなります。調査結果では、JD導入企業のうち、人材要件が記載されている企業は5割程度であることが分かっています(図表3)。

(b)人材情報の充実化:「ジョブ型3.0」においては、職務情報との適合度をより正確に把握するため、多様な人材情報の収集・集約がポイントとなります。調査結果では、基本的な人材情報を収集・集約できている企業が多いものの、タフアサインメント経験や適性検査結果等を収集・集約している企業は半分以下であり、さらなる人材情報の充実化が課題と言えます。

(c)職務情報と人材情報の共通フレーム化:Input領域において、職務情報と人材情報を効果的・効率的に活用・連携するためには、JDにおける人材要件の項目と人材情報の項目を共通化することが重要です。欧米を中心に行われているJDの人材要件と人材情報との共通フレーム化(「スキルタクソノミー」)もその流れの1つです。組織別や個人別にスキルを各々が記述するのではなく、横断的で共通の項目に基づいて定義することで職務情報と人材情報が共通の軸で管理され、デジタルなマッチングを実現できます。逆にそれができていない場合は、スキルデータを充実させたとしても、結局アナログなマッチングになってしまうことに留意が必要です。

以上の(a)~(c)のinput面を整備することで、事業戦略に最適な人材ポートフォリオを迅速に実現することが可能となります。

なお、JDの導入範囲の拡大も「ジョブ型3.0」の効果を高めると考えられます。現在、日本企業ではJDを主に管理職・専門職層に導入していますが、ボリュームゾーンである非管理職層への拡大は、人材ポートフォリオ構築において、より大きなメリットがもたらされると想定されます。調査結果でも非管理職層にJDを導入中または導入検討中の企業が約5割を占め、今後の広がりが予想されます。

図表3 Input領域のKSF(職務情報・人材情報)

Output領域のKSF(要員計画+人材マネジメントサイクル)

Output領域の「ジョブ型3.0」のKSFは、職務と人材の適合度を(a)職務単位で、(b)定量的に分析し、それを踏まえて、要員計画および人材マネジメント(採用・配置・育成・処遇・代謝)を実施することです。それにより、事業戦略に最適な人材ポートフォリオをタイムリーに実現していきます。

(a)職務単位での適合度分析:職務単位の細かいメッシュで、職務遂行に必要なマインド・スキル・経験(人材要件)と人材の適合度を確認することにより、ポジションに最適な人材を採用・配置していくことが可能となります。そして、人材育成においても、社員が目指す職務・ポジションの人材要件と、スキル・経験等とのギャップから育成計画を立てていくことで、効率的な育成や、エンゲージメント向上といった効果も期待できます。

(b)定量的な適合度分析:職務と人材の適合度を定量的に判断することにより、客観的かつ迅速に、ポジションに最適な人材を見極めることが可能になります。例えば、あるポジションに必要なスキル・経験が10項目あり、それを7項目満たしている社員がいた場合、適合度は70%という形で分析し、適合度が最も高い人材を採用・配置する、といったイメージです。

事業の人材ニーズの変化に対応し、多様な職務・人材をマッチングしていく上で、これまでの勘と経験による判断ではなく、定量的な適合度分析による客観的な判断がより重要になってきています。

このように、(a)・(b)の両軸で高いレベルであることは、個々の職務に対して、明確な判断基準で適合判断をしていることを示しています。職務の要件に照らし、最適な人材を採用し、適材を配置し、適切な育成を行う。それこそが、「ジョブ型3.0」の人材マネジメントの根幹であるといえるでしょう。

PwCコンサルティングの調査では、領域別のジョブ型人材マネジメントの取り組み状況を可視化するために、「ジョブ・人材の適合度の分析単位」と「ジョブ・人材の適合度分析レベル」という2つの軸に基づいて、回答企業を4つにグルーピングしました(図表4)。

調査の結果、採用・配置・育成領域において、「職務単位」かつ「定量的」に適合度判断を行なっている「ジョブ型3.0」は、現時点では10%前後の先進企業が登場し始めた段階であることが分かりました。ただし、採用・配置を「職務単位」で実施する企業の割合が60%を超えており、今後も各社の進化は続くことが想定されます。

図表4 Output領域のKSF(採用・配置・育成)

Driver領域のKSF(推進基盤)

ここまで述べてきたInput・Outputを包括的に進めていくためには、Driver領域のKSFである、(a)人事システム、(b)推進体制、(c)経営層・社員の意識の3つの推進基盤を整備していくことが不可欠です。

(a)人事システム:職務・人材情報を管理する手段としてシステム活用が有効なことはいうまでもありませんが、さらに、職務・人材の適合度・ギャップをリアルタイムで定量的に把握する手段として高度化させていくことが「ジョブ型3.0」への進化のポイントです。

(b)推進体制:事業戦略の特性・状況に応じた形で人材に関する意思決定を迅速に行っていくためには、人材マネジメントを部門に権限委譲していくことがポイントとなります。また、部門主導での人材マネジメントを実現するためには、ただ権限移譲するだけではなく、HRBP(事業部門を支援する人事機能)が部門をサポートする体制を整備していくことが重要です。

このように部門への権限委譲とHRBPの設置をセットで行うことが「ジョブ型3.0」の推進体制として必要となります。一方、調査結果において双方ができている企業は、約2割に留まりました(図表5)。部門への権限移譲を進めている企業自体は約4割を占めていることから、HRBPによるサポート体制もセットで整備していくことが今後の課題として想定されます。

(c)経営層・社員の意識:「ジョブ型3.0」の推進のためには、その対象となる社員や運用主体となる経営者の意識を、ヒト基軸から職務基軸に変えていくことが不可欠です。どんなに緻密に制度や施策を練ったとしても、経営者・社員の意識が変わらなければ、効果を十分に得ることができません。それを踏まえて、ハード面(組織・制度、システム等)と並行してソフト面からのアプローチ(チェンジマネジメント)も考えていく必要があります。

おわりに-人材マネジメント変革に向けて-

Input・Output・Driverの3領域は相互関係性が強いため、「ジョブ型3.0」に進化していくためには、部分的ではなく、3領域全体を一つの取り組みとして捉えて目指す姿を描き、その上で各領域の取り組みを進める必要があります。

今、事業戦略を実現するための人材確保が各企業の大きな課題となっており、人材マネジメントは事業を推進する中枢機能となってきています。人事のことは人事部門が行うという形ではなく、経営層・事業責任者と人事が相互連携しながら組み立てていくべきものとなっています。

本稿が「ジョブ型3.0」を促進し、経営・事業・人事一体で取り組む人材マネジメント変革と、事業戦略の推進の一助となれば幸いです。

図表5 Driver領域のKSF(推進体制)

ジョブ型人材マネジメントサーベイ2022 ~事業戦略をドライブする「ジョブ型3.0」への進化~

執筆者

髙田 健太郎

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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