
レジリエントな明日を目指したサーキュラーエコノミーの採用 アジア太平洋地域の変革
本レポートでは、サーキュラーエコノミーがアジア太平洋地域の経済、産業、排出量に及ぼし得る影響について調査しました。また、企業の競争力を高める5つのサーキュラービジネスモデルや、移行に向けた課題および実現要素を考察します。
※本稿は、2023年5月10日・20日合併号(No.1677)に寄稿した記事を転載したものです。
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有価証券報告書においてサステナビリティ情報の開示が義務化されるなど、カーボンニュートラルを目指した脱炭素の取組みが待ったなしの状況となっている。経理部門は、気候関連の情報開示やグリーンボンドによる資金調達など、脱炭素の取組みに関与する機会が増えると予想され、ある程度の知識が必要となる。しかし、伝統的な財務会計に基づく情報の開示とは異なる分野であるため、理解が進みにくい状況にあると推察される。そこで、脱炭素の基礎的な事項および経理部門に関連する事項を、わかりやすいQ&A形式で解説していく。
第5回は、カーボンオフセットについて解説する。なお、記載については、筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。
脱炭素の議論で「カーボンオフセット」という言葉を聞くが、どのような枠組みであるのか。
財務会計において「オフセット」といえば相殺をイメージされるかもしれない。たとえば、金融資産と金融負債の相殺表示やヘッジ会計の適用における相場変動の相殺などである。
カーボンオフセットは、会計処理ではなく、次に説明するような、企業活動により排出する温室効果ガス(Greenhouse Gas。以下、「GHG」という)を埋め合わせる取組みと考えると理解しやすいだろう。
カーボンオフセットは、日常生活や経済活動において排出されるCO2等のGHGの排出を、排出量に見合った排出権やカーボン・クレジットの利用で埋め合わせるという考え方である。この取組みにより、カーボンオフセットを実施する主体が、事業活動など自らの活動に伴って排出されるGHGに関する責任を持つという意識づけが期待される。また、オフセットに利用される排出権等を創出する事業者や投資プロジェクトにおいては、より一層の脱炭素活動促進が期待される。
カーボンオフセットの対象は、製品やサービスのライフサイクルを通じて排出されるGHG、スポーツ大会といったイベント、会議の開催に伴って排出されるGHGなどがあり、何をオフセットするかは自由に決められる。電力の排出係数低減や、使用電力を再生可能エネルギーにするための証書やカーボン・クレジットの利用、および排出権取引制度で目標を達成するための排出権の活用も、広い意味ではカーボンオフセットと考えられる。
カーボンオフセットを行うためには、いくつかの段階が存在する。これらの段階別に次に解説する。
まず、カーボンオフセットを行うための準備について、解説する。
企業においてカーボンオフセットの取組みを適正かつ効果的に進めるためには、目的、効果、費用、人材などについて把握するなど、企画段階の十分な検討が重要である。最初に、企業の社会的責任の一環として取り組むのか、GHG排出量削減目標の達成に向けて取り組むのかなど、カーボンオフセットの取組みに関する目的の明確化を行う。
そして、目的の達成に必要な概算のカーボン・クレジット量を踏まえて予算を設定するか、予算内で調達可能なクレジット量を算出し、どのようなオフセットを実施するかを検討する流れとなる。カーボンオフセットを実施した場合、その取組みをどのように外部へ公表していくのか、もしくは公表しないのか、という点についてもこの時点で検討の実施が望ましい。
続いて、カーボンオフセットのフローを図表に示し、それぞれ解説していく。
カーボンオフセットの対象とする、イベント、自社の製品やサービスからのGHG排出量は、自らが対象範囲やオフセット期間を決めて算定を行う。どのように算定を行うかは、算定方法を公表する、しないにかかわらず、外部の第三者の観点から妥当であると思われる方法にする。
たとえば、主に市内の家族が500人参加するイベントに対して、来場者の車移動に伴って排出するCO2をオフセットしようとする場合、500人全員が自動車で移動し、自動車1台に2人が乗車すると仮定する。移動距離は市内であると想定し、往復20㎞とする。そして自動車の燃費を10㎞/Lとすれば、必要なガソリンは500人÷2人×20㎞÷10㎞/L≒500Lと算出される。ガソリン1,000LのCO2排出量が2.32t-CO2なので、移動に伴って排出するCO2は、1.16t-CO2となる。
実務的には、保守的にオフセットを実施するため、小数点以下は切り上げて2t-CO2が必要なクレジット量とする対応もある。会計処理を業務としている読者からするとクレジット量の算出方法に少し違和感があるかもしれないが、保守性を考慮するとこのような対応となる。
一定のルールにのっとり算定やオフセットを行った場合には、後述する環境ラベルを付す対応も可能となる。排出量取引制度など、一部、規制のなかで排出量をオフセットしなければならない場合、その制度のルールにのっとって排出量を算定する必要がある。
カーボンオフセットを行えば、いくらでもGHGの排出が受容されるという意味ではない。できる限り、GHG排出削減する努力が望まれる。イベント等で実施するような場合は、その参加者に対して、排出削減を促すような取組みの推奨もカーボンオフセットの推進方法の1つである。
カーボンオフセットに利用される主なクレジットとして、J-クレジットがある。カーボンオフセットを完了するには、算定した排出量にあわせて、必要なクレジットを無効化する必要がある。
無効化の手続は、必要なクレジットの調達を行うプロバイダーが制度事務局へ必要な手続を実施して完了する。J-クレジットの口座を保有している場合は、自らによる手続も可能である。無効化処理が完了すると、J-クレジット制度事務局より、無効化の目的や無効化されたクレジットの番号、量などが記載された書類が送付される。
無効化にあたり内容が妥当かどうか、完了を証明する書類の確認は重要である。もし、第三者にオフセットの手続を依頼する場合で、当該書類を入手できていない場合は、この書類を請求し、照合する対応が望ましい。「地球温暖化対策の推進に関する法律(以下、「温対法」という)」にのっとり報告する際には、当該書類が必要となる。
最後に、情報提供について解説する。カーボンオフセットの取組みの透明性および信頼性を高めるため、可能な限り多くの情報を広く一般に公開する対応が望ましい。
カーボンオフセットの取組みに係る信頼性の構築のためには、消費者等への適切な情報提供が不可欠である。消費者等にカーボンオフセットの取組みをよりよく理解してもらうために、地球温暖化対策の喫緊性、GHG排出量を大幅に削減する必要性、主体的な排出削減努力の継続の必要性等、地球温暖化についての基本的な情報の提供が大切である。大前提となるカーボンオフセットのしくみについての説明も、消費者の理解の促進に大いに役立つであろう。
カーボンオフセットの取組みの信頼性と透明性の構築のため、日本においては、2つのしくみが提供されている。
1つは、カーボンオフセットの取組みについて、第三者の審査、検証、確認を経て認証や情報公開が行われる「カーボンオフセット認証ラベル」制度である。もう1つは、第三者による確認や審査は行われない「カーボンオフセット宣言」である。
カーボンオフセット認証ラベル制度は、「カーボンオフセット認証」と、カーボンニュートラルの取組みのための「カーボンニュートラル認証」の2種類に大別される。
「カーボンオフセット認証」では、カーボンオフセットの取組みが、認証基準を充足しているかを認証機関が確認し、認証を付与する。認証を取得しようとする活動内のGHG排出源のすべてをGHG排出量の算定対象とする必要はなく、また削減努力も定性的な評価となっているため、初めてカーボンオフセットの取組みを行う事業者であっても、比較的認証を取得しやすくなっている。
「カーボンニュートラル認証」は、組織におけるカーボンニュートラルの取組みが、認証基準を充足しているかについて、検証機関が審査し、環境省が設置する委員会が認証する。「カーボンニュートラル認証」では、組織単位でのGHG排出量が対象となる。算定対象範囲はスコープ1および2(スコープ3は任意)、削減については基準年を設定し、定量的な評価の実施が必須となっている。
「カーボンオフセット宣言」カーボンオフセットの取組みに係る適切な情報提供により、透明性のある取組みである主張ができるようになるしくみである。認証機関による確認や認証の付与は行われない。クレジットの無効化状況や関連情報を事務局へ提出し、事務局の確認を経て、環境省のホームページ上で当該情報が公開される。
カーボンオフセットとは、排出するGHGを埋め合わせる取組みということだが、埋め合わせを行う手段には、どのようなものがあるのか。
自発的にカーボンオフセットを実施する場合、カーボンオフセットのためにどのクレジット等を利用するかについての制限はない。ただし、カーボンオフセットの目的として、カーボンオフセット認証ラベルを付したい、カーボンオフセット宣言を実施したい、温対法でも報告できる手段を使用したいといった場合には、その制度で指定されたクレジット等を利用しなければならない。
日本国内で広く利用可能で、温対法でも整理されているクレジット等として、J-クレジット、グリーン証書および非化石証書がある。次に、これらについて説明する。
経済産業省、環境省および農林水産省が合同で運営している制度である。省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるGHG排出削減量や、適切な森林管理によるCO2吸収量を国が認証するしくみである。
創出されるJ-クレジットは、1t-CO2単位で管理されている。また、温対法での報告の他、経団連のカーボンニュートラル行動計画のために使用可能である。さらにJ-クレジットのうち再エネクレジットはRE100の目標達成のために利用可能である。年に1、2回、J-クレジット制度事務局によるJ-クレジットの入札が行われ、その入札結果も公表されている。
グリーン電力証書およびグリーン熱証書の2種類がある。民間で運営されているが、温対法でも利用可能となっており、信頼性の高い制度である。
t-CO2単位ではなく、グリーン電力証書はkWh単位、グリーン熱証はMJ単位でシリアル番号が付され、管理されている。グリーンエネルギーCO2削減相当量認証制度のt-CO2単位への変換も可能である。
石油や石炭などの化石燃料を使っていない非化石電源から発電された電気の環境価値を切り離して証書化したものである。
kWh単位で、「FIT非化石証書」、「非FIT非化石証書(再エネ指定)」、「非FIT非化石証書(再エネ指定なし)」の3種類がある。
「FIT非化石証書」は、FIT制度(固定価格買取り制度)により買い取られた再生可能エネルギー由来の証書である。
「非FIT非化石証書(再エネ指定)」は、FITの適用を受けていない再生可能エネルギー由来の証書で、FIT期間が終了した電源による発電、大型の水力発電による発電などがある。
「非FIT非化石証書(再エネ指定なし)」では、前記に加え、原子力発電で発電された電力が含まれる。当初、非化石証書の取扱いは、電力会社のみに許容されていたが、環境ニーズの高まりとともに、電力会社以外であったとしても、一定の手続を経ればJEPX(一般社団法人日本卸電力取引所)の入札に参加できるようになった。
東京証券取引所は、経済産業省より、企業が国際的に通用するクレジットを国内で調達できる市場の創設に関する「カーボン・クレジット市場の技術的実証等事業」の委託を受け、2022年9月22日にカーボン・クレジット試行取引を開始した。試行取引は、2023年1月31日に終了し、実証終了後の市場については、決定次第、公表される。J-クレジットに係る試行取引においては、上場会社や金融機関のみならず一般事業会社や地方自治体関連など183者が参加し、期間内における売買高は、合計で148、933t-CO2であったと公表されている。
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