テクノロジー業界のコンサルタントが語る テクノロジー業界の未来トレンド予測から導出する業界課題とその対策

第11回◆PwCコンサルティングとMobiveil, Inc.、双方の強みを生かすパートナーシップで戦略策定から実装まで網羅 半導体業界の新たな成長を支援

  • 2025-05-30

生成AI時代の技術トレンド

内村:
半導体の需要は高まり続ける一方で、それに応えるための技術開発や安定供給体制の整備が課題になっています。半導体企業の成長には、優れた性能を持つ半導体をタイムリーに市場に提供できるかどうかが重要です。

Ravi:
供給の面では、まずサプライチェーンのレジリエンスが今後ますます求められます。半導体は長年、電子機器や車などの構成部品でしたが、その重要性があまり意識されていませんでした。コロナ禍で製造や物流に混乱が生じたことで、各業界は半導体の重要性を再認識することになりました。

内村:
AIの実用化と、それに伴う爆発的な需要増も、半導体不足の一因になっています。最近は「チップレット」のような新しいアーキテクチャも登場しています。従来の半導体チップでは微細化により2D(平面)での集積度を上げてきましたが、現在はその限界が近づいています。今後は、3D構造でチップを積層・統合するチップレット技術が注目されています。生成AI活用の高度化とともに、この分野の市場も大きく成長していくとみています。

(左から)内村公彦、Ravi Thummarukudy 氏、Santhish Kumar氏

スタンダードとカスタムの両立

内村:
これからの半導体市場では、「ロボティクス」と「AI」が重要なキーワードになると考えています。特に注目すべきは半導体の「標準化」と「カスタム化」の両立です。あらゆる分野で活躍するロボット向けには高性能かつローパワー、ローコストの半導体が求められ、ここに競争優位性が生まれます。つまり、先端半導体の専用多品種が必要となり、ロボティクスやAIのアプリケーション市場が今後さらに拡大していくということです。

Ravi:
カスタム半導体では、用途やシステムに特化したチップを設計することが求められます。例えばEdge AI、医療、軍事などの分野では、1,000から10万個といった小ロットでの生産ニーズが増えています。そこでは3つのテーマが重要になります。第一に「小型化」、第二に「性能の高度化」、第三に「AIベースの設計」です。AIはクラウド型とエッジ型があり、今後10年以内には「AIエンベデッド(組み込みAI)」が当たり前になると予測されています。クラウドだけではなく、エッジを含めた統合設計がもとめられるでしょう。

内村:
現状はクラウド側にAIの「頭脳」がある構造です。PCやスマートフォンなどの端末からクラウドにアクセスし、AIの処理結果を受け取る仕組みが主流です。例えば、スマートフォンでテキストや画像、音声を送信し、クラウドでAIが分析を行い、その結果が戻ってくるというアーキテクチャです。これをエッジ処理に変えるには、AI処理を端末内で完結できるよう、エッジデバイスに高度なAI半導体を組み込む必要があります。

Ravi:
そのとおりです。自動車を例に挙げれば、SDV(Software Defined Vehicle)という考え方が広がっています。車内が職場になり家庭にもなる時代が来ています。このような環境下では、データのやり取りやセキュリティ、通信の信頼性がこれまで以上に重要になります。特に車は安全性が第一です。万が一の際、クラウドでAI処理を待っていては間に合いません。例えば前方に危険物を検出した瞬間にクラウドへ画像を送ってAIで識別するのでは、結果を受け取る間に事故が発生する可能性があります。だからこそ、AIを端末側に実装し、リアルタイム処理を行えるようにする必要があるのです。その実現には、多様なアプリケーションニーズに応じた、高度な半導体を小ロットで供給する力が求められます。

シリコンIPによる標準化の推進

内村:
エッジを想定したAI半導体の高度化ニーズにおいては、シリコンIP*4とEDA*5も重要です。シリコンIPが普及する前は、フルカスタム設計が主流で、半導体をゼロから設計していたため、時間もコストがかかっていました。しかし現在では、あらかじめ最適化されたシリコンIPを活用することで、設計の初期段階から高度で最適化されたコンポーネントを利用でき、開発期間の大幅な短縮が可能になっています。

*4 半導体IP:半導体設計の機能ブロック(平易には特定の機能を果たす回路設計情報の塊というイメージ)

*5 EDA(電子設計自動化):半導体設計者が集積回路を効率的かつ正確に設計するためのソフトウェアツール群を指し、チップの設計、検証、テストの自動化を通じて開発期間の短縮と設計の最適化を支援する

Ravi:
そのとおりです。これまでのフルカスタム設計では、製品化までに平均で24から36カ月かかっていましたが、シリコンIPを活用すれば、それを12から18カ月程度に短縮することができます。標準的なサードパーティー製のソフトウェアや設計環境との相互運用性も高まり、標準化が進むことで、複雑な設計も短期間で簡単に開発できるようになっています。

内村:
EDAベンダーが提供する再利用可能な特定機能向けの設計情報の価値もさらに高まっていくと思います。その点でMobiveilは独立系IPおよびサービスベンダーとしての強みを発揮しています。

Ravi:
私たちは、ストレージ、IoT、通信といったアプリケーションに特化したシリコンIPを提供していること、コンフィグレーションやカスタマイゼーションが容易なシリコンIPを開発できること、そしてサポートが充実していることの3点が競争優位の源泉だと思っています。加えて、GlobalLogicと連携することで、ファームウェアやBSP*6/BSW*7の開発、組み込みプラットフォームの検証・テスト自動化にまで対応しています。さらに、デジタルツイン、製造・倉庫の自動化、AIによる生産最適化といった産業のデジタル化に全般に貢献する最先端ソリューションも提供しています。
また私自身、30年以上にわたり、半導体、IP、EDAの分野に携わってきました。その経験から、設計をパッケージ化し、再利用可能にする仕組み、つまりシリコンIPの重要性を強く実感しています。今後も、シリコンIPやサービスを活用し、さまざまな業種のクライアントに向けて、高品質なソリューションを提供していきたいと考えています。

*6 Board Support Package(BSP):特定のハードウェア上でオペレーティングシステムが動作するために必要なドライバや設定情報を提供するソフトウェアで、ブートローダやデバイスドライバを含み、開発者がデバイス固有の詳細から抽象化されるようにする

*7 Basic Software(BSW):組み込みシステムで基本機能を提供するソフトウェア層で、特にAUTOSARで使われる。オペレーティングシステムやデバイスドライバなどが含まれ、ハードウェアとアプリケーションソフトウェアを仲介し、開発者がアプリケーションロジックに集中できるようにする

内村:
お互いの強みと役割を確認し合えたことで、このパートナーシップが本格的に動き出すことに、大きな期待を寄せています。PwC Japanグループは、「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」ことをPurpose(存在意義)に掲げています。私たちは、半導体事業を通じて社会にポジティブなインパクトを与え、人々の生活と社会を良いものにしていくために企業、業界、そして社会全体のトランスフォーメーションを支援していきます。

(左から)PwCコンサルティング 内村公彦、Mobiveil, Inc. Ravi Thummarukudy 氏、Mobiveil, Inc. Santhish Kumar氏

主要メンバー

内村 公彦

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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