
【動画】PwCコンサルティング×日本マイクロソフト対談ダイジェスト―日本企業における今後の生産性改革の在り方とは―
「日本企業における今後の生産性改革の在り方」をテーマに、生成AI活用や日本企業における新たな働き方について、日本マイクロソフト株式会社のエグゼクティブアドバイザー小柳津篤氏とPwCコンサルティングのディレクター鈴木貞一郎が語り合いました。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行に伴い、VRやメタバースに代表される仮想空間に対して、人々のリテラシーとアクセプタビリティは劇的に変わりました。それとともに、高いポテンシャルに大きな期待を寄せられる技術が「人間拡張」です。はたして、私たちの暮らしや仕事にどのような未来をもたらすのでしょうか。国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)・人間拡張研究センターの研究センター長で、この分野のトップランナーとして斯界を牽引してきた持丸正明氏と、PwCコンサルティング合同会社パートナーの諏訪航が、人間拡張技術の本質を解き明かすべく語り合いました。
諏訪:「人間拡張」という語は、広汎な概念を包摂する言葉ですね。本日の対談を始めるにあたり、その定義を改めて確認しておきたいと思います。持丸先生は「人間拡張」をどのような技術だととらえていらっしゃいますか。
持丸氏:テクノロジーとしての側面と哲学としての側面、人間拡張はこの2つの側面を持つ技術だと考えています。テクノロジーとしての人間拡張は「Human Augmentation」の日本語訳で、Augmentationとは「増強する」、音楽では「半音上げる」こと。ITやロボット技術などを駆使し、人間の身体的、心理的、さらにコミュニケーションなど社会的な能力を一時的に増強する技術を指します。同時に、それを使い続けることでバイオロジカルな身体機能の維持と強化に寄与する技術でもあります。
一方、哲学としての側面からいうと、人類が生み出した自然環境・社会環境の変化に対し、遺伝的・生物的に適応できなくなった自らの機能を補う技術だといえます。私たち人類は、驚異的なスピードで変異するウイルスとは異なり、環境に合わせて遺伝的に変異・進化するのにおそらく2,000年くらいの長いスパンを要します。例えば、なぜ私たちは「太る」のか。現生人類の出現が約3万5,000年前として、そこから現在に至る時間の99%以上にわたり、ヒトは食糧を十分に確保できず明日の生存もおぼつかないことが常態でした。だから人類は、栄養を摂取したらとにかく身体に蓄える必要があった。ところが今からわずか80年ほど前、人類の食糧事情は一変し、一部の地域を除いて飢餓の問題は解消されたのです。しかし「摂った栄養を身体に蓄える」という形質は100年程度では変わりません。だから、現代において肥満が問題化したわけです。
「肥満」は1つの例ですが、現代の私たちは他にも同様の問題と直面しています。「変化」に対し、生き物として必ずしも適応できていないのです。
諏訪:変化に適応して生き残るには、私たちが自らを迅速にアップデートする必要があり、そのための技術が人間拡張である──それが「哲学的側面」ということなのですね。
持丸氏:はい、そのとおりです。人間拡張は、「もっと速く走れるようになる」とか「より遠くのものを見ることができる」といったイメージで語られがちですが、その本質は実は別のところにあると私は考えます。
私たちは世界中の人々と制限なくコミュニケーションできる通信環境を生み出しました。しかし一方で、安定した対人関係を維持できる人数の上限(ダンバー数)は150人程度だとされます。人はまだ、150人を超えて多くの他者とつきあえるまでには生物として進化を遂げていない。同様に、「自分たちが築いた文明の環境に適応が追いつかない」──そのギャップを埋めるため、テクノロジーを使って人類の能力を拡張し、高速進化させて環境との調和を図ろうとする挑戦が、人間拡張の哲学的な本質です。
国立研究開発法人産業技術総合研究所 人間拡張研究センター研究センター長 持丸 正明 氏
諏訪:「人間拡張の技術は世界をどう変えるか」について先生とお話しする心づもりでこの場に臨んだのですが、今のお話を伺うと、どうも順序が逆なのかもしれません。変化した環境に人類を適応させる技術が人間拡張だ、と。
持丸氏:ええ、ベースはそちらだと思います。身近なところですが、例えば「靴」について考えてみましょう。靴を履く生き物はヒトだけです。それはなぜか。私は、人間が「車輪」を発明したからだと考えています。車輪を備えた車両で人やモノを運搬すると、路面に轍が残ります。轍の凹凸は効率的な輸送の妨げとなるため、人間は轍ができないように道を固めました。すると今度は、ヒトの身体つまり素足が、硬い道に耐えられなくなった。その結果、靴が必要になったということです。「靴を履く」行為は、プリミティブな人間拡張の1つだったのです。
技術の根底には、そうした原理がまずあります。そこに、テクノロジーの恵みを享受する側と利便性を提供する側が新たなアイデアを上乗せしていくことで、社会に変革をもたらすアクティブな人間拡張へと発展するのだと考えます。
諏訪:そのような原理あるいは、哲学が根底にあるならば、人間拡張の技術は本来、誰のための技術だと考えるべきなのでしょう。車いす利用者のような、身体に障がいのある人を対象にするものなのか、それとも健常者を含む全ての人が対象なのか……。
持丸氏:「全ての人」だと私は考えます。ただし拡張する目的は、「なぜ機能の増強が必要なのか」という起点と、「増強して何を目指すのか」という目標点で異なるでしょう。例えば、障がい者や高齢者の機能不足や衰えを補って生活しやすくする、あるいは何かをできるようにする場合、人間拡張は障がい者支援・介護支援のための技術になります。一方で、障がいがあったとしても別の方向への拡張を望む方がいるかもしれない。移動に車いすを要する方が、実は絵を描く才能に恵まれていて、移動が楽になる方向よりも、絵をさらにうまく描ける方向に能力を拡張したい、と未来を描くのは十分に想定できます。
諏訪:不得意な部分を補うだけにとどまらず、自分が望む部分を伸ばす技術にも、人間拡張はなり得るということですね。
持丸氏:はい。人間拡張は「平均的な人」をつくる技術ではありません。開発者がどう思おうと、その技術を用いる人全てが「平均的なもの」のみを求めるわけではないからです。人間拡張がもたらす未来は、もっとバラつきのある、いわば「超多様性社会」だろうと予測します。
諏訪:その視点を敷衍して考えれば、新たなビジネスの創出にもつながっていく話なのではないでしょうか。
持丸氏:つながるはずです。そもそもひと言で障がい者といっても人それぞれで、一人ひとりのニーズに最適な機器を提供するには、カスタマイズが不可欠です。その結果、必然的に少量生産となり、価格は高くなります。しかしもし、同じ機器を障がいのない人が何か別の思惑で使うようになれば、需要が増えて価格は一気に下がる。よい例の1つが「温水洗浄便座」です。もともとは、局部疾患や妊産婦など自分でお尻を拭けない人のために開発された医療機器でしたが、健常者が使っても快適だという認識が広まると、あっという間に普及しました。流通量が増えたことで機器の価格も下がり、結果的に障がいがある人たちもより手軽に購入して使えるようになりました。
新しい技術が普及するには、「数」と「価格」が問われます。障がい者も健常者も暮らしやすいインクルーシブ社会をビジネスによって実現しようとするならば、同じ技術を使って健常者も楽しめ、より便利になり、ウェルビーイング(well-being)を実現するにはどうするか……という観点で考えることが大切です。
PwCコンサルティング合同会社 パートナー 諏訪 航
諏訪:今からおよそ20年前、日本の製造業・テクノロジー産業には勢いがあり、世界の市場で燦然と輝いていました。しかしその後、多くの企業が思うように成長できず、今では世界市場でのプレゼンスも曇りがちです。私は、人間拡張こそがこうした現状を打破する革新的な技術になるのではないかと期待するのですが、先生はどうお考えになりますか。
持丸氏:そのご意見に賛成です。実は産総研の人間拡張研究センターでは、「技術」そのものだけでなく、技術の出口としての「サービス」にフォーカスした研究も行っています。従来からある「売るビジネス」において、マーケティングの主目的は「購入してもらうこと」にとどまっていました。例えば、いかにして自動車を買ってもらうか。しかし売れた後のクルマが「顧客にどのような体験を提供しているか」には、関心が薄かったのです。
だがこれからはMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の時代です。自動車を通してどのような体験を提供できるかが問われるわけです。ここで言う「サービス」は、日本企業がとりわけ後れを取っている領域だと思います。人間拡張技術をビジネスへと展開するには、最初からこの点を意識する必要があります。つまり、「Human Augmentation-as-a-Service」。機器は、極端に言えばレンタルでかまわない。それが生み出す価値、例えば生産性の向上、新たなエンターテインメント体験など、そういうところに課金するサービスを考えるべきです。
PwCでは、「DX時代において国内テクノロジー企業が本当に為すべきこと」というテーマで、日本のテクノロジー企業に対する提言を行っています。
1988年、慶應義塾大学理工学部機械工学科卒。1993年、慶應義塾大学大学院博士課程生体医工学専攻修了。博士(工学)。同年、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所入所。2001年、改組により、産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究ラボ副ラボ長。2010年、デジタルヒューマン工学研究センター長、およびサービス工学研究センター長を兼務。2015年より産業技術総合研究所人間情報研究部門長。2018年より人間拡張研究センター長。専門は人間工学、バイオメカニクス。人間機能・行動の計測・モデル化、産業応用などの研究に従事。
外資系メーカー、大手コンサルティングファームを経て現職。総合電機・半導体・精密機器・通信機器・SIなどのハイテク産業を主に担当し、サプライチェーン・エンジニアリングチェーンの再構築やグローバル経営管理の高度化などにおける構想策定から実行支援までの経験を豊富に有する。近年はデザイン思考とテクノロジーを用いた新規事業創出やデジタルトランスフォーメーション/チェンジマネジメントをリードしている。
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