
解説:「2024事務年度金融行政方針を踏まえた金融機関の内部監査のポイント」
2024年の金融行政方針が8月30日に公表され、内部監査に関しては、昨年追加された高度化に向けた取組が業界横断的なモニタリング方針が本年も継承されています。これを踏まえ、内部監査部門が今後の監査方針等を検討するにあたって着意すべきポイントを紹介します。
内部監査人協会は、専門職的実施の国際フレームワークを2024年1月に改訂し、内部監査の世界的な専門職的実施の指針であり、内部監査部門の品質を評価、向上させる基礎となる「グローバル内部監査基準」を公表しており、2025年1月から施行される予定です。
当該基準の要求事項のうち、「内部監査部門に対するガバナンス」(ドメインⅢ)について規定された箇所は、内部監査部門とそれを支援する取締役会および最高経営者との関係については組織体全体のガバナンス形態やその関与のあり方の要求事項について検討が必要になります。
本稿は上記のガバナンスの論点以外で、今回の改訂の中で特に導入を検討すべき実務として、以下に注目し、基準の内容を紹介します。
内部監査人協会は、専門職的実施の国際フレームワークを2024年1月に改訂し、内部監査の世界的な専門職的実施の指針であり、内部監査部門の品質を評価、向上させる基礎となる「グローバル内部監査基準」を公表しており、2025年1月から施行される予定です。
今回の改訂は内部監査実務を大きく変えることを意図したものではありませんが、多様なリスクに直面し変化の激しい今日の経営環境下で、企業等の組織体の経営基盤となるガバナンスの重要な一翼を担う内部監査部門に対する各種ステークホルダーの期待は確実に高まっており、そのような期待に応えるために内部監査部門がどうあるべきかについて、内部監査に関する世界的な指導的役割を担っている内部監査人協会がどのように考えているかを反映したものであると言えます。
また、当該基準においては、「内部監査部門に対するガバナンス」(ドメインⅢ)で規定されている内部監査部門とそれを支援する取締役会および最高経営者との関係について着目すべきですが、ガバナンス形態の多様性により日本の企業等の組織体にとっては実務対応が難しい要求事項が含まれていますので本稿では触れていません。ここでは、ガバナンス形態を問わず、今回の改訂の中で特に日本の内部監査部門において十分には普及していないため、導入を検討すべき実務をいくつかご紹介します。
現行基準とは別に規定されていた「倫理綱要」が新基準においては統合されたことから、内部監査に対する信頼の源泉になる倫理の重要性が従前以上に強調されています。
倫理に関する教育研修は、内部監査人全てを対象に毎期研修を企画実施することは実務上まれであると思われます。新基準「倫理と専門職としての気質」(ドメインⅡ)の範囲は広いため、毎期どのような内容の研修を企画するか各組織体の創意工夫が求められます。
また、新基準では、内部監査人自身の倫理感の促進のみならず、組織体内の倫理に関する期待事項と矛盾する行動を識別した場合に、経営者や取締役会等に報告することを求めています。金融機関のコンダクトリスクの他、不正が発生した場合にその原因として企業の文化や役職員の行動(不作為を含む)が原因として挙げられることがある中で、内部監査人がそれらに対処することを求めるものです。
「内部監査への負託事項(internal audit mandate)」という用語は、基準においては初出ですが、内部監査部門の権限、役割および責任を意味します。この負託事項について取締役会および最高経営者(senior management)と協議し、内部監査基本規程に文書化することが要求されています。
日本の組織体の内部監査規程には内容の程度の差はあれ文書化されていますが、特に「役割」については、内部監査の定義の引用等により一般的な内容の記述にとどまっている組織体が多いのが実態であると思われます。一方、先進的な内部監査部門では中長期計画やビジョンの中で求められる内部監査部門の果たすべき役割を個別具体的にうたっている場合があります。
新基準が求めているのは、取締役会および最高経営者と各企業の経営環境下で内部監査部門に求められる役割について改めて協議することで明確にして、各組織体に見合った具体的な内容で内部監査規程に反映することです。このため、「内部監査への負託事項」を取締役会および最高経営者と協議して明確にすることは、新基準の出発点、ひいては内部監査の部門運営や業務活動の根幹となるものであると考えられます。
内部監査の戦略とは、長期的または全体的な目標を達成するために立案された行動の計画で、内部監査部門のビジョン、戦略目標およびこれらを支える取り組みを含む必要があります。また、上述した内部監査への負託事項の達成の実現のために策定されます。
先進的な内部監査部門では中長期監査計画や内部監査部門のビジョンを策定していますが、その具体的な内容が取締役会および最高経営者の期待に応え、新基準の要請にかなうものとなっているかが問われるところです。なお、戦略的計画は後述する監査資源の管理に関する基準10.1、10.2、10.3とも関係があるので、例えばプロセス、人材、テクノロジーに分けて具体的な戦略目標とそれに向けた取り組みをまとめると良いと思います。
社内外のアシュアランス業務提供者(広義に考えてモニタリングも含めるのが適当です)との連携と依拠の検討に関しては、現行基準2050ではshould(すべき)となっていたものが、新基準ではmust(しなければならない)になっていて、より積極的な姿勢が求められます。
この背景には、重要なリスクに対して全社的に過不足のない最適なモニタリング体制を構築し運用する「3線モデル」の考え方があります。企業規模の拡大や組織の複雑化に対して内部監査部門だけで多様化するリスクや新しいリスクに対応するのは困難なので、特定のリスクに対して専門的な立場からモニタリングを行う2線部門あるいは1.5線部門とのコミュニケーションをより密にすることが求められます
多くの企業等の組織体では両者のコミュニケーションについて内部監査部門による情報収集に偏る傾向が見られることから、内部監査部門は両者がWin-Winの関係になるようなコミュニケーションを心がけることが重要であると思います。
また、必要に応じてアシュアランスマップを策定することによって、社内モニタリング体制の可視化とそれを活用した全社的モニタリング体制の最適化実現に資することも有益であると考えられます。
監査資源の管理については現行基準2030においても取り上げられていますがあまり具体的な記述になっていません。一方、新基準においては監査資源を3つの視点(財務的資源、人的資源、テクノロジーに係る資源)から管理するというのが大きな特徴です。このような視点は、前述したように年度監査計画や中長期監査計画においても取り入れるべきものと考えられます。
特に基準10.3で規定されている「テクノロジーに係る資源」の管理は日本の内部監査部門では十分に対応できていないことが多いので、より積極的なテクノロジー活用によってプロセスの効率化や内部監査の高度化を図る必要があります。
これは部門運営上、重要な基準です。経営陣の意見や期待を考慮したパフォーマンス目標の設定 ⇒ 目標達成に向けた進捗状況を評価できるようなパフォーマンスを測定する方法の開発 ⇒ パフォーマンス評価に関する経営陣からのフィードバック受領、といった一連の流れは、他の組織における部門運営管理方法としては当然のことだと思います。しかしながら、定性的・定量的なパフォーマンス目標設定ならびにその測定方法による管理は日本企業の内部監査部門ではいまだ一般的ではないと思います。
以上から、新基準が志向する「あるべき内部監査部門」とは次のようにまとめることができます。
2024年の金融行政方針が8月30日に公表され、内部監査に関しては、昨年追加された高度化に向けた取組が業界横断的なモニタリング方針が本年も継承されています。これを踏まえ、内部監査部門が今後の監査方針等を検討するにあたって着意すべきポイントを紹介します。
内部監査人協会は内部監査の実施に関する国際的な基準を改訂した新たな基準「グローバル内部監査基準」を2025年1月から施行予定です。今回の改訂の中で特に導入を検討すべき実務と基準の内容を紹介します。
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