脱石油に向けた自動車燃料・エネルギーの多様化と次世代車導入優先順位の提示

2019-05-14

地球温暖化阻止に向け、パリ協定で決定したCO2削減目標に対する、緊迫感を持った具体的な対応が待ったなしの状況下、電動車の改良・展開のみならず、従来のエンジン車も燃料多様化とセットで残していくという、現実的な検討が必要となっています。本稿では自動車にとって重要な後続距離/車両重量にも焦点を合わせ、技術的な裏付けをもとに、エンジン車および次世代車の導入優先順位を検討しています。

脱石油に向けた自動車燃料・エネルギーの多様化と次世代車導入優先順位の提示

自動車を取り巻く環境と対応技術の俯瞰

図表1は、自動車を取り巻く環境と対応技術の俯瞰図です。地球温暖化、エネルギーセキュリティ、大気質という重点課題に対し、低コスト/安全/クリーン/乗って楽しいという自動車において重要な要件を満たしつつ、COP21パリ協定でのCO2目標達成に向け、従来車、次世代車全てにおいて全方位での技術開発が急務となっています。

従来車

  • SIE(Spark Ignition Engine)車の燃費効率改善
  • CIE(Compressed Ignition Engine)車のクリーン化・低コスト化

次世代車

  • HV(Hybrid Vehicle)展開拡大
  • PHV/RE (Plug in Hybrid Vehicle/Range Extender)の電動技術の革新
  • EV/FCHVの技術大革新(電池エネルギー密度、燃料電池セル出力密度)

エネルギー/燃料:

再生可能エネルギーへの電気変換のみならず、貯蔵・輸送が電気に比べて容易な水素に転換し、全産業で活用することや、今後、エンジン車を新興国など向けに存続させるために、従来のガソリン/軽油燃料から、天然ガス/バイオ燃料/水素燃料への転換を図ることが重要になります。

自動車生誕130年後の大変革:

ビジネスシーンが大きく変貌しようとしています。これまでの自動車メーカーが自動車を製造販売し、ユーザが保有するという形態から、今後はメーカーが自動車を使ったサービスも提供、ユーザがそれを利用するという方向に転換し、コネクテッド(IoT)、カーシェアリング/ライドシェア、自動運転(自立+協調+道路環境)の検討を進めていくことが求められます。

図表1:自動車を取り巻く環境と対応技術の俯瞰

重要機能の比較

エンジン車も含め、現在市販されているHV、PHV、RE、EV、FCVの販売価格、車両重量、航続距離の比較を図表2に示しています。HV、PHVはエンジン車に比べて航続距離が長く、筆者の私見では次世代車の現実解と考えます。PHVとEVを比較すると、同重量、同コストですが、EVの航続距離は1/5となっています。

EVは、航続距離確保と軽量化の両立という観点で見たときの完成度がHVやPHVに比べて未熟であり、都市部における大気汚染対策として、小型商用車などに限定されるものと考えられます。FCVに関してもコストダウン、軽量化は最重点課題であり、将来的には乗用車よりも、むしろ水素価格の低減とセットで長距離輸送トラック、バスでの活用が有効でしょう。

図表2:次世代車の販売価格/重量/航続距離比較

次世代車および既存自動車の導入優先付け

自動車からのCO2排出低減に向け、エネルギー多様化に伴うさまざまな技術開発への対応が必要になります。筆者の私見としては、EVの電池改良リスクを考えると、エンジン車の燃料転換とHVの導入拡大が現実的と考えられます。(1)多くの人が購入可能な販売価格の実現、(2)移動体として重要な航続距離の確保、(3)乗って楽しい車(軽量)という三つの点を重視し、可能なことは全てやるという全方位的な開発(技術開発の積み上げ)の中で、適時、適車で導入の優先順位を決めることが重要です。図表3は、エンジン車と次世代車の燃料転換も含めた得失検討結果を示したものです。これをもとに、これからのエンジン車への導入技術と次世代車の導入優先順位を整理したものが図表4となります。

エンジン車に関しては、直噴化/可変動弁系/可変圧縮比などのシステム改良、断熱をはじめとするヒートマネージメント、48Vマイルドハイブリッドシステム(MHS)の導入拡大検討と並行し、脱石油化として天然ガス/バイオ燃料/水素への転換を優先的に進めることになるでしょう。

次世代車に関しては、HV開発を現実解として推進する中で電動システムの改良を進め、そこで培われた改良技術をRE、EV、FCV(セル改良/タンク改良は個別に発生)に展開していくことが見込まれます。

EV、FCVによるZEV(Zero Emission Vehicle)、NEV(New Energy Vehicle)対応は、ローカルな大気質改善の手段として選択の余地がないと考えますが、WtW(Well to Wheel)の重要性について認識することが必要です。

図表3:エンジン車と次世代車の総合比較および展開難易度
図表4:エンジン車の導入技術と次世代車の導入優先順位

執筆者

藤村 俊夫

顧問, PwC Japan合同会社

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