
第12回◆グローバル展開を加速させるためのフロントオフィスの現状と改革
テクノロジー業界では、企業の枠組みを超えた価値提供が求められる中、海外でのビジネス拡大に取り組むケースが増えており、最適な仕組み構築が求められています。PwCコンサルティング合同会社のメンバーに改革を推進していくためのポイントを聞きました。
テクノロジー業界では、顧客やユーザーの課題が複雑化し、自社の事業部門をまたぐ、あるいは企業の枠組みを超えた価値提供が求められるようになりました。また、日系テクノロジー企業では売上比率が伸びている海外でのビジネス拡大に取り組むケースが増えています。
PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)は、このような課題を共有しフロントオフィス改革を支援しています。本稿では、専門家2名に日系テクノロジー企業の現状と、改革を推進していくためのポイントを聞きました。
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 寺澤 雄輝
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー 大久保 太一
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
寺澤 雄輝
2013年PwCコンサルティング入社。フロントオフィス改革やサプライチェーン改革のプロジェクトに従事。TMT(テクノロジー・メディア・情報通信)ではテクノロジー企業に向けたコンサルティングサービスを提供。主にものづくりを伴うコングロマリット企業を担当し、システム構築を伴う大規模なトランスフォーメーション案件、新規事業立案、規制対応など幅広く手掛ける。
インタビュアー
PwCコンサルティング合同会社
マネージャー
大久保 太一
外資系コンサルティングファームで金融や製造業界に向けたパッケージシステムの導入から運用・保守までの一連のコンサルティングサービスに従事し、2021年PwCコンサルティング入社。TMTでは主に基幹システム導入を手掛ける他、直近では大手テクノロジー企業支援のプロジェクトメンバーとして活動。
※対談者の肩書、所属法人などは掲載当時のものです。
大久保:
技術の進歩、企業と消費者のニーズの変化、ビジネスモデルの変化などを背景に、テクノロジー業界は他のどの業界よりも急速な変革と進化が求められています。その中で、ここ数年の日系テクノロジー企業のトレンドとしては、顧客の課題解決を起点とした事業づくりや組織体制の再構築が求められるようになりました。また、売上高における海外売上比率も高まりグローバル化が加速しています。
寺澤:
メーカー系企業のフロントオフィスでは、顧客の事業環境が複雑化し、単一の商品や事業では課題の解消が困難になっています。社内の事業部門の枠を超えて製品やサービスを組み合わせたり、他社のサービスを取り入れて解決策を提供したりする「従来の産業の垣根を越えた価値提供」が重要で、そのような体制へと変革していくことが企業の生き残りにも関わってくるようになりました。
大久保:
従来の産業の垣根を越えた営業へと変革していく上で、日本企業にはどのような課題がありますか?
寺澤:
複数の事業を持つコングロマリット企業は、各部門に営業担当者がいます。彼らは所属部門の製品やサービスとの紐付きが強く、「この製品に詳しい人」「このサービスをよく知る人」といった「背番号」を背負って活動する傾向にあります。本記事で論じているトレンドは事業部門をまたぐ営業活動ですので、まずはこの体制を変えていかなければなりません。
大久保:
しかし現実には、1人の営業担当者が自社で取り扱っている製品群を把握し、スーパー営業マンとして活躍するのは難しいですよね。
寺澤:
そうですね。最適解としては、顧客中心で考える人、各商品やサービスに詳しい人が結集して営業活動を推進していく仕組みを作っていくのが良いのですが、この組成に苦しんでいる企業が多いのではないかと思います。
もう1つの課題は、単一事業で各事業部が思い思いに営業活動してきた時の名残により、財務会計と管理会計を一緒にする「財管一致」の営業KPI設計になっていることです。これは営業の担当者や部門が協力しにくくなる要因となりますし、個人や部門間で数字の取り合いが発生している例もあります。
大久保:
会社としての目標と事業部ごとの目標の整合性をどう調整するか、営業担当者のKPI、インセンティブ、評価を適正で納得度が高いものにするにはどうするのが良いか、ということですね。
寺澤:
そのとおりです。例えば、複数の営業担当者が協力して獲得した受注について、関わった営業担当者の数で等分するのであれば、営業個人としては多くの人を巻き込まない方が個人としてのKPI達成やインセンティブ獲得につながりやすくなります。これは従来の産業の垣根を越えた事業横断での販売強化を妨害する要素になります。
寺澤 雄輝
大久保 太一
大久保:
フロントオフィス改革を進めていく上で日本企業が参考にできる事例や施策はありますか?
寺澤:
ここ数年で特に売り上げを伸ばしているいくつかの例を紹介します。営業活動は、商談機会の発見から始まり、商談の推進、受注、顧客リテンション、カスタマーサクセスといったプロセスの複合体です。ある企業では、これらプロセスごとに組織を分けて連携する仕組みを作っています。
大久保:
見込み客からリピート獲得までのパイプラインを組織的に管理し、成約率を高めるための分析や営業活動の改善を行っているわけですね。
寺澤:
そうです。例えば、商談機会の発見では、ドアノックを行うインサイドセールス部門と、課題のシーズを見つける顧客特化のパートナービジネス部門が主体となって活動し、商談の推進では業界や商材の知識が豊富な専門家や技術営業などで混成のチームを作って対応しています。顧客リテンションは、ポストセールスの専門部隊を置き、インダストリー軸とソリューションである商材やサービス軸のチームがクロスファンクションで対応します。
大久保:
従来とは異なる、産業の垣根を越えた事業横断での営業活動では評価やKPIをどのように設計しているのですか?
寺澤:
会社の戦略に合致するテーマを全ての部門で共有し、複数の部門が協力したいと思うようなKPIを設定します。
例えば、会社の戦略として大規模案件の獲得に注力するというテーマがあった場合、受注案件の規模や金額に応じてクレジットの比重を大きくします。1億円の案件は1倍、100億円なら10倍にするなどN倍になる仕組みとするわけです。すると、狙っている案件が大型になるほど、多くの営業担当者や部門が関わりたいと考えます。他部門の案件でも自分の名前や部門の名前を入れてもらえれば、それが成績として評価されるわけです。その結果、組織をまたいだ連携が生まれ、一丸となって案件獲得を目指す体制ができやすくなり、優秀なメンバーが集まることで顧客の課題解決にもつながりやすくなります。
大久保:
私たちPwCコンサルティングも近い施策を取っていますね。私たちの場合は、インダストリーごとの組織単体ではクライアントにワンストップでサービスを提供できないテーマや、PwCコンサルティングとして戦略的に注力している戦略アジェンダをテーマとしてコラボレーションを促進する設計をここ数年にわたって強化しています。
私が関わっているプロジェクトでも、システム構築の専門家や、クライアントが使っているシステムに関わる業務領域を深く理解している人たちとチームを編成し、その中で私がプロジェクトマネジメントを担当して支援にあたるケースがあります。このような取り組みは日本企業が目指すフロント改革と非常に親和性が高く、私たち自身が日常的に行っているチーム作りやKPIの割り振りといった知見を生かすことができるだろうと思っています。
大久保:
日本企業のトレンドとして、大手企業を中心に海外での売上比率が高まっています。グローバル展開の推進ではどのような課題がありますか?
寺澤:
日系のテクノロジー企業は、日本国内では十分な数の営業組織を構え、グループ会社や社外の代理店もチャネルとして活用しながら自社で営業を推進しています。しかし、海外では国や地域単位で統括会社を置くものの、リソースが限られるため、営業や販売の実務は現地のディストリビューターやディーラーに丸投げになっているケースも多く見られます。
大久保:
ディーラーに販売を一任してバリューチェーンが途絶えてしまうことになると、現地の実需、マーケット、顧客に関する情報をタイムリーに追うことができません。その結果、販売促進に向けたメーカーのサポートや市況を加味した生産計画の立案などが滞ってしまうわけですね。
寺澤:
そうです。グローバル展開では、対象の国や地域のマーケット情報を確実に獲得する必要があります。例えば他企業ではどのディーラーと、どの顧客に対して、どのような商談をしているのか、在庫状況はどうなっているかなどについてマーケット調査や情報収集を通してタイムリーに獲得することにより、自社の商談サポートやサプライチェーン最適化のアクションにつなげることができます。
大久保:
ディストリビューターやディーラーの先にある情報はどのように取得するのが良いのでしょうか?
寺澤:
私たちが支援した例では、ディーラーの在庫管理や、日々のタイムリーな販売状況、さらにはフロントでの商談の進捗情報などをプラットフォーム上で一元的に可視化し、アクションがあった時に情報登録してもらうようにした企業があります。結果として、E2E(End to End)でマーケットに製品を届けられる仕組みへと変革できました。
大久保:
そのようなシステムの導入では、現場のスタッフが情報を入力しなかったり、その手間を嫌がったりすることによりプラットフォーム上の情報が更新されないケースもあるのではないでしょうか。
寺澤:
そうですね。この事例では、情報を入力することをディーラーとの契約に盛り込み、販売や成約につながった際にはインセンティブが発生する仕組みにしました。
大久保:
海外での社外連携やD2C(Direct to Consumer)の観点で、エンドユーザーとの接点を強化するには、エンドユーザーの視点で最適化されたプロセスやサービスを構築し提供することが重要です。そのためには、どのような方法が有効ですか?
寺澤:
これもデジタルのチャネルを活用して接点を持つのが良いと思っています。私たちが支援しているクライアントの事例では、顧客向けのデジタルアプリケーションを自社で開発し、マイページ上やIoT機器で取得した情報を基に、顧客へのサービスメンテナンスの打診、部品交換のレコメンド、買い替えの案内を行っています。
大久保:
エンドユーザーからのリクエストや注文はどのように対応するのですか?
寺澤:
リクエストなどはディーラーに流れる仕組みになっています。
大久保:
ディーラーの視点から見ると、メーカーが案件を取得してくれる構図になっているわけですね。
寺澤:
はい。PwCコンサルティングには、このような業務テンプレートの知見が豊富に蓄積されています。海外での社外連携やD2C強化を検討しているテクノロジー企業に向けて、こうした成功事例を提供していきたいと思っています。
(左から)大久保 太一、寺澤 雄輝
(左から)大久保 太一、寺澤 雄輝
大久保:
フロントオフィス改革において、グローバル展開は重要な潮流です。実際、日系テクノロジー企業では海外進出の事例も海外での売上比率も増えています。この取り組みを推進していくためにPwCコンサルティングはどのようなサービスを提供していますか?
寺澤:
日系テクノロジー企業の進出先は、これまでは北米、欧州主要国、中国、東南アジア、インドが中心でしたが、私が携わった最近の事例だと、エジプト、カザフスタン、中南米諸国など新たな市場にも目を向けている企業が増えています。
大久保:
進出先が多様化する理由はどのようなものですか?
寺澤:
いくつかありますが、多くの企業が注視しているのは地政学リスクです。米中関係を含め、経済情勢は常に変化しています。これまで順調だった海外でのビジネス網が、これからも安泰とは言えず、気付けば事業のリスク要因に変わっていることもあります。そのような状況を踏まえて、私たちはグローバル企業に向けて包括的、かつ現地で取得した情報を生かしたサービスをワンストップで提供しています。
大久保:
PwCグローバルネットワークは、世界149カ国に拠点があり、先ほどの例で言えばカザフスタンや中南米など、日本企業の進出例が少ない、一般的にはニッチと呼べる国まで網羅しています。その情報を活用することで、例えば、現地ディストリビューターの提携候補先を抽出したり、フォレンジック調査などを踏まえてパートナー候補を評価したりできますね。
寺澤:
はい。事業や財務状況を踏まえた企業の信用、訴訟履歴、株主構成、反社会勢力との関係性の有無などをPwCグローバルネットワークを通して調査します。また、一度組んだ企業についても定期検診のように評価を行い、対象国の地政学リスクなども含めて取引の健全性を評価するサービスを提供しています。これはコンサルティングの他にも税務、監査、会計など多様なサービスラインをグローバルで展開している私たちらしいサービスだと思います。
大久保:
テクノロジーの観点では、PwCメンバーファームはAIなど最新テクノロジーの研究にも積極的で、自ら使い、失敗と成功を繰り返しながら得た知見をクライアントに提供しています。このような価値提供も私たちのサービスの強みですね。
寺澤:
そうですね。国内の人口が減少していく中では、業務の効率化や新しいアイデアの創出などさまざまな場面でAIの活用事例が増えていきます。また、海外においても少ないリソースで効果を最大化するということが継続的な論点となります。フロントオフィス改革も、その取り組みの一部をAIで代替していくことを前提に組織改革を進めていくことが重要だと思います。
PwCでは、2025年4月29日にグローバルで「Value in Motion」というレポート※1を発行しました。本レポートの中でも、AIの成長が確実に世界に利益をもたらすようにするには、技術的な成功だけでなく、責任ある展開、明確なガバナンス、人々や組織からの信頼にも左右されることや、世界中の22セクターのうち17セクターにおいて、企業に対してビジネスモデルの再発明を迫る圧力は過去25年間で最も高い水準に達しており、従来のセクターの枠を超えた新たな「領域」が形成されることといった、今回のインタビュー記事の中でも触れた内容に類することが述べられています。
(※1:PwCの調査レポート「Value in Motion」:AIの導入は世界経済を再構築し、2035年までに全世界のGDPを15%押し上げる可能性を示唆)
大久保:
私が関わっているシステム構築やDXの領域では、AIは機会であり脅威でもあると捉えられています。AIの進化と活用をクライアントにとってのポジティブなインパクトにしていくために、今後も伴走支援に責任を持って課題解決に貢献したいと思います。
テクノロジー業界では、企業の枠組みを超えた価値提供が求められる中、海外でのビジネス拡大に取り組むケースが増えており、最適な仕組み構築が求められています。PwCコンサルティング合同会社のメンバーに改革を推進していくためのポイントを聞きました。
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