AIを活用した営業DX―「AIドリブンセールス」実現に向けた4つのステップとは

テクノロジーの進化により大きく変わった営業の働き方

企業の営業活動は今、過去に類を見ない大きな変革期にあります。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、顧客との接触が大幅に制限され、これまで当たり前に行われてきた対面での営業を見直さざるを得ない状況にあります。
顧客の購買行動の変化や営業パーソンの減少など、営業を取り巻く環境の変化は数年前から見られましたが、COVID-19が営業活動の変革に向けた取り組みをさらに加速させたと言えます。こうした取り組みのドライバーとなっているのがデジタルテクノロジーです。以下に、営業現場で起きたデジタルトランスフォーメーション(営業DX)の例を記します。
 
  • 営業活動を通じて取得した名刺はデータ化された後に全社で共有され、顧客開拓やマーケティングに活用
  • SFA(Sales Force Automation)により各営業が担当している商談の進捗や活動状況が「見える化」され、上司はリアルタイムに適切なアドバイスやフィードバックを実施。また、その営業プロセスがナレッジやノウハウとして蓄積され、他の営業担当の活動にも有効活用
  • MA(Marketing Automation)により顧客との接点がデジタル化され、顧客の関心事や課題が直接会わなくても把握できるようになり、その情報に基づいてインサイドセールスがリモートで営業活動を実施
 
多くの企業が「個人営業から組織営業への変革」「営業ノウハウ/ナレッジ共有(標準化)による営業力強化」などの目標を掲げ、営業のデジタル化による生産性の向上や売上/利益の拡大といった具体的な成果を上げています。急激な変化に対応しきれず、従来の営業様式からの脱却に苦戦する企業も存在するのは事実ですが、テクノロジーの活用そのものを否定する企業はもはや、ほぼ皆無と言ってもよいでしょう。
図表1 :ここ10年の営業活動の変化

テクノロジーの進化によりAI活用が当たり前に

テクノロジーの活用により営業活動の在り方は大きく変わりましたが、今なおさらなる進化が成し遂げられようとしています。そのキーとなるのがデータと人工知能(AI)の活用です。企業においては日々、顧客行動および営業活動の多くがデータ化され、活用可能なログとして蓄積されています。大量のデータを読み込んで分析し、営業計画や実際の営業活動、さらには管理に生かそうという試みは、ここ数年のAIブームにより既に実用段階に入っており、こうした製品(ソリューション)を低コストかつ一定の品質で、簡単に手に入れられるようになりつつあります。
豊富かつ正確なデータ蓄積とAI活用により営業活動がこれからさらにどう変わっていくのか。ここではAI活用を前提した営業モデルを「AIドリブン セールス」と呼び、AIが営業活動をどう変え得るのかを具体的に見ていきましょう。

Plan(計画)

  • 商品戦略/顧客戦略
    • どの商品がどの市場(客)に売れるかをAIが提案
    • どの顧客に何を売ることで購買につながるかをAIが提案

  • 売上計画/要員計画
    • どの顧客からどの程度の売上が見込めるかをAIが予測
    • 計画通りの売上を達成するために必要なリソースおよび人員配置をAIが提案

Do(営業活動)

  • 営業アプローチ/顧客対応
    • 顧客にどういう営業活動をすれば受注できるかをAIがナビゲート
    • 商談の音声や顧客の表情(感情)などをAIが分析し、事後評価と改善案を提示
    • 進行中の商談の受注確度を予測の上で、受注に向けたアクションをAIが提案
  • 受注後フォロー(リテンション)
    • 顧客の行動ログからアップセル/クロスセルの可能性をAIが察知し、営業活動を提案
    • 顧客の行動ログから離反の可能性をAIが察知し、担当者にアラートとネクストアクションを提案

Check/Action(評価/改善)

  • 営業管理
    • AIが売上予測と売上増加に向けたネクストアクションを提案
  • 営業スキルアップ
    • 営業の活動ログが自動で蓄積され、営業力が可視化(数値化)される。AIが各営業パーソンの強み/弱みを分析し、それに応じてスキルアップに向けたコーチング(伸ばすべきスキルやトレーニング計画など)を実施
図表2: AIドリブンセールスが実現する営業活動の未来

これらは非現実的なものではなく、既に実例として存在するものばかりです。AIを使って営業を行った新人とベテラン営業パーソンの業績が結果的に同じだった、といった事例も出てきており、その精度は品質面においても侮れないものになってきています。

AIドリブンセールスの実現に向けて

AIを含むテクノロジーの活用は、今後の営業活動において必須かつ前提になる可能性が高いと言えます。では、自社の営業活動に実際にAIを取り入れるには、まず何をすべきでしょうか。
AIドリブン セールス実現に向けた4ステップを解説します。

1. 今の立ち位置を知る
自社の営業組織においてAI含むデジタル化やデータ活用がどの程度進められているのか(デジタル活用成熟度)を把握し、活用に向けた課題を再認識する必要があります。その際、客観的なベンチマーク指標や他社のベストプラクティスといった比較材料を用いることで、自社の状態や課題をよりクリアにすることができます。

2. 未来の姿を描く
自社の営業組織は今後どうあるべきか、どうなりたいかという青写真、すなわち営業パーソンのジャーニーマップを作成し、働き方を具体化します。具体化にあたっては、今後のテクノロジーのさらなる発達や自社を取り巻く外部環境の変化をインプットし、経営層から将来を担う管理職、若手がワークショップを通じて議論する手法が有効です。

3. トライ&エラー
考えることに時間をかけずに、まず始めることが重要です。完璧なものを作ることにこだわらず、ビジネスに価値をもたらす可能性を見極められればよしとします。そのような施策を複数回実行し、成功と失敗のパターンを積み上げることで成功確率が上がると共に、成功体験を積み重ねることで社員の意識・行動変革も促進できます。

4. 仕組み化する
トライ&エラーでビジネス価値が認められた取り組みは、現場で定常的に運用できるよう業務やシステムとして整備し、再現性のある業務として仕組み化します。仕組み化にあたっても、最初から完全なものを作ろうとせず、日々改善・進化させる前提で取り組みます。

図表3: AIドリブンセールス実現のための4ステップ

AI活用が進んだ営業現場で人間が果たす役割とは

AIドリブン セールスが仕組み化されると、今まで人間がやってきた仕事の大半が自動化されることが予想されます。私たちはそれに応じて、人間が果たす役割を再定義しなくてはならないでしょう。AIに代替できず、人間がやるべきこととは何か。例えば、AIのメンテナンスが挙げられます。AIを放置していても精度が上がることはありません。むしろ悪くなることもあり得ます。したがって、AIの精度維持・向上を担う人材が必要となります。この役割を担うには、デジタルリテラシーは当然ながら、業務知見、データリテラシー、ツールリテラシーなどの広範なスキルが必要となります。
もう1つは、顧客に価値を伝えるストーリーとコンテンツ作りです。自動化が進むに連れて、顧客が接する情報の量は飛躍的に増加し、響かない情報はどんどん無視されていきます。自社の商品・サービスが顧客の琴線に触れ、興味・関心を持ってもらうには、顧客に与える価値をストーリーとして表現したコンテンツが必要になってきます。ストーリー作りとコンテンツ化は、人間がまだまだ活躍できる領域です。

営業DXにAIを活用した企業とそうでない企業では、意思決定のスピードや業務の生産性が著しく異なり、結果としてその差が業績として表れてくると筆者は考えます。AI活用が本格化する今だからこそ、営業の在り方を考え直し、AIドリブン セールス実現の方法を検討する必要があるのかもしれません。本コラムが、皆様の会社でAIを活用した営業DXを始めるきっかけになれば幸いです。

執筆者

友谷 康一

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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杉本 和則

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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