
メッシュアーキテクチャが切り開く新たなデータアナリティクス~第7回 柔軟な対応力を育む人材教育の重要性
メッシュアーキテクチャの導入について、人材育成に焦点を当て、昨今のビジネス環境で求められるデータ利活用人材の役割と教育方法について深掘りします。
2022-11-14
これまでメッシュアーキテクチャの考え方やポイントを5回にわたり説明してきました。今一度振りかえってみますが、メッシュアーキテクチャは、データ品質に対する責任を全社横断組織のような「中央組織」と各事業部門といった「ドメイン」に分散させることで、データ利活用におけるドメインとしてのアジリティを確保しつつ、ドメインが作成したデータやアナリティクスを他ドメインがメッシュのように相互に利用できるようにするものです。そのためには、ドメインと中央組織の役割を踏まえ、企業全体でデータ利活用に対する責任を分担する文化を醸成する必要があります。
これを実現する連邦型組織体系のイメージ図を図表1に示します。
図表1:連邦型データマネジメント組織体系のイメージ図
組織体系は大きく次の3つの要素から成り立つことになります。
①中央組織:
企業全体の全体最適化を取り仕切り、データガバナンスサービスを提供するCoE組織。企業全体のデータマネジメント・データガバナンス戦略を司るCDO(Chief Data Officer)とその配下の実行・運営組織であるデータマネジメントオフィス(DMO/Data Management Office)で構成される。
②ドメイン別データマネジメント組織:
データの管理・運用の主体組織であり、自身の領域のデータプロダクトに責任を持つ組織チーム。これまでのデータオーナー(総合責任者)とデータスチュワード(データとメタデータの品質・利用に関する実務責任者)に加え、多種多用なデータプロダクトをビジネスに連動して企画・開発していく「データプロダクトマネージャー」とデータプロダクトの開発から管理・運営していく実行者である「データプロダクトエンジニア」の設置が必要になる。
③企業全体の意思決定・調整組織:
上記2つの実行組織を取りまとめ、企業全体としての運営を担う役割を持つ組織体で、通常は会議体として実現。中央組織と各ドメイン組織が並列で意思決定・調整できる構造が連邦型の特徴となる。
これらの組織要素が連携してデータマネジメントを運営し、企業文化として自律的かつ協調連携した推進を実現していくことになります。
中央組織は、企業全体のデータマネジメント・データガバナンス戦略を司るCDO(Chief Data Officer)とその配下の実行・運営組織であるデータマネジメントオフィス(DMO/Data Management Office)で構成されます。第5回まででも言及していますが、中央組織とドメイン組織の役割分担の主要内容を改めて示すと、図表2のようになります。
図表2:中央組織とドメイン組織の役割分担
メッシュアーキテクチャ推進の難しさに「誰が主管となるのか」という点があげられます。「データが大事」「データは経営資源のひとつ」と長く叫ばれているものの、その推進主管となるCDOは日本であまり普及していない事実があります。これまでは画一的な進め方や総花的DXが進められていましたが、今求められているのは目的達成に向け、小回りを効かせつつ、持続的に発展可能な推進です。個々のデータマネジメントをドメインに委ねるとしても、企業全体として実現していくためには、今改めてCDOの設置が必要になっています。世界的に見てもCDO職は急激に増加しており、影響力のある役員クラスのポジションとして認知されつつあります。
CDOが担う役割は複数ありますが、大きく着目されているポイントは次のようなものです。
データ戦略を策定し、より広範な企業戦略およびビジネス目標をどのようにサポートするかを定義します。ビジネスインテリジェンス、分析、機械学習など、企業全体の組織・機能を横断した戦略的データイニシアチブを推進またはサポートします。
会社全体のデータマネジメント・データガバナンスに責任を負い、その状況をモニタリングし、データの原則、ポリシーと手順、規制や法令に対するコンプライアンスもマネジメントします。
企業全体で、より広く、より深いデータに関連する能力の開発を目的とした従業員のスキルアッププログラムをマネジメントします。
これまでの過度な集中化を避ける必要はありますが、このような集中化の利点を引き続き得るため、企業全体の視野で最適化の道筋を考えていくのは、やはり中央組織の長であるCDOになります。
また、CDOの社内向け業務に加えて、対外的な業務として次の点も着目されています。
自社の専有データの最終管理者であり、データの取得、共有、および商品化のためのエコシステムパートナーとのアライアンスマネージャーとして立ち回って行くことが求められています。
企業アジェンダとしてデータがより注目されるようになっており、データからの価値創出や価値の保護に対する株主の期待が高まっています。 このため、世界のより多くの企業で、説明責任を担うのに効果的なCDOを設置する需要が高まると見られます。
大企業では、各事業領域にもCDOを設置する場合があります。事業ごとに大きくビジネス環境(ステークホルダー、サービス、商取引状況、それらに依存する事業データ、等々)が異なり、それゆえにデータマネジメント戦略が異なるからです。このような場合は図表1にある「データマネジメント評議会」ではエンタープライズCDOと各事業CDOとで各種の意思決定や調整がなされることになります。
各ドメインがデータの管理・運用の主体組織になるために、データに関連する能力を取得・整備していく必要があります。そのためにはこれまでのデータオーナーとデータスチュワードに加え、先に述べた通り、新たにデータプロダクトマネージャーとデータプロダクトエンジニアの設置と育成が重要になってきます。
ドメインの大きさにもよりますが、新たな役割をいきなり各ドメインに配置することは難しいため、事業単位等のドメイングループでの設置・育成から始める必要があります。中央組織からの派遣サポートも初期の選択肢のひとつになります。このような現実策を考えるには、各社のデータ利活用の推進具合(成熟度)を見極めたうえで、適切なステップで拡大していく必要があります。
適切なステップは、一般的には次に示す3段階が考えられます。将来的に組織横断的な推進力を高めるためには、中央組織による基本的な文化の醸成や仕組みの設置を経て、最終的には中央組織とドメイン単位が連携するハイブリッド型への移行を目指して行くことが望まれます。
図表3:データ活用組織の一般的な成長ストーリー
中央組織は、各社のデータ利活用の推進状況、既存組織との兼ね合い、そして企業文化により、どう組成していくのが良いか、丁寧に検討していく必要があります。当社の検討事例に基づく典型的な失敗要因、成功要因から、次のような検討ポイントを意識すると良いでしょう。
メッシュアーキテクチャは、これまでの一元管理/集中管理を撤廃し、完全分散を実現するものとは異なります。個別推進をスピーディーに行えるよう配慮しつつ、いかに全体的なデータ連携と活用推進を両立するかをハイブリットで進める考え方です。連邦型と呼ばれる所以となる高度なガバナンス調整と文化改革が課題になることは変わりません。PwCコンサルティングでは、データマネジメントを切り口にデータ利活用推進の取り組みを行い、企業文化としてデータドリブン化を目指すためのデータトランスフォーメーションを支援しています。これからのあり方の考える上で重要となるメッシュアーキテクチャの導入検討の際は、ぜひ当社にご相談ください。
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