多様な視点が生み出す新たなイノベーション

ビジネス、エクスペリエンス、テクノロジーの共創の意義

  • 2024-08-08

企業にとってDXへの対応は必須ですが、せっかく投資したにもかかわらず期待した効果を生み出すにはいくつかの課題があります。DXの効果を十分に上げるためにはどのような点に留意すればよいのでしょうか。

PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)が2024年6月7日に開催した「Technology Day 2024-生成AIやテクノロジーをビジネスにどう活かしていくか-」のBreakout Session 6では、「DXにおけるエクスペリエンス、テクノロジー双方の視点の重要性」と題し、PwCコンサルティング上席執行役員パートナーの一山正行とシニアマネージャーの坪井りんが登壇。自社での実例を交えながらDXを推進する上でのポイントについてディスカッションしました。

(左から)一山 正行、坪井 りん

登壇者

一山 正行
PwCコンサルティング合同会社 上席執行役員 パートナー

坪井 りん
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー

多くの企業がDXによる変革を達成できていない現状

本セッションの冒頭で、PwCコンサルティングでパートナーを務める一山正行は、体験価値の前提として、良い顧客体験をデザインする際によくある企業の困りごとの例を挙げました。

「ユーザーファーストで作ったペルソナをどう活用すればいいのか」「カスタマージャーニーがふわっとした内容になってしまう」「UIデザインの正解が分からない」。

こうした課題を踏まえ、DXにおける顧客体験をどうデザインするのか、コンセプトで終わらせないための実践方法について考えるのが、このセッションの主旨です。

一山は、DXを「データとデジタル技術を活用して競争上の優位性を確立すること」と定義した上で、企業がDXを進めるにあたっての課題を紹介しました。

「DXにより業務の効率化、生産性の向上については一定の成果が出ているものの、製品やサービスの新規創出、高付加価値化、ビジネスモデルや企業文化の変革について成果を出せている企業は多くはありません。この課題を克服するには、企業目線で実施してきたDXを顧客体験という目線で捉え直す必要があると考えています」(一山)

PwCコンサルティング合同会社 上席執行役員 パートナー 一山 正行

PwCコンサルティング合同会社 上席執行役員 パートナー 一山 正行

一山は「体験」について、「五感を使った実際の行為を通して感覚すること」と定義。その上で、優れた体験としてユーザーが認知するには、「Utility(機能・仕様・価格)」「Usability(使いやすさ)」「Desirability(使ってみたい、心地良い)」「Experience(得られる全ての体験)」の4つのステップがあると解説しました。

「このうちUtilityとUsabilityを満たすことは最低限の出発点で、付加価値として認識してもらえるのはDesirabilityからです。これは消費スタイルが、従来のモノ中心からコト中心・イミ中心へと変化し、機能ではなく社会的な価値を内包する顧客体験のデザインの重要性が増していることを意味します」(一山)

では、なぜ優れた顧客体験が必要なのでしょうか。一山は「優れた体験は、ビジネス価値の源泉になるからです。高い付加価値があれば顧客はお金を払いますし、その価値の模倣が困難なら持続的な競合優位性につながるのです」と語り、付加価値が高まっていく流れをコーヒーの流通を例にとって説明しました。

「原料のカカオはコモディティですが、これがコーヒー豆という製品となり、実際に提供される飲料としてのコーヒーというサービスになることで、付加価値が高まっていきます。そして居心地の良いカフェでそれを口にすることが、経験として最も高い付加価値になるわけです」(一山)

さらに一山は、Online Merges with Offline(OMO)が浸透し、デジタルにより生産から消費まであらゆる場面で顧客とのタッチポイントを持てるようになっていることを挙げ、これまで以上にゴールまでの流れを体験として設計することの重要性を強調しました。

一方、「顧客の期待と実際の体験にはギャップがあるのが現実です。顧客の期待値はどんどん上がっていることから、迅速に対応するためには、AIや自動化といったテクノロジーの活用は不可欠です」と課題にも言及しました。

実はこの構図は社内システムにも当てはまると一山は指摘します。

「先ほど、商品やサービスにおいてUtilityとUsabilityを満たすことは最低限の出発点だと述べましたが、社内システムの品質もここで留まっているケースが見受けられます。その原因は、使用者よりも購買決定者のニーズを優先するケースが多いから。日々システムを使うユーザーの体験があまり考慮されていないことが、DXの活用成果でも高付加価値化や企業文化の変革といった成果に結びついていない原因だと考えられます」

体験デザインで重要なのは検証可能なプロトタイプ

続いて、PwCコンサルティングのシニアマネージャーとして、デジタルプロダクトや新規事業の開発を中心に幅広いクライアントを支援している坪井りんが、一山の話を引き継いで、体験デザインの具体的な話をしました。

「体験は一人ひとり異なりますが、どんな体験になるかを事前に計画し、再現・量産される仕組みを作るのが体験デザインです」(坪井)

坪井が最初に解説したのは体験をデザインするプロセス。大きな流れとして、仮説を作り、検証を経て、体験の精度を高めるサイクルを高速で回しながら形を整えていくことが必要だと説きます。

また、このプロセスを進めていく上で坪井がポイントに挙げたのは、エクスペリエンス、つまり顧客体験だけを考えるのではなく、ビジネスとテクノロジーを加えた3つの視点で考えることが不可欠だということです。

「体験をデザインする際には、抽象的な概念からスタートして徐々に具体的な解決策を練り上げていく必要があります。ミッションやビジョン、事業戦略など抽象的な要素からスタートし、カスタマージャーニーやユーザーストーリーといった具体的なアウトプットへと発展させていきます。その際にビジネス視点やテクノロジー視点を行き来しながら、各段階の解像度を上げていきます。重要なのは、抽象から具体まで、そしてこれら3つの視点において、一貫したストーリーを構築することです」(坪井)

ビジネス視点でいうと、抽象度の高い項目は市場調査や収益構造で、具体化してくるとビジネスプランやチャネルといった点を検討します。また、テクノロジー視点では、コンテンツや機能リストといった抽象項目から、具体的な仕様やビジュアルデザインへと細部を作り込んでいくことになります。

「具体的な部分は表層なので手直しが効きますが、抽象部分はコアな戦略にあたるので、あとからの修正は困難です。したがって、より良い体験デザインを進めるためには、最初にしっかりと問題を見極めた上でエクスペリエンス、テクノロジー、ビジネスのそれぞれの専門家がつながり、共創することが重要となってくるのです」(坪井)

適切な顧客体験を生み出す上でもう1つポイントになるのが、課題の質を見極めることだと坪井は言います。

「課題解決が価値となることで顧客はその対価を支払うのですから、顧客が感じている課題以上の課題解決は適切な解決とは言えません。ビジネス視点で課題のひっ迫度や頻度、持続性といった課題の質をしっかり見極め、テクノロジー視点から実現可能性を考慮することが、課題にフィットしたソリューションを生み出すポイントとなります」

PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 坪井 りん

PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 坪井 りん

またニーズを正確に探る際に必要なこととして、坪井は定性・定量調査を通して顧客が本当に必要としていることやその文脈を理解した上で仮説を作り、試作品(プロトタイプ)を作ることだと語ります。

「プロトタイプが必要な理由は、アイデアをリアルで検証可能な状態にするためです。仮説の精度と検証サイクルのスピードを上げ、実際に形にするというマインドセットを持つことが、体験をデザインする上では重要です」

領域横断できる環境を作ることが成功の鍵

ここで一山は、利用者の体験を向上させたプロダクト開発の例として、PwCコンサルティングが新たに開発したSecurity Information and Event Management(SIEM)のプラットフォームである「Managed Threat Intelligence & Detection」を紹介しました。このプロダクトはクラウドやネットワーク機器などから集めたログ情報を一元的に管理し、ログ同士の相関関係を分析できるシステムで、サイバーインテリジェンスに基づいてサイバー攻撃を検知するものです。

「こちらはサイバー脅威情報を解析したデータベースにPwCコンサルティング独自の知見を加えたプロダクトです。独自の監視ルールに基づいて脅威を可視化し、予測を基に戦略的なセキュリティ対策を講じられる点が特長です」(一山)

このSIEMの開発がまさに、PwCコンサルティングのエクスペリエンスチーム、ビジネスチーム、テクノロジーチームの共創の好例であると一山は語ります。そして、実際にその共創に携わった坪井が、SIEMプロジェクトの詳細を以下のように説明しました。

「企画やビジネス要件はサイバーセキュリティコンサルタントのチームが推進し、私たちはそれをプロダクトとして要件に落とし込み、実際に開発するまでを手がけました。最初に人間中心設計(HCD)アプローチで、実際に使う人がどのような使い方をし、どのようなことに困っているのかを理解することから始めました。サイバーセキュリティは専門性が高い領域なので、とにかくキャッチアップが大変でした。ヒアリングをしたり、競合製品を使ったり、SNSや解説動画で調べたりして、まずはビジネスチームとディスカッションできるだけの知見を得ました」(坪井)

どのような製品・サービスも、最終的にそれを使う使用者がいます。そのため、業務プロセスだけでなく、使用者が達成したいゴール、顕在化していない願望やペインを理解し、それらを満たす要件を策定した上で、最終的にテクノロジーチームによる実装へと進んだといいます。

「このプロジェクトは、エクスペリエンス、ビジネス、テクノロジーの各チームが共創することで価値あるストーリーを生み出せた好例ですが、単に隣にいるのではなく、領域を横断して口を出し合える環境を整えたことが成功の鍵でした。ビジネス要件をベースに、顧客の課題を踏まえた体験シナリオを考案し、それに対して各チームがそれぞれの専門的観点からフィードバックする。そのサイクルを繰り返しながら、解像度を徐々に上げ、より優れた具体的なソリューションへと進化させていきました。」(坪井)

最終的に形になったプロダクトについて、一山は「MITRE ATT&CKフレームワークを用いて脅威も見やすく表示されますし、時系列でシミュレーションもでき、UI/UXの観点でもDX推進に寄与するプロダクトとなりました。まさにUtilityやUsabilityにとどまらず、DesirabilityやExperienceを実現したからこそ体験価値を向上できたのだと自負しています」と胸を張りました。

最後に坪井が「専門知識が必要な社内システムをはじめ、多様なニーズがある中、ビジネス、エクスペリエンス、テクノロジーといった領域がつながることで、新しいイノベーションが生み出せることをこのプロジェクトが証明しています。専門性の高いプロジェクトを進める際や、体験価値を向上させるプロダクトを生み出す際に、こうした共創の事例が皆様のヒントになればと思います」と総括し、セッションを締めくくりました。

主要メンバー

一山 正行

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

坪井 りん

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email

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