
第3回 ヘルスケア・ライフスタイル分野との協業と推進~徹底した伴走でテレコム産業の未来を切り拓く~
PwCコンサルティングは、テレコム業界内のクライアントを業界横断で支援する専門チームを組織し、事業内容や事業モデルの変革を支援しています。「ヘルスケア・ライフスタイル」領域のプロフェッショナルと共に、テレコムとの掛け合わせが生み出す未来について語りました。
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コロナ禍が終焉しつつあり、医療機器業界に復調の兆しが見える中で、企業のリーダーたちは将来の課題に備え、顧客価値を創造するために、多くの選択を迫られています。
コロナ禍により、10年以上にわたり顧客に対して強固な利益還元を行ってきた医療機器企業は特に大きな影響を受けました。手術件数の減少、サプライチェーンの混乱、大量の離職者、乱高下する資本市場など、さまざまな要因がこれまで堅実だった医療機器業界の弱体化を招きました。
しかし、この状況から立ち直る兆しも見えてきています。
しかし、医療機器業界が回復傾向にあるからといって、まだ安心はできません。
ポジティブな見通しには、投資家の期待の高まりに加えて、新規参入企業やディスラプター(破壊的企業)からの挑戦が伴います。医療機器企業がレジリエンスを高め、持続的な成長を実現するためには、今こそ、コマーシャル戦略、製品開発、サプライチェーン、組織文化、事業開発の5つの主要分野を見直す必要があるでしょう。
医療機器業界の市場環境は大きく変化しています。サービスのカバー範囲は、未病や予防を含めた全てのペイシェントジャーニーを考慮する必要があります。また、医療システムの統合により医療機関の(価格)交渉力が強化され、業界としては技術革新から価格競争の段階へと移りつつあります。このような動向の中では、全体的な戦略を再構築していくことが必要です。
従来の医療機器企業は、特定の疾患の治療にとどまらない未病・予病といった領域を含め、付加価値の高い製品を提供しています。そうした主力事業を拡大するためには、特定の疾患にとどまらない、患者の体験を高める付加価値の高いサービスの提供が効果的です。上記を踏まえれば、患者主体のペイシェントジャーニー全体に影響を与えられる企業へと成長するための戦略を立てることが可能になると考えられます。
例えば、心臓ペースメーカーなどの埋め込み型医療機器を製造販売する医療機器企業は、外科医がより正確に短時間で手術の準備と実行ができるよう、リアルタイムに患者情報を提供するソフトウェアを設計・開発しています。ソフトウェアから連携されたヘルスデータを利用し、患者とその家族に的確かつ積極的なアドバイスを提供することで、OEM(original equipment manufacturer:委託者商標による受託製造)を利用して、サービスの枠を拡大することができます。
商品コストはパンデミックのピーク時に比べて徐々に下がると考えられますが、インフレ、原材料の不足、サプライチェーンの混乱により、製造コストは、パンデミック前に比べ高止まりすることが予想されます。さらに、医療機器業界は在庫レジリエンスを高める必要がありますが、これには高額なコストがかかるとされており、一部を価格転嫁せざるを得ないでしょう。こうした状況下において、医療機器企業は以下について検討すべきではないでしょうか。
パンデミック後、医療システムの購買環境は大きく変化しました。すでに低下していた病院の利益率は、パンデミックとインフレによってさらに圧迫され、医療機器企業はこの現状を考慮しなければなりません。特に固定資産の調達が影響を受ける可能性があります。資金繰りに苦しむ顧客に対しては、消耗品や手術件数のコミットメントを伴うリース契約の延長や、低金利・頭金なしのプランなどの検討も必要です。こうしたサービスの提供は、購買ユーザー・カスタマーとしての病院や医療機関が抱えるキャッシュフローに関する不安と懸念を和らげるだけでなく、市場シェアの確保にも役立つと考えられます。
中長期的な不景気や一時的な好景気など、経済環境は常に変動しますが、新製品の開発力は医療機器企業にとって同業他社との極めて重要な差別化要因となります。そのため、製品開発への先行投資をどのように継続的に担保していくかが課題となります。
医療機器企業の中には、製品開発パイプラインの全体像を把握しきれていないケースがいまだに散見されます。また、全社的な製品販売・上市戦略上の優先事項に基づいた戦略的なリソース配分が確立できていないケースも見受けられます。
既存製品および新規製品の開発ポートフォリオを俯瞰的に見直し、企業の全社戦略・中期経営計画などにおける優先事項との戦略的・業務的な整合性を向上させることが重要です。その結果を踏まえ、社内外のリソース配分を調整することにより、重要な開発プロジェクトを優先的に推進することができます。このような見直しにより戦略との整合性を担保することは、大規模および中規模の医療機器企業では非常に効果的であり、小規模で革新性の高い企業においては不可欠な要素となります。
全社戦略・中期経営計画における優先事項に基づいた製品開発には、開発から上市までの一連のプロセス、上市後あるいは市販後の調査・フォローアップに至るまで、クロスファンクションまたは部門横断的な計画が必要です。ブロックチェーンや分散型ネットワークといった先進的なプラットフォームや、製造委託先との共同開発プロジェクトにおいては、クロスファンクションでの取り組みが特に重要となります。
製品開発と継続的に安定した製品の上市計画を統合することで、業績変動に起因する製品開発・上市が遅延する決定的なリスクを最小化することができます。
製造拠点やサプライチェーンを大幅に見直すような大規模な取り組みを実行する前には、実現可能な部門横断的な取り組みが必要か否かを判断し、既存製品と開発プロセス双方の構成要素を見直す必要があります。例えば、既存製品と開発ポートフォリオを含む全社業務プロセスの柔軟性を高めるためには、マーケットシェアの拡大とイノベーションに充てるリソースを、製品ライフサイクルの複雑性を低減するために再配分する必要があるかもしれません。
2022年後半、FDAは医療機器サイバーセキュリティ基準に関する新たな規制要件*2を設けました。
コロナ禍において需給が急激に変動した事例を踏まえると、サプライチェーンにおけるレジリエンスを確立するためには、広範なリスクを想定したサプライチェーンスキームを確立することが求められる傾向にあります。外部要因が収益に与える影響を抑制しながら、ヘルスケアプロバイダーとして安定的な供給と継続的な収益性を確保するためには、サプライチェーンにおける全体計画や実務・オペレーションのみならず、継続的に付加価値を生み出す製品開発など、中期経営計画における注力分野や自社の強みを見出せる疾病領域や分野への積極的な投資および経営資源の配分といった対策が肝要になると想定しています。
医療機器の製造・生産工程における原材料・部品・パーツ・半製品などの購買プロセスは、多様化するサプライヤースキームの管理を含め、高度化・複雑化が進展する傾向にあり、多くの医療機器企業はサプライヤースキームを含むサプライチェーンの全体像を把握できていません。ここでは、全体像を把握するための方法をいくつかご紹介します。
従来、医療機器企業は自社製品の製造・販売にあたり、特定の材料や外注加工などのサービスを購入する必要があるのか、または自社で製造するのかどうかなど、外注内製の判断を定期的に実施する必要がありました。しかし、世界的に有事が常態化している昨今の状況下においては、従来の生産コストや発注ボリュームといった内製外注の判断基準に加え、自社製品におけるポートフォリオ管理におけるレジリエンスを考慮する必要があります。
自社製品ポートフォリオにおけるレジリエンスと継続的な付加価値の提供を実現するにあたっては、自社の強みを活かせる分野への積極的な投資やオペレーションの成熟度向上といった経営資源の効率的な配分がこれまで以上に求められています。そして実際に、それにより競争上の優位を継続的に確立することに成功している先進企業も数多く存在します。
パンデミックにより、医療機器企業は供給の確保とインフレの影響の軽減に並行して注力せざるを得なくなりました。供給における制約が緩和され、製品価格が安定した今、医療機器企業はリスク管理を継続しつつも、全社的な価値創造に注力することが求められています。AIや機械学習を活用し、樹脂や金属などの主要な原材料の価格予測モデルを構築することで、インフレを適切に管理するための購買戦略を立案し、リスクヘッジが可能となります。また、あるべき原価モデルを確立し、製品の総コストを可視化することで、サプライヤーとの戦略的な交渉を優位に進められることにつながります。
医療機器の製品開発には時間、費用、労力がかかるため、製品の仕様変更は容易ではありません。構成部品、そしてその購入先を選択する際には、構成部品のライフサイクルを考慮することが望まれます。既に長年市場で効果的に使用されている製品の構成部品については、現在は簡単に入手可能なものであっても、あと何年使えるかを考えることが重要になります。構成品部品のライフサイクルが長い場合には、スイッチングコストが発生しない次世代の部品を含めて検討した結果、既存の構成部品を採用する方がよいと判断されるケース場合があるかもしれません。
PwCの調査によると、専門知識を持つ社員は昇進や昇給を求め、転職を望む傾向があります。医療機器業界では、高度なスキルを持つ人材が欠かせないため、リーダーは組織全体で信頼を築きながら、柔軟な働き方を導入する必要があります。以下に考慮すべき3つの目標を紹介します。
従業員の満足度は、転職を検討するかどうかの最大の要因の1つです。PwCのグローバル調査によると、従業員の大半は社会的な貢献を重視し、そのような価値観を持つ企業で働きたいと考えています。医療機器企業では、従業員が日々の業務や活動を組織のミッションや価値観と結び付けることが重要であり、それによって従業員に目的意識を持たせることができます。
強力なリーダーシップチームとは、この考え方を実行に移すことができるチームです。ある企業のリーダーシップチームは、分社化後に新しい企業文化を強化するための組織的な取り組みを特定しました。そしてPwCの支援のもと、リーダーたちは人材の成長と行動に焦点を当て、企業文化の醸成を推進しました。
米国の医療機器業界は、これまでのメディケアおよびメディケイドの市場シェア5〜6%を超えて、将来的に数兆米ドルの売上を達成する可能性を秘めています。医療機器企業はこの機会を見据え、自社の能力を評価し、新しいビジネスモデルや異なるアプローチを模索する必要があります。
人材への投資は、迅速なリターンをもたらす可能性があります。PwCは近年、急成長中の医療機器企業に対して、従業員のオンボーディングプロセスの改善を支援しました。その一環として、仮想現実や拡張現実を活用したスキル向上プログラムを導入したのですが、結果としてプログラムの品質とコンプライアンスの向上につながりました。
PwCの調査によると、医療機器業界のリーダーたちは、優秀な人材を採用・維持できないことが、成長目標を達成するための最大のリスクであると認識しています。競争が激化する中で優秀な人材を確保するためには、業務の変化を認識し、それに柔軟に対応することが必要です。
医療機器業界も他の多くの業界と同様に、リモートワークの導入が進んでいます。リモートワークは、医療機器企業が才能を獲得するだけでなく、より多くの人材を受け入れる手段としても有益です。リモートワークの機会を活用しつつ、チームがオフィス内で有意義につながるための交流の場を設計することが重要です。
また、ハイブリッド・ワーキング・モデルの柔軟性を高めることで、人材の定着率の向上が見込めます。PwCは近年、大手医療機器企業と協力して、各事業部門が独自のオフィス復帰ポリシーを策定できるように支援しました。オフィスに従業員が戻っている事例を検証してみると、従業員の要望を聞き、課題を理解し、従業員のスキル向上に重点を置いた部門が最も成功しています。
多くの医療機器企業にとって、M&Aは中心的な戦略となっています。PwCがCapital IQのデータを分析したところ、過去10年間で6,000億米ドル以上がM&Aに投資され、年平均60件近くの取引が実行されています。
今後M&A活動は、医療機器企業の強力な財務状況を背景に、再び活発化すると予想されています。医療業界が製品に付加価値をもたらすサービスやエコシステムを創造するにつれて、医療機器企業は社外に目を向ける必要がでてくるかもしれません。この新しい業界の動向を考慮した上で、M&A担当者は自社の事業戦略の再評価を検討すべきでしょう。
医療機器企業のM&A担当者は、投資家の期待に対するプレッシャーや、買い手候補の増加による激しい競争、ビジネスモデルの複雑化などに直面しています。そのため、次なる戦略を実行に移すことが求められています。
M&Aにより価値を創造するためには、買収企業の評価や交渉に加え、統合戦略が不可欠です。
医療機器企業が新たなビジネスモデルを実現するためにさまざまなタイプのM&Aを検討する際には、異なる統合戦略が必要となることを認識する必要があります。例えば、企業全体や外部の利害関係者に利益をもたらすことを意図した取引では、小規模企業を買収して既存の自社部門と統合させる、従来の「タックイン買収」とは異なるアプローチが必要になる可能性があります。
長期的な統合とパンデミックによる混乱の影響を受け、多くの医療機器企業がポートフォリオの積極的な見直しを行っています。
すでに事業の売却または分社化に踏み切った企業もあり、より広範な「ポートフォリオの柔軟性」を求める傾向が示唆されています。多くの医療機器企業がカテゴリーリーダーシップ*3を重視した戦略を採用しています。売却は中核ではない事業への投資を軽減し、重要な事業への資金を確保する戦略的な手段となるでしょう。さらに、戦略的なポートフォリオを定期的に見直すことで、客観性を確保し、売却に伴う信用失墜を軽減することが期待されます。
*1:S&P Capital IQは、マグロウヒル・カンパニーズの情報サービス部門。業界に特化した豊富なデータでターゲットを詳細に絞り込んだ分析を可能にするデータ深堀り型のソリューションなどを提供。
*2:U.S FOOD & DRUG ADMINISTRATION "Cybersecurity"
https://www.fda.gov/medical-devices/digital-health-center-excellence/cybersecurity
*3:特定の種類の製品を他のどの企業よりも多く販売している企業。
PwCコンサルティングは、テレコム業界内のクライアントを業界横断で支援する専門チームを組織し、事業内容や事業モデルの変革を支援しています。「ヘルスケア・ライフスタイル」領域のプロフェッショナルと共に、テレコムとの掛け合わせが生み出す未来について語りました。
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