2023年7月制定のEUバッテリー規則の概要と日本企業への影響

ESG/サステナビリティ関連法務ニュースレター(2023年12月)

近時、日本を含む世界各国において、ESG/サステナビリティに関する議論が活発化する中、各国政府や関係諸機関において、ESG/サステナビリティに関連する法規制やソフト・ローの制定または制定の準備が急速に進められています。企業をはじめ様々なステークホルダーにおいてこのような法規制やソフト・ロー(さらにはソフト・ローに至らない議論の状況を含みます。)をタイムリーに把握し、理解しておくことは、サステナビリティ経営を実現するために必要不可欠であるといえます。当法人のESG/サステナビリティ関連法務ニュースレターでは、このようなサステナビリティ経営の実現に資するべく、ESG/サステナビリティに関連する最新の法務上のトピックスをタイムリーに取り上げ、その内容の要点を簡潔に説明して参ります。

今回は、以下のトピックについてご紹介します。

  • 2023年7月制定のEUバッテリー規則の概要と日本企業への影響

1. EUバッテリー規則の背景と制定

欧州連合(EU)は、2023年7月、バッテリー及び使用済みバッテリーに関する規則(EU)2023/1542(EUバッテリー規則、以下「本規則」といいます。)1を公布しました(同年8月17日付けで施行、2024年2月18日から段階的に適用)。

2006年以来、EUは、バッテリーと使用済みバッテリーについて、EU指令(2006/66/EC)(以下「バッテリー指令」といいます。)に基づく規制を課してきました。しかし、バッテリー指令の規制の内容や効果が十分ではなく、また、EU加盟国間で実施状況に統一性が保たれていなかった等の課題がありました。

そのような中、バッテリーは、現在、持続可能な開発、グリーンモビリティ、クリーンエネルギー、気候中立性などを実現するための鍵となる重要なエネルギーの一つとされており、今後は、電気自動車やバッテリーを用いた軽量輸送手段を中心に、バッテリーの需要が急速に拡大するとともに、蓄電池技術は科学的・技術的に急激に進歩していくことが想定されます。このようなバッテリーの重要性、技術の発展、バッテリーの使用法や市場の変化を踏まえて、すべての関係事業者に明確なガイドラインを提供し、バッテリー市場内での格差、貿易障壁及び歪みなどの潜在的な問題を防止するために、エンドユーザー及び経済事業者のためのバッテリーに関する情報だけでなく、バッテリーの持続可能性、性能、安全性、回収、リサイクル及びセカンドライフなど、バッテリーのライフサイクル全体を監督するための統一された規制枠組みを作ることが必要であるとして、2020年に、欧州委員会により、本規則が提案されました。

本規則は、EUにおける欧州グリーンディール、サーキュラーエコノミー(循環型経済)行動計画、バッテリー戦略行動計画などに掲げられた政策目標を反映するものであり、その目的は、バッテリーの環境への負の影響を防止・軽減しつつ、EU域内市場の効果的な機能に寄与するとともに、使用済みバッテリーの発生と管理による負の影響を防止・軽減することにより、環境及び人の健康を保護することにあります(2条)。

とりわけバッテリーの多くは、希少な物質で製造されており、かつかかる物質は環境や人体に有害な影響を及ぼします。かかる希少な物質は紛争地域で採掘されるものが多く、強制労働や児童労働をはじめとする紛争鉱物に係る人権問題を引き起こしています。また、使用済みバッテリーは貴重な資源を含む一方、その廃棄や処理方法によっては環境汚染や健康被害を生じさせることがあります。このような問題の防止や軽減のために、本規則は、バッテリーのライフサイクル全体を監督するための統一的規制を課すことで、環境や人の健康の保護を図ることを目的としています。

本規則は、バッテリー指令を置き換えることとなります。

2. 本規則の構成

本規則は、以下の通り、14章、96の条項及び15の附属書で構成されます。

第1章

総則(1~5条)

第2章

サステナビリティと安全性(6~12条)

第3章

ラベリング・マーキング及び情報(13,14条)

第4章

バッテリーの適合性(15~20条)

第5章

適合性評価機関の届出(21~37条)

第6章

第7章、第8章以外の経済事業者の義務(38~46条)

第7章

バッテリーのデューディリジェンスに関する経済事業者の義務(47~53条)

第8章

使用済みバッテリーの管理(54~76条)

第9章

デジタルバッテリーパスポート(77,78条)

第10章

EUの市場監視及びセーフガード手続(79~84条)

第11章

グリーン公共通達、物質規制の改正手続(85~88条)

第12章

権限の委任と委員会の手続(89,90条)

第13章

改正(91,92条)

第14章

最終規定(93~96条)

 

3. 本規則の対象

本規則は、その形状、容積、重量、設計、材料組成、化学的性質、用途、目的の如何を問わず、EUで市場に出され、あるいは使用に供される、あらゆる種類のバッテリーに適用されます(1条3項)。

すなわち、本規則は、EU内で生産されたか輸入されたかにかかわらず、EU内で市場に出されたか又は使用に供されたすべてのカテゴリーのバッテリーに適用されます(市販されている電池が複数のカテゴリーに該当するとみなすことができる場合には、それらの電池は、最も厳格な要件が適用されるカテゴリーに該当するとみなされます)。また、①バッテリーが家庭用電化製品、軽量輸送手段、その他の車両等の製品のために特別に設計されたものか、②製品に組み込まれているものか、③製品と共に供給されるものか、④EU内で独自に使用されているかなどにかかわらず、適用されます(前文(11))。

例外として、①加盟国の安全保障上の不可欠な利益の保護、武器、軍需品、戦争資材の保護に関連する機器(軍事目的使用ではない製品は除外されます)、又は②宇宙に送るために設計された機器に組み込まれた、又は組み込まれるように特別に設計されたバッテリーには適用されないものとされています(1条5項)。

本規則では、「バッテリー」とは、「化学エネルギーの直接変換によって生成され、内部又は外部の記憶装置を有し、1つ又は複数の非充電式又は充電式電池セル、モジュール又はそれらのパックから構成される電気エネルギーを供給する装置を意味し、再使用、目的変更又は再製造のための準備、目的変更又は再製造を行ったバッテリーを含む。」と定義されています(3条1項(1))。

本規則は、バッテリーをさらに以下のカテゴリーに分類しています。

カテゴリー

定義

 

携帯用バッテリー

5kg以下の密閉型バッテリーであり、産業用に特別に設計されておらず、電気自動車用バッテリー、LMTバッテリー、SLIバッテリーのいずれでもないバッテリー(3条(9))

 

SLIバッテリー(車両の始動、照明、点火用バッテリー)(starting, lighting and ignition battery)

始動、照明又は点火のための電力を供給するように特別に設計されたバッテリーであって、車両やその他の輸送手段や機械類の補助又はバックアップの目的にも使用できるバッテリー(3条(12))

 

LMTバッテリー(軽量輸送用バッテリー)(light means of transport battery)

25kg以下の密閉型バッテリーであり、単独で、又は電動と人力の組み合わせによって駆動することができる車輪駆動の車両の牽引のための電力を提供するように特別に設計されたバッテリー(3条(11))

 

産業用バッテリー

産業用に特別に設計されたバッテリーであって、用途変更の準備か用途変更が行われた後の産業用に意図されたもの、又は重量が5kgを超えるその他のバッテリーであって、電気自動車用バッテリー、LMTバッテリー、又はSLIバッテリーのいずれでもないもの(3条(13))

 

電動自動車用バッテリー

カテゴリーLのハイブリッドや電気自動車において、25kgを超える重量の牽引用の電力を提供するように特別に設計されたバッテリー、又はハイブリッド車又はカテゴリーM、N又はOの電気自動車において、牽引用の電力を提供するように特別に設計されたバッテリー(3条(14))

 

また、本規則では、特に第6章、第7章において義務が課される対象を「経済事業者(economic operator)」と定義しています。すなわち、「経済事業者(economic operator)」とは、バッテリーの製造者、承認代理人、輸入者、流通業者若しくは履行サービス提供者、又は本規則に従い、バッテリーの製造、再使用の準備、用途変更の準備、用途変更若しくは再製造、市場へのバッテリーの投入(オンラインを含む)、バッテリーの利用開始に関連する義務を負う者と定義されています(3条1項(22))。

4. バッテリーのサステナビリティと安全性、ラベリング、適合性評価に関する規制

(1)カーボンフットプリントと有害物質の制限

1 カーボンフットプリントの宣言書の作成・添付等

電気自動車用バッテリー、容量が2kWh以上の充電可能な産業用バッテリー及びLMTバッテリーは、製造工場ごとの各バッテリーモデルについて、カーボンフットプリントの宣言書(以下「宣言書」といいます。)を作成する必要があります(7条1項)。宣言書には、製造業者、バッテリーモデル、バッテリー製造工場の地理的位置に関する情報、バッテリーのカーボンフットバッテリーモデル情報等が含まれます。宣言書は、QRコードを介してアクセス可能となるまではバッテリーに添付されなければなりません。

また、上記のバッテリーには、カーボンフットプリントを表示し、かつ、製造工場ごとのバッテリーモデルのカーボンフットプリント性能等級を宣言するラベルを、明確に判読可能で消えない形で付す必要があります(7条2項)。また、各バッテリーの技術文書(附属書8)では、申告されたカーボンフットプリント及びその性能等級が所定の方法に従って算定されたことを立証する必要があります(同項)。さらに、これらのバッテリーについては、各製造工場のバッテリーのライフサイクルカーボンフットプリントが所定の最大閾値未満であることを立証する必要があります(同条3項)

これらの義務は、バッテリーの種類に応じて、2025年2月から段階的に導入される予定です。

2 有害物質

本規則は、バッテリーにつき、Regulation(EC)No.1907/2006(REACH規則)及びEU指令2000/53/EC(ELV指令)で定められた制限に加えて、本規則で定める制限を超える水銀、カドミウム、鉛を含むことを禁止しています(6条)。

また、汎用型の携帯用バッテリーや容量2kwを超える産業用バッテリー、LMTバッテリー及び電気自動車用バッテリーは、電気化学的性能と耐久性の最低要件を満たす必要があります(9条、10条)。

さらに、容量が2kwを超える産業用バッテリー、電気自動車用バッテリー、LMTバッテリー及びSLIバッテリーで、活性材料にコバルト、鉛、リチウム又はニッケルを含むものについては、使用済みバッテリー等から回収される割合について最低限の閾値を定めています(8条)。

(2)ラベリングと情報

バッテリーには、製造業者、バッテリーのカテゴリー、製造場所、製造日、重量、容量、有害物質、化学的性質、使用可能な消火剤、重要な原材料等に関する情報を、表示(ラベリング)する必要があります(13条、14条)。また「分別回収」のシンボルを表示しなければなりません。さらに、すべてのバッテリーに、QRコードを付すことが必要です。QRコードは、上記のラベルの表示事項の他、バッテリーパスポート、EU適合宣言書、デューディリジェンス方針に関する報告書、使用済みバッテリーの削減と管理に関する情報等へのアクセスを可能とするものです。ラベルとQRコードは、いずれもバッテリーに、目に見える、読みやすい、消えない方法で印刷又は刻印しなければなりません。

容量が2kWhを超える充電式産業用バッテリー、電気自動車用バッテリー、LMTバッテリーには、個別の電子データレコードにアクセスできるバッテリーパスポートが必要となります(77条)。バッテリーパスポートには、バッテリーに関する一般的な情報(例えば、バッテリーの製造者や製造施設の地理的な位置の表示)やバッテリーのモデル等のデータシートが含まれます。バッテリーパスポートの目的は、すべての利害関係者にとって供給連鎖と価値連鎖の透明性を高め、各バッテリーに関する情報の交換を促進することです。


(3)バッテリーの適合性評価

本規則は、評価対象となる要件に応じた適合性評価手続を定めており、持続可能性、安全性、表示要件を満たしていることを示すEU適合宣言書の様式を規定しています(15条~20条)。EU適合宣言書は、製造者が、本規則所定の要件への適合性が立証されたこと、及び適合性の責任を引き受けることを宣言するものです。製造者は、市場に流通させるか、又は使用する予定のバッテリーに対して、適合性評価を実施し、適合性が確認された後、EUで適用される健康、安全、環境保護の基準に準拠していることを示す「CEマーク」を付すことが必要です。

5. サプライチェーンのバッテリー・デューディリジェンス義務

2025年8月18日以降、バッテリーをEU市場に出す、又は使用に供する経済事業者は、バッテリー製造に必要な原材料や二次材料の調達、加工、取引に伴う社会的および環境的リスクに対処するための、国際基準に準拠したデューディリジェンス方針を策定し、デューディリジェンスを実施する義務が課されます(47条~53条)。なお、最終会計年度の前年度の純売上高が4000万ユーロ未満で、かつ、連結ベースで4000万ユーロを超える親会社及び子会社企業から成るグループに属さない企業には、適用されません。

その内容には、市場に出荷されるバッテリーに使用される原材料の出所の検証、内部の責任の明確化、バッテリーのデューディリジェンス方針の第三者による検証、及びデューディリジェンス方針の年次公表が含まれます。とりわけ、経済事業者は、コバルト、天然グラファイト、リチウム、ニッケル及びこれらの原材料に基づく他の化合物の供給に関して、OECDデューディリジェンス・ガイダンスや国連ビジネスと人権に関する指導原則などの国際的に認められた基準2に従って、デューディリジェンス方針を採用し、サプライヤーや一般に対して明確に伝えなければなりません。また、本規則では、デューディリジェンス方針と管理システムにおけるその実施方法について、第三者による検証(通知機関によって行われる)を要求しています

義務

内容

 

バッテリー・デューディリジェンス方針(48条)

バッテリー・デューディリジェンス方針を策定し、実施する

 

経済事業者のマネジメントシステム(49条)

(a)バッテリー・デューディリジェンス方針を策定し、サプライヤー及び公衆に明確に伝達する、(b)国際的に認められたデューディリジェンス関連文書に定められた基準と整合する基準をバッテリー・デューディリジェンス方針に組み込む、(c)バッテリー・デューディリジェンス方針を監督する責任を最高経営層に割り当てることにより、バッテリー・デューディリジェンス方針を支える内部管理システムを構築した上で、最低10年間そのシステムの記録を維持する、(d)サプライチェーンにおける上流関係者を特定し、サプライチェーンに関する統制と透明性のシステムを確立し運用する、(e)リスク管理措置を含むバッテリー・デューディリジェンス方針をサプライヤーとの契約に組み込む、(f)早期警戒リスク認識システム及び救済メカニズムを含む苦情処理メカニズムを構築する

 

リスク管理義務(50条)

(a)サプライチェーンにおける社会・環境リスク分類に関連する負の影響のリスクを特定し、評価する、(b)特定されたリスクに対応して、負の影響を防止、軽減、その他の方法で対処するための方針を設計し実施する

 

バッテリー・デューディリジェンス方針の第三者検証(48条2項、51条)

デューディリジェンスの義務を履行するために経済事業者が行うすべての活動、そのためのプロセス及びシステムを含めて、独立第三者による検証が要求されている。当該機関により、検証報告書が発行される。

 

バッテリー・デューディリジェンス方針の情報開示(52条)

経済事業者は、毎年、バッテリー・デューディリジェンス方針に関する報告書を公開しなければならない

 

本規則所定のデューディリジェンスにおける社会・環境リスク分類は、以下の通りです(附属書10の2)。

(a)直接的、誘発的、間接的及び累積的影響を考慮した環境、気候及び人の健康:

(i) 温室効果ガスの排出など大気汚染を含む大気
(ii) 海底及び海洋環境を含む水(水質汚染、水の使用、洪水又は干ばつ及び水へのアクセスを含む)
(iii) 土壌汚染、土壌浸食、土地利用、土地劣化などの土壌
(iv) 生息地、野生生物、植物、エコシステムサービスを含むエコシステムへの被害を含む生物多様性
(v) 有害物質
(vi) 騒音・振動
(vii) プラント安全
(viii) エネルギー使用量
(ix) 廃棄物、残渣

(b)人権、労働者の権利、労使関係

(i) 安全・衛生管理
(ii) 児童労働
(iii) 強制労働
(iv) 差別
(v) 労働組合の自由

(c)先住民の権利を含む共同体生活

 

経済事業者がデューディリジェンス義務を履行していないと認められる場合は、加盟国は、経済事業者に対して義務履行を要求し、それにもかかわらず義務不履行が継続し、かつ他の有効な手段がない場合は、経済的事業者による市場へのバッテリーの提供を制限又は禁止するために、すべての適切な措置を講じなければならず、重大な場合には、関係するバッテリーが回収されるようにしなければなりません(84条)。さらに、加盟国は、特定の制裁を規定することができます。

6. 使用済みバッテリーの管理-拡大生産者責任/リサイクル

生産者(producer)には、バッテリーに関する生産者登録の義務と拡大生産者責任(extended producer responsibility)が課されます(55条、56条)。

ここで「生産者」とは、遠隔契約による場合を含め、使用される販売手法にかかわらず、加盟国で自らの名称又は商標の下で、バッテリー(家庭用電化製品、軽量輸送手段、その他の車両に組み込まれているものを含む)を製造、供給する製造業者、輸入業者、販売業者又はその他の自然人若しくは法人をいい、詳細は3条1項(47)に定義されています(3条1項(47))。

生産者が負う拡大生産者責任とは、加盟国領域内で初めて利用可能となるバッテリーについて、当該バッテリーの廃棄物としての回収と処理に責任を負うことを意味します。本規則では、生産者又は生産者責任組織は、その化学的性質、状態又は原産地に関係なく、バッテリーを初めて利用可能とする加盟国領域で、すべての携帯用バッテリー及びLMTバッテリーを無償で分別回収することが求められています(59条、60条)。携帯用バッテリー及びLMTバッテリーの回収率には目標が設定されています。なお、SLIバッテリー、産業用バッテリー及び電気自動車用バッテリーについても同様の回収義務が定められています(61条)。

また、本規則は、回収された使用済みバッテリーを廃棄又はエネルギーの回収の対象としてはならないと定めています(70条)。使用済みバッテリーの処理施設は、所定の最良の技術に最低限適合することが求められています。さらに、リサイクル事業者は、リサイクル効率及び原材料の回収の目標をそれぞれ達成しなければならないものとされています(71条、附属書7のパートB、パートC)。リサイクル効率の目標には、鉛蓄電池、リチウムベースバッテリー、ニッケルカドミウムバッテリー、その他の使用済みバッテリーのカテゴリーに分けてリサイクル効率の目標が設定されており、コバルト、銅、鉛、リチウム、ニッケルに分けて原材料回収の目標が定められています。

7. バッテリーの取り外しと交換

2027年2月18日以降、携帯用バッテリーを組み込んだ製品を市場に出す自然人又は法人は、原則として、製品の存続期間中いつでもエンドユーザーによって当該バッテリーを容易に取り外しや交換ができるようにしなければなりません(11条1項)。また、LMTバッテリーを組み込んだ製品を市場に出す自然人又は法人は、原則として、製品に存続期間中いつでも、独立した専門家によって、バッテリー及びバッテリーパックに含まれる個々のバッテリーセルが、容易に取り外しや交換ができるようにしなければなりません(11条5項)。

8. 執行と罰則

2025年8月18日までに、各個別のEU加盟国は、規則の執行のための規則を導入する必要があります。そして、そのような規則に基づいて課される罰則は、「効果的で、比例的で、抑止的」である必要があります。

9. 今後の取組み

新しい規則は、2023年8月17日に施行され、2024年2月18日から段階的に適用されます。

例えば、経済事業者の義務のうち、第7章(デューディリジェンスに関する義務)と第8章(使用済みバッテリーの管理)を除くその他の義務は、2024年8月18日から適用されます。バッテリーの適合性評価手続きに関する規則も、例外を除き、2024年8月18日から適用されます。使用済みバッテリーの管理に関する規則は、2025年8月18日から適用されます。携帯用バッテリーとLMTバッテリーの取り外しと交換可能性の確保、は2027年2月18日から適用されます。そのため、規制対応の準備は迅速かつ計画的に対応していく必要があります。

本規則の対象範囲は広く、バッテリーのライフサイクル全体と供給ネットワーク全体にも適用されるため、世界のバッテリー産業に広範な影響を及ぼします。本規則によるカーボンフットプリントやバッテリーリサイクル要件などに関する規制の導入は、EUのバッテリー市場に参入しようとする海外企業にとって貿易障壁となるとする見方もありますが、今後益々バッテリーの重要性が高まる中、かかる規制を尊重し、真摯に取り組んでいくことで、日本のバッテリー産業の世界での国際競争力を高めるものと考えられます。

まずは、EU市場に参入している、又は参入を計画しているバッテリー企業や、その上流・下流に関連する日本企業は、バッテリーの製造・流通に関する本規則やその後の法令の全体的な内容と要件を十分に理解することが重要です。その上で、本規則の法的要件を満たすための戦略を準備し、原料の採掘や使用済みバッテリーの回収からリサイクルを含めた、バッテリーに関するライフサイクルを俯瞰しながら、段階的な対応を実施していく必要があります。

REGULATION (EU) 2023/1542 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 12 July 2023 concerning batteries and waste batteries, amending Directive 2008/98/EC and Regulation (EU) 2019/1020 and repealing Directive 2006/66/EC

2 国際基準として、以下のものが挙げられていいます。(a)国際人権章典、(b)国連ビジネスと人権に関する指導原則、(c)OECD多国籍企業行動指針、(d)ILO多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言、(e)OECD「責任あるビジネス行動のためのデューディリジェンス・ガイダンス」、(f)紛争の影響を受けた地域及び高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのOECDデューディリジェンス・ガイダンス。

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執筆者

北村 導人

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パートナー, PwC弁護士法人

山田 裕貴

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日比 慎

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ディレクター, PwC弁護士法人

小林 裕輔

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