
レジリエントな明日を目指したサーキュラーエコノミーの採用 アジア太平洋地域の変革
本レポートでは、サーキュラーエコノミーがアジア太平洋地域の経済、産業、排出量に及ぼし得る影響について調査しました。また、企業の競争力を高める5つのサーキュラービジネスモデルや、移行に向けた課題および実現要素を考察します。
※本稿は、2023年4月20日号(No.1675)に寄稿した記事を転載したものです。
※発行元である株式会社中央経済社の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
脱炭素について、よく「スコープ1」、「スコープ2」、「スコープ3」という言葉が聞かれるが、これらはどのようなものであり、それぞれどのような違いがあるのか。
温室効果ガス(以下、「GHG」という)について、第1回および第2回で説明した。これに関連し、スコープ1、スコープ2およびスコープ3という名称を頻繁に目にする。これは誰が、何のために考え出したのか、以下解説していく。なお、記載については、筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。
GHGの排出量の算定および報告の基準として、世界的に参照されているのがGHGプロトコル(Greenhouse Gas Protocol)である。米国の環境NGO「世界環境経済人協議会」(World BusinessCouncil for Sustainable andDevelopment)とスイスに本部を置く「世界資源研究所」(WorldResource Institute)を中心に集まった世界の諸事業者、NGO、政府機関など多数の利害関係者の共同活動であるGHGプロトコルイニシアチブが1998年に発足した。このイニシアチブの使命は、国際的に認められるGHG排出量算定と報告の基準を開発し、その広範な採用を促進することにあり、開発されたのがGHGプロトコルである。
GHGプロトコルは、ガイドラインとして、また、GHG排出量の算定および報告に関する貴重な知識源としての役割を果たしている。このGHGプロトコルで、GHG排出の形態に応じ、その排出量算定対象グループ化の考え方、すなわちスコープ1、スコープ2およびスコープ3が導入されている。
スコー1とは、事業者自らが、燃料等を使用し直接GHGを排出する範囲である。
スコープ2とは、購入する電力、熱の使用などに伴って間接的にGHGを排出する範囲である。照明やパソコンなどで電力を使用したとしても、電力を使用している照明やパソコンからは直接CO2は排出されない。その代わりに使用する電力を生み出す(他社の)発電所でCO2が排出されている。このような関係性にあるエネルギーをここでは間接的と表現している。
また、企業は、企業単体で活動できるものではない。会社の製品やサービスを提供する場合、そのサプライチェーンを俯瞰すると、原材料調達、部品の製造、製品等の輸送に伴う物流、会社の製品・サービスの使用、廃棄などのカテゴリーに整理できる。このカテゴリーの各段階において、企業自らが排出するGHG(スコープ1および2)以外の事業活動に関係するあらゆる排出量を合計した範囲がスコープ3である。算式で表せば算式1のとおりである。これらの概要と全体の関係を表したのが、次頁図表1である。
スコープ3によるGHG排出量の開示情報に含まれる企業の範囲は、財務報告における連結財務諸表を作成する場合に含まれる企業の範囲とは異なる。企業の支配および影響を超えた、取引先等で構成されるサプライチェーンによる開示を要求される。サプライチェーンとは、原材料、部品の調達から製品の販売に至るまでの一連の流れを指している。この開示では、自社だけでなく、取引先などの他社を含み、自社を中心に調達側を上流、販売側を下流として捉える。
財務会計においては、支配従属関係にある2社以上からなる企業集団を1つの組織とみなし、親会社がその企業集団の財政状態や経営成績およびキャッシュ・フローを報告するために連結財務諸諸表が作成される。
この連結財務諸表の作成のための情報収集の範囲とサプライチェーンによるGHGスコープ別開示のための情報収集の範囲とは異なる。この差異は、GHG排出量の開示など開示における実務において、いくつかの点で影響を与える。情報収集範囲の拡大により報告の対象となる範囲に加え、報告の時期についても影響があると考えられる。また、独立した第三者による保証についても影響を与えると考えられる。
第2回で、GHG排出量算定の基本的な考え方について説明したが、その説明はスコープ1および2の算定と同様であるため、今回はスコープ3におけるGHG排出量の特徴を説明する。スコープ3もスコープ1および2と同様に活動量に何かを乗じて算定するという基本的な考え方は変わらない(算式2参照)。
活動量は、スコープ1および2と同じで、たとえば各エネルギーの使用量、貨物の輸送量、廃棄物の処理量、各種取引金額などが該当する。
排出原単位も同様である。スコープ3では、15のカテゴリーについて、算定を行う。多くの場合、サプライチェーン排出量算定に使用可能な排出原単位が掲載された排出原単位データベースを使用する。これらのデータベースでは、統計的な平均値・代表値が使用されており、算定の精度で考えるとスコープ1および2のほうが高い。
たとえば、従業員の通勤に伴って排出するGHGは、「従業員数」と「従業員当たりの排出原単位」を乗じて算定するなどである。もちろん、それぞれの従業員の通勤経路、出社日数などから、ある程度正確な算定もできるが、その算定のために作業量が大幅に増加する可能性がある。毎年もしくは定期的に算定をアップデートする手続を考慮すると、はじめから高い精度で算定を行うのではなく、まずはデータベースの排出原単位を使用するなどにより、効率的に各カテゴリーの排出量を算定するところから始めるとよい。
その結果を踏まえ、排出量の大きいカテゴリーに注目し、算定精度の高度化、削減に向けた取組みを目指す対応が望ましい。算定の高度化にあたっては、直接計測する方法や取引先から排出量算定結果を入手する方法などもあるが、取引先など資本関係のない対象からデータ提供を受けるための協力体制構築など、さまざまな準備が必要となる。
スコープ1 | 直接排出 | 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス) | |
スコープ2 | 間接排出 | 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出 | |
スコープ3 | 1 | 購入した製品・サービス | 原材料の調達、パッケージングの外部委託、消耗品の調達 |
2 | 資本財 | 生産設備の増設(複数年にわたり建設・製造されている場合には、建設・製造が終了した最終年に計上) | |
3 | スコープ1,2に含まれない 燃料及びエネルギー活動 |
調達している燃料の上流工程(採掘、精製等) 調達している電力の上流工程(発電に使用する燃料の採掘、精製等) |
|
4 | 輸送、配送(上流) | 調達物流、横持物流、出荷物流(自社が荷主) | |
5 | 事業から出る廃棄物 | 廃棄物(有価のものは除く)の自社以外での輸送※1、処理 | |
6 | 出張 | 従業員の出張 | |
7 | 雇用者の通勤 | 従業員の通勤 | |
8 | リース資産(上流) | 自社が賃借しているリース資産の稼働 (算定・報告・公表制度では、スコープ1,2に計上するため、該当なしのケースが大半) |
|
9 | 輸送、配送(下流) | 出荷輸送(自社が荷主の輸送以降)、倉庫での保管、小売店での販売 | |
10 | 販売した製品の加工 | 事業者による中間製品の加工 | |
11 | 販売した製品の使用 | 使用者による製品の使用 | |
12 | 販売した製品の廃棄 | 使用者による製品の廃棄時の輸送※2、処理 | |
13 | リース資産(下流) | 自社が賃貸事業者として所有し、他者に賃貸しているリース資産の稼働 | |
14 | フランチャイズ | 自社が主宰するフランチャイズの加盟者のスコープ1,2に該当する活動 | |
15 | 投資 | 株式投資、債券投資、プロジェクトファイナンスなどの運用 |
※1 スコープ3基準および基本ガイドラインでは、輸送を任意算定対象。
※2 スコープ3基準および基本ガイドラインでは、輸送を算定対象外としているが、算定しても良い。
(出所)環境省・経済産業省「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン(Ver.2.4)」をもとに筆者作成
環境負荷を評価する手法として、「ライフ・サイクル・アセスメント」というものがあると聞いた。これはどのようなものなのか。
ライフ・サイクル・アセスメント(以下、「LCA」という)は、製品(またはサービス)の原材料採取・調達、製造、加工、組立、流通、製品使用、そして廃棄またはリサイクルに至るライフサイクル全体における環境負荷を評価する手法である。これまで気候変動対策の要因としてGHG排出量について論じてきたが、LCAで評価する影響領域はオゾン層破壊、酸性化、大気汚染なども含まれ、気候変動に限定されない。
LCAにより、ライフサイクルの各段階におけるインプット(原材料、エネルギーの投入量等)、アウトプット(排水、排気、廃棄物等)および環境影響・負荷を把握し、整理する。整理する表をインベントリといい、ライフサイクル全体のインベントリがライフ・サイクル・インベントリ(以下、「LCI」という)である。この各段階における環境負荷などが定量化されたインベントリの分析により、その製品やサービスにおける環境負荷の発生源、改善ポイントを明確にできる。また、製品やサービス同士の比較分析などにも活用が可能である。
従来の環境マネジメントは、工場などの拠点を単位とする手法が中心だった。現在は、製品またはサービスごとの、資源採取から廃棄またはリサイクルまでを考慮する対応も求められている。近年、欧州をはじめ、LCAに取り組む姿勢が強くなっている。その背景には、環境政策や企業の競争優位性を高めようとする産業政策の存在が挙げられる。これに加え、エネルギーや資源の域外依存からの脱却という観点もあると考えられる。
LCAの基本的な枠組みと段階は、国際標準化機構(ISO)の定めるISO14040シリーズにより設定されている。目的と調査範囲の設定、インベントリ分析、影響評価および結果の解釈により実施される。
アセスメントの実施目的を明らかにする。目的に従い、製品のライフサイクルの範囲や評価項目、制約を十分に検討して絞り込みを行い、調査結果の公開範囲、用途を明らかにする。
目的や製品のライフサイクルに基づき、各段階のインプット(投入される資源やエネルギー量)およびアウトプット(廃棄物や環境負荷物質量など)に関するデータを収集、検証、集計、LCIを作成し、インベントリ分析を実施する。
インベントリ分析のデータと特定の環境負荷や潜在影響ごとに、多数の評価基準や手段、重み付けをして関連づけ、統合評価する。インベントリ分析のデータを特定の影響と正確に関連づける方法が確立されていない場合、アセスメントに主観的要素が入ってしまう可能性がある。したがって、算出方法やその目的、透明性の確保に十分考慮する必要がある。
インベントリ分析や影響評価の結果を基礎に、アセスメントの目的に照らして、単独または総合的に評価を行う。製品を比較する評価で、結果を外部に公表するような場合においては、その分野の専門家などによる独立した第三者による検証を付す対応が望まれる。結果の解釈には、自社に有利な事例のみを取り入れるのではなく、重大な影響の理解により、初めて製品の改善、環境負荷の低減に向けた改善が可能となる。
このプロセスは、製品およびサービスの導入段階で一度だけ行われるのではなく、図表2のとおり継続して、定期的にアップデートが行われる。結果の解釈にもよるが、サプライチェーンの変更まで踏み込む必要性が生じる可能性もある。
製品およびサービスのライフサイクルを基礎とする評価は、期間損益の算出を目的の1つとする財務会計とは趣が異なる。どちらかといえば、管理会計の分野に近い特徴があるように考えられる。各企業において、担当する部門は異なると思うが、製品およびサービスの企画、収益性の分析および開発、ならびに製品およびサービスの継続に関する収益性の分析管理が行われているであろう。LCAにより環境影響が評価されるとともにリスクも顕在化する。収益性の分析へLCAの評価結果を組み込んでいく対応が広がる可能性があると考えている。管理会計を環境アセスメントとどのよう連携させるかが重要になってくるだろう。
LCAのうち、GHG排出量に着目した手法がカーボンフットプリント(以下、「CFP」という)である。すべての商品およびサービスは、その原材料の調達から捨てられるまでの間に多くのエネルギーを使用する。そのエネルギーは、現時点において、すべてが再生可能エネルギーではなく、主に石油や石炭、天然ガスなど化石燃料から得られ、地球温暖化の原因となるGHGを大気中に排出する。CFPとは、商品およびサービスのライフサイクルの各過程で排出された「GHGの量」をCO2換算し、商品およびサービスにおいて表示するしくみである。カーボンラベリングまたは二酸化炭素(CO2)の可視化や見える化といった呼び方もある(図表3)。
欧米では「個人や団体がGHG出所を把握する」という概念で使われているが、日本では、もともとの意味で使われることは少なく、GHG排出量を商品に表示する制度と解釈されている。
LCAは、企業内の環境評価手法ではあるものの、エコリーフなどの環境ラベルプログラムで商品PRを兼ねて開示するケースがある。CFPでは、CFPプログラムでGHG排出量をCO2に換算して商品に表示するケースの他、取引先から開示を求められるケースも増加している。
脱炭素に向けた流れは、すでに生産地や市場、取引先の選定にも影響を及ぼし始めている。今後は、輸入品のCO2排出量に応じた炭素価格を支払う「国境炭素税」についても検討が行われるなど、CFPはビジネスにも大きな影響をもたらす可能性がある。
本レポートでは、サーキュラーエコノミーがアジア太平洋地域の経済、産業、排出量に及ぼし得る影響について調査しました。また、企業の競争力を高める5つのサーキュラービジネスモデルや、移行に向けた課題および実現要素を考察します。
化学産業の脱化石化は、世界的なネットゼロを実現する上で最も重要な要素の1つといえます。本レポートでは、基礎化学物質の脱化石化に向けた具体的な道筋を示し、予想されるCO2排出削減効果や必要な投資について説明します。
国内外でショッピングモール事業を展開するイオンモールで代表取締役社長を務める大野惠司氏と、サステナビリティ・トランスフォーメーション (SX)を通じた社会的インパクトの創出に取り組むPwCコンサルティングのパートナー屋敷信彦が、サステナビリティ経営をどのように実現するかについて語り合いました。
2024年9月23日に発足した、不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosures:TISFD)の概要について説明します。
脱炭素の取り組みが待ったなしの状況の中、経理部門にも関連する知識を備えることが求められています。本連載では全8回にわたり、脱炭素の基礎的な事項および経理部門に関連する事項をQ&A形式で解説します。(旬刊 経理情報 2023年4月~7月号)