
【動画】Four Day Workweek Approach 組織の成長を実現する、生産性の高い働き方とは
PwCコンサルティングが提唱する給与維持型の週4日勤務制度「Four Day Workweek Approach」ソリューションの概要と成功のカギ、ベネフィットを解説します。
ビジネスモデルが大きな転換期を迎える中、いま注目が集まる技術「人間拡張」。国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)・人間拡張研究センターの研究センター長で、この分野のトップランナーである持丸正明氏と、PwCコンサルティング合同会社パートナーの諏訪航が人間拡張技術を巡って議論した対談の後編。日本の産業界が世界に伍していくために鍵となる「サービス化」について、2人が意見を交わした。
諏訪:前編の最後に「人間拡張の技術がビジネスへと展開するには、“Human Augmentation-as-a-Service”の考え方が大切」というご指摘がありました。製造業やテクノロジー企業にとっても「サービス化」の展開が欠かせないとの認識は私たちPwCも持っており、「Anything-as-a-Service」(XaaS)の実現を支援するソリューションを提供しています。ただし、大きくそこに舵を切る企業はまだ多くありません。「サービス」へのシフトが進まないのはなぜでしょうか。
持丸氏:理由はいくつか考えられます。まず1つは人材不足。サービスの設計と提供の両方で人材が不足しています。設計に関しては外部の企業との共創で解決できますが、それを提供するには社内に相応の専門部門が必要です。
製造業を営む企業は、メンテナンスなどのサービス提供部門をすでに持っていますが、それが実は顧客情報という「価値」を収集する第一線部隊であることは、これまで意識されてこなかった。むしろ後ろ向きな「トラブル対応窓口」のような扱いでした。まずそこを変える必要があります。サービス提供部門を適切に評価し、人を育てる。あるいは、小さなM&Aを重ねてサービスが得意な企業の人材を受け入れ、自社の人材育成を促すなど、具体的な対処が急務です。
もう1つ、旧来のマネジメント意識もサービス化を阻んでいる要因です。特に、大企業がモノづくりからサービスにシフトするには、売上や収益とは別の新たな経営指標に着目できるかがカギになります。分かりやすいのは、「知識の価値」です。知識の価値はデータから紡ぎ出されます。データをAIなどで解析し、企業や顧客の価値に転換し、それを評価する。例えば、売上が1兆円ほどの企業で、サービスに関する新規事業の売上が1億円程度だったとしても、その部門が他社にはないデータ(知識の価値)を獲得できていれば、「その事業は継続すべし」という経営判断が成り立たなければなりません。そのためには、「価値」を数値化することが必要です。
諏訪:極めて大切な示唆だと思います。確かに、そのような判断をできる企業はまだ少ない。ITをはじめとするテクノロジー企業のサービスに置き換えて考えてみると、巨大企業であれスタートアップであれ、売上とは別に、アクティブユーザー数や滞在時間といった数値を見て多くの人が投資を判断します。一方、日本の製造業では、これらの「価値」が評価軸とされることがあまりないですね。
持丸氏:ええ。とはいえ、サービス化=モノづくりをやめる、という極端な話ではありません。プロダクトの性能向上だけに注力するのではなく、そのプロダクトが使われるサービスという次段階のビジネスをセットで考えながら、軸足を移していくことが肝要です。
諏訪:日本には、サービスビジネスを扱ってきたICT企業と呼ばれる企業群があります。10年ほど前まで、いわゆるSIer(システムインテグレーター)として確固たる支持を得ながら多種多様な企業のシステム構築を担ってきました。ただ近年、そこまでの勢いは失われています。
持丸氏:難しい問題ですね。日本のICT企業は、もともとはメインフレームを販売していたものの、だんだん売れなくなったのでサービス化に舵を切った経緯があります。いち早くサービス化にシフトしたともいえますが、一方で、彼らがアタックしている領域は新興企業が多く、いわゆるレッドオーシャンでもあります。同じような来歴を経て成功にたどり着いた海外のテクノロジー企業と比較すると、日本のICT企業よりも思い切りがいいように見えます。「思い切り」とは例えば、自らがプラットフォーマーになるために、自分のクライアントと競合する部門はすべて売却する、というダイナミックな変革のこと。プラットフォーマーを目指す日本のICT企業にはなかなか見られない対応です。
国立研究開発法人産業技術総合研究所 人間拡張研究センター研究センター長 持丸 正明 氏
諏訪:「サービス」へのシフトを図るには、「知識の価値」が含まれるデータを他社に先んじて取得し、それを「数値化」すべしとのご指摘にとても共感します。そのデータの収集場所として、どこが狙い目だとお考えですか。
持丸氏:今の私たちは、目の前にカメラやマイクがあることが日常になりました。サイバー空間とつながるために、自身のデジタルシフトを受け入れたのです。サイバー空間への入口、つまりフィジカル世界とサイバー世界が接するインターフェースは、価値あるデータを取得できる1つ目の場所です。そして人間拡張は、そんな界面の技術でもあるのです。
2つ目の場所は、サイバー空間の内部です。メタバースでのアバター活動は、一挙手一投足、データ化されます。誰と誰が何分間会話したか、どれくらいの距離を移動したかまで、すべてデータとして取得可能です。この世界でのタッチポイント(顧客接点)をいかに確保するかが、決定的に重要です。
諏訪:しかし現状では、サイバー空間のタッチポイントの大部分はグローバルなメガプラットフォーマー企業が握っています。日本企業に勝機はありますか。
持丸氏:厳しい面は確かにあります。ただ、「人のどのようなデータが企業にとって価値があるのか」を考えると、希望はあると思います。人のデータには、大きく2種類あります。1つは生物的データ、もう1つは社会的データです。老化や運動といった生物的データは、確かに価値があります。ただ、われわれ人間の生物的データは、100年程度の単位ではあまり変化しません。つまり、ある企業が生物的データをすでに大量に保有していたとしても、後発企業はそのデータを購入したり、先行する企業を買収したりすれば、十分にキャッチアップすることができます。
他方、社会的データは違います。例えば、私が今日この後どういう行動をするかは、時代や社会に影響されます。「今夜、こういう目的で、あの場所に行きたい」「昨日はこういう理由で、あそこに集まった」というデータは、時代・世相とともに変化するのです。
諏訪:人々の志向の変転は、ヒトの進化よりはるかに速いということですね。
持丸氏:そうです。だから今後は、生物的データに加えて、社会的データをいかに集めるかも重要になります。ある企業がすでに10年分の購買データ(社会的データ)を所有しているとして、同じようなデータを取得できる会社をいま起業してデータ収集を始めても、10年分の差を挽回することはできません。社会的データには、先行者有利が強く働きます。メタバースではウェアラブルデバイスで生物的データも収集していますが、それらのデータは基本的には社会的データです。日本企業も社会的データの価値を認め、それをいかに経済上の利得に転換するかを考えながら、とにかく早く集めることに注力すべきです。
PwCコンサルティング合同会社 パートナー 諏訪 航
諏訪:「おもてなし」という言葉が象徴するように、日本は独自の「サービス文化」が息づく国です。日本人がそもそもサービスが苦手なのかというと、決してそんなことはありません。むしろ得意なはずです。そのような文化的バックボーンのある日本企業は、「サービス化」にシフトするにあたってどんな点を意識すればよいとお考えですか。
持丸氏:サイバー空間で生まれた価値をフィジカルな世界に「戻す」部分だと思います。先ほど諏訪さんがご指摘なさった通り、タッチポイントはおおむね世界的なプラットフォーマーに握られています。仮想空間と現実空間のインターフェースとなるARゴーグルやセンサーなどのモノづくりでそうした企業と勝負しても、日本企業の勝ち目は薄いでしょう。
一方、サイバー空間の価値を実空間にフィードバックする部分では、家電製品や自動車といった従来の日本のモノづくりが強みになります。なぜなら、その製品のデジタルツインがサイバー空間にあれば、フィジカルな世界にあるモノにセンサーを付けるだけでインターフェースになるからです。つまり、日本企業がいま持っている製品が、デジタルツインやIoTとリンクさせることで直ちに仮想空間へのゲートになり、そのようなゲートを所有しないプラットフォーマーには収集できないデータ(=知識の価値)を集める機構となる、ということです。
ゲートから戦略的に生物的データと社会的データを取得し、サービスを考える。フィジカルな世界とサイバー空間との界面の技術である人間拡張は、そのインタラクションあるいは価値を担うものとして、日本の勝機につながる技術だと考えます。
諏訪:重要なご指摘です。その点を踏まえ、具体的にはどのような領域が、日本企業にとって人間拡張技術の強みを生かしやすい分野になるとお考えでしょうか。日本の製造業は今、かつて日本が世界のトップランナーとして「世界の20~30年先を行っていた」時代に培った技術の蓄積に頼っている状況です。しかし現在そのような先行性は失われ、当時日本の技術が世界を席巻していた分野で今後も優位性を見いだすのは難しくなっています。
私は、逆転的な発想で、いま日本が抱えている社会問題、具体的には、高齢化、介護、それに加えて災害への備えなどの領域でこそ、日本は再び世界に先行できるのではないかと思うのです。世界の他の先進国も必ず、20~30年後には同様の課題と直面するはずですから。
持丸氏:まさにそこだと私も考えます。日本は世界に先駆けてそれらの課題と向き合っており、重要なデータをいち早く収集できる状況にあります。ただし、コロナ禍に伴い状況がやや変わりつつある点には注意が必要です。世界中で、人々のデジタル技術へのリテラシーと受容性が向上し、仮想空間は一気に身近な技術になりました。これは、仮想空間を利用した課題解決法の開発が世界同時的に進むことを意味します。新型コロナウイルス対応で培われた技術が、日本が先行する諸課題の解決にも応用されるようになると、競争はさらに拍車がかかることでしょう。
世界はテクノロジカルにシフトチェンジしており、その流れに日本が乗り遅れることは絶対にあってはいけません。従来の「モノづくり」を、「サービスと連携するビジネスモデル」へと、世界の潮流を見据えながら戦略的に切り替える──今がその大きなチャンスととらえ、動き出すときです。
諏訪:まさに、そのとおりですね。人間拡張がインタラクションとなるこの不可逆的な大きなうねりを、産業界は追い風としなければなりません。2回にわたり、「人間拡張」を再定義しながら、「サービス化」がもたらす可能性まで、日本の産業界に向けて非常に示唆に富むお話をいただき、ありがとうございました。
PwCでは、「DX時代において国内テクノロジー企業が本当に為すべきこと」というテーマで、日本のテクノロジー企業に対する提言を行っています。
1988年、慶應義塾大学理工学部機械工学科卒。1993年、慶應義塾大学大学院博士課程生体医工学専攻修了。博士(工学)。同年、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所入所。2001年、改組により、産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究ラボ副ラボ長。2010年、デジタルヒューマン工学研究センター長、およびサービス工学研究センター長を兼務。2015年より産業技術総合研究所人間情報研究部門長。2018年より人間拡張研究センター長。専門は人間工学、バイオメカニクス。人間機能・行動の計測・モデル化、産業応用などの研究に従事。
外資系メーカー、大手コンサルティングファームを経て現職。総合電機・半導体・精密機器・通信機器・SIなどのハイテク産業を主に担当し、サプライチェーン・エンジニアリングチェーンの再構築やグローバル経営管理の高度化などにおける構想策定から実行支援までの経験を豊富に有する。近年はデザイン思考とテクノロジーを用いた新規事業創出やデジタルトランスフォーメーション/チェンジマネジメントをリードしている。
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