レジリエントな明日を目指したサーキュラーエコノミーの採用

アジア太平洋地域の変革

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  • 2025-05-21

日本の読者の皆さまへ

アジア太平洋地域は、世界の製造拠点かつ急成長する経済圏として、全世界の製造業生産高と炭素排出量の半分近くを占めているため、経済成長による環境への影響も大きく、長期的なサステナビリティと豊かさの両立が喫緊の課題です。本レポートでは、そのような状況のアジア太平洋地域において、サーキュラーエコノミーの推進がサステナビリティと経済成長の双方に大きな影響を生み出すことを示しています。具体的には同地域のGDPを3,400億米ドル押し上げ(純増加率1.1%)、正味排出量 を7.2%削減できる可能性があります。日本企業は同地域との経済・社会的なつながりが強くあることから、環境・社会インパクトを生み出すサーキュラーエコノミーへの移行と企業価値向上が急務です。本レポートが、日本企業の取り組みの一助になれば幸いです。

サーキュラーエコノミーに関するPwCの調査の主要結果

  • サーキュラーエコノミーはアジア太平洋地域のGDPを3,400億米ドル押し上げ(純増加率1.1%)、正味排出量を7.2%削減できる可能性があります。
  • トリプルボトムラインへの影響:アジア太平洋地域のサーキュラーエコノミーモデルへの移行は、経済、雇用、環境にメリットをもたらします。
  • セクター  (業種)への影響:アジア太平洋地域経済の33%がサーキュラーエコノミーへの移行により、プラスとマイナスの両面で大きな影響を受ける可能性があります。
  • サーキュラーエコノミーシナリオにおいて成長が見込まれる上位セクターは、メンテナンス・リペア・オペレーション(MRO)、リサイクル、建設です。
  • サーキュラーエコノミーへの移行によって混乱が生じるセクターは、採掘・砕石、石油化学・非金属鉱物、金属・機器製造です。 

企業はどのようにサーキュラーエコノミーに移行し、企業価値を実現すればよいのでしょうか?

レジリエントな明日を目指したサーキュラーエコノミーの採用:アジア太平洋地域の変革

サーキュラーエコノミー:アジア太平洋地域における地球のトリプルクライシスに対処するために必要な変革

アジア太平洋地域は、世界の製造拠点かつ急成長する経済圏として、全世界の製造業生産高と炭素排出量の半分近くを占めています。しかし、気候変動、環境汚染、生物多様性の喪失による深刻な脅威に直面し、長期的なサステナビリティと繁栄が危機に晒されています。

図表1:地球のトリプルクライシス

気候変動 環境汚染/廃棄物 生物多様性の喪失
  • 今世紀の気温は、気候変動対策に関する誓約から2.5~2.9°Cの上昇が見込まれており、パリ協定の上限である1.5°Cの2倍近くになります1
  • 地球温暖化を産業革命前の水準から1.5°Cに抑えるためには、世界は現在の脱炭素化のスピードを20倍に加速させなければなりません2
  • エネルギー消費に起因するアジア太平洋地域の炭素排出量は、2023年に4.7%増加しました。これは世界の平均1.6%増を大幅に上回っています3

  • 都市の固形廃棄物が2023~2050年に81%増加すると予測されていることから、全世界の年間廃棄物管理コストは6,403億米ドルと、ほぼ倍増することになります4

  • アジア太平洋地域の廃棄物の年間発生量は、2016~2050年に71%増加すると予測されています5

  • アジアの生物多様性は1970~2016年に45%減少しています6

  • アジア太平洋地域の経済価値の53%は、自然にある程度または大きく依存しているため、財務リスクをもたらしています(AIGCC・PwC「Nature at a tipping point」)。

企業および政府は、厳しさを増す環境の中でレジリエンスを強化し、競争力を維持し、成長を刺激するために、戦略を見直すことが急務となっています。PwCの「第27回世界CEO意識調査(アジア太平洋地域分析版)」によると、アジア太平洋地域のCEOの63%が自社の長期的な成長能力に確信が持てないと回答しています。

本報告書は、サーキュラーエコノミーがアジア太平洋地域の経済、産業、排出量に及ぼし得る影響について調査したものです。また、5つのサーキュラービジネスモデルに関する企業向けガイドを、サーキュラリティの促進を通じたレジリエンスの強化および企業価値の持続的向上のための実行可能なステップと併せて紹介します。

サーキュラーエコノミーが経済、排出量、雇用に与える影響

PwCのサーキュラーエコノミーシナリオモデルは、サーキュラーエコノミーがアジア太平洋地域に及ぼす可能性のある影響について評価し、同地域の経済や雇用、環境に大きなメリットをもたらすことを明らかにしています。サーキュラーエコノミーが現時点で完全に実施されている場合のシナリオをベースラインと比較した結果*、以下の点が明らかになりました。

  • GDPは3,396億米ドルの純増(1.1%)
  • 雇用は新規雇用創出により1,500万人の純増(1.0%)
  • 現時点で実施されている場合、正味排出量は7.2%削減

国連環境計画(UNEP)の2050年までの予測によると、サーキュラリティがもたらす正味排出量は、ベースラインの水準より19%削減されると見ています。

* 提示している調査結果は、サーキュラーエコノミーが現時点で適用されていると想定した場合の潜在的な影響のスナップショットであり、1年間の結果を反映したものです。モデリングに際しては、アジア太平洋地域の主要14の国・地域の2022年の経済データを基に、投入原材料に変更を適用してサーキュラーエコノミーシナリオモデルを作成しています。このシナリオの実現に向けた時間軸を明記していないのは、サーキュラーエコノミーへの移行のスピードがセクターによって異なり、正確な期限を予測することが困難なためです。

図表2:アジア太平洋地域のサーキュラーエコノミーに関する調査結果概要―ベースライン対サーキュラーエコノミーシナリオ

  ベースライン サーキュラーエコノミーシナリオ 純増減 純増減率
GDP(10億米ドル) 29,568 29,907  340  1.1% 
FTE(フルタイム当量)(100万人) 1,449  1,464  15  1.0% 
排出量(Mt CO2e) 23,602  21,898  -1,704  -7.2% 

※Mt=メガトン(100万トン)
出所:PwC分析

サーキュラーエコノミーセクターの相互依存性

サーキュラーエコノミーのメリットは各セクターに均等に配分されるわけではなく、機会やリスクを伴います。サーキュラーエコノミーへの移行は、アジア太平洋地域の経済の3分の1以上に大きな影響を与える可能性があり、経済活動が採掘・採石セクターおよび製造セクターから、メンテナンス・リペア・オペレーション(MRO)セクターおよびリサイクルセクターに大きく移行し、建設セクターに波及効果が広がることを示唆しています。一方、サービスセクターや農業セクターなどのセクターに対しては、全般的にさほど影響は及びません。

図表3:サーキュラーエコノミーがアジア太平洋地域のGDP、雇用、二酸化炭素排出量に与える影響

サーキュラーエコノミーで最も高い成長力が見込めるのは、MRO、リサイクル、建設の各セクターです。

  • MROセクター:リユース、リペア、リファービッシュ、転用がリサイクルを上回る勢いで成長することにより、GDPはベースラインの13倍の拡大が見込まれます。
  • リサイクルセクター:製造に使用する原材料をバージンからリサイクルに変える動きに後押しされ、GDPはベースラインの5倍に拡大します。
  • 建設セクター:MROおよびリサイクル向けインフラの拡大に後押しされ、GDPは21%の拡大が見込まれます。

MROセクターおよびリサイクルセクターの成長に伴い排出量が増加しますが、両セクターの炭素強度が製造セクターよりも50~70%低いことに変わりはなく、建設セクターの排出は廃棄物の削減や原材料のリユースにより最小限の増加にとどまります。なお、サーキュラーエコノミーモデリングは再生可能エネルギーへの移行を加味していないため、再生可能エネルギーの導入が進めば、排出量の増加はさらに抑えられる可能性があります。

アジア太平洋地域のベースライン炭素排出量の40%近くを占め、サーキュラーエコノミーへの移行によって混乱が生じるセクターは、大幅な排出削減を示しています。

  • 採掘・採石:26%削減(172 Mt CO2e)
  • 石油化学・非金属鉱物(PC&NM):23%削減(577 Mt CO2e)
  • 金属・機器製造:21%削減(1,085 Mt CO2e)

上記のセクターは、リニアエコノミーの下での製造・資源採取活動では、GDPと雇用のいずれも大幅に減少することも予測されています。

  • 採掘・採石:GDPは25%、雇用は52%の減少
  • 石油化学・非金属鉱物(PC&NM):GDPは22%、雇用は44%の減少
  • 金属・機器製造:GDPは11%、雇用は33%の減少

こうした影響を緩和するために上記セクターができることは、MROおよびリサイクルの活動をそれらのコアビジネスモデルに統合し、脱炭素化を支援し、新たな拡大機会の提供を検討することです。こうしたことはすでに実体経済の中で見られています。したがって、PwCのモデリングで示したMROおよびリサイクルの成長の一部は、既存の製造/資源採取セクター内で起きることが予測されます。

サーキュラーエコノミーがアジア太平洋地域の国・地域に与える影響

PwCのサーキュラーエコノミーシナリオモデルの結果から、アジア太平洋地域の各国・地域の経済構成に基づき、サーキュラーエコノミーへの移行がGDPに与える影響度(大きい/中程度/小さい)を明らかにしました。

図表4:サーキュラーエコノミーがアジア太平洋地域の国・地域に与える経済的影響

5つのサーキュラービジネスモデル

サーキュラーエコノミーを導入するためには価値の獲得、創造、実現について見直す必要があります。この5つのサーキュラービジネスモデルは、より大きなサステナビリティに貢献すると同時に、企業が収益モデルを変革し、競争力を強化し、イノベーションを推進する機会をもたらします。ただし、導入はセクターの関連性、影響、実行可能性によります。

5つのサーキュラービジネスモデルへの移行

サーキュラー型サプライ 企業は再生可能原料やリサイクル原料、生分解性原料を投入資源として使用し、限りある資源への依存を低減し、廃棄物を最小限に抑えます。
資源のリカバリー 企業は廃棄物の流れを特定し、原材料をリカバリー・リユースする方法を見いだし、廃棄物を同一または別のプロセスの有益な投入資源に転換します。
製品寿命の延長 企業は、耐久性があり、リペアとアップグレードが可能な製品を設計し、耐用年数を延ばし、新たな生産の必要性を低減します。
シェアリング シェアリングエコノミーは所有よりもアクセスを重視し、多くのユーザーが製品やサービスへのアクセスを共有します。これにより、各個人が製品を所有する必要性が低減し、全般的な生産と資源利用が削減されることになります。
製品のサービス化(PaaS) 企業が製品の所有権を保持し、サービスとして提供します。顧客は所有ではなく利用に対して料金を支払います(リース契約やサブスクリプションモデルなど)。これにより、製品はリペアやリファービッシュ、リサイクルのために企業に戻されることになるため、製品のライフサイクルが延び、廃棄物は削減されます。

出所:PwC分析

サーキュラーエコノミーの課題と実現要素

サーキュラー型への移行の課題

  1. 考え方と認識の変革
    サーキュラーエコノミーへ移行するためには、経営幹部から消費者やサプライヤーに至るまであらゆる階層で考え方を変革しなければなりません。そのためには、廃棄物管理にとどまらない幅広い視野が必要となり、企業や政府は、規制をはじめ、税務上の取り扱いや規格、サーキュラリティ基準について理解しなければなりません。
  2. 規模の拡大
    サーキュラーエコノミーの規制は世界で最も急速に発展しているサステナビリティ規制の1つですが、全世界のサーキュラリティ率は2018年の9.1%から2023年には7.2%に低下しました7。この低下は、意識の向上をはじめ、需要の拡大・創出、サーキュラーモデル実施の能力向上になお課題があることを浮き彫りにしています。
  3. 経済的・労働的移転対公正な移行
    サーキュラーエコノミーへの移行は、産業や労働市場に大きな影響を与える大規模な経済的変化です。この移行が適切に管理されなければ、経済セクターや中小企業、労働力の移転・移動につながる可能性があります。特にアジア太平洋地域は、公正な移行を実現するためにインフォーマルセクターと一緒に取り組む必要もあります。
  4. サーキュラー型原材料のコスト
    需要と供給の力学や市場の変動、小さいスケールメリットなどの要因は、リサイクル原材料のコストを押し上げる可能性があります。サーキュラーエコノミーの下での初期の生産コストは高くなるかもしれませんが、中長期的にはコスト節約の大きな機会となる可能性があります。

サーキュラー型への移行の実現要素

  1. 意識とコミュニケーションの向上
    サーキュラーエコノミーがもたらす影響と価値に関して、意識の向上を図り、経営陣をはじめ消費者、サプライヤー、政策当局、投資家などの主要ステークホルダーを啓発することが極めて重要です。彼らの同意を得ることは、継続的なエンゲージメントとフィードバックとともに、プロセスを改善し、サーキュラーエコノミーの製品・サービスと将来の市場ニーズの整合性を図るために不可欠です。
  2. 規格、インセンティブ、サステナブルファイナンス
    成熟したサーキュラーエコノミーに移行するにはエコシステムを完全に転換しなければならず、新しいサーキュラーエコノミービジネスモデルの導入を促進するための共通規格、政策支援、サステナブルファイナンスが必要になります。組織は、政策当局や金融機関とともに、これらの枠組みを設定し、移行の成功に必要な支援を提供する上で重要な役割を担っています。
  3. テクノロジーとデータの設計および利用
    サーキュラーエコノミーの原則に基づく製品を設計するためには、資源のライフサイクルを最大化するサーキュラー思考が必要です。テクノロジー、特にAIは、原材料のイノベーションを推進し、設計・メンテナンス・リサイクルプロセスを自動化し、より適切な需給マッチングを介して市場効率を向上させることにより、サーキュラリティを強化します。
  4. 連携、エコシステム思考、統合
    成熟したサーキュラーエコノミーへの移行を成功させるためには、エコシステム思考と統合を取り入れた連携アプローチが必要です。そのため、組織内や組織全体の複雑な相互依存関係を理解することが、課題と機会を特定する上で最も重要になります。部門間の連携にはじまり、スタートアップ企業やテクノロジー企業との連携、サプライヤーや政策当局、金融機関とのパートナーシップを介した連携が求められます。この統合型アプローチはバリューチェーン全体の取り組みの整合性を図るもので、効果的にリスクを緩和するとともに、価値の獲得と創造を実現します。資源を調整し、イノベーションを促すことで、ステークホルダーは個々の成功と共通の成功を推進でき、エコシステム全体に継続的な価値を創造します。
  5. 能力開発と公正な移行の支援
    サーキュラーエコノミーへの移行がもたらす影響は、セクターや雇用によってばらつきがありますが、資源採取セクターや製造セクターで特に大きいと思われます。そこで混乱を最小限に抑えるためには、労働者(インフォーマル労働者を含む)や零細・中小企業に必要なスキルや資源を提供することが重要になります。政府、産業、地域社会が連携して、こうした弱い立場にある人々を支援することが不可欠となります。

サーキュラーエコノミーへの移行を開始し、加速させるためのアプローチ

今日の企業は、コンプライアンス要件が常に進化する複雑なサステナビリティの状況に直面していますが、その間も常に自社の商業性の維持に努めなければなりません。この両立にさらにサーキュラリティを導入することは、その野心的な性質を踏まえると、圧倒されるように思えるかもしれません。

しかし、段階を追ったアプローチであれば、単なる法令遵守から効率化を実現し、最終的には価値創造へと企業を導くことができます。このアプローチは、取り組みを始めたばかりであるか、取り組みを一部開始しているか、あるいは成熟段階にありながらもイノベーションや環境要求事項の変化に対応する新たな方法を模索しているかに関わらず、企業のさまざまな段階に適応が可能です。

企業によるサーキュラーエコノミーへの移行のアプローチ

サーキュラーエコノミーの道のりの初期

コンプライアンス義務を理解する

現状とベンチマークを評価する

費用対効果分析を検討する

サステナビリティ戦略と統合する

実施計画を策定する

サーキュラーエコノミーの道のりの途上

コンプライアンス義務を理解する

競争力の高い差別化の機会を特定する

製品の変革を高度化する

投資と提携を活性化する

サーキュラーアクションを事業戦略に組み込む

おわりに

地球のトリプルクライシス(気候変動、環境汚染、生物多様性の喪失)が迫りくる中、サーキュラーエコノミーの導入は選択の問題ではなく、必ずなすべき問題です。この移行に拍車をかけているのが、規制措置と資源のレジリエンスに対する懸念です。今こそ、アジア太平洋地域は、未来のために強靭で力強く持続可能な経済を創り出すべく、決然と対処し、自らを変革する時を迎えています。

1 国連環境計画(UNEP)(2023)「Nations must go further than current Paris pledges or face global warming of 2.5-2.9°C

2 PwC「ネットゼロ経済指標2024

3 Energy Institute(2024)「Statistical Review of World Energy

4 UNEP「Global waste management outlook 2024

5 世界銀行(2018)「What a Waste 2.0:A Global Snapshot of Solid Waste Management to 2050

UNEP・国際資源パネル「Global Resources Outlook 2019

7 Circle Economy「Circularity Gap Report 2024」。SDG Knowledge Hub内で引用

レジリエントな明日を目指したサーキュラーエコノミーの採用:アジア太平洋地域の変革

( PDF 7.24MB )

※本コンテンツは、PwCが2024年11月に公開した「Reinventing Asia Pacific」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

主要メンバー

中島 崇文

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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屋敷 信彦

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

甲賀 大吾

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

齊藤 三希子

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

藤冨 真由子

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email

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