
シリーズ「価値創造に向けたサステナビリティデータガバナンスの取り組み」 第2回:統合管理を含めたデータガバナンス/マネジメントの要諦
多様なテーマを抱えるサステナビリティの領域におけるデータガバナンス/マネジメントを推進するにあたり、個別最適に陥りデータの全社的な利活用に至らないことが課題とされています。本コラムでは、組織横断的なデータガバナンスが必要な理由、そしてその推進の要諦を解説します。
アジア太平洋地域は、世界の製造拠点かつ急成長する経済圏として、全世界の製造業生産高と炭素排出量の半分近くを占めているため、経済成長による環境への影響も大きく、長期的なサステナビリティと豊かさの両立が喫緊の課題です。本レポートでは、そのような状況のアジア太平洋地域において、サーキュラーエコノミーの推進がサステナビリティと経済成長の双方に大きな影響を生み出すことを示しています。具体的には同地域のGDPを3,400億米ドル押し上げ(純増加率1.1%)、正味排出量 を7.2%削減できる可能性があります。日本企業は同地域との経済・社会的なつながりが強くあることから、環境・社会インパクトを生み出すサーキュラーエコノミーへの移行と企業価値向上が急務です。本レポートが、日本企業の取り組みの一助になれば幸いです。
企業はどのようにサーキュラーエコノミーに移行し、企業価値を実現すればよいのでしょうか?
アジア太平洋地域は、世界の製造拠点かつ急成長する経済圏として、全世界の製造業生産高と炭素排出量の半分近くを占めています。しかし、気候変動、環境汚染、生物多様性の喪失による深刻な脅威に直面し、長期的なサステナビリティと繁栄が危機に晒されています。
図表1:地球のトリプルクライシス
気候変動 | 環境汚染/廃棄物 | 生物多様性の喪失 |
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企業および政府は、厳しさを増す環境の中でレジリエンスを強化し、競争力を維持し、成長を刺激するために、戦略を見直すことが急務となっています。PwCの「第27回世界CEO意識調査(アジア太平洋地域分析版)」によると、アジア太平洋地域のCEOの63%が自社の長期的な成長能力に確信が持てないと回答しています。
本報告書は、サーキュラーエコノミーがアジア太平洋地域の経済、産業、排出量に及ぼし得る影響について調査したものです。また、5つのサーキュラービジネスモデルに関する企業向けガイドを、サーキュラリティの促進を通じたレジリエンスの強化および企業価値の持続的向上のための実行可能なステップと併せて紹介します。
PwCのサーキュラーエコノミーシナリオモデルは、サーキュラーエコノミーがアジア太平洋地域に及ぼす可能性のある影響について評価し、同地域の経済や雇用、環境に大きなメリットをもたらすことを明らかにしています。サーキュラーエコノミーが現時点で完全に実施されている場合のシナリオをベースラインと比較した結果*、以下の点が明らかになりました。
国連環境計画(UNEP)の2050年までの予測によると、サーキュラリティがもたらす正味排出量は、ベースラインの水準より19%削減されると見ています。
* 提示している調査結果は、サーキュラーエコノミーが現時点で適用されていると想定した場合の潜在的な影響のスナップショットであり、1年間の結果を反映したものです。モデリングに際しては、アジア太平洋地域の主要14の国・地域の2022年の経済データを基に、投入原材料に変更を適用してサーキュラーエコノミーシナリオモデルを作成しています。このシナリオの実現に向けた時間軸を明記していないのは、サーキュラーエコノミーへの移行のスピードがセクターによって異なり、正確な期限を予測することが困難なためです。
図表2:アジア太平洋地域のサーキュラーエコノミーに関する調査結果概要―ベースライン対サーキュラーエコノミーシナリオ
ベースライン | サーキュラーエコノミーシナリオ | 純増減 | 純増減率 | |
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GDP(10億米ドル) | 29,568 | 29,907 | 340 | 1.1% |
FTE(フルタイム当量)(100万人) | 1,449 | 1,464 | 15 | 1.0% |
排出量(Mt CO2e) | 23,602 | 21,898 | -1,704 | -7.2% |
※Mt=メガトン(100万トン)
出所:PwC分析
サーキュラーエコノミーのメリットは各セクターに均等に配分されるわけではなく、機会やリスクを伴います。サーキュラーエコノミーへの移行は、アジア太平洋地域の経済の3分の1以上に大きな影響を与える可能性があり、経済活動が採掘・採石セクターおよび製造セクターから、メンテナンス・リペア・オペレーション(MRO)セクターおよびリサイクルセクターに大きく移行し、建設セクターに波及効果が広がることを示唆しています。一方、サービスセクターや農業セクターなどのセクターに対しては、全般的にさほど影響は及びません。
図表3:サーキュラーエコノミーがアジア太平洋地域のGDP、雇用、二酸化炭素排出量に与える影響
サーキュラーエコノミーで最も高い成長力が見込めるのは、MRO、リサイクル、建設の各セクターです。
MROセクターおよびリサイクルセクターの成長に伴い排出量が増加しますが、両セクターの炭素強度が製造セクターよりも50~70%低いことに変わりはなく、建設セクターの排出は廃棄物の削減や原材料のリユースにより最小限の増加にとどまります。なお、サーキュラーエコノミーモデリングは再生可能エネルギーへの移行を加味していないため、再生可能エネルギーの導入が進めば、排出量の増加はさらに抑えられる可能性があります。
アジア太平洋地域のベースライン炭素排出量の40%近くを占め、サーキュラーエコノミーへの移行によって混乱が生じるセクターは、大幅な排出削減を示しています。
上記のセクターは、リニアエコノミーの下での製造・資源採取活動では、GDPと雇用のいずれも大幅に減少することも予測されています。
こうした影響を緩和するために上記セクターができることは、MROおよびリサイクルの活動をそれらのコアビジネスモデルに統合し、脱炭素化を支援し、新たな拡大機会の提供を検討することです。こうしたことはすでに実体経済の中で見られています。したがって、PwCのモデリングで示したMROおよびリサイクルの成長の一部は、既存の製造/資源採取セクター内で起きることが予測されます。
PwCのサーキュラーエコノミーシナリオモデルの結果から、アジア太平洋地域の各国・地域の経済構成に基づき、サーキュラーエコノミーへの移行がGDPに与える影響度(大きい/中程度/小さい)を明らかにしました。
図表4:サーキュラーエコノミーがアジア太平洋地域の国・地域に与える経済的影響
サーキュラーエコノミーを導入するためには価値の獲得、創造、実現について見直す必要があります。この5つのサーキュラービジネスモデルは、より大きなサステナビリティに貢献すると同時に、企業が収益モデルを変革し、競争力を強化し、イノベーションを推進する機会をもたらします。ただし、導入はセクターの関連性、影響、実行可能性によります。
サーキュラー型サプライ | 企業は再生可能原料やリサイクル原料、生分解性原料を投入資源として使用し、限りある資源への依存を低減し、廃棄物を最小限に抑えます。 |
資源のリカバリー | 企業は廃棄物の流れを特定し、原材料をリカバリー・リユースする方法を見いだし、廃棄物を同一または別のプロセスの有益な投入資源に転換します。 |
製品寿命の延長 | 企業は、耐久性があり、リペアとアップグレードが可能な製品を設計し、耐用年数を延ばし、新たな生産の必要性を低減します。 |
シェアリング | シェアリングエコノミーは所有よりもアクセスを重視し、多くのユーザーが製品やサービスへのアクセスを共有します。これにより、各個人が製品を所有する必要性が低減し、全般的な生産と資源利用が削減されることになります。 |
製品のサービス化(PaaS) | 企業が製品の所有権を保持し、サービスとして提供します。顧客は所有ではなく利用に対して料金を支払います(リース契約やサブスクリプションモデルなど)。これにより、製品はリペアやリファービッシュ、リサイクルのために企業に戻されることになるため、製品のライフサイクルが延び、廃棄物は削減されます。 |
出所:PwC分析
今日の企業は、コンプライアンス要件が常に進化する複雑なサステナビリティの状況に直面していますが、その間も常に自社の商業性の維持に努めなければなりません。この両立にさらにサーキュラリティを導入することは、その野心的な性質を踏まえると、圧倒されるように思えるかもしれません。
しかし、段階を追ったアプローチであれば、単なる法令遵守から効率化を実現し、最終的には価値創造へと企業を導くことができます。このアプローチは、取り組みを始めたばかりであるか、取り組みを一部開始しているか、あるいは成熟段階にありながらもイノベーションや環境要求事項の変化に対応する新たな方法を模索しているかに関わらず、企業のさまざまな段階に適応が可能です。
コンプライアンス義務を理解する
現状とベンチマークを評価する
費用対効果分析を検討する
サステナビリティ戦略と統合する
実施計画を策定する
コンプライアンス義務を理解する
競争力の高い差別化の機会を特定する
製品の変革を高度化する
投資と提携を活性化する
サーキュラーアクションを事業戦略に組み込む
地球のトリプルクライシス(気候変動、環境汚染、生物多様性の喪失)が迫りくる中、サーキュラーエコノミーの導入は選択の問題ではなく、必ずなすべき問題です。この移行に拍車をかけているのが、規制措置と資源のレジリエンスに対する懸念です。今こそ、アジア太平洋地域は、未来のために強靭で力強く持続可能な経済を創り出すべく、決然と対処し、自らを変革する時を迎えています。
※本コンテンツは、PwCが2024年11月に公開した「Reinventing Asia Pacific」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
多様なテーマを抱えるサステナビリティの領域におけるデータガバナンス/マネジメントを推進するにあたり、個別最適に陥りデータの全社的な利活用に至らないことが課題とされています。本コラムでは、組織横断的なデータガバナンスが必要な理由、そしてその推進の要諦を解説します。
本レポートでは、サーキュラーエコノミーがアジア太平洋地域の経済、産業、排出量に及ぼし得る影響について調査しました。また、企業の競争力を高める5つのサーキュラービジネスモデルや、移行に向けた課題および実現要素を考察します。
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