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英国のEU離脱(ブレグジット)対談 第1回:EU離脱交渉が不透明な中、日本企業がなすべきことは

2017-11-16

対談者

PwC Japanグループ※ スペシャルアドバイザー
慶應義塾大学教授 ジャン・モネEU研究センター所長
庄司 克宏(写真左)

PwC Japanグループ ブレグジット・アドバイザリー・チーム
PwCあらた有限責任監査法人
舟引 勇(写真右)

2017年3月29日の英国のEU離脱通知から約半年。2019年3月29日のEU離脱交渉期限まで約一年半弱となりました。10月に2日間にわたり実施された欧州理事会(EU首脳会議)と6回目を終えた英国とEUの離脱交渉の進展状況を踏まえ、PwC Japanグループ スペシャルアドバイザーでEUの法と政策が専門の慶應義塾大学の庄司教授と、PwC Japanグループ ブレグジット・アドバイザリー・チームの舟引勇が、離脱交渉が難航する中、日本企業がとるべき対応について議論しました。

最新のブレグジット交渉における「移行措置」とは

舟引

9月のメイ首相のフィレンツェでの演説によれば、英国はEU離脱後に2年間の移行措置期間の導入を狙っていると思われます。この移行措置について議論していきたいと思います。

移行措置についてどのように捉えていけばよいでしょうか。

庄司: 

移行措置の導入は、英国がEUから離脱することが前提となる訳ですが、ポイントは、英国が他のEU加盟国の法的地位と同じ状況を継続できるかどうかという点です。EUは英国に対する移行措置として、EU司法裁判所の管轄権やその他のEUの規制をEU加盟時と実質的に同じまま留まることを条件に掲げると思います。というのは、欧州単一市場の考え方のもと、たとえ移行期間であっても、英国に「つまみ食い」を許して特別扱いすることはしたくないからです。従ってそのような条件に合意することを要求すると思われます。

舟引:

そうすると、EUの予算も加盟時点と同等の金額を負担して、EUにいた時と同じようにしたいということですね。

庄司: 

はい、そのとおりです。ただ、別の問題として、離脱したのに、EUの法令を全部適用してEUの司法裁判所の管轄権を認めるということに関して、法的な連続性の意味から、どのように対応すればいいのかという点があります。

庄司:

先程は、実質的にEU加盟と同等の取り扱いという話をしましたが、英国側の立場で保守党の中の強硬離脱派(欧州懐疑派)が一刻も早くEU司法裁判所の管轄から抜けたいと考えていますので、彼らの動きも大きく影響を与えます。場合によっては、移行措置の間は単一市場へのアクセスは厳しいものとなるかもしれません。

庄司:

移行措置では、EU加盟時と同じような体制でいくのか、それとも一部違うのか。その中で例えば製薬関連などの規制等をどうするのか。恐らくEU加盟時と同じような体制を続けたいと考えています。移行措置の間は、単一市場のインテグリティを保ちたいので、原理原則としてある以上は、英国がアクセスしたいなら、EU加盟時と同等の経済的負担やルールを求めていくはずです。メイ首相のフィレンツェで演説はビジネスへの配慮があったと思われます。つまり、最もハードなブレグジットが起こって、突然EU法令の適用がなくなることは困るので、ビジネスへの安心材料を与えることが目的であったかと思われます。そうしますと、移行措置の間もEU加盟時の基本的な状況と変わらないと思われます。移行期間は、将来関係協定を締結して実施への移行ではなく、それ以前のあくまで将来関係協定を話し合うための期間であるためです。

舟引: 

そうしますと、本当の実質的な離脱はさらに遅れる可能性がある訳ですね。

庄司:

徐々に英国がEU側からフェイドアウトする可能性もありますが、少なくとも移行期間に入った直後は、EU加盟時と同じ状況を作らないとビジネス的に不安定だと思われます。

EU当局の移転に関連した移行措置の考え方

舟引:

次に、11月20日には欧州銀行監督庁(EBA)そして欧州医薬品庁(EMA)の移転先が決定される予定です。特にEMAの移転などでは製造販売承認取得者(MAH)が英国で取得している場合、EU離脱により別のEU加盟国から申請し直す必要が出てきます。EMAから公表されたQ&Aによれば(2017年6月)、「英国でMAHを取得した会社は他のEU加盟国から再申請しなければならない」というコメントがでています。そうすると2019年3月末にEU離脱することを前提に、各種登録申請・承認などの準備をした方が安全ということですね。一方で、移行措置の設定によりまだ急いで意思決定して移転のアクションを起こす必要はなく、もう少し後でも大丈夫ではないかという期待もあります。EMAの移転先決定に伴い、どの国がいいのか選択を検討し始める企業が多くなってくる中、「移行措置」により逆に、いつまでに何をやればいいのかさらに不透明になっています。移行措置に関する細かい内容もまだ出ていないので、製薬業の皆さんがどうしたらよいか困惑しています。実際この点について、どう考えたらよいでしょうか。

庄司:

対策は早くやった方がいいと思います。EMAの移転先が決まっても、そこから実際に再申請をして承認、物理的に移転するまでは多くの時間がかかりますね。

舟引:

そのとおりです。また、企業によってはドイツやオランダその他などの移転先に受け皿会社を設置して再申請し、実質は既存の英国に業務委託をする、という方法を検討する話もあるようですが、金融機関の場合は、ペーパーカンパニーの設置は認められず、オフィスや人員を配置することを当局が要請している様です。製薬会社へも同じ様なルールが適用される可能性があります。

10月20日のEU首脳会議の結果に関して

舟引:

10月20日のEU首脳会議による英国へのメッセージついてお伺いします。実際どのような点がポイントなのでしょうか。

庄司:

1つ目はEU離脱交渉の最大の争点の1つである清算金に関連して、清算金についての確約がないと将来関係協定に関して協議に入らないということです。そして、2つ目は12月に再度交渉状況を評価して、将来関係協定と移行期間に関する追加的な交渉指針を定めることを明らかにした点です。この点は、言い換えればメイ首相への援護射撃といえます。

舟引:

メイ首相への援護射撃ということですが、具体的にはどういう意味なのでしょうか。

庄司:

清算金を進めてくれれば、将来関係協定や、移行期間についても早く手打ちをしますよ、EU側では内々に準備をしておきます、ということです。そうしておかないとメイ首相は保守党強硬派によって追いやられてしまう可能性があります。それはEU側にとっても望ましくないので将来関係協定について、その気はあるんだよ、というメッセージを出していると思います。

実は、英国は将来関係協定に結び付けて離脱清算金の問題を取り組もうとしています。これに対して、EU側は両者を結び付けられては困るので別々にやるぞというメッセージでもあります。EU側の本心は12月に十分な進展があってはじめて移行期間や将来関係協定の予備協定準備を始めたい、というサインだと思います。2カ月の間に、英国デービッド・デービス離脱担当相とEU側の離脱交渉責任者のミシェル・バルニエ首席交渉官の間の交渉で進展させたい、というメッセージです。

舟引:

今後の交渉の進展に期待すれば良いのですね?

庄司:

はい、期待したいところです。

来春には企業側も具体的なアクションが必要か

舟引:

批准期間のことを考えると、来年の秋が交渉の実質終了期限で時間がありません。離脱通知から半年たってもまだこの状況ですと、もう離脱交渉期限まで、実質後一年しかありません。本当に時間がない。

庄司:

12月に次回のEU首脳会議がありますので、そこが正念場となると思います。ところで未確認情報ですが、英国の離脱担当相がノーディールの場合の準備を、念のため始めているという話もあります。

舟引:

ドイツ側の経団連の様な組織でも、先月末ハードブレグジットのために備えを始めた、という発表がありました。私たちも、お付き合いのある企業に対して最悪のシナリオの時に移転先をどうすべきか、などプランニングのサポートをしています。来年3月辺りには何らかの意思決定が必要です。それを考えると今、アセスメントをしっかりしておくことが必要ですノーディールの結果WTOモデルになった場合は関税も通関もかかるので、本当に大変なことになります。

庄司:

大混乱状態になると思います。ノーディールに備えるといっても一年とか一年半でできるものではありません。英国はEU法をいわば引き剥がしてEUに入る前の形にし、かつEU法の代わりになるものを国内法として暫定的に受け入れる準備をしなければなりません。北アイルランドの国境はどうするかは地域の平和と安定のためにも重要な問題です。EU市民権が英国で保全されないと大陸にいる英国市民も相互主義で保護されない場合とか、英国が離脱金を払わない場合など、訴訟がEU司法裁判所に持ちこまれることになるかと思います。

以上

※PwC Japanグループは、日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社の総称です。各法人は独立して事業を行い、相互に連携をとりながら、監査およびアシュアランス、コンサルティング、ディールアドバイザリー、税務、法務のサービスをクライアントに提供しています。

主要メンバー

舟引 勇

ディレクター, PwC Japan合同会社

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