コンプライアンスを超えて:消費者や従業員は、ESGについて企業にもっとできることがあると期待している

このギャップをどう埋めればよいか

環境・社会・ガバナンス(ESG)問題に対して人々の関心が高まる中、企業がこれらに応えようとしている様子は、あちこちで見てとれるでしょう。エコパッケージ、多様性へのコミットメント、排出量実質ゼロを目指す企業の増加…。では、それで十分でしょうか。人々の共感を得ようとして、一度にたくさんのことをやり過ぎているでしょうか。そんなことはありません。消費者は、ESGの進展を加速させるうえで企業がもっと大きな役割を果たすことを望んでいます。実際、私たちがESGについて尋ねた2021年の「消費者サーベイシリーズ」調査によると、4分の3以上の人がそのような企業をたたえたいと答えています。2021年3~4月に消費者、従業員、企業幹部を対象に実施したこの調査によると、消費者と従業員は企業が受動的な適応にとどまらず、ESGのベストプラクティスを積極的に体現することを望んでいました。 

私たちは、ESGをめぐる消費者の期待が高まっていることを、もっとよく理解してもらうためにこの調査を設計しました。そこから分かったのは、消費者はESG投資の向かう先についてビジネスリーダーとは違う認識をしており、企業の現在の報告とは異なるソースにESGの情報を求めているということです。さらに、回答内容によって企業幹部を分類したところ、傑出している「ESGトレンドセッター」として認められる幹部は全体の28%にすぎませんでした。これらの幹部は、消費者中心の強い姿勢でESG課題を前へ進める企業の支援者であり、消費者の期待と企業活動のギャップを埋める働きをしています。以上が調査から分かった主な結果です。

ESGトレンドセッターである企業幹部の特徴
  • ESG問題への意識・関心が高い。キャリア選択にESGが大きな影響力を持つ。
  • 今の社会的問題に企業が強い影響力を持つと考え、より多くの行動を起こすことを望んでいる。
  • より良い未来へのコミットメントが企業のESG行動の一番の動機付け要因であると考え、ESGに取り組む企業の姿勢が消費者に大きな影響を及ぼすと信じている。

消費者と従業員はESGパフォーマンスによって企業を評価している

消費者と従業員は、企業がただ規制に従うだけでなく、環境・社会の持続的改善に投資してほしいと考えており、それを尺度にそれぞれのブランドを好んだり、ペナルティを科そうとしたりしています。また、消費者と従業員の大多数が、ESGのさまざまな要素について自分と同じ価値観を持つ企業を利用したい、またはそこで働きたいと述べています。消費者は長らくサステナビリティ(持続可能性)を重んじるとされてきましたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大が彼らの振る舞いを目に見えて大きく変化させ、もっと健全かつ安全で、環境や社会への意識が高い製品やブランドを買い求める良心的な消費者が増加しています。

同様に、基準に達していないと見なされた企業は、COVID-19のパンデミック後の景気回復が見えてきた時に消費者を失う恐れがあります。76%の消費者が、「従業員や地域社会、環境への対応が良くない企業との関係を断つ」と述べています。また、企業側も消費者が理想とする高い基準に適応しつつあります。「最も重要なステークホルダーは誰か」と企業幹部に尋ねたところ、「消費者」が他のステークホルダー(「従業員」「投資家」「規制当局」「メディア」など)を上回りました。そして、ESGトレンドセッターはそれ以上に消費者を重要視しています(平均で64%対53%)。

ESGへのコミットメントが、 消費者の購買行動や従業員エンゲージメントを促す

消費者と企業の見方:ESGのあらゆる側面にもっと時間や資源を使い、多様性・包摂性の進捗を加速させているか

気候変動への影響は、ESG投資に際して誰もが優先的に考慮する項目です。消費者も従業員も温室効果ガス排出量実質ゼロへ向けた企業間競争を強く支持しています。一方で、企業にとっては投資上、「データセキュリティとプライバシーの提供」が「気候変動への影響」以上の優先項目となっています。なお、調査結果によると、「医療へのアクセス」「労働者の健康および安全の確保」「法規制の順守」も、消費者と企業にとって優先順位が高い項目になっています。 

しかし、消費者と経営者の見方には明らかなズレがあります。企業がESG問題への投資を増やしていると考える割合は、消費者より企業幹部の方がずっと多いのです。消費者にとってはっきりしているのは、企業の“発言”より“行動”の方が重要だということです。つまり、具体的な進捗があれば、消費者は企業を信用します。回答者のほぼ4分の3(74%)は、企業が10年前よりも環境に配慮していると認めています。しかし、ほぼ同数(73%)が、多様性・包摂性(D&I)に対する進捗が遅いことにがっかりしていると述べています。また、ビジネスリーダーの64%も、D&Iへのコミットメントがまだ望むほどの成果を出していないことに失望しています。

「環境や従業員、地域社会への対応が良くない企業とは関係を断つつもりだ」

76%の消費者PwC消費者サーベイシリーズ(2021年6月2日)
消費者は企業がESG問題に十分投資しているとは 納得していない

消費者は、金銭的インセンティブが企業を善行に導くと考えている

ESGに変化をもたらすには何が必要でしょうか。企業幹部は、人々や地球にとって未来がより良くなる道筋、それがESGへの取り組みの動機付けになると指摘しています。しかし消費者は今なお懐疑的であり、消費者からの圧力やブランドイメージ、規制基準が企業をESG行動へ向かわせていると考えています。半分以上の消費者(57%)が、企業は環境問題(気候変動、水ストレスなど)を改善させるためにもっと行動を起こすべきだと述べ、48%の消費者が企業は社会問題(D&I、データセキュリティ、プライバシーなど)についてもっと進歩を示してほしいと考えています。また54%の消費者が企業に対して、ガバナンスの問題(法規制の順守、賃金格差拡大への対応など)にもっと取り組むことを期待しています。 

ESGを進歩させる方法はいくつかあります。消費者は、社会に対して良いインパクトを与えるソーシャルグッドと結び付いた金銭的インセンティブが他の何よりも重要だと考えています。企業幹部は、企業の社会的責任(CSR)担当者をCEOの直属にすることが、ESGのさらなる進捗に影響を与えるよい方法だとしています。一方で従業員は、ESGを企業戦略に組み込むことで、進歩につながると考えています。

企業はどうすればESG問題を 進展させることができるか

ESGに長期的メリットはあるものの、企業幹部はビジネスの成長とESGの両立は容易ではないと認めている

投資家は2020年、ESGファンドに510億ドル以上を投資しました。前年の2倍以上の金額です。企業は善行を積むことで好業績をあげられる、と投資家は考えるようになっています。ESGの進展による長期的メリットは企業も感じ始めており、企業回答者の92%は、責任を持ってESG方針を掲げる企業は、そうでない企業よりも長く生き残ると考えています。 

短期的には引き続き課題があります。企業幹部は、「成長のための投資と、ESG目標達成のための投資のバランスをとることが一番の課題である」と述べています。では第2の課題は何でしょうか。37%の企業幹部が、「報告基準の欠如と規制の複雑さ」を挙げています。これは「経営陣の関心の支援の欠如」「時間不足」「資源不足」よりも大きな課題として認識されています。多くの回答者が、どの報告基準に従うべきか、また、消費者や従業員の期待の高まりに応えるため、基準以上にどの程度取り組むべきか分からないと感じています。ESG開示に対する規制がさらに強まる方向であるのは間違いありませんから、企業は今から前もって対策を講じ、成功への備えをしておくことが肝要です。つまり、データや報告に対する規制強化や、それらの標準化の促進に備えるのです。

成長目標と規制の複雑さが、 ESGの進展を阻む要因の上位にランクされている

企業はESGに影響を及ぼすために何ができるか

まとまりがあり、バランスのとれたストーリーを語る

相互に関連するESG問題の複雑さ(例えば、低炭素経済への移行を早めるために必要な工場閉鎖によって雇用やスキルがどんな影響を受けるか)を包摂的なコミュニケーション戦略によって積極的に伝達します。ESGトレンドセッターも、より多くのコミュニケーションチャネルを使って(平均4.3%に比べて5.6%)、ニュースやソーシャルメディアに大きく依存する消費者にESGのストーリーを伝えています。こうしたリーダーはソーシャルメディア(62%)と企業ウェブサイト(61%)を等しく重視し、利用しています。

ESG報告を使ってストーリーを語る

常にデータをESG報告の中心に据え、企業の戦略を効果的なステークホルダーコミュニケーションと関連付けられれば、企業のESG課題と消費者の期待とのギャップを埋めることができます。まずは、何を報告するべきかという視点を明確にすることです。そして、主な指標を決め、データや報告プロセスを文書化し、技術ソリューションを使うことで内部統制や効率的な報告を可能にします。財務報告と同等の厳格さを、非財務的なESGにも適用するのです。

正しいESG対策の優先順位をつける

ESGと成長のバランスをとるため、会社の願い、ステークホルダーからの信頼、ブランド力と評判、戦略やリスク管理にとっての重要性など、さまざまな基準に照らしてESG投資がどんな影響を及ぼし得るかを評価します。「規制を順守するだけで十分か。それとも、これはそうした要件を超えて長期的な消費者トレンドに歩調を合わせるチャンスなのか」と自問するのです。大きな問題を解決すれば、桁外れのリターンが得られます。ただし、従来のROI測定法ではESG活動のポテンシャルを100%捕捉できるとは限りません。

気候変動問題をリードする

「企業は気候変動問題をリードしなければならない」。そんな期待を背景に、企業の原材料の調達、工場の運営、製品の設計、消費者への製品提供に係る手法は変化し続けるでしょう。温室効果ガス排出量実質ゼロを約束した多くの企業は、その約束を事業活動やサプライチェーンにおいて実行する最初の段階にあります。消費者からの重圧が高まるなか、バリューチェーン全体を通じた排出量の影響を総合的に理解し、最大の排出源を明らかにすることが重要です。ほとんどの企業にとって最大の排出源である下流(スコープ3)排出量がそこには含まれます。その上で、コストやROI、実現可能性、リスク、機会に基づいて温室効果ガス排出量削減策に優先順位をつけます。

ビジネス上の問題としてダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に取り組む

消費者や従業員は、企業のダイバーシティ&インクルージョン(D&I)へのコミットメントを昨今の社会不安への対応であると捉えているかもしれません。企業は自分たちが他のビジネス上の問題と同じように、会社の価値観に根差した明確な戦略によってD&Iに取り組んでいることを実証しなければなりません。データや分析を基にD&Iのストーリーを描き、組織としてのあらゆる活動にそのメッセージを組み込むようにします。消費者も企業幹部もここまでの進捗に失望感を示しているわけですから、「製品開発に際して包摂的な視点をさらに重視する」「もっと多様なサプライヤーネットワークから調達を行う」、あるいは「取締役会の多様性を高める」など、あなたが起こしている行動をどのように社会に伝えるかを検討する必要があります。

プライバシーを絶えず重んじる

消費者保護がプライバシーの規制や執行の強化を大きく促す中、プライバシーは企業投資の最大分野になりつつあります。しかし、企業がデータプラクティスの強化を目指す動機は規制だけではありません。PwCの過去の調査によると、消費者は情報共有を必要悪と見なし、データに対する一層のコントロール強化を求めるようになると考えられます。プライバシーとセキュリティがESG価値の中核であると公言し、顧客との信頼関係を築く企業は、データマネタイゼーション(データ収益化)の財務的ベネフィットを得やすくなるでしょう。

調査方法

2021年3月29日から4月23日にかけて、米国、ブラジル、英国、ドイツ、インドの消費者5,005人、従業員2,510人、ビジネスリーダー1,257人を対象に、主なESG問題をめぐる企業への期待について尋ねました。

  • 環境:気候変動、水ストレス、生物多様性の減少、原材料の採掘、有害物質排出・汚染、過剰包装。
  • 社会:人種・ジェンダーD&Iの改善、労働者の健康・安全の確保、医療へのアクセス、労働者に対する教育やスキルアップ機会の提供、製品の安全性・質の確保、データセキュリティとプライバシーの提供、キャリア・雇用機会へのアクセス。
  • ガバナンス:企業幹部と一般従業員との賃金格差の拡大、政治的ロビー活動や政治献金への関与、取締役会の多様性の拡大、法人税の回避、倫理的な事業手法の徹底、法規制の順守、事業の手法・成果の透明性、諸問題に対する公的立場の堅持。

本コンテンツは、「Beyond compliance: Consumers and employees want business to do more on ESG」を翻訳したものです。

翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}

主要メンバー

磯貝 友紀

パートナー, PwCサステナビリティ合同会社

Email