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英国のEU離脱(ブレグジット)対談 第2回:2018新春ブレグジット予測~次の交渉ステージへ~

2018-01-15

対談者

対談者

PwC Japanグループ※ スペシャルアドバイザー
慶應義塾大学教授 ジャン・モネEU研究センター所長
庄司 克宏(写真左)

PwC Japanグループ ブレグジット・アドバイザリー・チーム
PwCあらた有限責任監査法人
舟引 勇(写真右)

2017年12月の欧州理事会(EU首脳会議)では、これまでの交渉を「第1段階」と位置付け、英国が払う「清算金」などの離脱条件について「十分な進展」があったと判断。通商協議を含む「第2段階」入りへ一歩進みました。2018年はEUと英国の自由貿易協定(FTA)などの枠組み協議が本格的に始まります。離脱の期限である2019年3月末を控えて「時間との闘い」が始まった離脱交渉の中、PwC JapanスペシャルアドバイザーでEUの法と政策が専門の慶應義塾大学の庄司教授と、PwC Japanブレグジット・アドバイザリー・チームの舟引 勇が、2018年のブレグジット予測および日本企業がなすべき対応について語ります。

2018年前半の交渉~「移行措置」についての交渉が中心か

舟引:

2017年は離脱交渉について基本合意に至り、2018年は「移行措置」と「将来関係」について協議されると言われています。それでは2018年の前半に何が起きるのか、どのような交渉内容になると予想すればよいでしょうか。

庄司:

まず、2018年前半は移行措置についての交渉が中心となります。具体的には、昨年12月のEU首脳会議を受けて2018年1月の閣僚理事会で交渉指令が採択されます。その上で、英国とEUとの間で移行措置をめぐる交渉に入ります。英国は、2019年3月29日以降の約2年間(24カ月)、つまり2021年3月末までの想定で時間を稼ぎたいところですが、EU側は、移行期間を21カ月、つまり2020年12月末までと想定しています。

舟引:

移行措置期間中の内容はどのように予想すればよいでしょうか。

庄司:

移行期間中は、EU加盟時と同じ関税同盟と単一市場に留まり、予算負担も行いますが、英国はEUの政策決定には参加できず、EU司法裁判所の判決にも加わることができません。いわば、ノルウェー・モデルとトルコ・モデルの両方の特徴を持ち合わせたイメージです。

舟引:

英国内には、EU法には従いたくないという、いわゆる「ブレグジット強硬派」がいますが、法律の取り扱いはどう考えればよいでしょうか。

庄司:

移行措置期間中、英国は従来通りEU法に100%拘束されます。

舟引:

なるほど、EU法に準拠せざるを得ないわけですね。それでは、移民問題についてはいかがでしょう。ブレグジットの主たる要因となった問題であり、こちらは2019年3月末以降、何らかの新しいスキームが生まれるのでしょうか。

庄司:

移民に関する措置は現状と変わらないと思います。要するに移行措置の間は、全てが原則として現状のまま継続するということです。離脱協定で取り決められた事項は移行期間の終了後に開始されます。2019年3月29日に何が変わるのかと言うと、二つあります。一つは英国がEU加盟国でなくなること。二つ目は、EU法その他は継続しますが、英国はEUの立法や政策決定に参加できなくなるということです。

舟引:

英国とEUの関係を伺ってきましたが、次に少し広めの視点でお話を伺います。英国は新しい経済モデルとして、英国経済の軸足を欧州から広く世界に移す”Global Britain”を提唱していますが、こちらの実現についてはいかがでしょうか。最近でも、英国は日本など11カ国による環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を非公式に検討しているようです。

庄司:

離脱した時点でEU加盟国ではなくなりますので、EU法の適用は移行措置期間中も継続するものの、その間に英国が貿易協定の下交渉をすることは可能です。本交渉は移行期間が終わってからになります。

舟引:

ちなみに、漁業や農業について移行措置期間中どのような扱いになるのでしょうか。

庄司:

EU側の見解ではそのままEU法の適用になります。よって保守党の強硬派は、移行期間の扱いを屈辱的に感じていると思います。

舟引:

移行期間は約2年と言われていますが、準備にはやはり短いでしょうか。延長される可能性はあるのでしょうか。

庄司:

英国もEUも、本音は5年くらいの期間は欲しいでしょう。しかし、それぞれ事情があり、EU側は離脱した国に準加盟的な状況でいてほしくない。英国は2022年が総選挙なので、保守党としてはそれまでに移行期間を終えていたい。それぞれの事情で、約2年となっています。

舟引:

移行措置で何も変わらないということですが、規制関連の制約が厳しい金融業界や製薬業界では、2019年3月末までに、移行措置に関係なく、人やプロセスなど含めて完全に対応しなければなりません。

庄司:

金融業界や製薬業界は前倒しということで、1年と2カ月ほどしか準備期間がありません。あまり時間の余裕は残っておらず、忙しいですね。

2018年中盤から後半~将来関係の枠組み交渉についての見通し

舟引:

移行措置の交渉の後、将来関係(通商協定・テロ対策・安全保障など)の具体的枠組みについても協議がされるようですが、合意は2019年3月末までに間に合うのでしょうか。

庄司:

先日合意された日EU経済連携協定で、対立のある紛争処理関係に関しては先送りしたように、最低限必要な事項だけ合意するという手もあります。ひょっとしたら2段階に分けるようなことも考えるかもしれません。

舟引:

英国が2019年3月までに自由貿易協定(FTA)の取り組みを本格的に進めたいと意気込んでいるようですが。

だるま

庄司:

それはないですね。EU側は、大枠合意で政治宣言として離脱協定に附属させると言っています。附属宣言ですから、法的な拘束力はありませんが、基本合意ということになるでしょう。

舟引:

次に英EU間の通商協定の中身についてですが、カナダ・モデルのFTAがベースラインになるのではないかと言われているようです。

庄司:

英国のEU離脱担当相のデイビッド・デイビス氏は、「カナダ・プラス・プラス・プラス」としてカナダ型FTAを大きく拡充した通商協定を目標に掲げ、金融などサービス分野でのアクセスも含めたいとしています。問題があるのは、韓国など一部の国とFTAで最恵国待遇を含めているものがあるので、英国と結べば、他の国にも適用しなければならない場合があります。よってEUは安易には妥協できないはずです。

舟引:

一方で、将来の関係について「ノルウェー・マイナス」という言い方もされているようです。ノルウェーは欧州経済領域(EEA)に加盟しており、単一市場にアクセスできるモデルです。そこで先ほどの「カナダ・プラス・プラス・プラス」と「ノルウェー・マイナス」を比較してみると、同じようであり、違いが良くわからないのですが。

庄司:

違いがあります。「カナダ・モデル」はFTAが基本です。「ノルウェー・モデル」はEU加盟国と同じ待遇で単一市場へのアクセスがありますが、関税同盟には入らない形です。また、EUへ予算分担金は支払いますが、政策決定などには参加できません。「ノルウェー・マイナス」とは、例えば英国が嫌う、人の自由移動などを含めないということを意味するのでしょうが、EUの方針は単一市場のインテグリティ(完全性)を守ることなので、好いとこ取りはさせたくない。「ノルウェー・マイナス」はあり得ないでしょう。

舟引:

離脱を控えて、将来関係の枠組みの位置付けはどのようなものになるのでしょうか。

庄司:

昨年のEU首脳会議で進展があったことについて法的拘束力を持たせるため、ジョイントレポートにある合意内容を離脱協定として条文化する作業が2018年1月から始まります。2018年秋までに確定・署名し、2019年3月までの批准・発効が目標です。よって英国は勝手なことができません。移行措置期間の取り決めは、離脱協定の本文か議定書に入るので、法的拘束力があります。これに対し、将来関係の枠組みについては附属宣言に入りますが、法的拘束力はありません。

北アイルランドの国境問題の回避策は

舟引:

次に北アイルランドの問題です。先日のEU首脳会議では、ハードな国境にしない方向で解決策を探ることで合意したようですが、実際の物の行き来はスムーズだが見えざる国境がある、といった状況にできるような通関手続きをテクニカルに実現できるのでしょうか。

庄司:

できないでしょう。ハードな国境になるかもしれません。ノルウェーとスウエーデンが似たような状況で、関税同盟ではないものの単一市場で繋がっています。関税同盟ではないので、税関チェックをしなければなりません。彼らは監視カメラとスポットチェックで行っています。英国は、その方法は採らない方針であると言っています。北アイルランドでそれを行うと、また緊張が高まる可能性があります。ハードな国境がないということは、事実上関税同盟ということになります。メイ首相は関税同盟から抜けると言っていますが、EUの要求通りに関税と規制を合わせることになるかと思います。そうしないと、ハードな国境は回避できません。英国が自発的な形でEUの関税と規制に合わせ、関税同盟の“準加盟”のような扱いになるでしょう。

2018年の想定シナリオは

舟引:

最後に、ずばり、英EU間FTAが2018年にまとまる可能性はあるのでしょうか?

庄司:

それはないと思います。移行措置期間が決まったので、まずノーディールということはないでしょう。EU側も将来関係の枠組みを作る意思を見せていますので、基本的な方向性は一致しています。後は時期の問題なので、後2年で足りない場合、採る方法は二つで、延長するか、部分先行(例えば物の貿易だけ合意・発効)になるかと思います。最悪のケースは、離脱協定の批准自体を英国議会が拒むことです。そうすると時間切れアウトになるかもしれない。まずないとは思われますが、5%の確率で、ノーディールの可能性もあるでしょう。

補足情報

2018年の欧州理事会(EU首脳会議)の日程

  • 2月23日
  • 3月22‐23日
  • 6月28‐29日
  • 10月18‐19日
  • 12月13‐14日

予想されるEU側のブレグジット関連の主なプロセス

2018年1月

(A)離脱協定の条文化作業開始。
(B)2017年12月EU首脳会議での追加の交渉指針(第2段階入り承認)を受けて、2018年1月に閣僚理事会が移行措置に関する交渉指令を採択し、その後バルニエEU首席交渉官が交渉を開始。

2018年3月

(C)将来関係枠組みに関するEU首脳会議の交渉指針が採択され、その後閣僚理事会の交渉指令が出る。

2018年3月末あるいは4月

将来関係枠組みに関する交渉が始まる。

2018年10月

EU首脳会議をめどに上記(A)~(C)がまとまり、離脱協定草案、それに含まれる移行取決、および将来関係枠組みに関する附属政治宣言が正式決定される予定。英国と合意して、2019年3月末までに発効させることが目標。

2019年4月

移行期間に入り、将来関係協定(包括的自由貿易協定を含む)の本交渉が開始。最も楽観的なシナリオでは2020年12月に妥結。

以上

※PwC Japanグループは、日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社の総称です。各法人は独立して事業を行い、相互に連携をとりながら、監査およびアシュアランス、コンサルティング、ディールアドバイザリー、税務、法務のサービスをクライアントに提供しています。

主要メンバー

舟引 勇

ディレクター, PwC Japan合同会社

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