BCPアライアンス形成に向けて‐新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で重要性を増す異業種参入プレイヤーとの連携

2020-10-14

はじめに:経済合理性と堅牢性・安全性の狭間で揺れ動くサプライチェーン

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)蔓延に伴い、一部の日用品・衛生用品は世界的な需要の急拡大・輸出制限・圧倒的供給不足に直面しました。この事態は平時の各国間の協調関係により成立してきたグローバルサプライチェーンの課題を顕わにするとともに、有事でも製造能力を確実に自国・自社のコントロール下に据えておくことの重要さを私たちに知らしめました。今後、日用品・衛生用品などの必需品を扱う企業においては、サプライチェーンの堅牢性・安定性が問われ続け、BCP(事業継続計画)対応が強く求められるようになるでしょう。

それでは、サプライチェーンの国内回帰はこれからどのように進むのでしょうか。もちろん、COVID-19の傷跡が大きい短期視点においては、議論が進展することが予想されます。他方でCOVID-19蔓延前のグローバルサプライチェーンは、脆弱性がある一方、経済合理性を突き詰めた形態でもありました。そのため、COVID-19の記憶が薄れ、経済合理性の重みが増してくると、コストで劣後するサプライチェーンの国内回帰に対して疑義が生じるものと想定されます。また、このような事態を今から見据え、COVID-19蔓延前の形から変えずに特段のBCP対策をとらないという判断も、多くの企業でなされるでしょう。

そもそも有事の製造能力を担保する上で、日用品・衛生用品を扱う企業は今後自前で国内製造設備を持つ必要があるのでしょうか。本稿では、需要爆発が発生したマスク・防護服・フェイスシールド・人工呼吸器・消毒液などの製造に異業種ながら参入し、供給不足の解消に寄与した企業群を取り上げ、当該企業群と連携しアライアンスを形成することにより見えてくるBCP対応の新たな可能性を示します。

パターン2:大規模な設備・施設を要さない製品は製造コミュニティ形成によって対応

防護服など、最低限の設備・原材料・労働力があれば製造可能な製品については、個人も含め、より裾野を拡げた連携も可能と考えます。こちらは、本業企業が有事の際に作り手となる個人・法人のコミュニティを形成しながら、定期的に設計情報・製造ノウハウの共有・訓練などを行い、ケイパビリティを確保し続ける動きとなります。

パターン3:有事の人材需給調整に向けたBCP人材エコシステム

COVID-19蔓延によって需給バランスが崩れたのは日用品・衛生用品だけではありません。医療現場や小売・物流などにおいては需要の急拡大に伴い、人手不足も深刻化しました。また、リモートワークの普及などDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展により、システム整備に向けたIT人材への需要も高まりました。他方で飲食・宿泊・観光業界においては需要の大幅減が見られました。そうした中で、人材を一時的に需要が急拡大している企業に出向(転籍なども含む)させ、需給バランスをとる動きがあります。

こうした動きは、今後企業間連携を通じてより有効な仕組みにできる可能性があります。

有事の際に人材需要過多になりうる企業は必要な人材の要件・人数を、供給過多になりうる企業は一時出向させる人材や出向条件などをあらかじめ整理し、両社間で合意形成します。そして有事において当該出向スキームを発動させることで、需要過多になりうる企業は人手を確保し、供給過多になりうる企業は自社人材の雇用確保・出向先企業一部負担による人件費抑制につなげ、Win-Winを実現できるのではないでしょうか。人材バンクが仲介することで、1対1でなくN対N構造でのWin-Win実現も可能になります。

最後に:BCP対応の一環としての異業種連携に経済合理性を持たせるためには

上記はいずれも、サプライチェーンを自国・自社のコントロール下に置く上で「異業種連携・アライアンス形成を通じ、完全自前時よりもBCP対応のコストを下げる」ための提言に他なりません。経済合理性ではCOVID-19蔓延前のグローバルサプライチェーンの形態が優位であることに変わりはなく、異業種連携にいかにマネーを呼び込み、コスト面で競争力を持たせるかは引き続き課題となります。

そしてその手段が助成金頼みであるならば、収益性検証不足によってチェック機能がおろそかになり、健全性を保ちながら長続きさせることは難しいのではないでしょうか。このような有事に向けた異業種連携は、投資家らに評価され、優先的にマネーを呼び込める土壌を形成しながら、民間の主導によって維持していくことが必要です。

今後、こうした有事に備えた企業間・異業種連携を評価するための枠組み作りの機運を高めていくべく、上記連携を進めていくことと並行して、ESG(環境・社会・ガバナンス)・インパクト投資家など新たな価値観・評価軸を持つ投資家に対し、このような取り組みの社会価値を訴求し、評価軸に埋め込んでいくコミュニケーションも必要不可欠と考えます。

また、経営と社会・環境の双方の観点からアジェンダを設定し、それを実現するための取り組みを経営計画に落とし込み、その実行を通じて経済価値のみならず社会・環境価値を高めることが、企業価値向上のため、そして従来投資家、ESG・インパクト投資家からのマネーを集める上で重要です。他方で、社会・環境価値向上に1社で取り組むことはコスト制約上限界があります。そこで、社会的なBCPという観点から複数の企業とアライアンスを結び、コスト分散を図りながら社会・環境価値の最大化を目指すことが、企業により強く求められるのではないでしょうか。

さらに中長期的には、本業プレイヤー・異業種プレイヤー間の提携にとどまらず、公的機関からも出資を受けたJV(Joint Venture)などを設立し、長期投資を志向する機関投資家から投資を受ける、というスキームの登場も想定できます。このように、社会・環境価値の最大化に向けたアライアンスは、より広く深く拡大する可能性を秘めています。

PwCの支援内容

PwC Japanグループは、M&Aやアライアンスの意思決定サポートを通じて培った異業種連携や連携先企業評価を推進する上でのノウハウと、ソーシャル・インパクト・イニシアチブの活動をはじめとする社会的価値を追求するビジネスモデルへのシフトに関するナレッジを結集し、官公庁向けの政策整備から民間企業のBCP計画策定・実装まで、幅広い支援が可能です。

執筆者

宮城 隆之

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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岡山 健一郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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下條 美智子

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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北原 菜由香

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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